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第四章 黒の主、オークション会場に立つ
90:高ランカーの苦労は人それぞれ
しおりを挟む■バルボッサ 虎人族 男
■37歳 Aランククラン【獣の咆哮】クランマスター
最近の組合じゃあ話題はオークション一色だ。
無理もねえ。組合員としちゃあ一大イベントだからな。
鉱王国に帰ってた【震源崩壊】もその為にわざわざ戻ってきたらしい。
ご苦労なこった。
「なんじゃバルボッサ。お前は楽しみじゃないのか」
「俺らは今年も『お守り』だよ」
「かぁ~っ! まーた来るのか! いい加減断ればいいじゃろ!」
「断れたら断ってるわ! はぁ……」
ここ数年の事だが、毎年この時期が憂鬱になる。
獣帝国の公爵がわざわざ帝都からやって来るのだ。
そしてその案内役として俺たち【獣の咆哮】に指名依頼が入る。
もちろん俺たちだってオークションを楽しみにしている。
掘り出し物を競り落とす為に、メンバーは普通に参加する。
しかしクラマスである俺は公爵の案内に就く為、入札に参加できるわけではない。
会場に入れても、自分で競り落としたいのにそれが許されず、ただ公爵の入札を見守るだけという拷問。
獣帝国出身でカオテッドじゃトップのAランククランが俺たちしか居ないからこそのご指名なんだが、こんなことならAランクになんぞならなければ良かったと思ってしまう。
まぁ他のクランには言えない贅沢な悩みだがな。
しかもその公爵、鼠人族のチューリヒという男だが、嫌味なヤツでな。
【震源崩壊】のドゴールが「断れ」と言うのも分かる。
俺たちの中では『ハゲネズミ』と言われている最悪な貴族だ。
断ったら獣帝国にいるメンバーの家族に被害が行きそうで怖いというのもある。
そんなのを数日間も案内しなきゃならんのだから、俺の心労も察してくれと言いたい。
そんなわけでオークション数日前、ハゲネズミとその夫人、そして使用人や護衛を乗せた馬車が南西区へとやって来た。
カオテッドへの入口となる第二防壁で俺たちが出迎える。
「お待ちしておりました、チューリヒ公爵。【獣の咆哮】のバルボッサです」
「おお、相変わらず汚らしい恰好だのう。あまり近寄るでないわ」
「んまあ、やっぱり組合員は野蛮ざます」
「申し訳ありません」
「ふんっ、まあ、よいわ。さっさと案内せよ」
組合員に正装しろってか?
じゃあ案内なんか依頼すんじゃねーよ。
分かってた事とは言え、出会って早々これだからな。すでに嫌気がさしている。
南西区の大通りをゆっくりと馬車が進む。
もちろん俺たちは周囲で歩いているだけだ。
一応、組合員だから警戒も兼ねてな。
実はここのところ、南西区は色々と慌ただしい。
いきなり区長の貴族が変わったり、衛兵団も変わったり、商業組合も上の方が変わったりしているそうだ。
俺たちのホームは南西区にあるから、そう言ったことも耳にする。
確かに前以上に衛兵が忙しそうにしているから、何かしら事件があったんじゃねーかと思っている。
そしてそんな時期に来るハゲネズミ。空気読めと言いたい。いや、無理だろうけど。
何かしらの間違いで怪我でも負おうものなら、俺たちの首が物理的に離れる事態も考えられる。
だからこそ不安定な南西区はさっさと抜けて中央区に行きたいんだが……。
「ちょっと止まれ。ここいらに旨い白パン屋があったはずだぞ? どこへいった」
「んまあ、本当にないざますね。移転でもしたざますか?」
あー、こいつら去年も評判聞いて買ってたんだよなー。
んで、他の客の事も考えずに買占めしてやがった。
「庶民にしてはなかなかの味だ」とか言いながらむしゃむしゃ食ってた。
まさか覚えてて今年も買おうとしているなんてな……言いづらいが……。
「あのパン屋は最近潰れました」
「なにっ!? 私があれだけ目をかけてやったというのに! 潰れただと!?」
「んまあ! 今年も買い占めるつもりでいましたのに! なんたる事ざます!」
目をかけたって去年買い占めて終わりだろうが。
俺だってたまにしか買えなかったけど、店がなくなって残念なんだ。お前ら以上にな!
それから「店主はどこ行った」だの「あの味のパンを探して来い」だのうるさいのなんの。
俺が知るかっての。案内役が何でも知ってると思うなよ。
とりあえず、「白パンはあの店だけで他にはない」と言っておいた。
「はぁ、つかえない案内役だな。これだからガサツな組合員は」
「来て早々、不愉快ざます」
解雇してくれてもいいんだぞ?
俺らから言うと被害が大きいけど、そっちから言われるなら歓迎だ。
組合の評価は下がっても家族の身の安全は守れそうだしな。
「やはり王都と違ってカオテッドは辺境の街だな。人も店も所詮は平民レベルのものしかない」
「高貴なわたくしたちに見合うものなどないざます」
「これでは宿も期待できんな」
お前らどこ泊まっても文句しか言わないんだろ、どうせ。
つーか、今年も去年と同じところって聞いたぞ?
中央区の超高い宿。しかもスイート。
「どうせだったら街で一番の家をオークション期間に借りてもいいざます」
「おお、なるほどな。名案だ。おい! 中央区で一番の家だ! 探して来い!」
「はっ」
えぇぇ……宿泊まらないのかよ。
家借りるの? オークションのためだけに?
あの宿だって相当前から予約しないと取れないだろうに……。
急いで走っていった使用人さんが可哀想……。
馬車は南西区を抜け、第一防壁を越えて中央区へと入る。
物件を探しに行った使用人さんは迷宮組合の中の住居組合で聞いてるはずだ。
だから馬車も組合へと向かう。
中央区に入れば組合員の数が増える。
大通りの歩道では俺らを見てくるヤツらが多い。
そりゃ豪華な馬車を囲んで大通りを歩いてるんだから目立つわな。
「【獣の咆哮】じゃねえか」
「Aランククランがなにやってんだ? 護衛?」
「あれじゃね? 獣帝国のお偉いさん」
名が売れるのは良いことなんだろうが、こういう時困る。
こんなハゲネズミの依頼を受けているのを見られたくないんだよ。
出来るだけ注目は浴びたくない。
組合の前に馬車が停車すると、ちょうど使用人さんが息せき切って戻ってきた。
「申し訳ありません旦那様、どうやら街一番の屋敷はすでに住まわれているらしく、その隣であればと……」
「なにぃ!? 私の許可なく一番の屋敷に住むとはどこのどいつだ!」
「んまあ! わたくしたちを差し置いて一番の屋敷に住むとは不敬ざます!」
なんでお前の許可がいるんだよ。
なんで住んだら不敬なんだよ。
「住んでるヤツを追い出せ! その屋敷は私のものだとな!」
「し、しかし、その者が分からないのです。組合員の情報は秘匿につき教えるわけにはいかないと……」
「馬鹿者が! たかが一職員相手だろうが! こっちは公爵家だぞ! 平民の秘匿なぞ知るものか!」
「組合職員の教育もなってないざます! これだから組合員もガサツな者ばかりなんざます!」
こっちに飛び火してきたよ。
いや、誰がどこに住んでるかなんてどこの組合でも言うわけないだろ。
獣帝国の帝都ならありえるのか?
公爵に言われれば言うのが当然なのか?
……って言うか、その『街一番の屋敷』に住んでるのって組合員ってことか?
……そんな一等地に住めるような組合員なんて。
……まさか。
……いやいやいや、あいつらだったらお終いだ!
ハゲネズミが公爵だろうが何だろうが、絡んだら投げられるぞ!?
それこそ不敬ってレベルじゃねえ!
下手すりゃ獣帝国と迷宮組合の戦争になる!
どうする!?
住んでるやつを探れとか、実際にその家に行くとか言われたらどうする!?
高確率で鉢合わせるぞ!?
どうにかして会わせないように……
「旦那様、ここは去年泊まった宿に行くというのはいかがでしょうか」
「スバセチャン! 貴様、私が平民に嘗められたままで引き下がれと言うのか!」
「いえ、家を立ち退かせるにしてもすぐにとは行きますまい。旦那様も奥方様も長旅でお疲れのご様子。休めずに立ち退きを待つというのも貴重な時間の無駄かと。宿でしたらすぐにでもお休み頂けます」
「ぐぬ……」
ナイス執事さん! あんた敏腕だよ!
そうだそうだ! 宿で休め!
予約とったんだろうが!
「それに平民の住んでいる家を借りるのにオークションの資金を出す必要もありますまい。本番であるオークションで旦那様のお力を見せつければ良いのです」
「ふむ……」
「ざます……」
よーしよしよし! なびいたな!
勝った!
決まったな! これで宿コース決定だ!
そう心の中で渾身のガッツポーズを決めていると、組合の中に妙に黒い連中が見えた。
どうやら迷宮から出て来たらしい。
受付で大量の魔石を清算しているようだ。
……って、来るんじゃねえよ! お前ら!
お前らのせいでこっちは心労患ってるんだぞ!?
なんで今出て来る!?
空気読め、【黒屋敷】! シッ、シッ!
これで組合から出て来た【黒屋敷】をこのハゲネズミが見たらどうなる!?
『おい、なぜ基人族が歩いている? 私は獣帝国の公爵だぞ? なぜ跪かない? 基人族のくせにメイドなんぞ侍らせて何様だ? まさか貴族にでもなったつもりか? 下等な基人族が』
などと言うのは間違いない。
そしたら『投げ』からの『気絶』コース確定だよ!
もう出会うだけで宣戦布告待ったなしだよ!
くんな! お前らしばらく清算してろ!
執事さん! まだ言い包めできませんか!?
早くしてくれませんか!? 尻に火がついてるんですよ!?
「ふんっ! 業腹だが仕方あるまい。おい! 宿へ向かえ! 急げ!」
「宿に着いたら最高級ワインと最高級砂糖菓子を所望するざます」
「ハッ!」
よーっしゃああああ!!!
今度こそ勝った!
これでもう安泰だろ!
あとはもうハゲネズミをオークションまで組合に近づけさせなければいい!
そうすればこの依頼を乗り切れる!
もう依頼の初日でクタクタなんだが。
これ終わったら酒でもおごってくれないかなぁ、【黒の主】よ。
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