カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第四章 黒の主、オークション会場に立つ

91:オークションッ開ッ幕ッ!

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■イブキ 鬼人族サイアン 女
■19歳 セイヤの奴隷


 祭りというものはどの街にもあるもので、新年を祝うものや、収穫祭、領主の誕生を盛大に祝うものなどがある。
 ではカオテッドの祭りはと聞かれると、これが難しい。

 なんと言っても四か国が統治する地区があり、中央区は迷宮組合の自治区なのだ。
 それぞれの地区で文化も違うし、祝い方も違う。
 街単位で統一した祝い事など、それこそ新年祭くらいしかない。


 とは言え、カオテッドは組合員の街であり、迷宮が中心となっているのは間違いない。
 必然的に若い組合員は多く、何かにつけて騒ぎたい者が多いのだ。
 組合員は派手に飲み食いできるイベントを求めているし、街としてもそんな組合員を利用して金を稼ぎたいという思惑もあるように思う。


 年に一度、中央区で開かれる迷宮組合主催のオークション。
 これはもうカオテッド最大の祭りと言ってもいいだろう。
 厳密には祭りでも何でもないのだが、中央区が人々でごった返す賑わいなのは間違いない。

 何せ、組合員が多い街なのに対し、オークションの主催がその迷宮組合なのだ。
 当然出品されるものは迷宮関連のもの。
 迷宮から出たアイテムや、迷宮探索に必要な道具、装備など、そういったものが世界中の迷宮組合を介して集められる。

 組合員が欲しがるもの、一度目にしたいものが一同に会する。
 そしてそれを欲するのは何も組合員だけではなく、転売を目論む商人であったり、コレクターの貴族であったりと様々だ。
 だからこその人口密度であり、だからこその『祭り』なのだ。


「いやー、想像以上に人が多いな。迷子になるんじゃないぞ」

『はい』


 屋敷を出て、オークション会場である中央区大ホールへと向かう道。
 大通り以外にも人通りは多く、いつも以上に屋台が立ち並び、遠目で見てもその活気が窺えた。

 ご主人様を先頭に、エメリーと私、そしてフロロとアネモネが並ぶ。
 オークション会場には1パーティー三名まで、1クランなら五名までという入場制限がある。
 組合員以外の一般客も五名までとなっているらしい。


 付き添いメンバーの選考については、侍女長であり実質的に屋敷の財政と人事を把握しているエメリーは当然。
 私は今回競り落としたいものがメンバーの武器などである為、戦闘時のリーダーであり皆の武器や戦闘力を把握しているという理由で選ばれた。
 実に誇らしい。胸を張って歩く。

 アネモネは競り落とすものが偽物などでないかを確かめる為、『看破の魔眼』と商人としての審美眼を頼りにしている。
 フロロは最後まで悩んだらしい。ミーティアやウェルシア、ジイナと悩んだとか。
 最終的には運頼みになる事も考慮してフロロを選んだとか。


「ふっふっふ、なんだかんだ言うわりには我の占いを頼りにしているという事ではないか」

「はいはい頼りにしてますよ、不本意ながらな」

「安心せい。ご主人様の邪魔にならんよう勝手に占っておく」

「どうしてもって時だけ聞くわ。アネモネも頼むな」

「ふふふ……これで変なものを競り落とさせたら私の首が……物理的に飛ぶ……」

「おーい、大丈夫だぞー、飛ばさないぞー、聞いてるのかー」


 まぁアネモネは普段からこの調子だから問題ないだろう。
 調子で魔眼が働かないという事もないし。
 なにはともあれ、こうして五人で大通りへと向かう。


 オークションは朝から夜まで行われる。
 それだけ出品されるものが多いのだ。
 だからこそ私たちも朝一からこうして屋敷を出たわけだが……まだ早い時間帯だと言うのに、すでに″祭り″は盛り上がりを見せていた。

 大通りの人波は歩くのが億劫になるほどで、人々の喧噪が絶えず聞こえる。


「げえっ! 【黒の主】!」
「おーい、【黒の主】の旦那! うちの串焼き旨いぜ! 買って行ってくれよ!」
「なんで基人族ヒュームがこんなとこに……」
「ばっか、おめえ知らねえのか!? 中央区じゃ常識だぞ!?」


 最近は迷宮での活躍に加え、私たちが買い出しなどで出歩く為、中央区ではすっかり有名人となってしまった。
 まぁ自分で言うのもなんだが、見た目が目立つ集団なので当然ではある。
 もちろん未だに差別する者もいるし、絡んでくる輩もいるのだが、好意的に見る者は間違いなく増えているだろう。

 ご主人様はどっちつかずのその反応には対処に困るらしく、好意的に声をかけてくる屋台の店主などには軽く手をあげていた。
 他は無視だ。これはいつも通りと言える。


「さあさあ魔導王国からやってきた吟遊楽団の演奏だよ! 滅多に聞けない代物だ! 集まった集まった!」

「王都の大店『ボレーミア商店』の出張市だ! マジックバッグがなんと一割引き! 組合員には必須だ! 今しかないよ!」

「こちらは衛兵団本部です! スリの被害が毎年起こっています! 皆さん十分にお気を付け下さい! 貴重品は肌身離さずに!」

「世界の滅びは着々と近づいている! それを正しく浄化できるのはゾリュトゥア様しかいない! 今こそ怠惰なる神々に代わる時!」


 大通りに出てからオークション会場である『中央区大ホール』に向かって歩く。
 道中、あらゆる者が声を張り上げ、人々の視線を奪おうと躍起になっていた。


「【ゾリュトゥア教団】中央区にまで来てるのかよ。北西区だけじゃなかったのか」

「今日だからこそ、なのか、勢力が強まった証拠なのか……」

「どちらにしろドルチェは連れ出さないで正解だな」

「はい」


 ドルチェは両親が【ゾリュトゥア教団】に入信したために逃げて来た。
 別に両親が中央区で説法しているわけではないが、本人は教団の説法など聞きたくもないだろう。
 今は買い出しにも行けず、屋敷を出る時は迷宮に行く時くらいのものだが、もうしばらく我慢してもらった方が良いのかもしれない。


 迷宮組合を通り過ぎ、少し歩いた大通り沿いに、目当ての大ホールがある。
 すでに入口は組合員や競り合いに来たのだろう一般客で溢れていた。
 通りの出店も隙間なく並んでいる事から、やはりここが″祭り″の中心地なのだと分かる。


「俺たちはAホールか」


 大ホールの中は三つのホールに分かれている。
 普段はここで演劇を行ったり、演奏会を開いたり、組合の講習なども行っているらしい。
 今回のオークションは客入りが多すぎるため、出品する物によってホールが分けられている。

 Aホールは、高ランク組合員向け。
 装備品やアイテム、魔道具など、高価なものが並ぶ。
 もちろん組合員でなくとも入場し、競り落とすことは可能だ。

 Bホールは低ランク組合員向け。
 低ランクの組合員であってもオークションというこの″祭り″を楽しめるように、安めで高品質なものが揃う。
 掘り出し物のようなものもあるので、Bホールに入る高ランク組合員もいるほどだ。

 Cホールは業者向け。
 迷宮でとれた珍しい魔石やドロップアイテム、鉱石や素材などが並ぶ。
 組合員が持っていてもしょうがないが、鍛冶屋や錬金術師といった組合員を相手取る商売人からすれば垂涎の品だ。


 私たちはAホール。
 数日前に組合で事前申し込みをし、Aホールへの入場券も手に入れている。
 ちなみに入場料だけでも、当然Bホールの何倍もAホールの方が高い。

 何が出品されるかも、カタログとしてすでに入手している。
 屋敷で打ち合わせを行い、どれを狙って競りに行くか検討済みだ。
 それでも直前に出品が決まったり、運営側が意図的にシークレット扱いにするなど、カタログに載っていない品も出るらしいが、そこは運任せになるだろう。


 人波をかき分けるように大ホールへと入る。
 組合員の多くは私たちを見ると腫れ物に触れる扱いで道を開けるので、意外と歩きやすい。
 どうやら通行の邪魔をするだけで投げられると思っている組合員が多いようだ。
 当然そんなことはしないが、悪評も評とは言ったもので、道を開けてくれるのは素直にありがたい。


「いらっしゃいませ、こちらAホールになります。入場券をお預かりします」


 組合の職員なのか、Aホールの入口には係員の女性が立っており、事前に買っておいた入場券を渡す。
 すると緑色の鳥の羽根を渡された。
 これを胸元につけておけば競売に参加できるという事らしい。
 またホールの出入りにしても制限があり、鳥の羽根は一度入場した者の証となる。

 こうしたオークションのルールは、組合で申し込む際にある程度教えられる。
 入場方法、競売への参加の仕方、その他細かいルールなど、口頭では量がありすぎる為、紙で渡されるのだ。
 参加するのならば事前に勉強しろと言わんばかりである。


 五人とも鳥の羽根をつけAホールへと入ると、日の光が全く入らない、魔道具の光だけが照らす物々しい空気が纏った。
 正面の舞台から放射状に伸びる席は、後方へ行くに従って少しづつ高くなっていく。
 演劇場そのままといった装いだ。

 すでに半分ほどの席が埋まっている。
 まだ始まるまでは時間があるはずで、かなり余裕をもって来たというのに。


「真ん中ら辺は嫌だな。端の方で目立たない感じがいいんだが」


 どうあがいても目立ちますよ、とは言えない。
 言わずともご主人様も自覚している。
 せめてもの抵抗という事で奥側、前めの席に座った。

 前めの席というのはアネモネの魔眼を期待しての事だ。
 距離がありすぎると見切れないかもしれないと。
 実際どの程度の距離で真偽が分かるのかはアネモネ本人も把握していないらしい。

 五人並びで席につくと、ふぅと一息。
 座椅子に取り付けてある机を引き出し、ご主人様は<インベントリ>からカタログを取り出した。
 さっそくとばかりに眺め始める。
 その様子から、このオークションをとても楽しみにしていたのだろうという事が伺えた。


「さて、どれくらい買えるものか。俺たちが狙ってるのはみんな狙ってそうなものばかりだしな」

「一応、事前に決めた上限を守って頂けると助かります。ご主人様の資金ではありますが」

「分かってるさ、エメリー。俺の金はみんなの金だ。無駄遣いはしたくない。……とは言え、テンションが上がってムキになるかもしれん。その時は止めてくれ」

「かしこまりました」


 想定の上限を超えて競りにいったご主人様を止めるのはエメリーと私の役目だろう。
 こればかりはフロロでも無理だ。アネモネなど以ての外。

 ご主人様が召喚されてからの付き合いの長さがあるが故、ご主人様にも強く言える場面がある。エメリーは特に、だがな。


「出品される順番が悪いよな。最後のほうに目玉商品が並んでるのに、最初の方にも俺たちが欲しいやつが並んでる。そこでかなり競るようだと競り落としても目玉商品の頃には資金が尽きているかもしれん」

「普通は狙う品を少数に絞るものです。だからそれが出される時間帯にだけ顔を出すという人も多いでしょう。私たちの場合は狙う品が多すぎるのです」

「そうは言ってもカタログ見てるとどれも欲しくなるからなぁ。さすがに防具とかは興味ないが」


 ご主人様はカタログを買ってから悩みっぱなしだ。
 本当に資金が無限にあれば全てを競り落としてもおかしくないほどに興味を持っている。
 それを皆で相談しながら、優先順位をつけ、「これはどうしても欲しい」というものには余計に予算の上限を設けている。

 しかしもしそれが全部買えたとなれば、とてつもない金額を支払う事になるのだが……。
 それこそ屋敷を買った時以上にだ。

 【鴉爪団】が溜めこんでいた資金、樹界国で山賊退治した時に得た資金、事前に売ったミスリル鉱石やタイラントクイーン素材の資金、ほぼ毎日の迷宮探索による魔石売却資金、そういった諸々を全て今回のオークションの予算としている。
 ご主人様の金使いの荒さに慣れた私たちであっても、かなり躊躇するレベルの金額だ。


「せめて【魔剣】と【魔法剣】【聖杖】は欲しい。最悪、その三つだけあれば満足だ」

「どれも人気がありそうですが……」

「競るじゃろうなぁ……」

「その時まで資金がどれくらい残っているか……」

「ふふふ……それが偽物だったらどうしよう……」


 楽しみな半面怖くもある。
 オークションはもう間もなく始まるだろう。
 なぜか私も緊張してきた。


 ……【魔剣】欲しいなぁ。


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