112 / 421
第五章 黒の主、未知の領域に立つ
108:人狼王を倒せ!ソロで!
しおりを挟むB:前衛:イブキ【大剣】・ヒイノ【盾・直剣】・ティナ【レイピア】
後衛:フロロ【土魔法】・アネモネ【斥候・闇魔法】
■アネモネ 多眼族 女
■17歳 セイヤの奴隷
「砦に入ったら散開するぞ! Aは右、Bは真っすぐ、Cは左を制圧しろ! 一階の制圧が終わったら二階もだ! 全て制圧したら打ち合わせ通り、二階の端の部屋に集合な!」
『はいっ!』
砦入口で門番みたいにしていたウェアウルフを倒しつつ、ご主人様の号令一下、砦に走り込む。
砦の中に入ると遠吠えを聞いて集まったのか、ぞろぞろと向かってきた。
どれも数体の群れで、武器を持って鎧を着ているウェアウルフ。
まるで組合員のパーティーと戦っているような気もする。
と言うか、このウェアウルフという魔物は身体能力もあるし、頭も良い。
力も速さもあって、連携もしてくる。
組合員以上に強いパーティーじゃないかと思ったり。魔法は使わないけど。
この階層を抜けて三階で活躍しているのがごく一部のパーティーとクランだけと言うのも納得。
いくら<カスタム>されていても、私が六人いたとして、それだけで突破するイメージが持てない。
絶対死ぬ。魔法撃つより速く襲い掛かられてザクッ、ガブッって死ぬ。
しかし今は前衛にイブキさん、ヒイノさん、ティナちゃんが居て、隣にはフロロさんも居る。
盤石。負けない。
これでもしやられるようなら、それは私くらいのものだ……ふふふ……。
「イブキ! 砦の中で無暗に炎使うんじゃないぞ! ティナものう!」
「了解!」「はいっ!」
「ヒイノ、守りは任せるぞ。いくらウェアウルフが速いとは言え、ティナより遅いから問題ないだろう?」
「ふふっ、はいっ」
「アネモネ、我らは遠くの敵か、狼どもの足を鈍らすように撃つぞ、出来るな」
「ふふふ……がんばります」
このBパーティーのリーダーはイブキさんのはずなんですけどね。
すっかりイブキさんが魔剣の魅力に取り憑かれた事で、いつの間にかフロロさんがリーダーになってる。
私はどちらでも全然構いません。
後衛の方が戦況を見やすいとか色々あるみたいだし。
「ふぅ、我、戦いは苦手なんだがのぅ……どうしてこうなった……」
なんかフロロさんがブツブツ言ってる。
とりあえず私は言われた通り、後ろの敵を狙い撃ちしよう。
砦から真っすぐの道は左右に比べて広い。
終点が玉座の間になってて、その先が三階層への階段になってるからだ。
つまりは主戦場であり、玉座の間には【領域主】が居るという事。
【領域主】はリポップされる時とされない時がある。
現に一階層の最終エリア、鍾乳洞の【領域主】リザードキングは現れずに二階層に来れた。
だから今回も居ないかもしれない。
そんな淡い期待を持ちながら、通路のウェアウルフを倒していき、通路の左右の小部屋を開けつつ、全ての敵を殲滅していく。
「いるといいなぁ~ウェアウルフロード! イブキお姉ちゃん、本当に私が戦っていいの!?」
「ああ、でも危なそうなら私も入るからな。ヒイノもフォローを頼むぞ」
「はい。ティナ、油断しちゃダメよ?」
「うんっ!」
どうやら期待しているのは私だけの模様。
ティナちゃんの笑顔が眩しい。
こんな中、私は出来れば会いたくないなんて言い出せない。
「会えんなら会えんで別にいいだろう、無理に戦わなくてもいいのだからな」
おお、フロロさん。
こんなところにお仲間が。
はっきり言えるフロロさん、眩しすぎる。私なんぞにはとてもとても……。
と、そうこう言っているうちに重厚な扉が前に現れた。
見るからにここが玉座の間だろう。
イブキさんが私たちに目線で合図してから一気に開ける。
『グルルルルゥゥ!!』
部屋の中にはウェアウルフが六体。
そして中央には外套を纏い、大剣を持った、巨漢で筋肉ムキムキのウェアウルフがいた。
やはり期待は淡すぎたらしい。
「よし! 行くぞ!」
『はいっ!』
イブキさんの号令で走り出す。
ティナちゃんが突貫。ヒイノさんとイブキさんがそれに続く。
私とフロロさんは左右のウェアウルフだ。
「風の槍!」
まだロードと距離があるうちに先制の風の槍。
ロードは驚いた様子で大剣で防ぐも、それで体勢は崩れ、前には出られなくなった。
そこにティナちゃんが突っ込む。
速い。まるで魔法に追いついたかのよう。魔法と物理の連撃みたい。
「ていっ!」
かわいい掛け声とは裏腹に攻撃はえぐい。
魔法を防いだ大剣で顔をガードしているのをいいことに、狙うは腹。
レイピアは的確に風穴を開ける。
しかしそれで倒れるロードではないらしい。さすがは【領域主】。
くぐもった声を上げながら大剣を薙ぎ、ティナちゃんとの距離をとろうとした。
一方でイブキさんとヒイノさんはティナちゃんの両脇でロードを守ろうと迫るウェアウルフと対峙している。
どうやらこの部屋にいるウェアウルフは、一段階強いらしい。近衛兵か何かだろうか。
しかしそれを相手にしつつ、ティナちゃんの様子を伺っている。
すぐにでも助けに入れるようにと。さすが。
そうなると私とフロロさんの相手はウェアウルフが二体ずつ。
いくら強くなっていると言っても、範囲魔法を撃てば終わる。
私もフロロさんもここまで新調した杖の調子を確かめてきている。
たった一日の経験則が「これくらいの魔法で十分だな」と教えてくれる。
「岩の槍」
「闇の波」
室内だからあまり派手な魔法は撃てない。
だけど問題ない。
問題なく撃てるレベルの魔法で、問題なく倒せる。
仮に生き残っても、弱めの魔法を速射すればいい。
結局、六体のウェアウルフは瞬殺された。
生き残ったのはロード一体のみ。
それも風前の灯と言ったところ。
だってティナちゃんが速すぎる。
いくらウェアウルフが素早い魔物だと言っても、いくらロードがそれを越える【領域主】だと言っても。
大剣を振り回して当たるティナちゃんではないし、その巨体で避けられるはずもない。
ティナちゃんの攻撃は軽いけど鋭い。
斬られれば血が噴き出し、突かれれば穴が開く。
そうしてじわりじわりと体力を削り、やがて王は倒れた。
―――ズシィィィン……
「やったぁ!」
一人で【領域主】を倒し、笑顔で喜ぶ八歳の少女。
尊い。眩しい。
私が八歳の時なんぞは……ダメだダメだ、思い出しちゃダメだ。
ロードのドロップ品は「大きな魔石」「人狼王の毛皮」「人狼王の尾」だった。
ウェアウルフからの魔石や牙もあったのでマジックバッグに入れておく。
念の為、玉座の間の奥にある部屋を覗くと、やはり三階への階段があった。
運の良い人たちはロードを倒さないで行けるんだろうなぁ。
まぁそれを「運が良い」と見ない人が【黒屋敷】には多いんだけど。
ともかく私たち担当の一階部分は終わったから、入口まで戻って二階の殲滅を狙う。
リポップするまでに一度殲滅して部屋を確保したいから。
しかしどうやら私たちが一番遅かったらしい。
正面通路は広い上に玉座の間まであるから、他の場所より魔物が多いらしい。
すでにA・Cパーティーの面々は揃っていて、集合しているようだった。
拠点に決めた部屋はいわゆる『宝魔法陣部屋』。
部屋の奥の床に″見える″魔法陣が描かれており、魔力を流すとお宝が手に入る。
トラップもないという情報はすでに持っているが、念の為、ネネちゃんがすでに<魔法陣看破>したらしい。
「あー、防具かー」
手に入ったのはミスリルアーマー。
普通に買うとかなりお高い、普通のパーティーであれば喜ぶであろうお宝だ。
しかし私たちにとっては全くの無用物。
溶かして打ち直すか、売るかくらいしか利用できない。
多分、この侍女服のほうが防御力高いと思う。軽いし。
「ミスリルアーマーを得て残念がる組合員がどこにおるのだ……」
フロロさんが呟いている。
私も少しそう思います。
口には出しませんけど。
「ま、気を取り直して夜営の準備するぞ。食事と寝床の用意な。あと警備」
『はい』
1
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる