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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
119:未知の領域を探索せよ!
しおりを挟むA《探索班》:前衛:セイヤ【刀】・ネネ【短剣・斥候】・エメリー【ハルバ・投擲】
後衛:フロロ【土魔法】・アネモネ【闇魔法・斥候】
B《集落班》:前衛:イブキ【大剣】・ジイナ【槌】・ドルチェ【盾・槍】
後衛:サリュ【光・神聖魔法】・ウェルシア【風・水魔法】
C《集落班》:前衛:ツェン【爪】・ヒイノ【盾・直剣】・ティナ【レイピア】
後衛:ミーティア【弓・火魔法】・ポル【鍬・水・土魔法】
■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
大迷宮の探索、四日目を終え、私たちは拠点に戻ってきました。
今は皆で集まり、夕食をとりながらの報告会です。
ご主人様が各個人に色々と聞いています。
トロールキングやトロールの群れと戦わせるという事に心配なさっていましたからね。
怪我はないかと真っ先に聞いていました。
それと報告内容を聞いた上で<カスタム>の方針なども決めるのでしょう。
「なるほど、じゃあキングと一対一で勝てたのはイブキとツェンとミーティアか」
「サリュも可能だったと思いますが、今回はフォローに回ってもらいました」
「英断だ。サリュもよくやったな」
「はいっ!」
集落班は岩山の上から、遠距離攻撃による一方的な斉射を行いトロールの数を減らした後、トロールキングと戦ったそうです。
最初は安全に、ウェルシアに足元を凍らせてから、イブキとツェンが接近戦。
その後方ではミーティアが常に弓を構え、サリュが回復を飛ばせる状態をキープしていたそうです。
前衛に危険が迫ればすぐに撃てるようにと。
幾度か戦い、トロールキングの攻撃力・防御力・体力などを感覚的に把握。
これならばいけると慣れたところで一対一に切り替えたそうです。
もちろんミーティアとサリュはフォローのまま。
結果、何度か被弾があり、倒すのに時間はかかったようですが、無事に倒せたようです。
ちなみに一対一で一番早く倒せるのがミーティア、次いでツェン、次いでイブキだそうです。
やはり神器は規格外という事ですが、その【神樹の長弓】でも一撃では倒せなかったようです。
初撃で頭を狙ってもガードされたとか。
それはトロールキングを褒めるべきでしょう。
だからこそイブキもツェンも倒すのに時間が掛かったのでしょうし。
ヒイノやドルチェはトロールを単騎で倒すのを諦めたようで、相手の攻撃に慣れるのと連携に重きを置いたようです。
前に出たがりのドルチェがよく納得しましたね。ミーティアの手腕でしょうか。
しかしティナは単騎でトロールを倒したようで。
「私もトロールキングと戦いたい!」
「戦うのはいいが、ティナでは倒せないぞ? 私が丸一日戦ったからよく分かる。仮にヒイノと二人で戦ったとして、ヒイノが逸らすのも可能だし、ティナが避けるのも可能だと思うが、ヤツの防御は破れない。負けはしなくても勝てもしないぞ」
「うー」
イブキが宥めていますが、ティナは軽戦士として優秀ですが相手が悪いですね。
普通に斬っても防御が堅い、急所を狙っても防ぐ技量を持つ、となると倒す前にティナがミスして殺されかねません。
さすがにご主人様も許可できないでしょう。
ともかく集落班は順調だったようで、ご主人様曰く、経験値も一日で相当稼げたとの事です。
探索班だった私たちとの差が……と思いましたが、どうも思ってたほど差がないようで。
ええ、実はあの『岩石地帯』もとい、仮称『黒岩渓谷』を走破しました。
距離がある上に罠魔法陣なども多く、その上サイクロプスが次々に襲い掛かる状況でしたが、なんとか一日で走破できました。
私たちが経験値を稼げたのは、そこで出るサイクロプス等の魔物ももちろん含まれるのですが、『黒岩渓谷』の終点が広場のようになっていまして、そこに【領域主】がいたのです。
「六本腕の赤いサイクロプス、ですか?」
「ああ、仮にヘカトンケイルと呼んでいたが、誰も知らないか」
「ドロップアイテムの名称では分かりませんか?」
「<インベントリ>だと【単眼巨人王の角】となってるな」
「サイクロプスキング、とかでしょうか。ちょっと分かりませんね」
サイクロプスよりさらに一回り大きい赤い六本腕。
仮称ヘカトンケイルと、その周りにはサイクロプスが十体いました。
さすがに五人だけでは戦えないと、一度引き返すべきだと進言はしたのですが
『せっかくだし狩ってくるわ、ちょっと待ってろ』
と、ご主人様が単騎で行ってしまわれまして……。
「おい、エメリー、さすがにそこはお前が止めるべきだろう。ご主人様が無謀すぎる」
「ええ、私もそう思います。申し訳ありません」
「やめてくれ、エメリーは悪くない。俺が勝手に突っ走った。すまん、心配かけた」
「はぁ、ご主人様がそんなではティナやドルチェに示しがつきません。もっとご自愛下さい」
珍しいですね、イブキがそんな風に諫めるとは。
しかしトロールキングと単騎で戦いたがってたのもイブキですよね?
言いませんけど、空気を読んで。
ともかく、ご主人様の獅子奮迅の活躍でどうにか『黒岩渓谷』を走破できたわけです。
やはり難所だったのでしょう、隠し部屋も含め、宝魔法陣は三つもありました。
・アダマンタイトヘルム → 不要
・スキルオーブ<暗視> → 保留
・霊薬 → 一応キープ
このような感じです。問題は<暗視>スキルなんですが、普通ですと斥候役のネネかアネモネに覚えさせるところ。
しかしネネはすでに覚えています。闇朧族の種族特性でしょう。
となるとアネモネですが、『看破の魔眼』の特性上、今後覚えそうにも思えます。
つまりオーブの無駄遣いになるのではと。
「というわけで悩んでるんだが、何か案はあるか?」
先にアネモネに覚えさせてしまうか、ご主人様が代表して使ってしまうか、射手のミーティアでもいいかもしれません。
色々と考えた末に、アネモネに覚えさせました。
今後覚える保障もないのでいいと思います。
そうした報告を終え、明日の予定について話し合います。
「トロールとはまだ戦うか? 丸一日戦ってたのなら飽きたと思うけど」
「レベルが上がり、今<カスタム>して頂いた力を試したい気持ちはありますが……確かに食傷気味かもしれません」
うんうんと集落班の面々が頷きます。
倒してリポップさせてまた倒しての繰り返しですからね。
丸一日やれば作業的になりそうな気がします。トロール相手であっても。
「明日は『滝』に行ってみるつもりなんだが、じゃあみんなで行くか」
『はいっ』
となりました。
夜警のくじ引きをして寝るとしましょう。
おや、私はヒイノと七番目ですね。
七番目は少し早起きするのと変わらないのでラッキーです。
「なぜかドルチェにまで圧し掛かられてたんだが……」
増えましたね。ティナ、ネネ、サリュに加えてドルチェですか。
いつの間に懐かれたのでしょう。
まぁスタイル抜群でも年齢は十四ですからね。子供がじゃれてると思って下さい。
全員で朝食をとり、拠点を片付けて出発します。
入口まで戻り、今度は『黒岩渓谷』と逆の左手へ。
こちらは溶岩だらけですね。
溶岩溜まりの間に出来た道を進みます。
所々見える小川のような溶岩の流れは、狭いところを飛び越えるしかないかもしれません。
ポルとか大丈夫でしょうか。いざとなれば投げますかね。ポルを。
「絶対、溶岩の中から魔物が襲ってくるぞ。飛び出して来るか、溶岩を吐き出して来るか、分からんが警戒しておけよ」
『はいっ』
「隊列はAが前でBCが後ろ。ネネとアネモネを先頭にするぞ」
『はいっ』
パーティー分けは前日のままとしました。
最前線が斥候を務め、左右に火力を置く感じですね。
左右の溶岩の警戒はBCパーティーに頼みます。
道中に出て来るのは赤いスライムと『黒岩渓谷』にいた蟹。どちらも溶岩の中に入れるようです。
それとご主人様の仰ったとおり、溶岩の中を泳ぐ魚がいまして、細く伸びた口から溶岩の弾を撃ってきます。
これ、下手に受けると大惨事ですね。
盾受けしてもビシャンとなりますし、避けても地面に当たればビシャンとなります。
火傷になるか侍女服が燃えるか……火傷のほうがマシですね。サリュが治せますし。
「察知できた段階で遠距離攻撃が無難だけど、倒しても魔石が溶岩の中なんだよなぁ。すごい損した気分」
「分かります」
分かりますけど、ご主人様、今更魔石一つで損するほど素寒貧ではありませんよ?
節制は大事ですが、普段の散財っぷりを見るとどうも……。
「ん……魔法陣あった、けど……溶岩の中」
「ふふふ……ほんとだ……嫌がらせ?」
「まじかよ。どうするか」
溶岩溜まりの中に隠し魔法陣ですか。確かに嫌がらせですね。
何とか出来ないかと急遽全員で会議をしました。
溶岩を凍らせるのは無理か、潜る方法はないか、そんなスキルは知らないか、溶岩で泳げる種族はいるのか、遠隔で魔法陣に魔力は送れないか。
色々と案は出ましたが、結局は諦めざるを得ませんでした。
「ちくしょう! 負けた気分だ!」
残念ですが前に進みましょう、ご主人様。
諦めが肝心です。
そうして『滝』に向かって歩くことしばし、湖のような大きな溶岩溜まりがありました。
なんとなくいかにもな雰囲気があります。
何か飛び出して来るかもしれない、そう皆が訝し気に警戒していました。
「ん? ……あれ、魔物?」
一番初めに気付いたのはやはりネネでした。
指さすのは湖の真ん中にある、島とも言えそうな半球状の黒い岩山。
その島に何か魔物がいるのか、そう探しましたが私には見えません。
しかし徐々に皆の中に違和感が出て来ます。
島が動いている、と。
やがて島の隣から浮かび上がった小島はまるで竜の頭のような……いやこれはもう島ではなく。
「かめぇぇぇっー! なんだあれ、ワニガメ!? アスピドケロン!?」
我が家より大きいかもしれませんね、あれ。
どうしましょうか、ご主人様。
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