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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
120:カメェェェーーー!!!
しおりを挟むA:前衛:セイヤ【刀】・ネネ【短剣・斥候】・エメリー【ハルバ・投擲】
後衛:フロロ【土魔法】・アネモネ【闇魔法・斥候】
B:前衛:イブキ【大剣】・ジイナ【槌】・ドルチェ【盾・槍】
後衛:サリュ【光・神聖魔法】・ウェルシア【風・水魔法】
C:前衛:ツェン【爪】・ヒイノ【盾・直剣】・ティナ【レイピア】
後衛:ミーティア【弓・火魔法】・ポル【鍬・水・土魔法】
■ジイナ 鉱人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
「よし、釣るか」
何を言っているんだろう、この人は。そう思った。
大迷宮探索五日目、仮称『溶岩池エリア』を探索していてみつかった大きな溶岩池。いやもう湖か。
そこに居たのはおそらく【領域主】であろう、仮称アスピドケロン。
島のように大きな亀だ。真っ黒い岩のような甲羅と、首の長い竜のような顔が見える。
どう見ても強敵な上、溶岩湖の真ん中に居るため、戦うとすれば遠距離攻撃しか手段がない。
おまけにミーティアさんやサリュちゃんの攻撃で倒せたとしてもドロップは溶岩に沈むだろう。
つまり戦うだけ無駄。
ならば無視して、予定通りに『滝』の方に進むべきだと思ったのだが、そこでご主人様の冒頭の台詞だ。
「釣る……ですか?」
「こっちにおびき寄せて溶岩から出させたいが、挑発したところであの亀が魔法とか遠距離攻撃持ってたらあそこから撃ってくるだろ。そうなると地上に引っ張り上げるしかない。だから『釣り』だ」
「はぁ」
エメリーさんも呆れ顔だ。
川魚じゃあるまいし、あの屋敷より大きそうな亀を釣るなんて出来るわけがない。
誰もがそう思っていたが、ご主人様は楽し気に説明を続けた。
♦
「よーし、じゃあミーティア、いってみよう」
「はいっ! 撃ちますっ!」
―――バシュゥゥゥン
ミーティアさんの【神樹の長弓】から射たれたのは、いつもの魔力の矢ではなく普通の矢。
その矢にはエメリーさんの投擲武器として私が打った『鎌』が付けられている。
さらにその鎌から伸びるのは、こちらもエメリーさん用に打った『錘付きの鎖』の鎖部分を四本つなぎ合わせた、長い鎖。
それらは私がこの場でつなぎ合わせたものだ。
鍛冶場の道具も<インベントリ>に入れてきたから、炉はないものの、それくらいの改造は出来た。
【神樹の長弓】から射られたそれがジャラジャラと音を立てながら亀に向かって飛ぶ。
ちなみに「エメリーさんが<投擲>で投げては?」という意見も出たが、距離と威力と命中精度の問題でミーティアさんとなった。
まさか【神樹の長弓】も『釣り』に使われるとは思わなかっただろう。神器の無駄遣いだと悲しくなる。
その神器の性能が故だろう、『鎌と鎖付きの矢』は亀の口内へと潜り込んだ。
「今だ、引けぇぇぇっ!!!」
『はいっ!』
地上から鎖の端を握るのは、力自慢の前衛部隊。
ご主人様、イブキさん、ツェンさん、ヒイノさん、エメリーさん、ドルチェちゃん、そして私。なぜかティナちゃんもいる。
亀の口とこちらを結ぶミスリルの鎖がピンと張った。どうやら鎌が口内に食い込んでくれたらしい。
オーエス、オーエスと謎の掛け声を出しながら、鎖を手繰り寄せる。
正直、こんなことで亀が釣れるとは思わなかったが、どうやら徐々に引き寄せられて来るようだ。
もしかすると、あの巨体で湖に浮いているのかもしれない。
『うおおおおおおっっっ!!!』
亀は亀で驚いたのか首を振って暴れようとする。
その都度、鎖を引くこちらにものすごい負荷がかかるが、足を滑らせながらも何とか耐える。
ご主人様、イブキさん、ツェンさんのスリートップが心強い。私も微力ながら奮闘。
その他の人たちもただ見ているだけではない。
当然、遠距離攻撃を始める。
「顔は狙うなよー! 鎌が外れたら作戦失敗だからなー!」
『はいっ!』
ビュンビュンと飛んでいく魔法や矢は、亀の首や甲羅に当たるも、やはり甲羅へのダメージはないらしい。
それでも鬱陶しく思ったのか、亀はヒレのような前足を溶岩に叩きつけ、こちらに飛沫を放ってきた。
「岩の壁!」
「氷の壁!」
それを防ぐのもまた後衛陣の役目。
フロロさん、ウェルシアさん、ポルちゃんが攻めに守りに奮闘している。
そうして徐々に近づいてくる亀。その巨大っぷりがよく分かる。本当に屋敷並みだ。敷地込みで。
「ぐぬぬ……あと少しだ! 気合い入れろ!」
ご主人様の檄に力を籠める。手が痛い。あ、サリュちゃん回復ありがとう。
ついに亀の足が地面に乗る。
それが分かると、また一気に力を籠めて、無理矢理地上に引きずり上げた。
「はぁっ! はぁっ! よ、よし! 一気に畳みかけろ! 溶岩に戻る前に仕留めるぞ!」
『は、はいっ!』
すでに疲労困憊。しかしここで倒せなかったら全てが水の泡だ。
サリュちゃんの回復を受けつつ、全員で攻撃を開始する。
とは言え、亀も怒っているのだろう。攻撃は苛烈だ。
ヒレの両手足を叩きつけ、長い首と竜のような尻尾を振るってくる。
ゴツゴツとした竜のような口からは炎のブレスのようなものまで出してきた。
ヒイノさんとドルチェちゃんの盾も首と尾の薙ぎ払いで吹き飛ばされる。
フロロさんたちの『壁』系防御もその場しのぎでしかない。
サリュちゃんもずっと回復に追われ、強力な攻撃が出来ないでいる。
しかし隙を縫うように攻撃を入れるしかない。
出番のなかったネネちゃんはいつの間にか甲羅の上に上り、首の根元に<毒撃>を入れた。
イブキさんやツェンさんはヒレにしか届かないが、ダメージは入っている。
ご主人様は甲羅への攻撃を試みたが諦めたらしい。斬れるが肉まで届かないと。
ミーティアさんの矢でも甲羅は貫けなかったのに、どうもご主人様の黒刀は神器の中でも格が違うらしい。斬れることに驚きだ。
その後、<空跳>から首を狙うが、ここも同じ。斬れるが太すぎて切断できない。
だから何度も首を攻撃するしかない。亀の攻撃の合間を縫ってだ。
こうなるともう、ネネちゃんの毒で死ぬか、ご主人様が首を落とすか、亀を逃がすかの三択だ。
必然、私たちは足止めに全力でとりかかる。
私の穿岩の波もそれほど遠距離には届かず、魔法よりも打撃の方がダメージが入る為、近接攻撃のみを行っている。
吹き飛ばされても、殴る殴る殴る。それしか出来ない。
そうして何度叩き、何度吹き飛ばされたことか数えるのも嫌になってきた。
誰か早く倒してくれ、そんな心の声を何度か叫んだ頃
「よおおっし!!!」とご主人様が吠えた。
―――ズゥゥゥゥン
まるで何かが倒壊したような音と地鳴りがして、ご主人様の方を見ればどうやら首を斬り落としたらしい。
安堵の息が漏れ、思わず地面に座り込む。
光と消える亀を見送ると、囲むように配置していた皆が、同じように座り込んでいた。
顔は煤け、侍女服もボロボロ、身体はくたくた、しかしその顔は達成感に溢れていた。
「勝ったぞおおおお!!!」
『おおおおお!!!』
右手を上げて吠えるご主人様に応えるように、皆も手を上げて声を上げた。座りながら。
間違いなく、今までで一番の大捕り物だった。
リッチやトロールキングは、まだ余裕があったんだと、ここで初めて気づいた。
こういう敵がいるからこそ、まだ私たちは強くならなければいけない、と。
そう思う私は、すでに鍛冶師でも蔵人でもなく″組合員″なのだなと少し笑った。
「あー、風呂入りてえ」
ご主人様の呟きに皆で笑い、そして皆で同意した。
ドロップアイテムが地面に落ちている。四つだ。
ご主人様が腰に手を当てながら近づき<インベントリ>に入れた。
聞けば【炎岩竜の鱗】【炎岩竜の甲羅】【炎岩竜の牙】【特大の魔石】だと言う。
ちなみに甲羅は丸々だ。島みたいな甲羅。<インベントリ>があって良かった。
……しかし竜だったのか。
……あれ? じゃあ私たち竜殺しになったの?
ふわふわした感情はそのままに、私は「この素材で武器作りたいなぁ」と思っていた。
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