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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
125:裏では羊がやきもきしていた。
しおりを挟む■メリー 羊人族 女
■22歳 迷宮組合カオテッド本部 受付嬢
【黒屋敷】の皆さんが大規模探索に向かっている八日間、私は気が気ではありませんでした。
行きがけに「出来れば四階層も探索する」と言ったせいで組合中は大騒ぎでした。
組合員の人たちの中には期待する意見が少々、懐疑的な意見が大半、怒りの声もなどもあり、しばらく話題はそれで持ち切りでした。
公然と大々的な賭けが始まり、それで賭けに負けようものなら【黒屋敷】の皆さんに八つ当たりしかねないと不安に思ったりもしました。
さらに言えば、四階層に行くという事は、あのリッチと戦うつもりだと言うことです。
セイヤさんはともかく、あの可愛いメイドさんたちがですよ?
むさっ苦しい男性が多い組合にあって、彼女たちはオアシスなんです。
普通に美人や美少女なのに、メイド服のまま探索するという可愛さ。
こんな人たちが他にいるはずもありません。
話せるようになったというのもありますが、純粋に私は彼女たちを応援しているんです。
そんなメイドさんたちがあのリッチと戦うなんて……良くない想像しか出来ません。
誰か大怪我するんじゃないか。
誰か帰らぬ人になるんじゃないか。
組合員には危険が付き物ですが、彼女たちがそんな目に会うと思うと苦しくなります。
彼女たちが強いというのも知っていますが、私がこの目で見たわけではありませんし、そもそも組合員の力量というものは素人目には分からないものです。
八歳のティナちゃんが強いと言われても、「そうなの~すごいわね~」と頭を撫でたくなるだけです。
まぁ【宵闇の森】を捕らえた時に三人ほど引きずっているのは見ましたが。
ともかくそんな彼女たちが誰も倒せないリッチと戦うのだと、その不安もあって、ただ帰りを待つのが辛い日々でした。
ようやく帰ってきたのが八日目の夕方です。
先んじて迷宮から走り戻って来た組合員が「【黒屋敷】が戻って来たぞ!」と叫んだので、また組合が騒がしくなりました。
まず、帰って来てくれた事に安堵しました。
そして姿を見せた皆さんを数えました。誰も欠けていない。ホッとして駆け寄ります。
しかし近づくと、いつも綺麗なメイド服が焦げていたり、破れていたり……それは壮絶な戦いを物語っています。
意を決して呼びかけ、聞いてみます。
「どどどどうでした? まさか本当によ、四階に!? ゴクリ」
「ああ、行ってきたぞ」
事もなげに言いました。つまりはあのリッチを倒したと。
ただ大変お疲れの様子で、報告などは明日にするそうです。
早く色々と聞きたい気持ちを抑え、受諾しました。
しかし手続き上の問題がありますので、とりあえず四階へ行ったという何か証明になるものを、とお願いすると、リッチのドロップ品を渡してくれました。
豪華な黒いローブと禍々しい杖です。
こんなの店売りなわけがないですし、今までの買い取りでも見たことがありません。
そのまま【黒屋敷】の皆さんを送り出しましたが、組合員の皆さんが私の手にあるそれに急接近してきます。
誰もリッチのドロップ品どころか、リッチ自体を見たことのある人もほとんど居ないので一目見てみたいんです。
囲まれるままにどうしようかと思っていると、皆さんに離れるよう促す声が。
「はいはい、君たち、彼女が困っているじゃありませんか。興味があるのは分かりますが少し乱暴ですよ?」
Aランククラン【風声】のクラマス、樹人族のサロルートさんです。
メルクリオさんやバルボッサさんたちと並ぶ、カオテッドのトップ組合員です。
さすがにサロルートさんに言われたら、大人しくなるようです。助かりました。
「サロルート、あんたリッチと戦った事あるんだろ? そのローブと杖は本物なのかい?」
「ふむ、間違いなく本物ですよ。いやいや、ちょっと信じられませんがね。ハハハッ」
『うおおおお!!!』
サロルートさんが本物認定してくれたおかげで私へのプレッシャーがなくなりました。
ありがとうございます! サロルートさん!
「俺の勝ちだ! 胴元はどこだ! さっさと払え!」
「いやまだだ! 組合の発表があるまでは分からん!」
「往生際が悪いぞ!」
「そうだそうだ! サロルートが認めてるだろうが!」
「リッチに勝っても本当は四階に行ってないかもしれないだろ!?」
「んなわけあるか!」
組合員の皆さんは賭けの結果でもめているようです。
これが【黒屋敷】の皆さんへの八つ当たりにならなければいいんですが。
ともかく私は倉庫へとそれを持って行き、専門の職員に<鑑定>をお願いしました。
やはり名称は【不死王】となっており、間違いないそうです。
そのまま本部長に伝え、明朝、報告に来てもらう事になったと伝えました。
そして翌朝。少し組合員が減った時間を見計らったかのように、【黒屋敷】の皆さんが来ました。
と言っても全員ではなく、メイドさんはエメリーさん他三名。フロロさんもいます。
計五人を本部長室へと案内しました。
本当は私も報告の内容を聞きたかったです。
メイドさんたちの活躍を知りたかった。
でもさすがに聞き耳立てるわけにもいきません。
本部長からの報告を待つしか出来ません。
しばらくして、報告会が終わったのか、皆さんが階段を下りて来ました。
本部長やメルクリオさんたちも一緒に、倉庫へと入っていきます。
ああ、買い取りですね。
おそらく量があり過ぎて直接倉庫に持って行ったのでしょう。
しかし倉庫から出て来ると、今度は全員で組合を出ていきました。
どういう事でしょうか。
外で昼食会でもやるんでしょうか。
ともかくこれはチャンスです。
私は受付を抜け出し、倉庫へと行きます。
一体どんなものが出されたのか、私、気になります!
「おお、メリーちゃんか。見てくれよこれ。とんでもない量だぞ」
「ひゃー、これ全部魔石ですか!?」
大きな木箱、五箱全部が魔石です。
八日間でどれだけ魔物を倒したのでしょうか。
しかも大きな魔石もこんなに……これ【領域主】ですよね。
「いや、四階は雑魚敵でもこの大きさのが居るらしい。トロールとかサイクロプスとかって言ってたぞ」
「ええっ、そんなのが普通に出て来るんですか! 地獄じゃないですか」
「だよなぁ。よくそんな所で探索なんて出来たもんだよ」
私でも知ってるような有名で強い魔物ですよ。
それをたくさん倒したって事ですよね。メイドさんたちが。
だからメイド服がボロボロになるわけですね……。
「本当はこーんなデカイ魔石もあったんだ。俺も初めて見たけどすごかったぜ。まあすごすぎて買い取れないって事で【黒の主】が持って帰ったが」
「そ、そんな大きな魔石ですか? 存在するんですか、それ。どんな魔物なんですか」
「なんでも竜らしいぞ」
「竜!?」
竜ってあの竜ですよね!? え、セイヤさんたち竜を倒したんですか!?
うそでしょ!? あの可愛いメイドさんたちですよ!?
「今、そのドロップ素材を確認しに本部長たちとみんなで外壁の外に行ってるよ。なんでも大きすぎてここじゃ入らないらしい」
「こ、ここじゃ入らないって……どんな素材ですかそれ……」
「この組合くらいの大きさの甲羅だそうだ。俺もさすがに信じられないが」
「はぁ……」
組合くらいの大きさの甲羅を持った竜……ですか?
全く分かりませんけど、もしそれが本当なら偉業どころの騒ぎじゃないですね。
どうやって戦ってどうやって倒すのか、素人の私には想像もつきません。
謎を残したまま受付に戻り、通常業務をしていると、本部長たちが帰ってきました。
「メリー、【黒屋敷】をSランクにするから更新手続きしてくれ。直に全員来るらしいからのう」
「Sランク!? じゃ、じゃあ竜って言うのは……本当に?」
「なんじゃ聞いておったのか。ああ、組合員証の裏面に【竜殺し】の記載をしておけよ。他は……まぁ書かんでいいじゃろ」
「!? は、はいっ!」
やっぱり、倒してたんだ! すごい! みんなすごい!
カオテッドからSランクと竜殺しが出るなんて!
【黒屋敷】の皆さんが四階層に行くと報告してから、準備はしていました。
新しい組合員証は実はすでに用意してあるんです。
でも竜殺しの記載はまだなので急いで足さないといけません。
印刷用の魔道具に設定し、記載を追加していきます。
そうこうしているうちに【黒屋敷】の面々がやってきました。
十五人全員です。
私は手を振って呼びかけます。
「更新はここでいいのか?」
「はいっ! もう出来てますよ! 今の組合員証と交換しますので、一人ずつ提出お願いします」
「じゃあ俺から。……おお、Sランク! ちょっと感動だな」
だいぶ感動して下さいよ、もう!
次々にカウンターに出してくるメイドさんたちに「おめでとうございます」と言いながら渡します。
「まぁ綺麗な色に変わりましたねぇ」
「Sランク! 私、Sランク!」
「あ、裏面、竜殺しだって! かっこいい!」
「ハハッ! 竜人族で竜殺しか! いいなこれ!」
珍しく受付前で盛り上がる皆さん。
本当に嬉しそうで何よりです。
「お、おい! あいつらSランクだってよ!」
「まじか! しかも何だよ竜殺しって!」
「あいつら何と戦ってんだよ! 四階どんだけだよ!」
「おら胴元! いい加減観念しろ!」
盛り上がる組合ホール。
そして入口方向から聞こえる笑い声。
「がーっはっは! てめえらがSランクだと!? ふざけてんじゃねえぞ! せっかくカオテッドくんだりまで来てやったのに、どんだけレベルが低いんだ、ここはぁ!」
「へっへっへ! リーダー、あんな小娘たちがSランクってんなら俺たちゃSSSランクですかねぇ!」
「違いねえ! おいどけよお前ら、俺らをSSSランクに更新しやが―――ぐああああ!!!」
「リ、リーダー! てめえ、何しやがうわああああ!!!」
「おい、ふざけるあああああああ!!!」
……久しぶりに見ましたね。新人さんでしょうか。
……ま、どうでもいいですね。
……投げたのはティナちゃんとドルチェちゃんですか。最年少の二人ですね。ご愁傷さまです。
それはそうとメイドさんたちと喜びを分かち合いましょう。
今はそういう時間です。
「ご主人様、これは祝勝会ではなくSランクのお祝いにした方が宜しいのではないでしょうか」
「ああ、そうだなエメリー。今日は俺たちで内々で祝って、改めてメルクリオとか呼ぶか」
「それが宜しいかと」
「あ、メリーもどうだ? 今度うちでお祝いするけど来るか?」
えっ! お祝い!? Sランクのお祝い!?
私も参加していいんですか!?
噂のお屋敷に行っていいんですか!?
「行きますぅ! 絶対に行きますぅ!」
「そ、そうか。じゃあ日時が決まったら連絡するから。無理せずにな」
「絶対行きますぅ! 予定入ってても行きますぅ!」
「お、おう」
よっしゃー! 楽しみですよ!
どんなお屋敷でどんなお祝いするんですかねえ!
今から着るものとか選んじゃいますかねえ!
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