カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第五章 黒の主、未知の領域に立つ

124:前人未踏の報告会・甲羅編

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■フロロ・クゥ 星面族メルティス 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面


 本部長室で行われた探索の報告は一応の終わりを迎えた。
 亀退治をした後は『滝』の様子を見て、帰っただけだからのう。


「滝つぼにも溶岩に潜る竜が……? いや、シーサーペントのようであれば亜竜かもしれんが……」

「リッチを確認もせず後ろから倒すとか……ははは……」


 どうも報告を受けた面々の顔色は悪い。
 この短時間で随分年老いたようにも感じる。
 本部長よ、このまま死ぬんじゃないぞ?


「ふむ、ともかく新たな情報をこれだけ持ち帰ってくれた事は大きい。これを証明するのが今現在できないのが辛い所じゃが……まぁ魔物のドロップ品なども売るんじゃろうし、そこである程度の証明とするしかあるまい」

「セイヤたちが今度潜る時に僕らが付いて行けばいいんじゃないですか?」

「それが可能ならば頼みたいが、セイヤはどうじゃ?」

「構いませんよ。ただ当分、屋敷を空けるつもりがないので、人数を絞るか期間を開けるかすると思いますが」


 経験値稼ぎは出来る限りしたい所ではあるが、いつ【天庸】が来るかも分からんからのう。
 こればかりは何とも言えん。
 四階層の他のエリアが気になるのも確かだ。『火山』とかのう。


「いずれにせよ、今回の情報と地図も合わせて情報料を払う。魔物を調べたりもするので今日すぐにとはいかないが、その時は受付で貰ってくれ」

「分かりました。魔石やアイテムの売却はどうしますか?」

「聞く限り相当な量じゃろ? 見るのが怖くなるが……受付じゃ無理じゃろうし、倉庫に直接持って行くか。儂も同行しよう」


 という事で、一階にある倉庫に直接納入する事となった。
 我もどのくらいの数か把握出来ておらんからのう。
 非常に楽しみではある。

 さすがに全部買い取れないとは分かりきっているので、装備品に加工するものは出さずにおくし、どうせなら屋敷に飾ろうかという話も昨日あった。
 うちの屋敷は美術品とか置いてないから規模の割に殺風景だからのう。
 ジイナも亀の素材とか加工したがっていたし。

 そういったわけで前もって「売ってもいいもの」をリスト化したので、それを見せる。


「……とんでもないのう。魔石だけでも相当じゃぞ」

「トロールキング素材とタイラントクイーン素材が多すぎる……」

「例の亀……炎岩竜の素材は甲羅だけか?」

「牙と鱗は装備に利用しようかと。甲羅も少しもらうつもりですけど、量がありすぎるんで大半は売ります。売れれば」

「どれほどの大きさと質か……見たいような見たくないような……」


 そんな話をしつつ、倉庫へと入る。
 本部長は査定担当の職員と、倉庫管理の職員を呼び、指示を出した。


「じゃあセイヤ、とりあえずこっちの木箱に小さい魔石から出してくれるか」

「はい」


 ご主人様はマジックバッグから出すふりをして、<インベントリ>から魔石を次々に出す。
 ザザーッと流れるように魔石が木箱を埋めていく。
 八日分の魔石じゃからのう。魔物部屋は寄ってないからいつもより比率は低いがそれでも大量だ。
 木箱が五つほど一杯になった。

 それから大きな魔石。これは三階までの【領域主】と四階だと巨人系も落とすのう。
 さらに大きいのはトロールキングとヘカトンケイルだな。
 亀の魔石は一際大きい。人の頭ほどもある。


「こ、これは……っ!」

「すごい! こんなデカイの初めて見た!」

「国宝ですよ、こんなの!」


 職員が騒いでおる。まぁ竜種の魔石であれば当然の反応だろう。
 いや、他の竜種の魔石も見た事などないがのう。


「これ買い取れます? 無理そうなら屋敷に飾るつもりなんですけど」

「うーむ、これ以外にもアイテムや素材があるんじゃろ? さすがに無理かのう。今回は他の魔石だけで勘弁してくれ。買い手が見つかるかも怪しい」

魔導王国うちの研究所が欲しがるだろうけど予算がすんなり下りるとも思えないね」

「了解です。じゃあ仕舞いますね」

「せっかくオークションで儲けた金が……いや、またこれを売りさばけば……」


 本部長も大変だのう。やってる事は政治家と大商人の合わせ技みたいなものだからなぁ。
 これで元組合員だと言うから恐れ入る。


 それから【領域主】のドロップ品を順々に出していく。
 リッチを除く、三階層までの弱めの【領域主】から買い取りを頼む。

 タイラントクイーンはさすがに全部は無理らしい。
 こちらは【鉄蜘蛛の糸袋】だけあればそれでいいのだが。今さら甲殻とか武器の加工にも使わんし。


「おお、トロールキングの素材がこんなに!」

「斧だけで四本ですか! しかし人の持てるサイズじゃないんですね」

「好事家には売れると思うが」


 これも全ては無理だな。仕方あるまい。
 ヘカトンケイルは一体分しかないが逆に欲しがられた。
 未知の魔物かもしれんから当然だろう。
 しかし値段を付けるのに困るらしい。という事で調べ終わるまで保留だ。


「とんでもない量じゃのう。これに竜の甲羅が加わるのか。本当に破産するぞい」

「まぁ無理に買わなくてもいいですよ。でも亀の大きさを調べるのに見る必要はあるんですよね」

「もちろんじゃ。甲羅もサンプル含め、出来る限りは買うつもりだがのう。しかし場所が……」


 屋敷並みの大きさという事で出す場所がない。
 中央区の空きスペースに無理矢理出しても良いが、住宅も近く大騒ぎになる。
 迷宮の二階層あたりならば問題ないが、往復に時間がかかる。

 しょうがないのでカオテッドの外に出て、第二防壁の外に出すことにした。
 街道を通る者には見られるかもしれないが、まだマシだ。
 という事で、集まった面子はそのままに北東区へと大通りを歩く。

 北東区側に出る理由は、南西区のように農地が広がっているわけでもないのでスペースがあるという事。
 さらに本部長もメルクリオも導珠族アスラの重鎮だから、というのが一番大きい。
 北東区は魔導王国領だからのう。衛兵に顔パスも出来るというわけだ。


「じゃあ出しますんで、離れてて下さい。そこ、もう少し後ろで」

「えっ、そんな大きいのか?」

「竜の甲羅か……どんなもんなんだ……?」


 期待と不安が入り混じる職員連中を後目に、ご主人様は<インベントリ>からドーンと出す。
 途端「うわあっ!」という叫び声と、「おおっ!」という歓声と、唖然とした無言が混じる。


「ほぉ~~~~ほお、ほお、ほお、いやこれはすごいのう!」

「はぁ~本当に屋敷並みだ。セイヤ、よく倒せたね、これは感動ものだよ」

「キツかったってのは説明しただろ? 楽に倒せたわけじゃない」

「そりゃそうだろうけど、これを見て『釣ろう』って思ったのがバカだよね」

「バカとか言うな。それこそ終わった後みんなに言われたんだからな」


 うむ。亀を倒してみんなでクタクタになってる時にご主人様はさんざん弄られていたのう。
「何を言い出すのかと思った」「ご主人様の頭が壊れたかと思った」「ノリノリだったから止めるに止められなかった」「倒せたからいいものの無茶が過ぎる」などなど。
 我もかなり言ってやったぞ。


「セイヤ、強度を調べたいのじゃが、傷つけてもよいか? もちろんその箇所は買いとるぞい」

「いいですけど多分普通の解体ナイフじゃ無理ですよ。生きてる時に比べれば柔らかくなってるでしょうけど、ミスリルでもきついと思います」

「ふむ、それほどか。まぁ試してみるかのう」


 魔物の防御力が高いのは生命力があるからとか、魔力があるからとか言われておる。
 戦っている時には斬れなくても、死ねば魔力が消え、死体やドロップ品となった素材は斬ることが出来たりとかのう。
 亀の甲羅は戦っている時こそミーティアの弓矢でさえ弾いていたが、アイテム化した今となっては多少柔らかくなっているはず。

 とは言え元々の強度がありすぎる。
 ミスリルのナイフでは厳しいかもしれん。


「あー、ダメですね。何とか傷つけられるってくらいです。本部長、アダマンタイトナイフの使用許可を下さい」

「仕方ないのう。何気にカオテッドでは初かもしれんのう、これ使うの。ほれ」

「お借りします。……ああ、硬いけどこれならいけますね」


 どうやら解体専門の職員でもアダマンタイト製の解体ナイフは許可制らしい。
 本部長直々に貸し出す形なのか。
 そりゃ紛失や欠損などされようものならば一大事だからのう。
 アダマンタイトナイフなど、早々あるものではない。


「イブキ、この状態なら魔剣で斬れるか?」

「やってみましょうか」

「普通バージョンと炎バージョンな」

「ハッ」


 職員から離れたところでご主人様とイブキが試し斬りしようとしておる。
 というか、今ここである程度解体しないと持ち帰ったところで飾ったりジイナに渡したり出来ないのか。
 ならばイブキとご主人様に斬らせるべきだな。


「はあああっ!!!」

「おー、さすが。でもやっぱ火耐性ありそうだな。斬り口がほとんど変わらん」

「おお、それが噂の魔剣かい? 40000の【魔剣イフリート】。とんでもないね」

「ふむ、魔剣ならそこまで斬れるのか。魔剣の強度は少なくともアダマンタイト以上という事かのう」


 メルクリオと本部長が群がって来たのう。
 魔剣は派手だからな。職員も作業しながらこっちを見ておるわ。


「いえ、亀が生きている時は私も弾かれました。斬れたのはご主人様だけです」

「なんと……!」

「へぇ、セイヤ、ちょっと斬ってみてよ。どうせ切り分けるんだろ?」

「そうだな。斬れるんなら少し斬っておこうか」


 そう言ってご主人様も黒刀を抜く。
 メルクリオたちも刀身を見るのは初めてなのだろう、それに釘付けだ。

 黒く輝く刀身は、魔剣よりも薄く細く、見るからに頼りない。
 しかしそれが放つ鋭さと力強さは素人でもあっても魅了する。
 メルクリオや本部長であればその『異様』にすぐ気付くだろう。


「よっ、ほっ、せいっ」


 気の抜けた声だが、動きの質も速さも本物。
 <剣術>がカンストしておるし、ステータスも相まって超一流を超える剣士なのは間違いない。
 その剣筋は、チーズでも切るように、甲羅を四角く分断していく。


「ご主人様、飾る用でもう少し大きめのもお願いします」

「そうか。よっ、こんなもんか?」

「よろしいかと。念の為、これを何個かお願いできますか」

「あいよ」


 呆然となるメルクリオと本部長を横目にエメリーが注文しておるな。
 まぁよいわ。
 これで先ほどの法螺話のような報告に信憑性が出るだろう。

 その後、職員が甲羅の全長を計測したり、サンプルを採取したりと色々やって甲羅はまた<インベントリ>に仕舞われた。
 買い取りどうこうに関しては調査後に打診があるらしい。
 魔石や他の素材売却に関しても後日集計して支払われるようだ。


「いやぁセイヤ、お疲れさま。貴重な体験をさせてもらったよ」

「メルクリオ、なんか本当にすごい疲れた顔してるぞ? 大丈夫か?」

「セイヤ、儂からも礼を言おう。長い事本部長をやっておってここまでの衝撃は初めてじゃ」

「ははは、それはどうも」

「帰りに組合の受付に寄ってくれ。Sランクにするぞい」

『Sランク!?』


 ほう! それはすごいのう!
 組合で十年働いたがカオテッドでSランクなど見た事がない。
 まぁ結果だけ見れば当然かもしれんが、まさしく偉業だろうな。


「エメリー、悪いが先に帰ってみんなを連れて来てくれ。組合で集合だ。全員でSランクに更新しよう」

「かしこまりました」


 これは皆も喜ぶだろうな。
 更新するならば全員同時にというのはご主人様の心意気だ。
 奴隷にも侍女にも気を配るのはご主人様が転生者故だろう。

 しかしだからこそ我らが付いて行くし、我らの励みにもなる。
 なんとも得難い主人だな、全く。


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