カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第五章 黒の主、未知の領域に立つ

123:前人未踏の報告会・後編

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■メルクリオ・エクスマギア 導珠族アスラ 男
■72歳 Aランククラン【魔導の宝珠】クラマス 魔導王国第三王子


 僕は今、迷宮組合本部の本部長室で【黒屋敷】の報告を聞いている。
 本来、一組合員の僕が他人の探索報告を聞くだなんて情報を搾取しているようなものだが、事が事だから現役で最前線にいる僕に白羽の矢が立ったというわけだ。

 まぁスペッキオ老が呼びやすく、セイヤとも繋がりがあるのが僕しかいないから、他の人選が考えられないとも言う。
 僕としても三階層の情報をセイヤに流したし、四階層の報告が気になるのも確かだ。
 二つ返事で引き受けたのだが、その内容が驚愕に値するものすぎて、いささか疲れてきた。

 セイヤもメイド軍団も常識外の強さなのは知っているつもりだったが、どれだけ認識を改めればいいのだろう。
 そう思わざるを得ないほど探索報告の内容が濃い。


「えっと、まず入口から出て真っすぐの道ですね。で、魔物も地図に書いてあるとおりなんですが名前が分からなくて……」

「ふむ、おそらくマグマスライムとヘルハウンドじゃろう。他の迷宮でも確認されておる。トロールは分かりやすいから大丈夫じゃろう。棍棒持ってボロ布撒いた巨漢じゃろ?」

「そうですね」

「最初でいきなりトロールが出るのか……いきなり難易度が上がった気がするね」

「ああ、三階層のデュラハンより強いからな。速度は遅いがタフだし攻撃力が高い」


 デュラハンは三階層の【領域主】でもあったし、リッチと共に二〇体も出てきた三階層の″精鋭″だ。
 それより強いのが最序盤で出て来るのか。しかも高温地帯で。


「で、そのまま真っすぐ行って、ここが盆地になってます。仮に『トロールの集落』と名付けましたが、岩山に囲まれた円形広場といった感じで、トロール二〇体と、多分トロールキングだと思われる個体が一体。そいつが【領域主】でした」

「トロール二〇体とトロールキング……!」

「とんでもないのう。キングはあれか? 毛皮着て斧持った青いやつか?」

「そうです」


 聞いただけでも冷や汗が出る。
 それはもう地上に出たら村どころか街も壊滅するだろう。
 トロールは確かに遅いし魔法も撃たないが、それでも一体倒すのでも苦労するし、その間に囲まれるのは必至。


「どうやって倒したんだい? それだけの群れを」

「倒すだけなら訳ないんだよ。周囲の岩山から魔法とか撃ちまくればトロールはよじ登ろうとしてくるだけだから。一方的に攻撃できる」


 なるほど。それほどの高低差があるのか。
 ならば魔法使いが多い、僕のクランでも倒せそうな気がするな。


「でもトロールキングは岩投げたりしてくるからな。防御する技量もあるから遠距離だけってわけにもいかないし、キングに関しては最初から接近戦で戦ったよ」

「トロールキングと正面から戦ったのか」

「そうそう。で、その日は近くのこの辺でテントを張って、三日目が終了」

「一日でリッチとトロールキングを倒したのか……」

「こんな近くで野営したのか。トロールどもは来んかったのか?」

「全く来ませんでしたね。トロールも寝てるんじゃないかと思ったくらいで」


 トロールは有名な魔物だがその生態は人に近いとも聞く。
 天気の変わらない迷宮内であっても就寝時間があるのかもしれないな。


「で、四日目は十人がひたすら『トロールの集落』で戦いまして―――」

「「まてまてまて!」」


 わざわざ十五人を分けたのか!? 戦力を分散させて、しかもひたすらって……。


「トロールの群れは俺たちの戦闘経験的にちょうどいい相手だったんだよ。だからなるべく戦いたい。でも四階層の探索もしたかったからメンバーを分けたんだ」

「ちょうどいいって……」

「俺とエメリー、フロロとあと斥候二人で探索に出て、イブキ、ミーティアと八人でトロール退治だな」

「セイヤ抜きでトロールキングと戦ったのか!?」


 なんて無茶を!
 それでクランメンバーは納得したのか!?
 ミーティア様は……なぜか笑顔で頷いていらっしゃるが……。


「そ、それはあれか? イブキといったか、お主の持つ魔剣がそれほど強いという事か?」

「ええ、魔剣は確かに強力でした。それでもトロールキングをなめてはいけないとご主人様も仰いまして、最初は私とツェンという竜人族ドラグォールの二人掛かりで戦いました」

「ふ、二人!? 十人全員じゃないのか!?」

「他の面子はトロール退治と念の為、私たちのフォローに回ってもらいました。そこから訓練の為に繰り返し、一対一で戦えるようになるまで数戦かかりました」

「一対一!?」

「サシで戦ったのか! トロールキングと!」

「ええ、最初はご主人様も一対一でしたし、最終的には私とツェン、そしてミーティアが一対一で勝てましたね」

「「ミーティア様!?」」


 何していらっしゃるのですかミーティア様!
 あ、貴女、トロールキングと単騎で戦ったのですか!?
 尚且つそれで勝てるんですか!?
 僕のミーティア様像が壊れていくんですが!?


「私はトロールキング相手に近接では戦っていませんよ? 避けて逃げながら遠距離攻撃しただけです」

「だけって……」

「そもそもトロールキングに弓矢とか刺さらんじゃろ……」


 事もなげに言われると、僕でもトロールキングに勝てそうな気がしてくる。
 いや、絶対無理だって分かっているけども。


「本部長よ、ここまでで驚いているようだとこの先の報告は聞けんぞ。これくらい普通だなと思うくらいでなければ」

「フロロ、お前、脅すんじゃないわい。もう儂、疲れてきたぞ」


 これ以上の何かがあるのか。
 いや、もう地図に色々と書き込まれているから何となくは分かるんだが……。
 僕も怖くなってきたな……。

 少し紅茶を飲んで、一息ついてからセイヤの報告の続きを聞く。


「で、『トロールの集落』についてはそんな感じで、俺たち五人はこっちの『黒岩渓谷』って方に探索に向かいました」

「渓谷か……ここは溶岩とかないのじゃな?」

「ええ、ですから非常に暗いです。ランタン必須ですね。高い断崖に挟まれた幅広の一本道です」


 つまり真っ暗な上に横に逃げ場がないという事か。
 しかも出て来る魔物が……。
 サイクロプスって下手したらトロールより強いんじゃないか?


「ふむ、まぁサイクロプスは分かりやすいからいいとして、蟹と鳥はどんなやつじゃ?」

「蟹はこっちの『溶岩池』にも出て来るんですが、溶岩にも潜れるこれくらいの大きさの、岩に擬態する蟹です。土魔法も使います。鳥は同じくらいの大きさで赤黒の羽根。火魔法を使いますね」

「ロッククラブとヘルイーグルかのう……まぁ仮にそうしておくか」

「谷底でサイクロプスと戦うとかぞっとするね。よく戦えたものだよ」


 他の魔物もいる状況で数体のサイクロプスと戦うことだってあるだろう。
 崖に挟まれた限られたエリアで戦うのは相当にきつい。
 よくこれで探索できたものだ。


「で、この渓谷を走破したのか……この最後の広場にあるのはなんじゃ? ヘカトンケイル?」

「そこの【領域主】で分からなかったので仮に名付けました。六本腕の赤いサイクロプスです。あと周りにサイクロプスが十体」

「うわぁ……」

「なんじゃそれ……儂も聞いた事ないぞ」


 未知のサイクロプスの【領域主】とサイクロプス十体。
 迷わず逃げるべきだろうが、地図で見る限り、おそらく倒したんだろうな……。
 五人だけで? 斥候二人とこの場の三人だけで?


「まぁどうやって倒したのかはさておき……」

「ははっ、ご主人様が単騎で突っ込んでお終いだ」

「おい! フロロ、黙ってろ!」


 そ、そうか……セ、セイヤ一人で……そうか……そうか……。
 僕とスペッキオ老とデューゼさんは頭を抱えたままだ。
 聞けば、探索四日目はそれで終わりだと言う。

 そうか……一日で渓谷を走破したのか……そうか……。
 まだあと三日四日あるのか……。


「で、五日目が一番大変だったんですが」


 やめてくれ! もうやめてくれ!
 これ以上大変な事態なんてあるわけないだろ!

 と、聞きたくない気持ちを抑え、何とか耳を傾ける。


「この日は十五人全員でこっちの『溶岩池』に探索に行きました。出てきた魔物はさっきのマグマスライム、ロッククラブと、あと溶岩の中から溶岩弾を飛ばして来る魚がいました」

「魚? ふむ、調べれば分かるかのう」

「ここは大小の池とか河とかあって、道を選んで進まないと溶岩に入りそうで危険でしたね」

「天然の迷路といった感じじゃな」


 未知のエリアに未知の敵、探索するだけで神経を使う。
 おまけに暑くて、足元には溶岩か。本当にとんでもない階層だね。


「問題はここの『溶岩湖』です」

「この『亀』と書いてあるのは【領域主】か?」

「ええ、島くらい大きな亀でして、ドロップ品を鑑定したら【炎岩竜】となっていました」

「「「竜!?」」」


 ドロップ品を鑑定って事は倒したのか!? 竜を!?
 しかも島くらい大きな亀って……?


「スペッキオ老、その竜はご存じですか?」

「いや知らん。そもそも溶岩に潜る″竜″というのはおらんはずじゃ。未知の竜種かもしれん」

『おおー』


 おおー、じゃないよ! パチパチじゃない! 拍手するな!
 これが本当に″未知の竜種″でそれを倒したとなればとんでもない事なんだぞ!?
 分かってるのか君たちは!


「ちょっと詳しく教えてくれんか。そいつの外見、攻撃手段、特性とか分かればな」

「えっと、まず体長がこの組合と同じくらいです。高さはそこまでじゃないですけど。うちの屋敷の敷地面積と屋敷の高さと大体同じくらいって言えばメルクリオだったら分かるか」

「分かるけども……とんでもない巨体だね……」

「組合と同じくらいか……いわゆる″飛竜″よりもデカイじゃろう……」

「あ、甲羅が丸々ドロップしたから、それを見て貰った方が早いかも。マジックバッグに入ってるし」

「「はあっ!?」」


 屋敷くらい大きな甲羅を持って帰ってきたのか!?
 そんなマジックバッグ存在しないだろ!
 王家の秘宝だってないぞ、そんなの!


「たまたま四階層のお宝で高性能のマジックバッグが見つかって良かったですね、ご主人様」

「あ、ああ、そうだな、エメリー」


 えっ、何それ、すごい嘘くさい。
 いや、でも、その嘘で通してくれってオーラがビンビンきてる。
 メイド長の無言の圧力がすごい。何この娘こわい。よし、聞かなかったことにしよう。


「えーと、ともかくその甲羅は見て貰うとして、そこから首の長い竜のような頭。尻尾も竜ですね。甲羅も鱗も黒い岩みたいな感じです。手足はヒレになってて、そこは装甲が若干薄いです」

「な、なるほど……」

「遠距離攻撃の手段として炎のブレス、それと溶岩を叩きつけて飛ばしてきたりします」

「ブレスを吐くのか。やはり″竜種″かのう」


 巨体に加えて防御力が高いという事だろう。
 その上でブレスまで吐くのか……さすが竜種と言うべきか。


「あまりブレスの頻度はないですね。それ以上に接近戦でヒレを叩きつけてきたり、首や尾で薙ぎ払ったりが多かったです」

「ん? 接近戦? 湖の中に居たんじゃないのか? ああ、ドロップ品があると言ったか、という事は陸地に上がって来たところを倒したという事か。もしくはおびき寄せたか?」

「いえ、釣りました」

「「「……ん?」」」


 キョトンとなった。


「エメリー、あれまだ持ってるか?」

「はい、こちらに」

「えっと、この鎌を飛ばしまして、口に引っ掛けて、こっちの鎖をみんなで引きました。釣りです」

「「「…………」」」


 何を言ってるんだろう、この男は。

 いや、確かに見るからにミスリル製だし、丈夫な上に溶岩の熱にも耐えそうに思える。
 しかしそれを遠くの竜の口に飛ばし、上手く引っ掛け、さらに竜を引っ張って地上にまで引き上げると?


 できるかい!

 よしんば全てが上手くいって鎌を引っ掛けても、屋敷ほどの大きさの竜種を引っ張れるかい!

 と言うか『竜を釣る』って発想自体がそもそもおかしい!
 考えるほうもバカだし、やるほうもバカだ! バカばっかりだな、このクランは!


 はぁ、はぁ、はぁ……失礼。心の中で取り乱した。
 素直に聞く以外の選択肢はないんだ。
 報告だから、これ。ちゃんとした報告会だから。


「で、みんなで頑張って引き上げたのも大変だったんですが、それから倒すのも大変で、硬いわ、タフだわ、攻撃がキツイわで」

「はぁ……じゃろうなぁ……」

「イブキの魔剣も、ツェンの攻撃も全然ダメージにならないですし、サリュもずっと回復に追われる始末で」

「ふむふむ、儂は今お主らが生きてるのが不思議じゃわい」


 本当だよ。

 どんな敵だったのかと聞くだけでも無謀に過ぎる。
 最初から全滅が確定している集団自殺と変わらない。
 これで一体、どうやって倒したと言うのか。


「ネネ……闇朧族ダルクネスの斥候が甲羅に上って毒らせたりもしたんですが」

「おお、毒は効くのか。それは良い情報じゃ」

「しかし時間が掛かりますし、それ以前にみんな満身創痍だったので何とか早くかたを付けようと」

「ほう、毒以外で倒したと?」

「ええ、何度も攻撃を加えて、ようやく首を斬りおとせました」

「「「…………」」」


 あ、あれ? 魔剣でもダメージがろくに入らない竜なんだろ?
 首を落とした? セイヤが? その黒いやつで?

 えっ、その剣、魔剣より上なの? 神器?


 ……あ、『女神の使徒』ってそういう事!?


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