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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
129:そうだ、亀を武具にしよう
しおりを挟む■ジイナ 鉱人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
「どうしよう……」
私は庭に建てられた鍛冶場で一人、そう呟く。
腕を組み、色々と物の置かれた鍛冶場をぐるぐると歩く。
大迷宮の探索から帰って、私の仕事量は多すぎた。
ご主人様からあれもこれもと注文が来て、どうにも手が足りない。
カンストされた<鍛治>スキルを持ってしても、私は多肢族のように腕が四本あるわけじゃないし、結局は自分一人で考え、二本の腕で打つしかないのだ。
思えば探索に出る直前にもエメリーさんから注文が入り、寝不足のまま探索に出発したのだ。
まぁ魔法槌に夢中になってその前日もろくに寝てなかったわけだが。
あの時は気合いでエメリーさんの投擲武器とハルバードを打ったが、結果的にそれが『亀』退治に繋がったと思うと頑張って良かったと思える。
無茶ぶりに答えて良かったと。
エメリーさんに言われなければ鎖や鎌なんて打たなかっただろうし。
……まさか″釣り″に使われるとは思わなかったが。
そして迷宮から帰っても急ぎの仕事だ。
ひとつはお酒。
ポルちゃんのおかげでお酒を造る事自体は異常な速さで出来るようになった。
普通に造る分には、もはや私は知恵を貸すだけでいいだろう。
あとはツェンさんが勝手にやると思う。
ただ以前言われた蒸留酒に、改めて挑戦して欲しいとは言われている。
どういうものかと話を聞けば、要は完成した酒を鈍く温める事で、より強い酒を生み出すのだそうだ。
その為の『じょうりゅうそうち』という物が欲しいらしい。
詳しい原理も教えてもらったが、どうすればいいか見当もつかない。
もういっその事、酒の中の水を飛ばすような魔道具を製作依頼した方が早いんじゃないかと思う。
あ、そう言ってみようかな。
そもそも蒸留したところで、長い間寝かせる必要があるらしいし、まぁそこはポルちゃんがどうにか出来るのかもしれないけど、少なくとも今度開くパーティーには間に合わないんじゃないかと思う。
私もお酒にばかりかまけている暇もないし。
「よし! お酒は考えないようにしよう! うん!」
一つクリアだ! いや、クリアしてないけど後回しだ!
それと二つ目の急ぎ仕事。これはもう鍛治だ。
迷宮探索で手に入れた素材。
カオテッドの誰も手に入れた事のない、未知のドロップ素材。
これが手に入ったからには、装備に活かさないわけにはいかない。
私としても酒造りより鍛治が好きという事もあり、こちらの事ばかり考えている。
ご主人様からの注文は『全ミスリル武具の更新』だ。
とてつもない大仕事。
つまり探索前日に急いで打ったエメリーさんのハルバードも造り直しとなる。
たった一回でお役御免とは……なんとも悲しい。
勿体ないので応接室にでも飾ってもらおう。
さて、素材を使ってミスリルより強い武器を造るとなれば、当然【炎岩竜】の素材を使うことになる。
そこで問題になるのが、その硬さだ。
甲羅と牙と鱗、どれを加工するにせよ、手持ちの工具では無理。
この工具もミスリル製だし、私の【攻撃】も<カスタム>されているとは言え、サクサク加工出来るものではない。
なので、まずは工具を造るところから始まる。
使うのは四階層のお宝で手に入れたアダマンタイトヘルムだ。
この全組合員が泣いて欲しがる貴重で見目麗しい兜を、贅沢にも溶かし、工具として造り上げるしかない。
なんということだろう。こんな素晴らしい武具を非情にも私は炉にぶち込もうとしている。
最後にペロペロクンカクンカしておこう。
さようなら、私のアダマンタイトヘルム。
残念ながら私たちでは君を活かせなかった。
だってみんなホワイトブリムかシニョンカバーだから。
ご主人様は「蒸れるから嫌だ」って言うし。
ごめん。そしてこれからは私の工具として第二の人生……いや、アダマン生を頑張ってほしい。
さて、そんな悲しい別れと、新たな出会いがあり、私の工具は生まれ変わった。
ナイフ、ノミ、ヤスリなど。見る角度によっては緑っぽくも見える鈍い黄金の輝き。
素晴らしい。アダマンタイト素晴らしい。
どれ、さっそくひとペロ―――
―――ガラッ
「ジイナ、この杖なんですg……貴女また……」
「ひぃっ! エメリーさん!? ち、違うんです! これは鍛治の出来をチェックして……」
「はぁ、見なかった事にしましょう、その代わり―――」
♦
数日後、私は死にもの狂いで完成させ、ご主人様にお渡しした。
夕食の席で、それが皆に配られる。
「えー、ジイナが頑張って造ってくれました! 貰った人はジイナに感謝するように!」
『はい』
いや、もうホント大丈夫なんで、感謝とか。
皆の期待の視線が痛いんで勘弁して下さい。
まぁ満足のいく作品にはなりましたけど。
「まずはツェン! 【ドラゴンファング】!」
「おおおっ! すげえ! ジイナありがとうな!」
ツェンさんの拳用武器は、ご主人様たっての希望で【炎岩竜の牙】から造った。名付けもご主人様だ。
手首まで覆うガードから二本の牙が突き出ている。それが両手分で二個。
手に当たる部分、ガードの裏地にはトロールキングの【暴巨人王の皮】を使用。外観は白く美しい。
「次にネネ! 【ドラゴンダガー】!」
「ん! ジイナ、ありがと! カッコイイ!」
「さらにヒイノ! 【ドラゴンソード】!」
「まぁ、私がこんな武器を。ありがとうね、ジイナちゃん」
ネネちゃんのダガーとヒイノさんの直剣は【炎岩竜の鱗】から。それとミスリルも混ぜている。
鱗は一枚だけだったが、その大きさは私の胸くらいまであった。
黒く輝く剣になって、ご主人様の黒刀とお揃いのように見える。
「ヒイノには盾もだな。【炎岩竜の小盾】!」
「まぁまぁ! 綺麗な盾ですね! 本当にありがとう、ジイナちゃん」
「ドルチェにも盾だ。【炎岩竜の中盾】!」
「きたーっ! ジイナさん、ありがとうございますっ!」
盾は【炎岩竜の甲羅】からだけど、盾の大きさに削って丸めてってやったら、傍目には甲羅だと分からなくなってしまった。
つるんとした光沢のある黒い盾だ。地味に縁取りとかにタイラントクイーンの【鉄蜘蛛の甲殻】を使ったり、裏側のベルト部分にはトロールキングの【暴巨人王の皮】を使ったりと細かい。
「次にエメリー、【騎士王の斧槍】と名付けた。それが四本!」
「ありがとうございます、ジイナ」
エメリーさんの目が「内緒ですよ」と言っている。ナンノコトカナー。
ハルバードはデュラハンの【首無騎士の槍】に、トロールキングの【暴巨人王の斧】を小さく加工した上で合体させた。
何気にこれが一番手間が掛かっている。少し余ってたアダマンタイトの鉱粉とかも混ぜたし。
炎岩竜に比べれば強度はないけど粘りがあるし、ミスリルハルバよりは確実に上だ。
ちなみに【首無騎士】と【暴巨人王】で【騎士王】にしたらしい。
私の提案した【暴虐騎士の斧槍】は厳ついからと却下された。
エメリーさんには合ってると思ったのだが……あ、いえ、なんでもないです。
「あとはポルだな。あー……【不死王の鍬】!」
「おおお! ありがとうなのです!」
『不死王の……鍬……?』
渡すご主人様も、見ているみんなも「なんじゃそりゃ」って顔してる。造った私もそう思う。
リッチのドロップの【不死王の杖】に水魔石を取り付けて貰い、ポルちゃんが魔法を使いやすくしてもらった。
その上で、【炎岩竜の鱗】を鍬の刃に加工して組み合わせた。
接合部分には魔力伝導率の高いミスリルも使っている。
見た目は禍々しい捻じれた形状の杖の先端に青い魔石が付いていて、さらに黒い鍬の刃が先端付近から出ている感じ。
とても農工具とは言えない禍々しさだ。
杖に鍬の刃をつける案は以前も出たが、普通の杖だとポルちゃんが攻撃した時に折れてしまうという問題があった。
<カスタム>されている上に魔物も硬いのとかいるからね。
しかしリッチは、この杖で組合員相手に肉弾戦をする事もあるらしい、とメルクリオさんが言っていたそうだ。重装備の戦士を薙ぎ払うとか。
もちろんリッチの攻撃力自体も高いんだろうけど、杖もそれに耐えうる強度があるという事だ。
実際に見てみると、黒っぽい木材に見えて全く別の素材らしく、詳しくは分からない。
ともかく打撃武器としての強度と、強力な魔法触媒という面を併せ持っているというわけで、これを利用した。
利用した先が鍬だった事についてはリッチに申し訳なく思う。
リッチもまさか自分の杖が鍬になるなんて思いもしなかっただろう。
不死王かわいそう。
「あとはウェルシアの杖を何とかしたいと思ってる。一応頼んでは来たけど、みんなも何かの機会で魔道具屋とか行った時には掘り出し物とか探して来てくれ」
『はい』
「お心遣いありがとうございます。どうぞご無理をなさらず」
ふぅ、これで一段落かな。
みんなに渡せて良かった。喜んでもらえたし。
頑張ったかいがあったなあ。
「あ、ジイナ、ちょっと手伝って欲しいことが―――」
また追加ですか、ご主人様――っ!?
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