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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
149:闇夜の邪教戦、終結
しおりを挟む■ドルチェ 針毛族 女
■14歳 セイヤの奴隷
【ゾリュトゥア教団】はやっぱり魔族の組織だった。
そして洗脳薬という変な薬を飲まされて、人々を操っていた。
やっぱりお父さんとお母さんが急に変になったのは、この魔族たちのせいだったんだ。
それが分かって嬉しい気持ちと悔しい気持ちがある。
出来れば私の手で魔族を倒したいとも思う。でもご主人様はそれを許してはくれない。
だから私の代わりに仇をとってくれる事を、目の前で見届けるしか出来ないんだ。
地下の一室で、一対一の戦いが三つ行われている。
ほとんど足を止めての接近戦だ。
この室内じゃ動き回る事も出来ないし、遠距離攻撃も難しい。
ご主人様は<飛刃>を使わずに、悪魔族のメイスを受けたり逸らせたりしているだけ。
イブキさんも【魔剣イフリート】に炎を纏わせてはいない。大剣で戦う事自体が適していない環境だから戦いにくいのかもしれない。
一方でツェンさんは調子が良さそうだ。
「ちいっ! 竜人族が! 調子に乗りおってぇ!」
「はははっ! 温いぜ! せっかくパワーアップしても変化に慣れてねえんじゃねえのか!? 身体のデカさが変わって間合いも動きも頭が追いついてないだろう! そんなんじゃ獣みてーに襲い掛かってきたヤツらの方がまだマシだったぞ!」
「ぐっ! 我らを愚弄するか、このトカゲがあっ!!」
実際、ツェンさんの言うとおりなんだと思う。
確かに妖魔族の人たちは大きくなったし、力も速さも増したんだろうけど、なんて言うか戦い方が下手な気がする。
ほとんど素人の私が見ても、力任せだったり、隙が多かったり、踏み込みすぎてたり……。
妖魔族は二人とも、ぐねっと曲がった短剣を振りながら、魔法を撃とうとしている。
多分、闇魔法だと思う。本来は魔法中心の後衛なんじゃないかと。
でも最初から接近している状態のイブキさんとツェンさんを相手にしながら、間合いを開けるなんて無理。
魔法を使いそうになるや否や、イブキさんもツェンさんもそれを邪魔しようと仕掛ける。
結局、一発の魔法も撃てていない。ひたすら短剣を振るだけだ。
「もういいぞ、ツェン。これ以上は無駄だ」
「おっ、ようやくか。よっしゃあ!」
今まで受けに回っていたイブキさんとツェンさんが一気に攻める。
もう力量の把握は済んだという事だろう。
私が戦っていたらあそこまで余裕があったのか……少し不安になる。
「一撃で死ぬんじゃねえぞ!? 行くぜ! ドラゴンファングからの……<一点突破>ぁ!」
「ぐはぁっ!!!」
「はあああっ! <断塔斬り>!!」
「ぎゅええっ!!!」
ツェンさんの拳撃で胸に大穴が開き、イブキさんの振り下ろしで肩から左右に分かたれた。
どちらも一撃。イブキさんは炎を纏わせずに仕留める。
ツェンさんは「おいおい、本当に一撃かよ……」と残念そう。
ふと隣を見れば、どうやらご主人様の方も余裕そうだ。
ことごとくメイスを防ぎ、魔法を使わせない戦いに、悪魔族も焦っている様子。
「くそっ! 貴様っ、まさか本当に【勇者】なのかっ!?」
「そんなわけないだろ。ただのか弱い基人族だよ」
「ふざけた事をっ!」
「お前は狂心薬とやらを飲まないでいいのか? 飲んでおいたほうがいいんじゃないのか?」
「ちいっ! その言葉……後悔しても遅いぞっ!」
ご主人様はわざと距離をとり、薬を飲ませる隙を与えた。
ああ、だから時間を掛けていたのか。
魔族にとってデメリットなしにパワーアップするだけの薬であれば、それを最初から強者である悪魔族が飲んだ場合はどうなるのか。
それを確かめておこうと……。
……いや、それかなり危険なんじゃないですか、ご主人様?
「ぐおおおおおっっっ!!!」
悪魔族が絶叫と共に変貌する。
筋肉質だった身体はますます膨張し、血管が何本も浮き上がっている。
背丈は天井に頭が完全に付くくらいで、部屋が窮屈に感じる。
「あ、これヤバイな」
ご主人様が少し慌てて、そう言った。
うん、私もそう思う。
これだけ大きくなると、こんな部屋じゃろくに戦えない。
メイスでも振り上げようものなら、もうそれだけで天井突き破る感じだ。
軽くジャンプも出来ないし、回避行動もとれないだろう。
変貌が収まりつつある悪魔族にご主人様は申し訳なさそうに声をかけた。
「ふぅっ! ふぅっ! ふぅっ!」
「あー、すまん。飲ませといて何だが、今すぐ殺すわ」
「ふぅっ……ふっ?」
目にも止まらぬ早業というのはこういう事を言うのだろう。
私もネネさんやティナちゃんとの特訓で速い動きには慣れてきていると思うが、それでも尚、見切れない速さというものがある。
ご主人様の鋭すぎる斬撃は、黒い影だけを残して、気付いた時には悪魔族の傍らで刀を振り下ろしていた。
「あ……? が……? は……?」
何をされたのかも分からない表情のまま、悪魔族の首は徐々にズレ、ころんと転がると同時に、首を失くした身体も大きな音を立てて倒れ込んだ。
納刀してこちらを振り返ったご主人様が頭を掻きながら言う。
「失敗したな。無理矢理にでも外に出せば良かった」
「そうしたら周囲に被害が出るかもしれません。ここで倒して正解でしょう」
「それはそうなんだが……男爵級悪魔族の本気って言うのも確認しておきたかったんだがな」
「だよなー、あたしも興味あった。妖魔族じゃダメだ。いくら薬で強くなっても全然ダメだ」
戦い終わった三人が反省会をしながら、ご主人様は死体を<インベントリ>に入れている。
これでお父さんとお母さんを操った元凶は居なくなったんだという安心感と、私が戦えなかった悔しさ、ご主人様やみんなの頼もしさを感じながら、呑気に話すその様子を見て、何とも微妙な心境になった。
あれだけ私と両親を苦しめた教団が、あれだけカオテッドの人たちを苦しめた教団が、こうもあっさり倒されるなんて。
こんな事ならもっと早く魔族だって分かれば……そんな理不尽な気持ちにもなったりした。
実際はシャムさんたちが来なければ分からなかったのだけれど。
でも、今の私に出来るのは一つだけ。
「ご主人様、ありがとうございました」
「ああ、最後はなんか締まんなくてスマン。あとは帰ってご両親の様子を確認しないといけないからな」
「はいっ!」
「さっさと色々回収して戻るぞ。イブキ、ツェンも何でも集めて持ってこい」
「はっ!」「えっ、回収?」
ツェンさんも知らなかったようだ。
山賊や闇組織を潰した時は、全てを回収するのがマナーだそうですよ?
「えー、なんか強盗みたいで気が引けるんだが……」
……ツェンさんがまともに見えたのは初めてかもしれない。
■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
「お疲れさまです、ご主人様」
「お待たせ。こっちの様子は?」
「不審な輩は誰もおりませんでした。出入りもなしです。気絶者も回復し始めておりますが、どうも記憶があやふやで困惑している様子です」
「記憶が? どこから失くしてるのかにもよるが……一応、ここの場所と邪教の支部だって事だけ伝えておいたほうが良いか」
私たちは全ての人々を救いに来たわけではない、だから保護したり面倒を見たりは最小限に抑えたいとご主人様は仰います。
正義の味方でもなければ【勇者】でもないのだからと。
そこまで仰るのであれば、完全に無視して帰宅すれば良いと思うのですが、やはり心のどこかで意識なさっているのでしょうか。
ともかく今起きている人たちに、簡単ではありますが事情を説明しておきます。
「ええっ!? ここ、あの邪教の!?」
「魔族だって!? 俺たちは操られていたってのか!?」
「そ、そういえば薄っすらと記憶が……」
混乱はしていますが、何も話さないよりマシでしょう。
おそらく中央区の衛兵さんたちも動いているはずですし、それを受けて北西区の衛兵も動くはずです。
問題はあとどれほどの人数が『洗脳薬』とやらの影響下にあるか、という所ですが……こればかりは分かりませんからね。
まさか全ての住民に聖域結界を掛けるわけにもいきませんし。
あれは非常に有用な魔法ではありますが、魔力消費も効果範囲も制限が厳しすぎます。
不意打ちだから有効なのであって、対策をとろうと思えばいくらでもとれそうですから乱用は出来ないでしょう。
「そちらの収穫はどうでしたか?」
「ああ、金と魔石と薬関係、あとは魔道具とかだな。書類関係はほぼなし」
「魔族は帳簿とか付けないのでしょうか」
「どこかしらに繋がりはあるはずなんだけどな。教団本部とか鉱王国とか北西区とか。それが全く見えん」
確かにここが支部である以上、本部があるはずです。
そしてそれは鉱王国にある可能性が高い。
しかしそことのやり取りを記した文書のようなものがないとなると……行き詰まりますね。
「ある程度は中央区の衛兵団に渡して任せようかな。ドルチェの両親じゃないけど教団のせいで貧困になった人たちだっているだろうし補填したほうがいいだろ」
「寛大なお志だと思います」
「ただちゃんと補填されるのか……ああ、俺たちがSランクだからちゃんとやってくれるかな」
「中央区の衛兵団であればより効果的でしょうね」
助けないと言いながら、取り戻したお金は被害者の補填に当てようとする。
……やはりご主人様は【勇者】の素質があると思いますよ?
……ご自分では否定なさるのでしょうが。
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