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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
148:闇夜の温度差の中で
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
六人で踏み込んだ邪教の支部、その堂内は一言で言えば『不気味』だった。
教会を真似ているような造りだが、非常に薄暗く、列席用の椅子もない。
地べたに膝をつき一心不乱にブツブツと何かを呟いている信者の先には邪神像。
教壇の前には誰も立っていない。
俺たちが入って来ても誰も目もくれず、気付いている様子さえない。
無関心。誰もが祈りに夢中で、俺たちの事などどうでも良いらしい。
寒気がする嫌悪感に、思わず顔をしかめる。
「サリュ」
「はいっ! <聖域結界>!」
部屋の中心まで行くと、すかさず<聖域結界>を使わせる。
すると祈っていた信者がバタバタと倒れ始めた。
襲撃してきたヤツらと同じ……という事はこいつらも何らかの状態異常に掛かっていたという証拠だ。
恐らく<魅了>か何かで操られていない、本当の意味での『信者』であれば<聖域結界>は効かないのではないかと思う。
状態異常だからこそ効果が出て倒れるのだと。
しかし今はそれを検証している場合ではないし、倒れた彼らの様子を伺う暇もない。
「ネネ、サリュ、次だ! サリュは一応MPポーション飲んでおけ!」
「はい」「はいっ!」
ネネが先導して向かうのは地下だ。
二階建てなのだから上なのかと思えば、どうやら幹部連中は地下に居るらしい。
その証拠とばかりに地下から声が聞こえる。
『ぐあっ! な、なんだこれは!』
『<変化>が解かれたぞ!?』
『今の光か!? まさか高位の神聖魔法か!?』
どうやらサリュの<聖域結界>は地下までも効果範囲に入っていたらしい。
狭い建屋なのが幸いしたな。
<変化>というのが想像通りのものか分からないが、何かしらのバフ効果のようなものを解除したのだろう。
ギシギシと音を立てる木造の階段を足早に下りる。
もはや隠れる必要もない。
そして下った先、四つほど扉の並ぶ中で一番奥の扉を、ネネは指差した。
――ドカアアン!!!
当然蹴破る。
「なっ! き、貴様……!」
「なぜ……! ヤツらはどうした!?」
意外と広い室内に立っていたのは、三人の男。
うち二人は蝙蝠のような翼が生えた醜悪な小人族のような男たち。
おそらく妖魔族という魔族だろう。
そして一人は二メートルを超える巨体。
青黒い肌に三本の角と下顎から伸びる牙。変種のオーガかと見間違えそうだが、背中には妖魔族と同じく蝙蝠のような翼がある。
こいつは……まさか悪魔族というヤツか?
ゴミ女神から植え付けられた知識で知る悪魔族という種族は、魔族の中でも容姿が多種多様。
貴族の爵位のような階級があるらしく、それで全く別種のような見た目になるのだとか。
しかし総じて言えるのは、魔族の中でも極端に強いという事。
操る事に特化した淫魔族や、取り憑く事に特化した幽魔族は戦闘力という面では弱いと言う。
しかし悪魔族は力・速さ・魔力、そのどれもが飛びぬけているらしい。
こいつがその悪魔族か?
リーダー格であろうその巨漢が一歩前に出てきた。
「ふんっ、【黒の主】か。確かにただの基人族ではないようだな。差し向けたはずの教徒たちはどうした?」
「教徒? 元教徒なら百五十人ばかり居たがな。どうやら目が覚めたらしいぞ? 【ゾリュトゥア教団】は魔族の組織だって気付いたんじゃないか?」
「なっ……! 洗脳薬の効果を解いたというのか! ……そうか、天使族がまさかそこまでの力を持っているとは……しかしその天使族を連れて来ずに乗り込んでくるとは。驕りが過ぎるというものよ」
あー、状態異常を解いたのがシャムシャエルたちだと思ってるのか。
まぁサリュが解いたとは思えないか。
しかし<魅了>でなくて『洗脳薬』ね。何かしら飲まされてたって事か。
「うちの天使族が出るまでもないって事じゃないか? たかだか妖魔族が二匹と、爵位持ちかも怪しい悪魔族が一匹だろ?」
「貴様っ!」
「言うに事欠いて!」
俺の挑発に妖魔族が乗ってきた。
でも悪魔族は顔を顰めるだけだな。
「ひ弱な基人族がよく吠えるものだ。――まあよい。どちらにせよ貴様らを生かして帰すわけにもいかんからな。バルゴ、アドメラルダ、狂心薬を飲み、周りの雑魚を片付けろ」
「「はっ!」」
「我は直々に、この身の程知らずな基人族を殺す。男爵級悪魔族ザトゥーラ様の恐ろしさを教えてくれる! 絶望を知るが良い!」
どうやら臨戦態勢だな。
「イブキ、ツェン、妖魔族を殺れ! ネネ、サリュは周囲の警戒! 他の誰も居ないとは限らないぞ! ドルチェは防御を固めろ! フォローに回れ!」
『はいっ!』
俺の相手はお前だ。ザトゥーラとやら。
男爵級悪魔族の強さを教えてもらうぞ。
そして手にした黒刀の切っ先を悪魔に向けた。
■ネネ 闇朧族 女
■15歳 セイヤの奴隷
戦えないのは残念。でも室内で乱戦はしたくないししょうがない。
私はご主人様に言われた通り、<気配察知>で地下全体を確認する。
うん、やっぱり地下にいる三人と一階で気絶している人たちだけで全員っぽい。
念の為サリュにも確認する。
すんすんと鼻を鳴らし、匂いで確かめる。そして鼻をつまむ。どうやら衛生状態が宜しくないらしい。
ごめん。変な事させた。でもやっぱり誰も居ないっぽい。
改めて部屋の戦いを見る。
目立つのは『狂心薬』とやらを飲んだ妖魔族の二人。
小人族みたいに小柄だったのに、ご主人様くらいに大きくなってる。
「はっはっは! 凄まじい力だ! これが狂心薬か!」
「ほう、貴様らはあの連中と違って我を忘れたりしないのだな。粗悪品じゃないのか?」
「馬鹿め! 狂心薬は本来魔族の為の薬! ヤツらにとっては心を失くし命を削るものであっても、我らにとっては極上の増強薬よ!」
「こうなっては貴様らも終わりだな! どうせなら貴様らも洗脳薬の虜にしてやろうか!?」
「はっはっは! それは良いなバルゴよ! カスだろうがSランクの信者は良い餌になる!」
イブキが舌戦に付きあっているけど、ツェンはさっきからうずうずしてる。
まだ? まだ殺っちゃダメなの? って、お預けされてる。
妖魔族って種族的には大して強くないって聞くけど、あの薬を飲んだことでそれがどうなるか。
ちょっと興味あるなー。ツェンも同じ感じだと思う。
イブキは真面目に探ってるみたいだけど。
一方でご主人様も、ザトゥーラって男爵級悪魔族と戦い始めた。
取り出したのは棍棒みたいなメイスだ。
それでご主人様に殴りかかり、当然のように受け止められている。
「ほう、さすがにこの程度は防ぐか」
「もっとちゃんと攻撃してくれないと困るぞ。なんなら場所変えてやろうか?」
「ほざけっ!」
……なんかいかにも頭脳派リーダーって感じの喋り方なんだけど、多分こいつ馬鹿だと思う。
だって広めとは言え、ここ地下の一室だよ?
そこであんな巨体で大きなメイス振りかぶって、近くには大きくなった妖魔族二人が個別に戦闘中。
なんでわざわざ戦いにくい所で戦おうとするのか分からない。
せめて最初から二階に居ればいいのに、と思わなくもない。
まぁ攻められるのを想定してないんだろうけど。それも含めて馬鹿だね。
戦闘の邪魔にならないよう、部屋の入口で固まってる私たち三人。
真剣な目で戦況を見つめるドルチェの横で「どうしようかね」とサリュが言葉を投げてくる。
「んー、しばらく遊ばせて探ってから倒すみたい。本格的に暴れさせたら地下室自体がまずいと思う」
「あー、ここボロいもんね」
「ええっ!? 危険なんですか!? 建物が崩れるんですか!?」
そうさせないように戦ってくれると思うけど、あの悪魔族とかなら訳なく天井ぶち破れると思う。
そうなったら上に居る人たちもマズイかな、と。
私たちはどうにでもなると思うけど。
「どどどどうするんですか!? 避難ですか!? それとも一階の人たちの救助に!?」
「うーん、今のうちに探索しちゃおっか、ネネちゃん」
「ん。それがいい」
「えっ、た、探索!?」
だって万が一地下室が崩れちゃったら探索出来なくなっちゃうし。
お金とか書類とかあれば持って帰らないと。これ山賊とか倒す時のマナーだから。
「そ、そうなんですか……で、でもご主人様の戦いを見守るとか、一階の人たちを救助するとか、万が一私たちが戦う事も考えないといけないですし……」
「大丈夫だよ、ドルチェちゃん。本当にマズイ相手だったら様子見なんてしないで倒してるはずだし、一階の人たちもいざとなればエメリーさんたちが何とかしてくれるよ」
「ん。この場はドルチェに任せる。私たちは探索してくるから」
「ええっ!? わ、私一人ですか!?」
「隣の部屋とかに行くだけだから平気だよ。何かあったら大声で呼んでね」
「わ、分かりましたっ!」
ドルチェは両親を操った魔族たちを最後まで見てないといけないからね。
戦いを見守る役目は任せよう。
さて、私とサリュで家探しだ。いっぱいお宝あるといいんだけどな。
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