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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
147:闇夜の反撃戦
しおりを挟む■ヒイノ 兎人族 女
■30歳 セイヤの奴隷 ティナの母親
「すみません、ヒイノさん。お父さんとお母さんの事、よろしくお願いします」
「任せて。安心していってらっしゃい。気を付けてね」
「はいっ!」
ドルチェちゃんはご主人様たちの後に付いて足早に出掛けました。
邪教徒の襲撃、その対処、そしてそれからの行動については事前に打ち合わせをしました。
襲撃してきた邪教徒を全て無力化できたのであれば、すぐさま反撃。これは打ち合わせの通りです。
クランの十七人全員で反撃に出向くという事は、今回はしません。
理由の一つは、邪教徒だった約百五十人もの人たちが、未だに通りを埋め尽くすように寝ている事。
これを放って全員で出掛けるわけにもいきません。
とりあえずサリュちゃん、シャムさん、マルちゃんの三人が頑張って回復だけはしてくれたので、あとは気絶状態から覚めるのを待つだけなのですが、叩き起こすわけにもいかず、かと言ってこれだけの人数を屋敷の庭に運びこむ事も難しいので、様子見なのが現状です。
目覚めたらその状態の確認。
<魅了>どうこうではなく、本心から邪教を妄信していた人がいるかもしれないので、起きるや否や「浄化せよ」と襲い掛かってくるかもしれません。
その危険性も含めて、様子見に留めています。
二つ目の理由としては、今回の襲撃自体が陽動で、本命の魔族が空から屋敷に強襲してくる可能性。
一部の魔族は空を飛べるらしいです。私は知りませんでしたが。
なので、こちらの反撃と入れ違いで屋敷を襲われたら困ると、防衛戦力を残しています。
メンバーは、私・ティナ・フロロさん・ミーティアさん・ジイナちゃん・マルちゃんの六名です。
念の為、パーティーとしてバランスよく、尚且つ魔族に対抗するための保険としてマルちゃんに残ってもらいました。
「お姉様が心配でござる……でも、私じゃろくに解呪も連発できないでござるし、我慢するでござる……」
「大丈夫だよ、マルちゃん! ご主人様たちが一緒だもん! 絶対平気だよ! だから一緒にお留守番がんばろ?」
「ティナちゃん……うん! 私もがんばるでござる!」
すっかりティナと仲良しになって微笑ましいです。
ティナも同年代……に見える友達というのがいなかったので嬉しいのでしょう。
マルちゃんにも感謝です。まぁ実年齢は237倍くらい違うようですが。
それと三つ目の理由ですが……。
「おい! これはどういう事なんだ!?」
「なんなんだこれは……! 何が起こったんだ!?」
ぞろぞろと人が集まってきました。
そうです。この人たちへの説明役で何人か残る必要があるのです。
夜中とは言え、街を歩いている人も居ますし、あれだけ騒がしくすれば通りの住人も起きてしまうでしょう。
案の定、一番早くに現れたのは、三軒隣りのメルクリオ殿下たち【魔導の宝珠】の面々。
完全武装で出て来ました。
しかし家の前を埋め尽くしている人たちに面食らっています。
「メルクリオ殿下、お騒がせしました」
「ミーティア様! こ、これは一体……」
ミーティアさんが説明に行きましたね。
それと衛兵団も駆けつけてきました。
これはフロロさんが向かいます。どうやら組合で働いていた時の顔見知りだそうです。
「【ゾリュトゥア教団】!? これ全部か!? 【黒屋敷】が報復にあったのか!?」
「いや、報復ではなく一方的な襲撃だな。どうやらうちのクランに加入した天使族を狙ったようだ」
「ア、天使族を……? なぜ邪教が……?」
「どうやら教団には魔族が紛れている、もしくは教団そのものが魔族の組織の可能性がある」
「なにっ!? 本当か!?」
「天使族は魔族にとっての天敵。だからこそ危険と見て襲撃してきたのだろう。今、ご主人様たちが急ぎでヤツらの教団支部に向かっておる。そこから死体でも持って来れば証拠になるのではないかのう」
「なっ……!」
衛兵団長さんもかなり驚いているみたいですね。当然でしょう。
それが本当であれば、カオテッドに魔族が紛れ込んでいたのと同じ。
衛兵団として慌てざるを得ない事態です。
「教団の信者……ここで寝ているやつらは、本心から信仰していたのか、それとも魔族特有の<魅了>かそれに似通った術をかけられていたかという所だ。今は全員に状態異常回復の神聖魔法をかけ終わり、その結果気絶している状態だ。これが目覚めた時に、それが信仰なのか操られていたのかは分かるだろう」
「そ、それは……っ! つまり巷を騒がせていた邪教徒も、その全てが魔族に操られていただけだと?」
「その可能性があると言っておる。たとえ魔族が絡んでいようと、少なからず、自ら望んで信仰しておった者がいてもおかしくはない」
「うむ……」
メルクリオ殿下たちに説明しているミーティアさんの方でも同じような反応のようです。
ただ向こうは回復役の人が「そんな高位の状態異常回復魔法が使えるのか」という所で驚いているようです。
しかし殿下はサリュちゃんが聖なる閃光を連発出来る腕前なのを知っているので諫めていますね。
「……俺たちも【黒の主】を追って行ったほうがいいのか? いやしかし北西区か、俺たちが出張るわけにも……」
「汝らはここの者たちの保護に協力してくれると助かる。目覚めた時に未だ妄信しているようならば、我らが取り押さえる。しかし<魅了>等の洗脳が解けた状態であれば、確実に取り乱すだろうからな。説明と心のケア、そして片が付くまで保護をせねばならん」
「はぁ……分かった。それと通りは封鎖しておこう。野次馬が群がるようだと困る」
「助かる。それと、そこに居る狼人族の男は、今回の襲撃のリーダー格だ。おそらく【鴉爪団】の副頭領、ロウイという男ではないかと言っておった。やつは気絶したまま捕らえておいたほうが良かろう」
「なにっ!?」
次から次へと入る情報に衛兵団長さんもパニック気味ですね。気持ちは分かりますが。
しかし狼人族の人は早々に衛兵団に引き渡したほうが良いでしょう。
洗脳どうこうの前に【鴉爪団】の幹部であったのは間違いないのですから。
「うぅっ……」
おっと、どうやら気絶から目覚め始めた人がいるようです。
万一に備えて警戒はしておきましょう。
「こ、ここは……?」
「俺は一体……何をしてたんだ……?」
「あれ? 私なんで……」
妄信していた状態は解除されているという事でしょうか……記憶がない?
それが果たしてどこからの記憶がないものか。判断が出来ませんね。
衛兵団の皆さんに説明と事情聴取はお任せしますか。そのまま保護もしてくれるでしょう。
ドルチェちゃんのご両親はまだ目覚めませんか。
寝起きで「私たちはドルチェちゃんの仲間です」と言っても余計に混乱するかもしれませんね。
衛兵団の人に事情だけ説明しておきますか。
■イブキ 鬼人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
「急げ! とっとと片付けるぞ!」
『はい!』
ご主人様とサリュの先導で、中央区の大通りから第一防壁まで駆け抜ける。
そして夜間の防壁検問もほとんど顔パスだ。
防壁を守る中央区の衛兵団は迷宮組合所属。Sランククランの私たちを知らない者などいないだろう。
色々な意味でも有名人なので検問する必要がないとも言えるが。
「こっちです!」
サリュの指示で我々は走る。
ちらりと後ろにいるドルチェも見れば、いつもに増して気持ちの入った目をして前を向いていた。
久しぶりに訪れたであろう北西区。しかし周りを見る余裕もなさそうだ。
やがてスラムかと思うような路地裏に入る。
石造りの建物が多い北西区にあって、木造の長屋が軒を連ねる。
見るからに汚く異臭に塗れたその通りに入るや、ご主人様は颯爽とハンカチを口鼻に当てた。
向かう先は【ゾリュトゥア教団】のカオテッド支部。
仮にも一大勢力を持つ宗教団体がこのような場所にあって良いものかと思案してしまう。
そうして見えてきた建物は石造りの一軒家だ。
宿屋ほどの大きさもない二階建て。下手すればうちの屋敷のパーティーホールと同じほどかもしれない。
路地裏にしては大きいが、それでもただの一軒家に見える。
しかし扉もない入口は大きく開かれ、そこだけ見れば教会のそれと変わらないようにも見えた。
近づけば、こちらに駆け寄ってくる黒い影。
襲撃後に先行して見張りに出向いたネネだ。
「ネネ、お疲れ。変化はあるか?」
「んー、ない、です。誰も出入りしてない、です」
「一般人の邪教徒は?」
「中でずっとお祈り、してます」
やはり屋敷に襲撃してきた百五十人で全てというわけではないのか。
どうやらまだ堂内に残っているらしい。
それも全て操られているとすれば、またサリュに頼む他あるまい。
「予定通り、見張りと潜入で分けるぞ。エメリー、ポル、アネモネ、ウェルシア、シャムシャエルは出入りを見張ってくれ。隙を見て逃げるようなやつが居たら捕らえるなり殺すなり頼む。リーダーはエメリーな」
『はい!』
「潜入班は俺、イブキ、ツェン、ドルチェ、ネネ、サリュ。ネネとサリュ、先導を頼む。幹部なり魔族なりを一気に殺すぞ」
『はい!』
「最後に確認しておくが……ドルチェ、お前に殺しをさせるつもりはない。それでも付いてくるか?」
「はいっ! お父さんとお母さんをあんなにした人が居るなら……私は最後まで見届けたいです!」
「分かった。じゃあ一緒に行こう。守りは任せるからな」
「はいっ!」
ドルチェは精神的にも肉体的にも大人だが、まだ成人前の十四歳だ。
ご主人様はドルチェやティナにもそうだが、子供に人殺しはさせたくないらしい。
魔物を狩ってる時点でどうかとも思うが、何かしらの拘りのように感じる。
さて、私は潜入班だ。
出て来るのは果たしてただの幹部か、それとも魔族か……。
どちらにせよ、油断は出来んな。
「行くぞ!」
『はいっ!』
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