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第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
152:それは天より来たりし悪意
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
くそっ! 最悪のタイミングで攻めて来やがった!
【ゾリュトゥア教団】を潰してすぐ後に来るなんて考えてもいなかった。
待ちに待ってたのは確かだが、いくらなんでも空気読めと言いたい。
幸いなのは事前に襲撃に備えて計画を練っていた事と、少しは眠れた事か。
いずれにしても装備は万全か、頭は働いているか、侍女たちに確認したほうが良いだろう。
とは言え、事前の打ち合わせとだいぶ違う部分があるのも確か。
「メルクリオ! 空から【天庸】が攻めて来るって本当か!?」
「ああ、北東区の衛兵が<千里眼>の魔道具で確認した! どうやらワイバーンに乗って来ているらしい!」
「ワイバーン!?」
竜騎士かよ! いや、そもそも【アイロス】にテイマーめいた職はなかったはずだ。
空戦出来る人なんて、それこそ翼がある種族しか居ないはず。
まさかヴェリオってヤツの改造で、手懐けられたワイバーンなのか?
「シャムシャエル! 空から確認できるか!?」
「確認してみるでございます!」
翼を広げ、すぐに空へと舞い上がる。
今となってはシャムシャエルとマルティエルが来てくれて助かったと思えるよ。
うちの侍女に飛べるヤツは居ないからな。
北西方向を眺めたシャムシャエルが上から声を上げた。
「見えたでございます! おそらくワイバーンが五体!」
「五体!? メルクリオ、ただのワイバーンの群れじゃないんだな?」
「ああ、そのワイバーンの一体一体に、一人ずつ誰かが乗っているらしい」
じゃあもうそれだけで五人? 【天庸十剣】だとすれば五人も投入してきているのか!?
「ご主人様! それとワイバーンより大きな何かが一緒に飛んで来ているでございます!」
「はあ!? ワイバーンより大きいってドラゴンか!? どんなやつか分かるか!?」
「えっと……翼の生えたゴールデンレオのような……少し違うような……」
ゴールデンレオ? 確かどっかの迷宮の【主】だって本に書いてあったな。
簡単に言えばデカくて超強い金色のライオンだ。でも翼なんてないはず。
いや、考えてる場合じゃないか。
ともかくそれにも乗ってるとすると、これで【天庸】が六人……!
【天庸】が魔導王国で行った襲撃事件では多くても二~三人で襲っていたはずだ。
それが六人とか……どんだけ本気でカオテッド狙ってるんだよ!
「あっ! ご主人様! 少しバラけるでございます!」
「バラける!? 方角は!?」
「えっと、北・中央・南に、それぞれ二体ずつだと思うでございます!」
「分かった! 接近してくる前に下りてくれ!」
「はい!」
シャムシャエルの報告を受けて、改めてメルクリオを見る。
「これは最悪の展開じゃないか?」
「予想していた以上に、ね」
メルクリオとの事前打ち合わせで、【天庸】の襲撃方法について意見を交わした。
過去の襲撃を見ると、少数で派手な襲撃ばかり。
昼間だろうが、人目があろうが、とにかく力任せで目立つ襲撃を行っている。
それは建物の破壊や、標的の人物の抹殺、村単位の虐殺なども含めて全てだ。
【天庸】がカオテッドを狙う目的は、メルクリオによれば三つと目される。
① 迷宮組合本部を襲撃し迷宮資源を奪取する。
② 北東区(魔導王国領)を破壊し、カオテッドから魔導王国への資源の供給を止める。
③ 謎の力を有する俺(セイヤ)の捕獲と調査。
可能性が高い順で①②③だと思われる。
今までの【天庸】の襲撃パターンで考えれば、少数での迷宮組合本部襲撃が最も可能性が高かった。
しかし(未だ仮定ではあるが)六人もの【十剣】を投入し、それがバラけたとなると①だけという事はありえない。
北・中央・南に分かれた事を見ても、①②だけという事もありえない。
俺を狙うという③を含めても南方向にバラける意味がない。
つまり、考えられるのはカオテッド各地区の同時襲撃。
その上で①②③とも達成しようと言うのではないか。まぁ③はないのかもしれんが。
④ カオテッドの五区全ての襲撃・壊滅、及び、迷宮資源の独占。
⑤ ④+謎の力を有する俺(セイヤ)の捕獲と調査。
もうこれしかないだろう。
カオテッドの街全体を狙われたら迎撃するのも困難。
事前打ち合わせでも話には出ていたが、一番やられたくないパターンで攻めてきたと言わざるを得ない。
最悪のタイミングで、最悪の襲撃方法をとってきたと。
「メルクリオはどうする」
「僕は言った通りさ。やつらの一番の狙いが組合本部というのは間違いない。だからそこで待ち受ける」
「分かった。俺たちは俺たちで動くからな」
「ああ、すまないが頼りにしてるよ」
メルクリオは走って自分のホームへと戻っていった。
クラン全員で本部の守りを固めるのだろう。
俺は振り返り、侍女たちを見回す。
どうやら顔つきを見るに、皆真剣そのもの。
眠くて頭が働かないという事もなさそうだ。
「みんな、そういうわけだ。迎撃パターンは五番で行く。向かう先は分かっているな?」
『はいっ!』
「慌ただしい感じになったから、各自装備や回復アイテムを持っている事を今一度確認してくれ。その上で迎撃ポイントまで急ぎ移動。あとの対処は個々で任せるが、聞いての通り【天庸】だけじゃなくワイバーンもいるらしい。対空戦の心構えだけはしておいてくれ」
『はいっ!』
人員の振り分けは事前に打ち合わせたが、ワイバーンも来たとなると考え直す必要があるかもしれん。
「ネネ、お前のところだけ魔法がない。どうする? ポルと変えるか?」
「んー、なんとかする。だいじょぶ」
「分かった、任せる」
「ん……はい」
ネネの頭をグシグシと撫でると、目を細めてむふーとしていた。
こんな事している場合じゃない。
もう保険の予備CPなんて持っててもしょうがない。
昨日の魔族を殺した分も含め、ゼロになるまでみんなに振りまくる。
特にシャムシャエルとマルティエルには振っておかないと危険だ。
「よし! 確認が終わった者から散会しろ! 無茶するなとは言わん! 絶対に勝って戻って来い!」
『はいっ!』
次々に正門から出ていく侍女たちを見送る。
庭に残ったのは俺とエメリー、ウェルシア、シャムシャエル、マルティエルだけだ。
他は全てカオテッド各地での迎撃。
【天庸】の襲撃が一番嫌らしいパターンだったからこれしか残らなかったがしょうがない。
あとは皆に任せるしかない。
空を見上げる。
もう俺の視界でもワイバーンの姿が視認できた。
北東区、南東区へと下りるワイバーン、中央区を通り過ぎて北西区、南西区へと向かうワイバーン。
そしてここからほど近い迷宮組合本部に迫るのは例のゴールデンレオもどき……あれは?
ライオンの顔以外にも別の顔が二つある。まるでケルベロスのような三つ首。
さらには本来ないはずの蝙蝠のような翼……。
キマイラか!?
いや、そんな魔物この【アイロス】に居るのか!?
俺が知らないだけなのか、それとも……ヴェリオとかいうヤツが造った……?
そんな疑問や侍女たちの心配をしている暇などないと、俺を包むように大きな影が差す。
真上を見れば一体のワイバーン。
ちっ! やっぱり⑤番か!
「来るぞ! 守りは任せる!」
『はいっ!』
カオテッド全地区の襲撃? 迷宮組合の破壊? そんで俺も捕まえるか?
どれだけカオテッドを壊すつもりだ。
どれだけ人を虐殺するつもりだ。
理不尽以外の何物でもねえ。
だったら俺はカオテッドの全てを守る。
無茶だろうが、侍女たち全員の力を使って、全てを迎撃する。
<カスタム>によって得た力、その全力で抵抗する。
理不尽に対する力による抵抗、俺の<カスタム>はその為にあるんだからな。
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