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第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
171:救えども救いきれないものがある
しおりを挟む■ウェルシア・ベルトチーネ 導珠族 女
■70歳 セイヤの奴隷
「さあ、どうする! 神に抗うか!? ヒトの身で! ヒトの分際で神に盾突くか!? カカカカッ!」
【神樹の枝】を自らの骨とし、無限の魔力と回復力を得たヴェリオ。
それは確かに″神″と言えるほどの存在なのかもしれません。
しかしそれでもわたくしは杖を向けないわけには参りません。
相手が″神″であろうと、何者であろうと、わたくしの復讐相手に違いはないのですから。
わたくしの、そして殿下の倒すべき相手に違いはないのです。
とは言え、万策尽きたと言わざるを得ないのも事実。
殿下の魔力はほとんど残っておらず、わたくしの奥の手だった<魔力凝縮>も効果なし。
正直先ほどの一撃は自分でも出来すぎだったのです。
もう一度同じようなものを撃てと言われても、果たしてあれほどの凝縮が出来るかどうか……。
ヴェリオを倒すヴィジョンが全く見えないまま、ただ防御姿勢だけに留めていると、待ちに待った声が聞こえました。
そう、周りの戦いも徐々に変化していたのです。
―――ギィン!
「んんー?」
「おや、物理防御ですか。なるほど」
「エメリーさん!」
ヴェリオの背後から二本の【騎士王の斧槍】による強襲。
感付く前に入れた不意の一撃は、虹色のものとは違う、光の壁によって防がれたのです。
魔法に対しては虹色の防壁、そして物理に対しては光の壁という事なのでしょう。
確かに防がれはしましたが、エメリーさんが来てくれた事は本当に心強い。
わたくしの声も思わず高くなります。
「殿下、ウェルシア、お邪魔しますよ」
「ほう、ドミオを倒したか! これもまた面白い多肢族だ! ここは儂の目を引く研究素材に溢れておるな! カカカカッ!」
エメリーさんはわたくしと殿下を守るように、ヴェリオとの間に陣取りました。
一見でわたくし達の状態を見極めたのでしょう。
ヴェリオは部下の妖魔族が死んだというのに高笑いを続けています。
この男は……全てが研究素材にしか見えないのでしょう。
他人も、部下も、そして自分自身も。
「エメリーさん! ヴェリオは体内にいくつもの魔道具と【神樹の枝】を持っています! 防御と魔法を破り、倒しても、復活するのですわ!」
「……【神樹の枝】ですか。なるほど試してみましょう。防御を固めていて下さい」
そこからエメリーさんの怒涛の攻撃が始まりました。
ヴェリオが両手から同時に、そして連続して放ってくる魔法。それを縦横無尽に動き回り、回避していきます。
確かにヴェリオが腕を向けなければ魔法は発動しないようです。
しかしだからと言って、それを全て避けて、尚且つ接近して攻撃を仕掛けるなど……。
ご主人様とネネさんとティナさんとサリュさんとエメリーさんくらいしか出来ません。
結構居ますね。身の回りに。
次点でミーティア様ですが、やはり厳しいと思います。
「【黒屋敷】はどいつもこいつも……化け物か!」
隣で殿下が呟きますが、聞こえていますわよ? わたくしは化け物ではないのであしからず。
「カカカカッ! ちょこまかと小賢しい虫よ! しかしその程度では儂の防御は破れん! 破ったところで儂は死なん! 足掻くだけ無駄というものよ! カカカカッ!」
「どうやらそのようですね。【騎士王の斧槍】もミスリルもダメですか。私が非力なのが悔やまれますね」
非力? そう殿下が呟きますが、わたくしも全く同意見です。
エメリーさんの【攻撃】力はご主人様、ツェンさん、イブキさんに次ぐはずなんですが。
もう見ているだけでその強さは肌で感じられます。
「仕方ありません。使い慣れない武器を使うのは、少々苦手なのですが」
そう言うと、エメリーさんはマジックバッグで武器を交換しました。
代わりに出したのは一本のハルバード。
見たこともない、真っ黒で禍々しい形状のハルバードです。
「貴様……っ! ドミオから奪ったかっ!」
「奪うなど。賊の持ち物を有効利用するのは侍女として当然の嗜みです」
どんな嗜みだ! そう殿下が呟きますが、わたくしも全く同意見です。
有効利用するのは構いませんが、それを侍女全般でくくらないで頂きたい。
わたくしはそんな事を嗜んでおりません。
「ちいっ……! はあああっ!!!」
「おや、どうしましたか、そんなに慌てて。いかに優秀な防御壁であってもさすがに魔剣は通るという事ですか?」
「黙れっ! いい加減当たらんか! この羽虫がっ!」
魔剣!? そのハルバードは魔剣なのですか!?
なるほど、であるならばヴェリオが慌てるのも分かります。
魔剣は総じて、アダマンタイトよりも優れた強さを誇ると聞きます。
いかに【騎士王の斧槍】が弾かれようと、魔剣をもってすれば―――
―――バリン―――ズバッ!!!
「ぐあっ!!!」
「ほう、さすがにご自分の防御壁の強さと、部下に持たせた武器の強さは把握していたようですね。確かにこれならば通ります。しかし―――″腐蝕″が効かないとは驚きですね」
「くぅっ! 当たり前だ! 儂を殺せる武器をドミオに渡すわけがなかろう! いかに魔剣が強力だろうと【神樹】の回復量が勝る! それこそが神の力よ!」
話を聞くにエメリーさんの魔剣を纏う″闇″は、イブキさんの燃やし尽くす″炎″と同じく特別な効果があるのでしょう。
そしてそれは″腐蝕″だと。おそらくは身体機能を著しく害するものなのだと思いますが、それすら【神樹の枝】の回復量が勝ると言うのです。
魔剣の力を超える素材。だからこそ″神の力″だと、まさにそう言えるのかもしれません。
しかしエメリーさんは怯む事なく攻撃を続けます。
ヴェリオも光の防壁が意味を為さなくなったのを機に、動き回り、それまで以上に魔法を連発するようになりました。
どうやら身体能力もまた自身の手で改造されているようです。
「くっ! 無駄だと言うのが分からんのか! 儂に″腐蝕″は効かんわ!」
「そのようですね。いくら斬っても即座に回復する。これでは貴方を殺す事も叶わないでしょう」
「カカカッ! その通りよ! ならば大人しく殺s―――」
「しかし」
―――ザシュッ!
「貴方自身は″腐蝕″で死ななくとも、体内の魔道具は″腐蝕″しますよね?」
「ぐあっ! き、貴様ああああ!!!」
あの魔剣の″腐蝕″とやらは身体だけでなく道具も″腐蝕″させる!?
た、確かにヴェリオの羽織っていたローブは見る影もなく破かれています。
しかし体内のどこに魔道具が埋まっているかなど……。
……今までの攻撃で見極めていたと言うのですか!
「さて、あと何個の魔道具が埋まっているか、全身を斬りつければ分かりますかね」
「おのれ……おのれええええ!!!」
何の魔道具を潰したのかは分かりません。
しかしこれを続けていけば魔法は撃てなくなる。防御も解かれる。
ヴェリオに打つ手はなくなります。
……ただ、【神樹の枝】が壊せない以上、ヴェリオを殺す事は出来ません。
どうしたものか、殺せないまま、どうにか無力化出来れば……。
そう思案した時、また戦場に変化が起きたのです。
―――ドオオオオン!!!
突然の爆発音。その方向を見やると……屋敷の屋根が吹き飛んでいたのです。
モクモクと砂埃のような煙を上げる屋敷。
わたくしも殿下も、そしてエメリーさんまでもが言葉を失いました。
それだけでは終わりません。
―――ドゴォォォォン!!!
今度は近場から聞こえました。
庭です。庭にワイバーンが落ちて来て大きなクレーターが出来ています。
そしてそこに、先ほどのご主人様のように急降下攻撃をするシャムさん。
さらには追い打ちとばかりにマルさんも聖なる閃光を放ちます。
この場所からは塀が邪魔して様子を伺う事は出来ません。
しかし見れずとも、考えずとも分かります。
屋敷も庭もメチャクチャだなと。
せっかく今まで守ってきたのに、何してくれてんだと。
「あ……あ……屋敷が……」
ほら御覧なさい。あのエメリーさんが呆然としていますよ。
こんなエメリーさん見た事ありませんよ。
あ、エメリーさん! 後ろ、後ろ! ヴェリオが構えてますわー!
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