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第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
173:大掃除は始めるまでが億劫なもの
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
【天庸】のカオテッド襲撃、その迎撃がやっとの事で終わった。
色々な意味で大変だった。
予想外のタイミングで、最悪の襲撃方法。それに対応する為に各地区へと侍女たちを送り込んだ。
屋敷の守備が手薄になったのは仕方ない。出来る限り対処してある程度は見切りをつけるしかないのだから。
しかし【剣聖】ガーブと厳しい戦いをし、その後すぐに現れたヴェリオたち。
さらには風竜悪魔まで召喚されるという波状攻撃。
手薄になった守備陣ではさすがに厳しかった。
屋敷が壊された事は俺のミスでもあるので、誰も攻める事はできない。
いや、元凶はヴェリオなんだからヤツは攻めたが。あいつまじ最悪だわー。もう全部あいつが悪いわー。
「申し訳ございませんでしたーーーーっ!!!」
「ご、ごめんなさいでござるっ!!!」
ヴェリオを倒して一息ついた所で、天使組が見事なジャンピング土下座を決めてきた。
ミツオ君、何を教えているんだ。困るんだよねぇ、変な知識ばかり与えられると。
もちろんシャムシャエルとマルティエルを責めるような真似はしない。
むしろ、ろくにレベル上げも<カスタム>も出来ていない状態で戦わせるはめになって申し訳なく思う。
その上であの淫魔族と特大ワイバーンを倒したのだから、褒められこそすれ怒られるわけがない。
「ご主人様ーっ!」
「うわっ、なんだこれ! 血だらけじゃねえか!」
「屋敷が! 屋敷がーっ!」
そのすぐ後にみんなが走って帰ってきた。
近づくにつれ見えて来る周囲の惨状に、驚きの声が上がる。
こちらの説明もしたが、軽くみんなの様子も聞いた。
やはりそれぞれの地区で【十剣】との戦闘になったそうだ。
侍女服がボロボロなのも居る。よく無事で戻って来てくれたと皆を褒めた。
一番苦戦したのは例の合成魔物(キマイラじゃなくてキメラらしい、同じだけど)に襲われた中央区だったらしい。
組合が標的にされるのは分かっていたからサリュ・フロロ・ツェンという強力な布陣にしたが、それでも苦戦したとか。
結局は四地区に散った侍女たちが集まり、総出で攻撃して倒したらしい。
それから急いでこっちに来たと。……すげえ敵だったんだな。
みんな、戦利品とばかりに【十剣】の死体をマジックバッグに入れて持ってきた。ワイバーンは無理だろうな。
それをメチャクチャになった庭に並べる。ただし第一席を除く。
「わ、我の庭があああああ!!!」
「申し訳ございませんでしたーーーーーっ!!!」
「ごめんなさいでござるーーーっ!!!」
フロロが大穴開いた庭を見て発狂していた。
怒らないでやってくれ、フロロ。激戦だったんだよ、ほんとに。
ちなみに管理は任せてるけどお前の庭ではないからな? クランみんなの庭だから。
「ほ、本当に【十剣】が全て……何という……」
戦闘経過の情報を得る為に残っているメルクリオが絶句している。
魔導王国にとって憎き【天庸】、その全ての死体が並べば言葉も出ないのだろう。
これは時間経過がしない俺の<インベントリ>に入れるとして、どう引き渡すのかも協議しなくてはならない。
……しかし死体の状態に差がありすぎるな。
人蛇族とかほとんど傷がない綺麗な死体だ。
ああ、ネネが暗殺したのか、さすがだな。撫でてやろう。むふーはいいから。
え? ああ、ドルチェが囮になったと。よしよしドルチェも撫でてやろう。痛い痛い。
一方、この丸焦げ惨殺死体は……?
え? これがラセツ? あの? イブキがこれやったの? お、おう、そうか。
ま、まあ良かったじゃないか。恨み晴らせて。な。
ちなみに一番損傷の激しい死体は盟主様である。
どこまで再生するか分からなかったからね、しょうがないね。
そしてティナたちもスィーリオという例の鳥人族を、ミーティアは樹界国で会ったリリーシュという樹人族を倒せたらしい。
詳しい報告は落ち着いたらするという事で、この場ではここまでとした。
メルクリオは組合に残したクランメンバーや本部長が気掛かりだと、戻っていった。
「さて、うちらはどうしようか」
「そうですね……」
改めて庭と屋敷の惨状を見る。庭は後でいいとして、屋敷がこのままだとなぁ……。
壊れたのは見る限り三階部分だけ。そこには俺と侍女八人の私室がある。二階に私室のある八人は大丈夫だと思うが、三階組は今日はマジックテントになるかもしれないな。
一階が無事で何よりだ。<カスタム>したキッチンや風呂、娯楽室の本やビリヤード台があるからな。
出発前に玄関の展示品だけは<インベントリ>に入れたからそれも問題ない。
鍛冶場も見る限り大丈夫そうだ。あ、ジイナが走って確認しに行ったな。おお、大丈夫そうだ。
ポルの畑は……諦めてくれ。端っこのキノコ栽培用の原木は無事だから、それでいいじゃないか。
CPも戦いの前に使い切った。【天庸】戦でまあまあ入ってきたけど……ここで使うわけにはいかないだろう。
屋敷が壊れたのも見られてるしな。<カスタム>でいきなり直すわけにもいかない。
まぁ、これだけの規模で屋敷の<カスタム>なんてしたら到底CP足りないんだけど。
CPは予備の侍女服とかに使ったほうがいい。もう<カスタム>してある常用のやつ、ボロボロなのが数名いるし。
というわけで手作業による屋敷の掃除・補修となるわけだが……。
「全員でやるか? それとも街の復興を優先させるか?」
「ご主人様、良ければ我は組合本部の様子も見に行きたいのだが」
「私も戦った南東区の様子が気になります」
「自分たちの戦いで傷つけた部分もありますので……」
「衛兵さんたちに事情説明も必要ですかね」
という意見が多い。皆、それぞれの戦場だった場所が気になるようだ。
まだ混乱は残っているだろうし、街はボロボロ、怪我人だっているだろう。
せめて事態に当たっている衛兵に説明はしておいた方がいい。
そんなわけで屋敷組が持っていたポーション類も改めて配り直す。
回復できる天使組の派遣は……ポーションで大丈夫かな。出向いたら余計に混乱させるかもしれん。
ただ衛兵への説明があるので、北東組はドルチェとエメリーをメンバーチェンジ。
ネネとドルチェだとうまく説明出来るとは思えん。
「んー……」
「そんなっ! だだ大丈夫ですよ、私だってっ! やってやりますよっ!」
「だーめ、ドルチェは屋敷で俺らと大掃除だ」
「うう……はい……」
祝賀パーティーで専属給仕を選ぶ時にも悩んだけど、うちの侍女たち、外交とかちゃんとした報告とか苦手な娘が多い気がする。
だから専属給仕にジイナまで投入したんだけど。
今回、衛兵に経過の説明をするのにしても、人を選ぶんだよな。極端な例だとツェンとかどうせ武勇伝っぽく言うだろうし。
で、北東区担当だった二人に関しては、ネネは「ん」「がんばった」で終わりだろう。
ドルチェだって「ドカーッときたんで何とかしまして、もう大変だったんですよぉ!」と意味不明な供述になる。多分。
少なくとも【天庸】襲撃の流れとそれぞれの対処、現在の状況を説明できないと報告にならない。
だからドルチェはエメリーと交換です。
頑張ってお掃除しましょう。
さて、そんなこんなで再び皆を見送る。
屋敷に残ったのは、俺・ドルチェ・ウェルシア・シャムシャエル・マルティエル。
「どこから手をつけていいものやら……」
「私は自分の責任があるので庭をやりたいのでございますが……」
「庭と畑は最後にしよう。フロロやミーティア、ポルも自分で手直ししたいと思うぞ」
「そうでしょうか」
「であれば屋敷と正門前の通りでしょうか、ご主人様」
ウェルシアの言う通りだな。
「ウェルシア、水魔法で竜の血を洗い流せるか?」
「ある程度は流せますが、<洗浄>と手作業での石畳の掃除は必要かと」
「じゃあ通りはウェルシアとドルチェに任せよう。屋敷の三階は高所作業になるかもしれないから、シャムシャエルとマルティエル、手伝ってくれ」
「「「「はい」」」」
正門周りを二人に任せ、天使組と屋敷に入ってみる。
一階から順に部屋を周り、家具が倒れたり、何か壊れていないか確認。
やはりと言うか、屋根が吹き飛ぶ衝撃というのは少なからず影響を与えていたらしい。
キッチンでは食器が棚ごと倒れ、応接室の武器も地面にバラバラと。娯楽室の本棚もバタバタと……。
おおお……高価な本が……! 棚の下敷きに……!
俺は今回を機に耐震グッズの導入を決めた。棚とか押さえるやつ。ジイナに作ってもらおう。
二階はほぼ侍女の私室としか使っていないが、一応確認。
女性の部屋だが主人だからいいよね? むしろ俺が気にしたら負けだと思う。
「私たちの部屋は無事でござる!」
「まぁ、ほとんど荷物がないでございますからねぇ」
天使組は二人で一部屋だ。ヒイノとティナもそうだが。
マルティエルを子供として扱えばいいのか、千八百歳として扱えばいいのか、未だに謎である。
とりあえずシャムシャエルを保護者のつもりで置いている。
他の部屋も見て回るが、どこも荷物が少なく、なんというか女らしさや色気がない部屋ばかり。
お小遣いは渡しているんだが、部屋を飾ったりはしないものなのか。
強いて言えばウェルシアが多少小物を置いているくらい。
ポルの部屋はプランターが倒れてるな。
ツェンの部屋は衝撃でタンスでも倒れたかと思ったが、普通に汚いだけだった。侍女として許されざるから今度注意しよう。
やはり問題は三階だ。いやもう階段上る所から酷い。
「うわー、どうするかこれ」
「瓦礫と砂まみれでございますね……」
「二階との落差が酷いでござる。むしろよく二階が生きていたでござる」
ブレスの威力があって一瞬で吹き飛んだのが逆に良かったのかもしれん。
しかし三階は見事に全滅だな。
これは<洗浄>でどうこうできる問題でもない。
「瓦礫を手あたり次第<インベントリ>に入れていくぞ。二人は屋根に飛んで、落ちそうな建材とか壊れた箇所を運んで来てくれ」
「「はいっ」」
やはり飛べる人材はありがたい。屋根は任せよう。
俺はゴミを<インベントリ>に仕舞いつつ<洗浄>をかけまくるか。
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