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第八章 黒の主、復興の街に立つ
182:育成に悩むのはマスターの努め
しおりを挟む■イブキ 鬼人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
屋敷にユアとラピスを迎えた翌日。今日も今日とて皆それぞれに忙しい。
一番はやはり新人二人のあれこれ。それと迷宮でのCP稼ぎだ。
CPは屋敷にも我々にも使いたいところだが、新人二人には優先して使うべきだろう。
まぁ実際は使おうと思っても余裕が全くないので、また稼ぐしかないのだが。
そんなわけで数名には今日も魔物部屋マラソンを頼んでいる。
最近は一階層にある六ケ所の魔物部屋を、時間差でぐるぐると回る方法をとっている。
つまり、一組目が最初の魔物部屋を殲滅し、リポップするタイミングで二組目がその部屋に入る。それが終われば三組目といった具合だ。
今さら一階層のマラソンであれば二~三人居れば問題ないので、パーティーを細分化して追いかけるように回っている。
これにより今までの二倍以上の魔石収集を可能とし、それを持ち込んだ際に受付で散々注意を受けた。
なぜ注意を? とも思ったが、よくよく考えずとも復興作業で未だ混乱の続く中央区。
高額の買い取りはしたくないという事なのだろう。我々も迂闊であった。
しかしユアが加入した事で話は変わる。
私も詳しくはないのだが、錬金術では何を作るにしても魔石が必要らしいのだ。
ポーションしかり、ただの木の杖しかり、魔石を用いたものでなくても、錬金術を使う=魔石を使用するという事らしい。
ならば全ての魔石を受付で提出する必要はない。今までは私たちが持っていても活用できなかったから全て売っていたのだ。
自前の錬金術師を使うというのであれば、最低限だけ売ればいいだろう。他は持ち帰ることにする。
とまぁ、そんな事をマラソン班には伝えたが、私はそこへ行っていない。
というのも、私はご主人様にユアとラピスの<カスタム>について相談を受けているからだ。
私だけではなくエメリーとミーティア、ジイナも居る。
ユアとラピスの奴隷契約については朝一番でティサリーン奴隷商館へと行ってきた。私も久しぶりに行ったぞ。
「セイヤ様……まさか全種族の奴隷を集めるおつもりですの?」
「んなわけないです」
そんな小言も言われた。まぁほとんど冗談だったが。
獣人系種族だけでも相当数いるのに全種族なんて集められるわけがない。
一種族一人限定だとしても屋敷に入りきらん。……いや<カスタム>で部屋数を増やせると言っていたな。
「実はセイヤ様にご紹介したい奴隷が……あ、いえ、今すぐというわけではありませんわ。ちょっと問題を抱えた子でして、まだお渡し出来る状態ではありませんの。小人族の子なのですけれど。少し時間はかかると思いますがご紹介出来るようになったらご連絡しますわ」
「えー、あー、はい」
小人族か。斥候職として迷宮に入る事も多い種族だな。
確か【震源崩壊】の斥候も小人族だったはずだ。
今うちのクランはネネとアネモネしか居ないから、人数が増えた今、欲しい人材ではある。
その時を楽しみにしていよう。ご主人様は相変わらず乗り気ではないが。
ちなみにユアとラピスはいつも通り、左手の奴隷紋に魅せられていた。
「げえっ! 【黒の主】!?」
「まぁたティサリーン商館から出てきやがった!」
「まぁた奴隷増やしやがっ……人魚族ぅ!?」
「人蛇族に人魚族だと!? しかもどっちもまぁた可愛い!」
「爆発」
そんな野次を受けながら、今回は組合への登録はせずに屋敷に戻る。
ここからが本題だ。二人の<カスタム>について。
ご主人様は二人のステータスを見ながらうんうんとずっと唸っている。まぁ私たちから見れば虚空を見つめているようにしか見えないのだが。
「一人ずつ片付けるか。まずラピス。思いの外レベルが高い。結構魔物を倒してるんだな」
「私は一人で旅をしているからね。『神樹の巫女』じゃないけど単独戦闘もある程度は出来ないと無理だったし」
お互いの口調もだいぶ砕けた。
ご主人様は王女相手でも侍女として話すし、ラピスはこれがおそらく素なのだろう。なんとなくツェンを彷彿とさせる。あそこまでアレじゃないが。
「戦闘スタイルは? <水魔法>は分かるんだが」
「地上の魔物だと<水魔法>ばかりだけど、水中戦だと<水魔法>はあまり意味ないからほとんど使わないわね。もっぱら槍よ」
「なるほどな。ミーティアよりも武闘派姫様って感じがする。魔法も近接も案外高いな。さてどうしたものか……」
そしてそれ故<カスタム>のCP振り分けに悩む、と。
後衛として<水魔法>専門で行くか、前・中衛で槍使いとして伸ばすか。
ご主人様の様子を見るに、どちらも捨てがたいほどの素質があるという事だろう。
「私はほとんど一人でしか戦った事がないからパーティー戦闘というものが分からないわ。実際に戦っての様子でご主人様に決めてもらったほうが良いんじゃないかしら」
「うん、おそらくパーティー編成次第でユーティリティに動く感じになると思う。前衛過多なら後衛で<水魔法>。後衛過多なら前衛で槍と。とりあえず最初は<水魔法>メインとして考えておいてくれ。なんかポルっぽくなりそうだなぁ……」
私もそう思った。同じく前衛・後衛出来る人員としてはミーティアやエメリーなどが居るが、<カスタム>の強化としては完全後衛から前衛の能力を上げたポルに近くなりそうな気がする。
「ちなみに装備は?」
「これよ。【白鯨の三叉槍】と【雨のアミュレットブレス】」
「ジイナ、どう?」
「素晴らしいと思います。アミュレットは水魔法用の高ランクですし、槍は魔物の骨ですね。鉱石を使わないのは水中戦ありきだからだと思います。もちろん単純な攻撃力で見ればドルチェちゃんの槍の方が上ですが」
「えっ、私の槍より上なの!?」
「ドルチェの槍は【アダマンタイトスピア】なんだ」
「ああ……そう……アダマンタイト……」
アダマンタイトスピアなんか早々見ないだろうしなぁ。なんか悔しそうだが。
しかしジイナがそう言うという事はミスリルでもアダマンタイトでも錆びるという事だろうか。鉱石系は水中戦に向かない?
あ、そう言えばエメリーが魔族との戦いで「ミスリルが腐蝕した」と言っていたな。しかし魔物素材も″腐蝕″するらしいし……分からん。
とにかくラピスに鉱石製の武器は持たせられないかもしれない。……アミュレットは大丈夫なのか? 何製なんだあれ。
「とりあえずラピスの武器は保留だな。現状維持で行こう」
「はい」
「で、問題はユアなんだが……」
「は、はいっ! えっと、何か私に問題が……」
ご主人様の顔が一層険しくなった。相当悩んでいるらしい。
「まずレベルは1、これはいい。問題は【器用】がなんと2だ。自分で不器用だと言っていたからどれほどのもんかと思えば、基人族である俺の初期値より低いとは思わなかった」
「そ、そんなだったんですか……」
今でこそ最強であるご主人様も<カスタム>する前はただの基人族と同じだったと言う。
最弱種族である基人族よりも【器用】だけとは言え低いとなると……相当だな。
むしろこれでよく錬金術や家事が多少なりとも出来るものだと逆に感心する。
「兎にも角にも【器用】を上げるのは最優先。あとは本人に戦う気がなくともステータスに沿った強化をしようとは思っていた」
過去形か。
「しかしステータスに特筆する部分が見えない。鬼人族なら近接戦闘、導珠族なら魔法と言ったような種族的特色が見えない。若干近接寄りに張るがほぼ平らだ。まぁレベルが1だからかもしれんが」
「スキルの方はどうなんです? ご主人様」
「そこなんだよエメリー。<錬金術>と家事関係は持っている。あと魔法は<火魔法>を持っている」
「わ、私、魔法使えるんですか!?」
「本当にただ持っているだけだ。持ってはいるが【魔力】【MP】は低く、むしろ【攻撃】【体力】あたりの方が少し高い」
なるほど。ステータス的には近接物理が若干有利。しかし魔法適正もあるにはある、と。
かと言って、ラピスのようにユーティリティに<カスタム>するわけにもいくまい。
「ユアの本分は錬金術だ。だから【器用】と【魔力】は上げる。これは確定な。それとパワーレベリングも加味して【体力】【敏捷】も欲しい。しかしそうなると近接攻撃を完全に捨てる事になる。せっかく多少なりとも高いステを持ってるのに。それが悩ましい」
ドルチェとネネが戦ったクナという【十剣】は大鉈を軽々振るう近接特化にも関わらず、土魔法を使ったらしい。
ヴェリオの改造も入っているのだろうが、戦闘スタイルだけ見れば近接戦闘職のそれだったと言う。
もしかするとユアもレベルを上げれば近接戦闘寄りにステータスが伸びるのかもしれない。
だとすると、ここで<火魔法>一辺倒とするには早計かもしれないな。確かに悩ましい。
「しかしご主人様、ユアの性格的に近接戦闘が出来るとは思えません。いざ魔物と戦う事になったとしても後衛から魔法を撃つのが精一杯ではないでしょうか」
「だよなー。ユア自身はどう思う? 戦えと言っているわけじゃないが、もし戦うとすると、前衛より後衛のほうが戦えそうか?」
「えっと、戦った事がないので何とも……でも魔物は怖いですし、近づくと動けなくなりそうで……すみません……」
「大丈夫、無理をさせるつもりはない。よし、じゃあ<火魔法>メインで考えてみるか」
決断したようだ。やはり後衛か。
とは言っても本当に怖がりらしいから、実際に迷宮では戦えないとは思うが。
それも慣れてくれれば良いのだが……少なくとも粗暴な輩を投げ飛ばすくらいは出来た方が良いだろうし。
「となると問題は武器の杖だな。ユアは自分で作ったり出来るのか?」
「作り方は分かりますが、道具も素材もありませんし……失敗するかもしれませんし……」
「ああ、そりゃそうだな。とりあえず店売りを買っておいてしばらく様子見しようか」
「はい……あの、私、本当に不器用じゃなくなるんでしょうか……未だに信じられなくて……」
「ステータス上は、としか言えないがな。それもレベルを上げて<カスタム>しての結果だよ。少し先の話だ。実際に自分で錬金するようになった時、違いがあるのかないのか、それはユア自身が一番分かるだろう。ま、楽しみにしておけ」
「は、はいっ、ありがとうございますっ」
本当に嬉しそうだな。
今まで不器用という事にどれほど苦しめられてきたのか。今の笑顔がそれを物語っている。
さて、という事はユア用の杖を買いに行く必要も出てきたか。
侍女服の発注もしないといけないから南東区にも行かなくてはな。
ああ、それと組合で登録もしなければ。
やはり今日もゆっくりとは出来ないらしい。やれやれ。
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