211 / 421
第九章 黒の主、魔導王国に立つ
203:謀略の始まり
しおりを挟む■ドグラ・マーキス 導珠族 男
■136歳 エクスマギア魔導王国宮廷魔導士団 副団長 侯爵位
その日、魔導王国に激震が走った。
長らく王国が辛酸を舐め続けていた怨敵、【天庸】が壊滅したというのだ。
その一報はヴラーディオ国王陛下の元へと入り、王族だけでなくすぐさま我ら王都に住まう貴族の元まで広まった。
しかしそれが真実なのか、誇張されているのか、いずれにせよ随分と歪曲されたように感じるのは私だけではないだろう。
一言で言えば荒唐無稽。たちの悪い冗談のようにも聞こえるものであった。
私が独自に調べ聞いた話はこのようなものだ。
【混沌の街カオテッド】に怨敵ヴェリオが十剣を率いて襲撃。それもワイバーンに騎乗しての空襲だと言う。
それに対し、カオテッドの陣営はメルクリオ殿下率いる迷宮組合員たちと、カオテッド各地区の衛兵団とで迎撃に当たった。
結果、ヴェリオを含め、全ての【天庸十剣】が死亡。死者を多数出しながらも撃退に成功したという。
これだけ聞いても、すでに信じられないという思いが強い。
今まで【天庸】の一人を倒すどころか善戦する事すら出来ず、数年もの間、魔導王国は負け続けていたのだ。
【天庸】の強さというものは王族、貴族、騎士団、宮廷魔導士団、衛兵、研究所職員、関係する魔導王国の全ての者が知っている。
それがたった一日で【天庸】の全てを討ち果たすなど、私でなくても訝しむだろう。
まずその報告が真実なのかと疑って掛かってしまう。
さらにだ。
実際に全ての【天庸】を討ち果たしたのは、″天才″メルクリオ殿下でもカオテッドの衛兵団でもなく、迷宮組合に所属する【黒屋敷】とか言うSランククランだと言うのだ。
聞いた事のないクランだと思えば、なんでもカオテッドで最近になってSランクに認定されたばかりのクランで、クランマスターは基人族の男、他のメンバーは全てその男のメイドで構成されているらしい。
さすがに冗談が過ぎると、私の元へと伝えに来た下男を怒鳴った。
まず戦えない基人族が迷宮組合員である事自体がありえない。Sランクになる事も、メイドを付けるような生活に就く事もありえない。しかもそのメイドが組合員として戦うなど。
じゃあ何か? 魔導王国を散々蹂躙し悪行を重ねた【天庸】は戦えないはずの基人族と、戦えないはずのメイドたちの手によって倒されたと? 馬鹿馬鹿しい。
こんな報告を真に受ける者がどこにいると言うのか。
報告を出す方も出す方だ。いかに天才と称されたメルクリオ殿下も迷宮で遊び呆けるうちに頭がおかしくなったようだな。
……いや待てよ? これはチャンスだな。
そう思い立った私は、急ぎ、王城の一室へと足を運んだ。
♦
「ドグラでございます」
「入れ」
「失礼いたします、ジルドラ殿下」
執務室で険しい顔つきでこちらを見やるのは、ジルドラ・エクスマギア第二王子。
王国騎士団と宮廷魔導士団を統括する魔導王国の″軍務卿″だ。
体躯の良さと迫力のある顔立ちは、八三歳という若さながら、まさに軍を率いるに相応しい貫禄をすでに持っていると言える。
執務机に肘をつき、不機嫌そうに視線を私へと向ける。
身体は机の前に立つ、一人の騎士に向いていた。
その男は王国騎士団千人隊長ベヘラタ・グルンゼム。
騎士団長フォッティマ・グルンゼム伯爵の長子であり、若くして千人隊長を任される俊英である。
「貴様も例の【天庸】の件か? ドグラ」
「はっ! 左様でございます! あのような馬鹿げた報告、異を唱えぬわけにも参りません」
「おお、ドグラ卿もですか! 私もそう思い、殿下の元へと急ぎ参ったのです!」
どうやらベヘラタも同じ件らしい。単純馬鹿の若造でも思うところは同じか。
「【天庸】が真に壊滅したと言うのであれば魔導王国にとって何よりの吉報。しかし出鱈目な報告で煙に巻こうとするのはメルクリオ殿下に何かしらの思惑あっての事であろうと。何か良からぬ企みをされていると考えた方が宜しいかと愚考した次第」
「そうです! 今まで【天庸】と戦い続けた騎士団、宮廷魔導士団、衛兵たちをあざ笑うかの如き報告! メルクリオ殿下が軍部に対し挑発しているのも同じです!」
今まで【天庸】が魔導王国各地で行ってきた事件。破壊、暗殺、虐殺等々。それに相対してきたのは衛兵であり騎士団なのだ。
しかしその全てが失敗。返り討ち。
【天庸】の居場所を突き止めようと宮廷魔導士団も含め、騎士団の多くを派兵させたが、それも分からないまま時間が過ぎていた。
その苦労を無に帰すような【天庸】壊滅の報。
しかも冗談まがいの報告内容。
さらには迎撃の陣頭に立ったのは誰であろう第三王子メルクリオ殿下だ。
元より貴族の中ではジルドラ殿下とメルクリオ殿下の確執は取りざたされてきた。
実力・知識共に軍務を率いるに相応しいのは王妃様の第二子であるジルドラ殿下だ。
しかし妾腹のメルクリオ殿下は魔導王国に名だたる″魔法の天才″であった。
実力で言えばジルドラ殿下をも上回るのでは? 軍務卿はメルクリオ殿下が相応しいのでは? そういった声も当然出る。
メルクリオ殿下が王都を出ても依然として″天才″としての評価は残っているのだ。
そこへ持って来て今回の【天庸】の一件は如何ともし難い。
ジルドラ殿下には第一王子であるヴァーニー殿下を打ち破り、次期国王の座に就いてもらわねば困る。
何としてもジルドラ殿下を押し上げ、私を宮廷魔導士長、あわよくば宰相の位に置いてもらわねば今までの苦労が水の泡だ。
ヴァーニー殿下を倒す前に、メルクリオ殿下の後塵を拝すような真似をされるわけにはいかない。
「嘘を並べた戯言で功を得ようなど、いかにメルクリオ殿下と言えども許せるものではありません! 褒賞を得るどころか厳罰が下されるべきです!」
私の隣に立つベヘラタが声を荒げる。
ベヘラタもジルドラ殿下に取り入り、王国騎士団長の座を得ようと躍起になっている。
団長の父親と比べられるのが嫌なのか、早く奪い取りたいだけなのか、馬鹿は馬鹿なりに考えてはいるようだ。
私は正直、報告の真偽がどうであれ関係ないのだ。
今となっては【天庸】が真に壊滅されていようと喜びも憤りもしない。
誰が聞いても訝しむような報告書がメルクリオ殿下の手から送られて来た。それこそが肝要。
メルクリオ殿下が国の怨敵である【天庸】を滅ぼした。
それだけならばジルドラ殿下の未来が危うくなるばかり。
しかしそれが、やれ基人族がどうの、メイドがどうのと、信憑性皆無な報告をしてきた事で付け入る隙が生まれているのだ。
栄誉とは逆にメルクリオ殿下を追い込む隙が出来ている。
さらに言えば、その報告をヴラーディオ陛下やヴァーニー殿下が認め、メルクリオ殿下やその基人族に褒美を与えようものならば、それもまた隙。
そんな事、貴族連中が納得するはずもない。批判は強まるだろう。
陛下もヴァーニー殿下も自ら転げ落ちるような真似をすれば、反対にジルドラ殿下の株は上がる。
だからこそ、ジルドラ殿下にはメルクリオ殿下の報告に異を唱えて貰わねば困るのだ。
どう見ても虚偽報告であると。メルクリオ殿下は罰せられるべきだと。
私とベヘラタの意見を一通り聞いたジルドラ殿下は渋面のまま言葉を発した。
「報告の真偽については俺も怪しんでいる。果たしてどこまでが真実なのか、とな」
「おお!」「ではっ……」
「ちなみに続報も入っている。まだお前たちの耳には入っていないようだが」
続報? 入ったばかりの報告に、さらに続報が?
「先んじて【天庸】連中の死体が運ばれるようだ。これは機密に検分する事になるだろう。そしてメルクリオは件の基人族のクランと共に帰還するとの事だ」
「なんと……!」「それは……」
「まぁカオテッドがかなりの被害にあったようなので、その復興作業が終了したらの話だ。一月以上は先だろう」
つまり妙な報告はそのままにメルクリオ殿下が帰って来ると?
存在すら怪しい基人族を連れて?
褒美を貰いに……以外にないだろう。
これは……荒れないほうが難しいのではないだろうか。
メルクリオ殿下もそこまで馬鹿ではない。何を考えてこんな真似を……。
いや、しかし私にとっては好都合この上なし。
やる事は決まっていて、やれる事は山ほどある。
「まったくメルクリオにも困ったものだな。王族の責務を忘れ王都を離れたばかりか、どうにも遊んでいるように見える。帰ってきたメルクリオに一泡吹かせなくてはならん。同時に連れて来るという基人族にもな。―――何か案はあるか?」
「ジルドラ殿下、恐れながら私めに腹案がございます」
メルクリオ殿下を完全に失墜させる。
褒賞を与えようとしているであろう陛下やヴァーニー殿下もだ。
ジルドラ殿下を王位へと押し上げる為に―――そして私の未来のために。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる