カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第九章 黒の主、魔導王国に立つ

203:謀略の始まり

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■ドグラ・マーキス 導珠族アスラ 男
■136歳 エクスマギア魔導王国宮廷魔導士団 副団長 侯爵位


 その日、魔導王国に激震が走った。
 長らく王国が辛酸を舐め続けていた怨敵、【天庸】が壊滅したというのだ。

 その一報はヴラーディオ国王陛下の元へと入り、王族だけでなくすぐさま我ら王都に住まう貴族の元まで広まった。
 しかしそれが真実なのか、誇張されているのか、いずれにせよ随分と歪曲されたように感じるのは私だけではないだろう。
 一言で言えば荒唐無稽。たちの悪い冗談のようにも聞こえるものであった。


 私が独自に調べ聞いた話はこのようなものだ。

 【混沌の街カオテッド】に怨敵ヴェリオが十剣を率いて襲撃。それもワイバーンに騎乗しての空襲だと言う。
 それに対し、カオテッドの陣営はメルクリオ殿下率いる迷宮組合員たちと、カオテッド各地区の衛兵団とで迎撃に当たった。
 結果、ヴェリオを含め、全ての【天庸十剣】が死亡。死者を多数出しながらも撃退に成功したという。


 これだけ聞いても、すでに信じられないという思いが強い。
 今まで【天庸】の一人を倒すどころか善戦する事すら出来ず、数年もの間、魔導王国は負け続けていたのだ。
 【天庸】の強さというものは王族、貴族、騎士団、宮廷魔導士団、衛兵、研究所職員、関係する魔導王国の全ての者が知っている。

 それがたった一日で【天庸】の全てを討ち果たすなど、私でなくても訝しむだろう。
 まずその報告が真実なのかと疑って掛かってしまう。

 さらにだ。
 実際に全ての【天庸】を討ち果たしたのは、″天才″メルクリオ殿下でもカオテッドの衛兵団でもなく、迷宮組合に所属する【黒屋敷】とか言うSランククランだと言うのだ。

 聞いた事のないクランだと思えば、なんでもカオテッドで最近になってSランクに認定されたばかりのクランで、クランマスターは基人族ヒュームの男、他のメンバーは全てその男のメイドで構成されているらしい。

 さすがに冗談が過ぎると、私の元へと伝えに来た下男を怒鳴った。

 まず戦えない基人族ヒュームが迷宮組合員である事自体がありえない。Sランクになる事も、メイドを付けるような生活に就く事もありえない。しかもそのメイドが組合員として戦うなど。

 じゃあ何か? 魔導王国を散々蹂躙し悪行を重ねた【天庸】は戦えないはずの基人族ヒュームと、戦えないはずのメイドたちの手によって倒されたと? 馬鹿馬鹿しい。

 こんな報告を真に受ける者がどこにいると言うのか。
 報告を出す方も出す方だ。いかに天才と称されたメルクリオ殿下も迷宮で遊び呆けるうちに頭がおかしくなったようだな。


 ……いや待てよ? これはチャンスだな。

 そう思い立った私は、急ぎ、王城の一室へと足を運んだ。





「ドグラでございます」

「入れ」

「失礼いたします、ジルドラ殿下」


 執務室で険しい顔つきでこちらを見やるのは、ジルドラ・エクスマギア第二王子。
 王国騎士団と宮廷魔導士団を統括する魔導王国の″軍務卿″だ。
 体躯の良さと迫力のある顔立ちは、八三歳という若さながら、まさに軍を率いるに相応しい貫禄をすでに持っていると言える。

 執務机に肘をつき、不機嫌そうに視線を私へと向ける。
 身体は机の前に立つ、一人の騎士に向いていた。

 その男は王国騎士団千人隊長ベヘラタ・グルンゼム。
 騎士団長フォッティマ・グルンゼム伯爵の長子であり、若くして千人隊長を任される俊英である。


「貴様も例の【天庸】の件か? ドグラ」

「はっ! 左様でございます! あのような馬鹿げた報告、異を唱えぬわけにも参りません」

「おお、ドグラ卿もですか! 私もそう思い、殿下の元へと急ぎ参ったのです!」


 どうやらベヘラタも同じ件らしい。単純馬鹿の若造でも思うところは同じか。


「【天庸】が真に壊滅したと言うのであれば魔導王国にとって何よりの吉報。しかし出鱈目な報告で煙に巻こうとするのはメルクリオ殿下に何かしらの思惑あっての事であろうと。何か良からぬ企みをされていると考えた方が宜しいかと愚考した次第」

「そうです! 今まで【天庸】と戦い続けた騎士団、宮廷魔導士団、衛兵たちをあざ笑うかの如き報告! メルクリオ殿下が軍部に対し挑発しているのも同じです!」


 今まで【天庸】が魔導王国各地で行ってきた事件。破壊、暗殺、虐殺等々。それに相対してきたのは衛兵であり騎士団なのだ。

 しかしその全てが失敗。返り討ち。
 【天庸】の居場所を突き止めようと宮廷魔導士団も含め、騎士団の多くを派兵させたが、それも分からないまま時間が過ぎていた。

 その苦労を無に帰すような【天庸】壊滅の報。
 しかも冗談まがいの報告内容。
 さらには迎撃の陣頭に立ったのは誰であろう第三王子メルクリオ殿下だ。


 元より貴族の中ではジルドラ殿下とメルクリオ殿下の確執は取りざたされてきた。
 実力・知識共に軍務を率いるに相応しいのは王妃様の第二子であるジルドラ殿下だ。
 しかし妾腹のメルクリオ殿下は魔導王国に名だたる″魔法の天才″であった。

 実力で言えばジルドラ殿下をも上回るのでは? 軍務卿はメルクリオ殿下が相応しいのでは? そういった声も当然出る。

 メルクリオ殿下が王都を出ても依然として″天才″としての評価は残っているのだ。
 そこへ持って来て今回の【天庸】の一件は如何ともし難い。


 ジルドラ殿下には第一王子であるヴァーニー殿下を打ち破り、次期国王の座に就いてもらわねば困る。
 何としてもジルドラ殿下を押し上げ、私を宮廷魔導士長、あわよくば宰相の位に置いてもらわねば今までの苦労が水の泡だ。
 ヴァーニー殿下を倒す前に、メルクリオ殿下の後塵を拝すような真似をされるわけにはいかない。


「嘘を並べた戯言で功を得ようなど、いかにメルクリオ殿下と言えども許せるものではありません! 褒賞を得るどころか厳罰が下されるべきです!」


 私の隣に立つベヘラタが声を荒げる。
 ベヘラタもジルドラ殿下に取り入り、王国騎士団長の座を得ようと躍起になっている。
 団長の父親と比べられるのが嫌なのか、早く奪い取りたいだけなのか、馬鹿は馬鹿なりに考えてはいるようだ。

 私は正直、報告の真偽がどうであれ関係ないのだ。
 今となっては【天庸】が真に壊滅されていようと喜びも憤りもしない。
 誰が聞いても訝しむような報告書がメルクリオ殿下の手から送られて来た。それこそが肝要。


 メルクリオ殿下が国の怨敵である【天庸】を滅ぼした。
 それだけならばジルドラ殿下の未来が危うくなるばかり。

 しかしそれが、やれ基人族ヒュームがどうの、メイドがどうのと、信憑性皆無な報告をしてきた事で付け入る隙が生まれているのだ。
 栄誉とは逆にメルクリオ殿下を追い込む隙が出来ている。

 さらに言えば、その報告をヴラーディオ陛下やヴァーニー殿下が認め、メルクリオ殿下やその基人族ヒュームに褒美を与えようものならば、それもまた隙。

 そんな事、貴族連中が納得するはずもない。批判は強まるだろう。
 陛下もヴァーニー殿下も自ら転げ落ちるような真似をすれば、反対にジルドラ殿下の株は上がる。


 だからこそ、ジルドラ殿下にはメルクリオ殿下の報告に異を唱えて貰わねば困るのだ。
 どう見ても虚偽報告であると。メルクリオ殿下は罰せられるべきだと。


 私とベヘラタの意見を一通り聞いたジルドラ殿下は渋面のまま言葉を発した。


「報告の真偽については俺も怪しんでいる。果たしてどこまでが真実なのか、とな」

「おお!」「ではっ……」

「ちなみに続報も入っている。まだお前たちの耳には入っていないようだが」


 続報? 入ったばかりの報告に、さらに続報が?


「先んじて【天庸】連中の死体が運ばれるようだ。これは機密に検分する事になるだろう。そしてメルクリオは件の基人族ヒュームのクランと共に帰還するとの事だ」

「なんと……!」「それは……」

「まぁカオテッドがかなりの被害にあったようなので、その復興作業が終了したらの話だ。一月ひとつき以上は先だろう」


 つまり妙な報告はそのままにメルクリオ殿下が帰って来ると?
 存在すら怪しい基人族ヒュームを連れて?
 褒美を貰いに……以外にないだろう。


 これは……荒れないほうが難しいのではないだろうか。
 メルクリオ殿下もそこまで馬鹿ではない。何を考えてこんな真似を……。


 いや、しかし私にとっては好都合この上なし。
 やる事は決まっていて、やれる事は山ほどある。


「まったくメルクリオにも困ったものだな。王族の責務を忘れ王都を離れたばかりか、どうにも遊んでいるように見える。帰ってきたメルクリオに一泡吹かせなくてはならん。同時に連れて来るという基人族ヒュームにもな。―――何か案はあるか?」

「ジルドラ殿下、恐れながら私めに腹案がございます」


 メルクリオ殿下を完全に失墜させる。
 褒賞を与えようとしているであろう陛下やヴァーニー殿下もだ。
 ジルドラ殿下を王位へと押し上げる為に―――そして私の未来のために。


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