カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第九章 黒の主、魔導王国に立つ

208:投げると帰ってくる投擲武器の事

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■ネネ 闇朧族ダルクネス 女
■15歳 セイヤの奴隷


 暇だなー。馬車の旅って言うのはこんなに暇なんだなー。

 いや、車内でみんなでワイワイとトランプやったりお喋りしたりは楽しい。
 御者席で馬を操るのも面白い。というかこれは割と真剣に学んでいる。

 でもイーリスからカオテッドへの旅は、スタンピードがあったり山賊が連続して居たりしたし、樹界国へ行った時も走りまくって魔物をバンバン倒したりしていた。

 それに比べると平和すぎて暇に感じる。
 山中じゃなくてちゃんとした街道だから当然魔物も少ないし、警戒していても滅多に私の察知範囲に引っ掛からない。


 従って馬の手綱を握りながら、ボーッとしているようなものだ。
 ちなみに隣にはヒイノが居る。

 イブキとエメリーから私とアネモネが御者を習い、ある程度出来るようになった所でヒイノとジイナにも教えている。で、今は私とヒイノが二台目の馬車の御者担当だ。


 そんな時、私の<気配察知>に久しぶりの反応があった。
 おっ、これは……。


「ヒイノ、ちょっと手綱よろしく」

「えっ、わ、分かったけど、ちゃんとやれるかしら……」


 無理矢理に手綱を渡し、走る馬車の御者席から颯爽と飛び降りた。
 馬車の速度は私より全然遅いから何の問題もない。

 そしてすぐ後ろ、三台目の馬車の屋根に飛び乗る。
 御者の人ももう慣れたみたいだ。魔物が出た時に何回かお邪魔してるし。最初は「嘘ん!?」って顔してたけど。

 屋根の上から上半身を下ろし、馬車の扉をノックすると、走りながらも扉が開かれた。


「どうしたネネ、魔物か?」

「んーん、多分山賊」

『!?』


 街道の先、森を避けるようにカーブしているその先で、十五人くらい待ち構えている。
 魔物討伐組合員にしては変な配置だし、馬車が立ち往生しているわけでもなさそう。
 だから多分山賊かなーと。


「あんまり時間がないな。このまま行けば強襲されるか。メルクリオ、止まると怪しまれるから速度落とさせてくれ」

「ああ分かった。聞いたな? 先頭の馬車に報せろ」

「ハッ」

「それで倒しちゃっていいか? 捕らえた方がいいのか?」

「あー、やっぱ行くのか。尋問させたいから一人は捕らえてくれるかな。誰かの差し金で僕狙いかもしれないしね」

「了解。ネネ、行くぞ。ミーティア、ウェルシア、万が一こっちに来たらお前らが倒せ」

「ん……はい」「「はいっ」」


 ご主人様と私でまた馬車を飛び降りる。そのまま駆け足。
 魔物が来た時もだいたいこんな感じ。
 私が察知して報せ、足の速いご主人様と二人で殲滅する。で、そのまま走っている馬車に帰る。

 暇そうなティナやツェンたちも戦いたがってるけど、馬車で走りながらだと伝えてる時間もないし、ご主人様の速度に付いてこれないし。私だけの特権。ふふん。


 馬車の何倍かの速度で、早速森に侵入。そのまま突っ切って、街道の先に居る山賊を倒す。


「配置は?」

「んー、この先に七人、ぽつんと離れて一人、街道を挟んで七人」

「俺は向こう側からやる。ネネはまず一人のヤツ。多分伝令か斥候だろ、そいつは生かせ。あとの七人の中に指揮官みたいのが居ればそいつも捕獲。いいな?」

「はい」


 ご主人様は私から離れて行った。やっぱ私より速い。すごい。
 言われたとおり、私はまず一人のを狙う。<気配消却>で。


「ぐあああっ!」

「お、おい! なんだ!? 攻撃されてる!?」

「どこだ! 見えねえぞ!」

「なんでバレてんだよちくしょう!」


 んー、全然弱い。七人の中になんとなくガタイの良い髭面が居たので、そいつは生かそう。
 まぁみんな髭面なんだけど。それっぽいし。分かんないけど。

 ご主人様の方もとっくに終わったらしく、街道に出て馬車に手を振っている。
 やがて近くまで来た馬車がゆっくり停車。みんなが出てきた。


「お疲れさま。さすが、見事なものだね」

「一応三人生かしておいた。俺の方で一人、ネネが二人だな。尋問は任せていいのか?」

「それくらいはやらせてくれ。――おい、すぐに始めろ。手間取るようなら殺していい」

「ハッ」

「あ、アジトの場所を吐かせてくれよ。ちょっと出稼ぎに行ってくるから。後から追いかけるし」

「勤勉というか貪欲というか……まぁ治安維持と考えれば助かるんだが」


 という事で尋問は【魔導の宝珠】に任せて、私たちはアジト襲撃メンバーの選出。


「一緒に行きたい人ー」

『はいっ!』


 かなりの人数が手を上げた。そりゃそうだよね。
 ここ数日、全く戦ってないしずっと馬車に乗ってるだけだから。
 ストレス発散的な意味でもみんな行きたがる。

 でも急いでアジトに行って、残ってるかどうか分からないけど山賊を倒して、何もかも没収して、そこからまた急いで馬車を追いかけないといけない。
 そうなると足が速い方が望まれると。


「俺、ネネ、ティナ、サリュ、シャムシャエル、ツェン。こんなもんかな」

『やった!』『えぇぇぇ』

「ティナは山賊が仮に居ても攻撃はなし。それでもいいか?」

「はいっ! 行きますっ!」

「じゃあ六人で行く。他のメンバーは悪いけど馬車の方を頼む」


 ふっふっふ、【敏捷】の勝利……!
 これからも【敏捷】を第一に<カスタム>してもらおう。
 そのためにはレベルを上げて上限を増やさねば……むふー。



■ラピス・アクアマリン 人魚族マーメル 女
■145歳 セイヤの奴隷 アクアマロウ海王国 第一王女


「お姉様が行くなら一緒に行きたかったでござる……」

「私だって行きたかったです……ずっと<逃げ足>使えば付いて行けるです……」

「そうよね~、ご主人様ったら酷いわよね~、よーしよしよし」


 馬車の中、両足にマルとポルを乗せ、抱きしめつつ慰め合っている。
 可愛いわね~、いじけた様子もまた良し。

 いや、私だって行きたかったわよ。山賊退治。
 でも理由を聞いちゃうとね……足の遅さは如何ともしがたい。
 今の私の状態で【敏捷】上げてくれ、なんて言えないし。

 ただでさえ後衛としてみんなに劣ってるからね。
 魔法もろくに撃てないのに、前衛の能力まで<カスタム>してもらうわけにもいかないでしょ。

 これでも海王国じゃ槍も魔法も結構いける方だったんだけど……ほんと、ここの連中の強さは異常だわ。付いて行けもしない。


 そんなわけで私のストレス発散の為にもマルとポルを十二分に愛でて、可愛い娘成分を補給しないとダメよね。うふふ~。


「な、なんか寒気がするでござる!?」

「ほ、胞子が舞いそうになったです!?」

「大丈夫よ~、よーしよしよしよし」



■ツェン・スィ 竜人族ドラグォール 女
■305歳 セイヤの奴隷


 いや、選ばれたのはいいんだが……こいつら速すぎだろッ!?
 あたしダントツで遅いんだが!?

 シャムがずるい! あたしより【敏捷】低いのに飛べるから速いの! ずる! 天使族アンヘルとか存在自体がずる過ぎるだろ!


竜人族ドラグォールのツェンさんに言われたくないでございます」

「「そーだ、そーだ」」


 ええい、余裕で乗って来やがって。

 あたしだって【敏捷】にも結構振ってもらってんだ。
 前衛じゃあネネとティナに次いで速いはずなんだよ。

 イブキとかジイナとか全然遅いしな。盾役タンク組も遅い。エメリーはちょっと論外、議論の対象外。

 なのにこの面子だとあたしが一番遅いという事実よ。この化け物どもめ。


竜人族ドラグォールのツェンさんに言われたくないでございます」

「「そーだ、そーだ」」

「この面子だけじゃなくてもお前が一番攻撃力あるだろうが。それだけ力持っててこれだけ速いってのが異常なんだよ」


 最前線を走るご主人様が振り返りながらそう言うが……。


「ご主人様に言われたくないんだが」

「「そーだ、そーだ」」


 あたし以上の攻撃力とネネ以上の速さだからな。
 それで他人の事を『異常』とか言われても……。


「『ぶーめらん』でございますね」


 勇者備忘録・第二五章・第十一節『「ぶーめらん」とは相手に言ったつもりの言葉が自分に跳ね返ってくる様子である』


「なぜ本来の意味を教えないんだ、ミツオくんは……」


 なぜ頭を抱えてるんだ、ご主人様は……。


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