カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第九章 黒の主、魔導王国に立つ

207:ユアの師匠の墓参り

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■ユア 人蛇族ナーギィ 女
■18歳 セイヤの奴隷


「悪いな、メルクリオ。時間とらせちゃって」

「構わないよ。十分に予定の範疇だ。遅れるわけでもないしね」

「ほほほ本当にすみません! すぐに! すぐに終わらせますので!」

「ハハッ、気にする事ないよ。いやぁこういう反応もなんか懐かしいなぁ」

「うちの専属錬金術師をいじめるなよ、メルクリオ」


 カオテッドから魔導王国の王都ツェッペルンドへと向かう旅路。
 五日目に訪れたのはトランシルの街。――そこは私がお師匠様と暮らしていた街です。

 魔導王国の地理もよく分かっていない世間知らずの奴隷だったので、まさかトランシルを通るとは思いませんでした。

 私はかなり勇気を振り絞り、錬金以上に緊張し、ご主人様にお願いしました。
 トランシルの街に行くのならば、お師匠様のお墓にお祈りさせて欲しい。
 それとお世話になった商業組合の担当員さんにご挨拶しておきたいと。


 そんなわけで宿を確保した後、少数で墓地へと向かっています。
 ご主人様となぜかメルクリオ殿下もご一緒ですが……。
 もちろん【魔導の宝珠】の護衛の方はいらっしゃいますが、【黒屋敷】は私とご主人様の二人だけです。


「しかしまさか君がデボン氏の弟子とはね。本当にセイヤは優秀な人材を集めるものだよ」

「師匠が高名な錬金術師とは聞いてたけどな。メルクリオも知ってるってことはやっぱ有名なのか」

「間違いなく大錬金術師と呼ばれる一人だね。元々は魔導研究所の部門長だったはずだよ。引退してからトランシルに来たんじゃないかな」


 殿下はお師匠様の事をご存じでした。それだけでも私は嬉しくなります。
 そして私はお師匠様の事をよく知らなかったのだと、改めて思いました。
 まさか魔導研究所の部門長……大錬金術師と呼ばれていたなんて……。

 事実を知らなかったというショックより、お師匠様がスゴイ人だった事がどこか誇らしく、嬉しく感じたのです。


「トランシルの街は最近になって錬金工房の腕がメキメキと上がっているらしい。今では王都に次ぐ一大錬金都市だ。もしかしたらデボン氏の功績もあるのかもしれないね」

「最近って言ってもユアの師匠が亡くなったのは何年も前だろ? ああ、亡くなったから余計に奮起したとか?」

「かもしれないね。だとすればやっぱりデボン氏の功績だろう。もちろん錬金術師たちの努力もあるのだろうが」


 トランシルの街がそんな事になっているだなんて知りませんでした。
 そもそもお師匠様と暮らしていた時も決まった買い物以外に外出なんてしませんでしたし、街の様子なんて気にしていませんでしたが……今にして思えば私は本当に世間知らずだったんだなって思います。

 お師匠様が亡くなった後、トランシルの錬金工房を転々として、そこでようやく少しずつ知っていった感じです。
 まぁそれもすぐにクビになって追い出されていったわけですが……。

 最初は私がお師匠様に教わった製法が、他の錬金術師の方々と違うらしく驚かれたのですが、良くして貰えたのは最初だけですし……。


 そんな話を聞きながら、街の隅にある共同墓地に着きました。
 管理人の方にお師匠様のお墓の場所を聞き、そこへ向かいます。
 並んだ石碑の一つにお師匠様のお名前を見つけました。

 私が来るのは初めてです。奴隷の身分で勝手に出歩く事など出来ませんでしたから。
 今こうして来られた事に、ご主人様には感謝しかありません。
 お小遣いで買わせてもらったお花をお墓の前に置き、お祈りします。



 お師匠様。来るのが遅くなりました、ごめんなさい。
 色々ありましたが今はご主人様の下で錬金させて貰ってます。
 お師匠様が色々と教えて下さったお蔭です。
 それとご主人様のお蔭で不器用じゃなくなりました。ちゃんとポーション作れるんですよ? 杖だってほら。
 信じられませんか? 私だって信じられません。
 でも本当に私がちゃんと錬金出来るようになったんです。
 今日はそれをお師匠様に報告したくて来たんです。



「ユア、これをお墓にかけてくれ」

「ご主人様……よろしいんですか?」

「ああ、今のお前の自信作だろ? ちゃんと報告しろ」

「はいっ! ありがとうございます!」

「お、おい、セイヤ……それ、最上級ポーションじゃ……」


 私はご主人様からポーション瓶を受け取り、お墓の上からトポトポとかけます。
 鈍く光る透き通った緑の液体。



 お師匠様、これが今の私に出来る精一杯の錬金薬です。
 少しはお師匠様に近づけましたか?
 不器用じゃなくなったって、ちょっとは認めてくれますか?
 でもまだまだです。
 ご主人様に恩返しする為には全然ですし、お師匠様の足元にも及ばないと思います。
 だからまた来る機会があればその時、もう少し成長した私を見て下さい。お師匠様。



 私は涙をぬぐい、再度深くお祈りしました。


「はぁ……貴重な最上級ポーションを……それにその杖だって黒曜樹だろう、もう杖に出来たってのか? こっちは加工出来る職人を探していると言うのに……すでに大錬金術師になりかけてるじゃないか……これだから【黒屋敷】は……」


 お祈りを済ませ、振り返るとメルクリオ殿下が頭を抱えブツブツと呟いていました。
 やはり旅の疲れがあるのでしょうか。


 それから宿へと歩く道すがら、商業組合にも寄って頂きます。
 ご主人様やメルクリオ殿下まで一緒に。本当に恐縮してしまいます。


「メルクリオ、本当に表立ってもらっていいのか?」

「さすがに商業組合に行くのに僕が後ろで突っ立っているだけってわけにもいかないだろ。窓口役くらいはやるさ。それでユア、担当員はキルギストンという男だったね?」

「は、はいっ! 申し訳ありませんよろしくお願い致しますっ!」


 商業組合には殿下が先頭に立って喋って下さるそうです。すみません。
 そもそもトランシルの街を馬車にも乗らず歩かせてしまっている事がすみません。


 そうして入った商業組合。やはり殿下の顔を見るなり、一斉に跪かれます。
 さすがは商業組合と言いますか、一目で殿下だと分かるんですね。
 まぁ馬車が街に入って来た時点で殿下が来訪されているのは知っているのでしょうが。


「これはこれはメルクリオ殿下。このような場所へようこそお出で下さいました。ささ、どうぞこちらへ」


 あれよあれよと豪華な応接室へと通されます。まだ何も言ってないのに。
 さすが殿下……。私なんかが一緒に居て良い御方ではありません。

 殿下の座るソファーの後ろに立とうとすると、隣に座るよう言われました。

 えっ!? すすす座るのですか!? 殿下と並んで!?


「座らせてもらえ。俺、護衛のふりして立ってるから」


 ごごごご主人様を後ろに立たせるんですか!? その前に座るんですか!?

 こ、こんなのエメリーさんに知られたら……尻尾の先から輪切りにされて″腐蝕″するイメージしか湧きませんよっ!


 私が内心パニックになっていると、すでに商業組合の本部長さんが対面に座り、殿下にご挨拶していました。
 本部長さんこんな人だったんですね、私は初めてお目に掛かります。


「そ、それで本日はどのようなご用件で……」

「このユアが以前ここに住んでいたデボン氏の弟子でね、今は私の知り合いなのだが。その関係で当時デボン氏の担当員だったキルギストンという者に会いたい。いるかな?」

「っ! や、やはりあやつめが悪事を……!?」

「ん? 悪事?」


 え、な、何やら話が見えなくなってきました。
 どうやら担当員だったキルギストンさんは王都の商業組合に転任したらしいです。
 それも功績を受けての『栄転』という形だそうで。


「ふむ、栄転と悪事が結びつかないのだが?」

「す、すみません。てっきり殿下が調査か何かの目的でキルギストンを調べているものと……昔から黒い噂の絶えないヤツでしたので……。栄転には違いないのです。ヤツの手がけた錬金工房が急激に名を挙げ、トランシルの街は今では錬金都市と言われるまでになりました。その功績は担当員だったキルギストンにもあると、ただ……」

「ただ?」

「……それがデボンさんが亡くなってすぐの事でしたから、その、デボンさんの遺品から錬金資料を自分の担当している工房にばら撒いたのではないかと、証拠も何もありませんが」


 なっ!? お、お師匠様の錬金資料を!?
 た、確かにお師匠様の遺品は全て商業組合で管理するという事でしたが……。


「それにデボンさんが急死した事に疑問を抱いている者も多いのです。死因は老衰という事でしたが、前日まで元気に出歩いていたらしいので……もちろん噂話に過ぎません。素行の悪かったキルギストンを妬んでのものもあるでしょう。しかし腑に落ちない者も多く……」

「なるほどな。もしそれが真実であれば重罪だ。錬金知識の拡散だけでも錬金術師からすれば禁忌の所業。許される事ではない」


 錬金術師の独自知識という物は、その人と、その人が認めた人だけが使えるものなのだそうです。

 新しい知識は魔導研究所に集約され、市井に下ろしても良いものだけを拡散させる。
 でないと各工房で独自の研究もしなくなるし、知識の向上も見込めない。
 工房の特色もなくなり、魔導王国の錬金術の衰退につながる、と。


 はぁ~、そういう仕組みだったんですね。
 私はお師匠様の所で暮らしていたのに全然知らない事ばかりです。
 やはり世間知らずのままだったのだと、改めて感じました。


 結局、キルギストンさんにお礼を言いに来たはずが、それどころではなく、会えないままに商業組合を出ました。
 せっかくご主人様や殿下に付きあって頂いたのに申し訳ないです。


「いや、これは良い土産が出来たかもしれん。僕も付いて来て正解だったね」

「そっちに任せていいのか?」

「任せてくれないと困るよ。これはもう完全に魔導王国うちの件だからね。ユアもそれでいいかい?」

「は、はいっ! ありがとうございますっ!」

「結果がどうなるかは分からない。白か黒か。いずれにせよセイヤとユアには伝えるから安心してよ」


 はぁ……どうなってしまうんでしょうか……。
 キルギストンさん、私の受け入れ先を色々と当たってくれたり、結構親身になって下さったのですが……。
 でももう私がどうこう出来ないので、殿下に全部お任せします。


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