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第九章 黒の主、魔導王国に立つ
220:迷宮探索勝負の終わり
しおりを挟む■ポル 菌人族 女
■15歳 セイヤの奴隷
ほぇ~、大きな山羊さんです。
探索の七日目、私たちは朝一から【迷宮主】に挑むべく、三〇階層に到着しました。
ずっと走り続けたわりには、そこまで疲れていないと言うか、ちゃんと休憩もとってますし、夜営でもちゃんと寝ているので、最初に聞いていたよりは楽な探索だったと思います。
樹界国に行った時みたいに眠気覚ましポーションとか飲んで走り続けるのかと思ってました。
もちろんご主人様の<カスタム>のおかげではあるんですが、今回はみんなの能力向上魔法が効いたと思います。
今までは攻撃魔法ばかり使っていましたが、みんなが使っているのを見て私も見直しました。
地味だけど便利です。農作業にも使えそうです。
「じゃあラストバトルと行こうか。【迷宮主】はキングゴートとホワイトエルクが十頭らしい。氷魔法注意で火属性が弱点だな」
キングゴートは合成魔物に首が付けられていた山羊さんですね。
ホワイトエルクは大きな角を持った白い鹿さんだそうです。
それが【ツェッペルンド迷宮】の【迷宮主】だと。
「レベル上げも考慮して……キングゴートはヒイノ、ジイナ、シャムシャエル、マルティエル、ラピス、ユア、この六人で行こう。全員一発は与えるように」
『はいっ!』
「ミーティアとサリュは全体を俯瞰で警戒。すぐに<火魔法>と回復を撃てる準備をしておけ」
「「はいっ!」」
「残った十人でホワイトエルクを一体ずつ。俺は入口で待機。これで行くぞ」
『はいっ!』
私はホワイトエルクですね! どんな鹿さんなんでしょう。
それから話し合いの結果、部屋に入る順番を決め、最初に入った人から奥の鹿さんを狙う事にしました。
そして部屋に突入。今までで一番大きな部屋です。
中央には家くらい大きな山羊さん。ぐるんとした角は長く、真っ白の体毛も長いです。これがキングゴートですね。
その周りにこれまた真っ白な鹿さんが並びます。
山羊さんに比べれば小さいですけど、ツェンさんより体高があります。
角がすごく立派で、まるで木みたいです。あれで突進されると恐いですね。
私は右端から二体目の鹿さんを狙います。
手にはいつもの愛鍬、【不死王の鍬】です。
ダッシュで近づきつつ、魔法を準備。
あ、隣のティナちゃんがもう刺してますね。相変わらずとんでもない速さです。
「<岩の槍>!」
<水魔法>はあまり効かないというので<土魔法>で先制。
どうやら私を狙って来るようです。角を前に出して突進してきます。
「<逃げ足>!」
横向きに逃げる事で突進を回避。
すれ違い様に鍬を振るいます。
「そぉい!」
ザクッとお腹から後ろ足の付け根にかけて耕せました。手応えあり。
一気に動きが鈍くなった鹿さん目がけて鍬を連続で振るいます。
あ、<土魔法>の能力向上魔法で防御力を上げれば突進もガード出来たでしょうか……と考えても後の祭り。もう終わりました。残念。
周りを見れば、ほとんどの人が一撃で倒しているようです。
ちまちまとみんなで攻撃していた山羊さんも、最後はジイナさんの一撃を頭にくらい終了です。
さすがにこれだけの人数で攻めたら速いですね。
「はい、おつかれー」
部屋の入口にいたご主人様がパチパチと拍手しながら山羊さんの所に来ました。
ドロップアイテムの回収ですね。
「えーと、【王山羊の角、髭、毛皮】あとは魔石か。よしよし」
「どうしますか、ご主人様。レアドロップ狙いで何戦かしますか?」
「いや、今回はこれで十分だ。一応時間の勝負でもあるんだし帰還しよう」
あー、これで終わりですか。満足したような、もっと戦いたいような。
みんなもそんな表情ですが、確かに勝負の勝敗には時間の速さも絡んでますしね。
帰ってお風呂も入りたいですし。
というわけで、部屋の中央に現れた転移魔法陣に全員で乗ります。
私はこれ乗るの初めてなんですけど、なんかフワッってしたと思ったら、もう景色は外でした。
久しぶりの太陽が眩しいです。
「えっ!? く、【黒屋敷】の皆さん!? もう帰って来たんですか!? 何か緊急事態でも!?」
立会として控えていた組合の職員さんが駆け寄ってきます。
十日間の勝負でまだ七日目ですからね。やっぱり帰って来るのが速かったのでしょう。
……という事は、対戦相手の山賊っぽい人たちはまだって事ですかね?
「いや、制覇してきたぞ」
「制覇ぁ!? 三〇階層までですか!? 七日間で!?」
驚く職員さんをなんとか宥め、迷宮組合へと一緒に行きます。
何でも報告は支部長さんが直々に行うとかで、この場ではドロップを見せたりしないそうです。
久しぶりに来た迷宮組合はまだ二回目という事もあり、「基人族?」「メイド?」「なんだあいつら」と結構騒がれます。
しかし職員さんが先導しているので、近寄っては来ません。
案内されるまま二階の支部長室へ。
「おおっ? 随分と早ぇお帰りじゃねえか! 【黒屋敷】だな。話は聞いてるが……本当に聞いてた通りの面子だな……」
「初めまして、【黒屋敷】のセイヤと言います。よろしくお願いします、支部長」
「真面目そうなのは聞いてた話と違うんだが……まぁいいや、座ってくれ」
支部長さんは大柄な導珠族の人です。
導珠族って魔法が得意って聞きますけど、この人は確実に前衛だと思います。
何て言うか、山賊っぽい。……山賊っぽい人ばっかですね、ここの組合は。
ご主人様は支部長さんの向かいのソファーに座り、私たちは後ろで立ちます。侍女っぽく。
でも十八人も居るので、部屋の半周をぐるっと囲むような感じです。
支部長さんも「おおう……すげえ圧迫感だな……」と引き気味。
そしてご主人様の報告が始まりました……が、途中からずっと支部長さんは頭を抱えています。
証拠のドロップ品を順々に見せていっても「おう……おう……」としか言いません。
やがて報告が終わり、大きく息をついた所で支部長さんがやっと顔を上げました。
「はぁ~~~、まじかぁ……いやもう疑うのも馬鹿馬鹿しいんだが、まじかぁ……」
「ドロップ以外の証明だったら、この国の暗部の人に聞いたらいいですよ。ずっと尾行されてたんで」
「ええっ!? 暗部ってお前……あの【静かなる庭】か!?」
「組織名は知らないですけど……」
どうも王都の一部では有名な暗部組織だそうです。名前だけは知っていると。
二三階層と、二六階層でも捕まえたので、経緯も含めてお話しておきました。
「あぁぁぁ、頭痛ぇ……」
「はは、なんかすいません」
「いやさ、国から依頼が来た時点でお前らの事は聞いてたんだよ。スペッキオ本部長からも手紙が来たし」
「本部長から?」
「おお、お前らがどれだけ規格外かって言う事が、懇々と書かれてた。途中からなんか愚痴っぽくなってたくらいだ」
「ハハ……」
本部長さんは、私たちが王都に行くから、もしかしたら行ったついでに迷宮に潜るかもしれない。潜ったら絶対に制覇するから承知しておけ、という旨を伝えてくれていたそうです。
ついでに私たちの実績や体験談と一緒に、忠告と言うか警告のような感じで。
「完全に予想を上回ったけどな! なんだよ七日で制覇とか! 今まで最速で二〇日だぞ!? 記録更新ってレベルじゃねえよ!」
「じゃあ勝負は勝ちですかね」
「負けるわけねえだろ! 誰が勝てるってんだ! 【相克の蒼炎】じゃなくて他のAランク勢揃いでも負けるわ! 文句なしにお前らの勝ちだよ!」
やった! さすがにここでは騒げませんが、見渡せばみんな嬉しそうです!
それから少し話して、支部長さんに連れられ、受付に行きました。
「おい、こいつら全員の組合員証に『ツェッペルンド迷宮制覇』の記載をしてくれ」
「ええっ!? せ、制覇したんですか!? もう!? 初見で!?」
受付は私たちの登録をしてくれたお姉さんでした。
勝負の事を聞いていたのかビックリしています。
それからみんなの組合員証が更新され、私の組合員証の裏面にも『ツェッペルンド迷宮制覇』の記載が増えました。
シャムさんたちは何も記載がない状態だったので、特に嬉しそうです。
今度みんなでどこかの竜を倒せればいいんですが。亀さんは嫌ですけど。
「あ、支部長。ドロップ素材は売れないですけど魔石は売りたいんですが、いいですか?」
「ドロップは売れないのか? 装備にでも使うのか?」
「いやホームに展示するんで」
「ちょっと訳が分からない」
その為に迷宮勝負を受けたみたいな所もありますし、素材は売れないです。
でもお屋敷に展示すると言ってもなかなか信じてくれませんでした。
結局はSランク組合員としての趣味みたいなものだと言って納得してくれたようです。
「まぁ魔石は素直にありがたい。結構量あるのか?」
「二千はないと思いますけど……」
「「二千!?」」
「いや、ここの迷宮は魔物部屋が多かったんで、結構稼げたんですよ」
「「魔物部屋!?」」
なぜかそこから支部長と受付のお姉さんによるお説教のようなものが始まり、やたら注意されました。
カオテッドだとメリーさんとかあまり言って来ないんですけどね。
やっぱり組合の場所によって色々と違うのでしょう。
ここの迷宮は全層に魔物部屋があって、とっても良い迷宮だと思うのですが。
ともかく魔石は売れました。ユアさんの錬金用に少しずつは確保して、他は全部売ります。
木箱が何個もいっぱいになったので、職員さんも驚いていました。
でも魔導王国は魔石の需要が非常に多いらしく、かなり有難がられました。
そうしてやっと王城に帰ります。
これでお風呂に入れますかね?
あとは数日後の褒賞を受け取るだけですかね?
勝負に勝てた喜びもあって、少し楽しくなってきました。
私はティナちゃんやラピスさんと手をつないで、王城へと歩きました。
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