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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
238:娯楽室の充実とハンドミキサー
しおりを挟む■ウェルシア・ベルトチーネ 導珠族 女
■70歳 セイヤの奴隷 エクスマギア魔導王国伯爵位
ご主人様が南西区へと行った帰り、家具屋さんで本棚をいくつか買って来て下さいました。
わたくしはそれを以って娯楽室の整理が今日のお仕事です。
魔導王国の王都ツェッペルンドで購入したものはいくつかあり、例えば魔道具屋さんで買った灯篭や警報の魔道具などは、フロロさんたちがお庭に設置しています。
調理道具などはヒイノさんとサリュさんがキッチンに持ち込み、せっせと何か作っているようです。
何やら甘い香りがするので楽しみにしておきましょう。
その中でも一番多く買ったのが本ではないでしょうか。
以前、北東区で購入した際は千冊もの本を一度に買いましたが、今回はそれ以上。
おそらく娯楽室の壁全面が棚で埋まるのではないかと危惧しています。
「どのくらい必要かな。一応余分には買ってきたけど」
そう仰いながら<インベントリ>から棚を出すご主人様。
棚をある程度出した後は本をとりあえず出していきます。
十冊以上の本の塔がいくつもいくつも並べられます。
「うわぁ~すごーい! いっぱい!」
「ふふふ……聞いてはいたけど……これは稀に見る散財……」
「ひぃぃ……こ、高価な本がこんなにも……」
「ははは……改めて見るとすごいですね……こりゃ大変だ」
前回もお手伝いしたティナさんや買った現場には居なかったアネモネさんに加え、ユアさんやジイナさんにも手伝ってもらいます。
手伝えそうな人をかき集めた感じですね。
さて、娯楽室には現在、中央にビリヤード台が二つ。壁の一面にすでに並んでいる本棚が五つあります。
これに加え、今回並べる本棚と、読書用のソファー、そしてトランプ用の小テーブルも置きたいと。
レイアウトを考えるのも一苦労ですわね。
「とりあえずドロップ品の展示は全部撤去だな。試しに本棚を壁際に並べるか」
「さすがに全ての壁を埋めるほどではないのでは? 棚の間にソファーを置いてもよろしいかと」
「それもいいな。一度並べて見て調整するか」
魔導王国で買った本は量があるものの、だいぶ内容に偏りがあります。
魔法書や組合員用の教本の類は北東区で買ったものとほぼ変わらないので、意外と少ないのです。
その代わり、一般的で雑多なジャンル、例えば地理や歴史、英雄譚、料理や裁縫などなど、商店や家庭に置かれそうな本が多い。
もちろん魔導王国ならではの錬金術や魔道具、魔法技術の研究本なども多いのですが。
つまり棚をジャンルで分ける手間はかなり少ないのです。元々の棚がすでにジャンル分けされていますから。
あとはそのジャンルの棚を増やし、整理するといった感じになります。
それでも量が量ですので一苦労ではありますが。
「そっちの壁は魔法書関係をまとめよう。で、こっちに組合員用の本、武器関係、スキル関係、迷宮関係も並べてくれ」
『はい』
皆さんで手分けして並べていきます。元々あった本も新しい棚に移し替え、徐々に本棚が埋まっていきます。
本が増えた分、細かいジャンル分けのプレートも作る必要があり、それはジイナさんのお仕事になりました。
そうして時間を忘れ、本を整理していき、ついに完成です。
『おおー』パチパチパチ
娯楽室の両サイドにある扉と、壁際に置いた四つのソファーを避け、部屋の三面が全て本棚で埋まりました。
計一九台の本棚。そのほとんどが埋まっています。一部表紙を見せるような置き方もしていますが。
さすがに圧巻。これはもう間違いなく″本屋″と言えるレベルですわね。
そうして感慨に耽っていると、どうやら来客のようです。エメリーさんが教育中のパティさんを引き連れ娯楽室に来ました。
「ご主人様、サロルートさんがお見えです」
「サロルート? すごいタイミングで来やがるな……」
もう夕方ですわよ? 今から娯楽室で遊ぶつもりでしょうか。
本棚が完成した所で来るというのはさすがサロルートさんと言いますか、察知能力がすごいと言いますか。
そうこう言っているうちにどうやらやって来たようです。
「いやいやいやセイヤ。帰って来ているならば一言くらい言ってくれれば……なななっ! なんですかこの本はッ! 素晴らしいッ! 貴方どれだけ魔導王国で仕入れてきたのですかッ! と、泊まりますッ! 連泊して読み尽しますッ!」
サロルートさん、久しぶりにお会いしましたが……こんな方でしたっけ?
どうやら組合で迷宮組の侍女たちと会ったらしく、そこで本を大量購入した事を聞いたらしいです。
そしてその足でこちらまで。一度見ておきたいという事だったのでしょう。
まぁ見た結果がこの様なのですが。
入り浸るのは想像通りなのですが、さすがに宿泊は……。
一緒に来ていたクランメンバーの方に宥められていますね。どうにか連れて帰るようですが。
……大変ですわね、そちらのクラマスさんも。
■ヒイノ 兎人族 女
■30歳 セイヤの奴隷 ティナの母親
魔導王国の魔道具屋さんで買った調理道具の中に撹拌用魔道具というものがありました。
ご主人様曰く、ハンドミキサーと言うそうです。
元いらした世界に同じような道具があったという事なのでしょう。
王城の食事で出された料理や食材は見た事のないものばかりでした。
本を読んで知っているものもありましたが、実際に食べると印象が違っていたりと発見も多かったのです。
大市場で仕入れた食材も未だほとんど<インベントリ>に入れて頂いていますが、その調理も試したいところではあります。
そんなわけでお屋敷に帰って来てからも、私はキッチンに居る事が多い。
色々と研究し、調理し、食べなくてはいけない。お屋敷のキッチンを預かる者としてそんな使命感があります。
決して楽しんでいるだけではありません。決して。
それはともかくハンドミキサーです。最初はこれから手を付けます。
私はてっきりソースを混ぜたり、うちで言えばプリン作りに使えると思っていたのですが、ご主人様のお考えは少し違うようでした。
「ハンドミキサーを使えばプリンは滑らかになるらしいな。まぁそれはそれで試すとして、メレンゲとか生クリームも出来るかもしれない」
私たちは皆ご主人様の<カスタム>でステータスが上がっていますのでプリンをかき混ぜるのも苦ではないのですが、どうも混ぜ方によって仕上がりが違うらしいのです。
そしてメレンゲや生クリームといった未知の料理。
私は色々とお伺いし、それを試すべく、今日はキッチンに籠るのです。
まずはいつも通りにプリンを作ってみます。使うのは卵黄だけなので、白身の部分は捨てているのですが、それがメレンゲというものになると。白身がデザートになるとは思えませんが、なるほど有効利用ですね。
プリンは作ったらとりあえず冷やしておいて、メレンゲは砂糖を混ぜて焼けばクッキーのようになるそうです。
ご主人様は『ぱんけーき』なるものを作りたかったそうですが、『ほっとけーきみっくす』が無理との事。
よく分かりませんが、残念です。
そして生クリームを教わりましたが、これも難しい。プリン以上に試行錯誤が必要ですね。
分量、混ぜ方、時間、色々と考えなくてはいけません。
しかし道筋は見えました。しっとりとした甘い触感。これは今までで一番甘味の強いものかもしれません。
「ほんとうならこれでケーキを作りたいけど俺には無理だ。でもシュークリームならいけると思うんだよな」
「しゅーくりーむ、ですか」
結局その日の夜はプリンとメレンゲクッキーのみの完成となりました。
クッキーはホロッとした触感で、持ち歩くのに良いかもしれません。
プリンも確かに今までのものとは一味違った味わいで非常に美味しかったです。皆さんにも好評でした。
そして日を改めて、生クリームとシュークリームの完成を目指します。
最早私の中では完成予想図が出来ています。<料理>スキルのおかげかもしれません。
しかしながら試行錯誤は必要。サリュちゃんとも相談しつつ、なんとか完成に漕ぎ着けました。
「おー! これこれ! すごいじゃないか! 旨い!」
ご主人様も満足で何よりです。私とサリュちゃんは先に試食を済ませています。
自信はありましたが、完成形を知っているご主人様にそう言われるとホッとしますね。
夕食の席で皆さんにも振る舞いました。
かなり好評。プリンよりも食いつきが良いように思えます。
特にミーティアさんとウェルシアさん、ラピスさんの王侯貴族組の反応が良い。
ツェンさんは酒に合わないとか何とか言っているので無視しましょう。
そうしてワイワイと食べていた夕食の席。
「ん? ご主人様、メルクリオが来た」
「メルクリオ? ……まさか」
殿下が夜分に来るとは珍しい。何か重要なお話でしょうか。
……と思っていたら正門の方から叫び声が聞こえました。
『セイヤ! 何か甘い香りがするんだが!? 何か作ってるだろ! 分かってるんだぞ! 僕にも少し―――』
…………。
食堂の皆がシーンとなりました。
「ほっとこう」ご主人様のその言葉に皆が同時に頷いたのです。
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