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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
240:獣帝国最強、迷宮でイキり始める
しおりを挟む■ガブリオル 獅人族 男
■39歳 Sランククラン【赤き爪痕】クラマス
迷宮の情報を買った俺たちは、さっそくとばかりに探索を開始する。
【黒屋敷】とかいうクランの情報を仕入れるのも仕事のうちだが、もう一方の【黒曜樹】の確認の方が重要だ。
基人族如きの情報ならば一日で集まる。しかしジジイの話じゃ【黒曜樹】は四階層だからな。
いくら俺らがSランクだとは言え、一度目の挑戦で【黒曜樹】の元まで行けるとは思わねえ。
それで行けるとか言うヤツは迷宮組合員を辞めるべきだ。
俺たちは強者であるからこそ迷宮の恐ろしさを知っている。
簡単には辿り着けねえからこそ、十年経った今でもそこが″最前線″なのだろう。
だからこそ大人しく情報を買ったのだ。
とは言え金で手に入る情報は三階層まで。
四階層は最近になって到達したばかりとかで、ろくな情報がねえときた。
ひとまずは三階層を目指し、カオテッド大迷宮の感触を得る。
その上で四階層を目指す算段だ。
クラン総勢十八名による探索を開始。
俺は剣士だから最前線だ。隣には【不動】の異名を持つ盾戦士、熊人族のプサーンが並ぶ。
「やはりダンバーよりも厄介だな。カオテッドは。魔物の質、罠、広さ、どれもこちらの方が上じゃないか?」
「まぁな。だが問題ないだろ? 二階層なんてまだまだ楽だ」
プサーンの言う通り、このカオテッド大迷宮は頭一つ抜けている感がある。
確かに俺たちが今までに挑んだどの迷宮よりも難易度は高いのだろう。
俺たちは獣帝国内の迷宮を五つも制覇した実績を持って、それに加えて賄賂や後ろ盾の権力などもあり、Sランクになった。
巡った中の一つがダンバー大迷宮だ。
しかしそこは四階層で断念。制覇とはならなかった。苦い思い出だ。
獣帝国内の大迷宮はダンバーの一つしかねえ。だからここが俺たちにとって二つ目の大迷宮挑戦となる。
情報を仕入れる中でカオテッドの難しさはある程度分かっていた。
それでも実際に探索してみると全く違う印象を受けるものなのだが。
「探索はしないでいいんスよね? 最短で潜るだけだから楽っちゃ楽ッスけど。変な【領域主】と当たらないで済みますし」
「どうせろくな採取も出来ねえだろ。ミスリルだって最奥の山岳の中らしいしな。小遣い稼ぎには面倒すぎる」
「りょーかい。んじゃ『砦』に一直線で行くッス」
軽口を叩きながら先頭を歩くのは【超覚】の異名を持つクラン一番の斥候、猫人族のマイコー。
その察知範囲の広さ、斥候能力の高さは獣帝国一だろう。
他国のクソ種族に斥候専門みたいなのが居るが、そんなの目じゃねえ。間違いなく凌駕する。
マイコーが言った″変な【領域主】″というのがこのカオテッド大迷宮の特徴でもある。
まず【領域主】自体の数が多い。その上で、最短ルートを通って次階層に行く分には、そこまで強敵とは当たらねえようになってやがる。
俺らにとっては最高だが、採取を狙う組合員にとっては最悪だろうな。
この二階層で言えば、三階層に行くには『砦』のウェアウルフロードを倒す必要がある。リポップしていれば、だが。
しかしルートを外れた所に、それより強い、タイラントクイーンやらワイバーンなんかも出るらしい。
そんなのと戦わないで進めるのならば、無理に戦おうとも思わない。無駄だからな。
とは言え、それは二階層まで。三階層は少し様子が異なるらしい。
強い【領域主】のドラゴンゾンビとは戦わないで済みそうだが、四階層に行く為には確実に『不死城』のリッチを倒す必要がある。リポップしてなきゃ最高だが、その前提で向かうわけにもいかない。
三階層自体がアンデッド階層と言うから厄介なのだが、リッチは別格だ。
幸いにして獣帝国からの資金は潤沢。闇魔法に対する防御を固める意味で、装備はそれ相応のものを選ぶつもりだがそれにしても厳しい戦いになるだろう。
ちらりと後ろを見る。法衣を纏った鼠人族の女。
【聖女】と呼び声の高い、うちの回復役、ウルティマだ。
おそらくリッチはヤツ頼みになるだろう。
正直、組合員じゃなくてどこぞの司教にでもなった方が良いほどの腕前だ。
神聖攻撃魔法も<聖なる弾>だけじゃなく<聖なる槍>すら撃てるからな。
ウルティマの存在はアンデッド相手には無敵となりうる。
リッチとは戦った事はないが、アンデッドである以上、まさか<聖なる槍>が効かないわけがない。
……と、色々考えるのは先の話だな。
今は二階層を突破する事を考えよう。
とりあえず今回は三階層に到達するのを目標にするか。
ウェアウルフロードくらいなら楽勝だしな。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
屋敷で何やかんややっていたら、バルボッサとズーゴさんたちが来たらしい。
地下訓練場だな。
今はちょうどネネとパティが特訓中のはずだ。見学するのもパティのいい経験になるかもしれん。
しかし訓練場も模擬戦用のだだっ広い空間と、的の遠当て、ボルダリングくらいしかないから寂しいんだよな。
かと言ってごちゃごちゃ置いてしまうと模擬戦の邪魔になるし。
うーん、悩ましい。<アイテムカスタム>で付けられる付属設備か、ジイナに何か作ってもらうか……。
ランニングマシーンとか、筋トレ用の設備とか、この世界だと完全に意味ないし。
ステータスを<カスタム>すればいいだけだからね。あとレベル上げ。
プールとか作っても迷宮に泳ぐ階層もないし。まぁおいおい考えますか。
そんな事を考えながら庭へ行く。そのまま穴の階段を下りて訓練場へ。
「おっ、セイヤ! お邪魔してるぜ!」
「訓練場使わせてもらってます、セイヤ殿」
「どうぞご自由にー。バルボッサは久しぶりだな。これお土産」
「おお、魔導王国土産か! メルクリオとか何もなかったのに律儀だなー」
メルクリオ土産なしかよ。そういうもんなのか? 組合員的に。
いまいち【アイロス】の文化が分からない。
その上カオテッドは四か国の文化が入り混じっているからもっと分からない。まいっか。
「あー、そうそう。来たのは訓練目的なんだけどよ。セイヤにも情報があって来たんだよ」
「情報?」
「ええ、どうも獣帝国のSランククラン【赤き爪痕】がカオテッドに来ているらしいのです」
Sランク? 【赤き爪痕】?
まぁ余所の組合員が探索に来るのは別に珍しくも何ともないんじゃないのか?
「ただの探索だったらいいんですがね、ヤツらどうも、【黒屋敷】の情報を集めているようなんですよ」
「あと【黒曜樹】な。その辺の組合員とかに聞き込みしてたらしい。ま、あいつらの場合『聞き込み』じゃなくて『恐喝』みたいなもんだが」
なんだそれ。俺らと【黒曜樹】の情報を恐喝して集めてる?
どんなヤツらだよ。
「あいつら獣人系種族絶対主義だからな。で、自分たちがSランクだからって幅効かせてんだよ。俺、あいつら嫌いなんだよなー」
「しかもヤツら、貴族に覚えめでたいのでそれもあって増長するばかり。セイヤ殿の事や【黒曜樹】を探るのも、もしかすると皇族か貴族の依頼なのかもしれません」
「【黒曜樹】とかモロにそれっぽいよな。皇帝とか金の亡者って聞くし」
ひでーな、獣帝国。
バルボッサやズーゴさんたちだって故郷だろうに、この言い草。よっぽどなんだな。
「俺らが持ち帰った【黒曜樹】が一部流れたか、情報が流れたかしたんだと思うぜ? 下手すりゃ【黒曜樹】で作った俺らの装備品が狙われるかもしれねえ。俺らも気を付けるけどセイヤたちも気を付けろよ?」
「ああ……って事はバルボッサたちも作れたのか、【黒曜樹】の杖」
「おう! ……ん? サロルートから聞いてねえのか? 俺ら杖と盾を【黒曜樹】で作ってさ、三階層を突破したんだよ」
「うそぉ! すげえじゃん! まじか!」
聞けばリッチ対策で杖と盾を【黒曜樹】で作成し、【獣の咆哮】【風声】【震源崩壊】の三組合同で三階層を突破したらしい。
うちらや【魔導の宝珠】もなしとか、こりゃすごい事件だぞ!
メルクリオとか超悔しがってるだろうな!
……しかし、サロルートは。
あんにゃろう、本見て騒いでただけで、そういった事を一つも話さねえんだからな。
一言くらい言えよ。本なんかいつだって読めるだろうに。
まぁあの状況であいつにそれを求めるのは無駄か。
これはドゴールたち含めて祝ったほうがいいのだろうか。
それは確認してからのほうがいいか。
それより問題はその【赤き爪痕】って連中の方っぽいしな。
獣帝国のSランクか。どのくらい強いんだろうな。
バルボッサたちより強いんだろうけど、果たして……。
絡んで来たら投げ飛ばしていいもんなんだろうか……。
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