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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
241:今度の予定をまとめよう!
しおりを挟む■ラピス・アクアマリン 人魚族 女
■145歳 セイヤの奴隷 アクアマロウ海王国第一王女
夕食の席で色々と報告があった。
魔導王国で買ってきた数々の魔道具―――灯篭や照明、警備グッズや本などはあらかた設置し終えたらしい。
私が買ってもらったお風呂グッズや美容用品なんかは初日からすでに使っている。
やっぱここのお風呂は泳げるくらい広いのが良いわよね。
私も時々泳がないと鈍っちゃうし。魔導王国に行った時は大変だったわ。
途中で川泳ぎはしたけど。
それと新しく加入したパティ。侍女教育は順調らしい。
スラム出身という事でユア以上に何も分からない状態だったらしいが、飲み込みが早く度胸があるとはエメリーの談。
エメリーがそう言うなら相当なんでしょうね。やっぱりこの娘は何かと素質があるのかしら。
ティナやポルは何も知らないからこそ吸収が早かったと以前に聞いたけど、パティもそうなのかもしれない。
私にはパティが『感覚派』には見えないんだけどね。
早く馴染む為、全く理解できない事を無理矢理にでも理解する為、頭を働かせているように思える。
まぁ頭が良くなきゃ何年も捕まらずに窃盗なんて出来なさそうだけど。
斥候面での師匠であるネネの評価も高い。
話を聞く限り、どうも教え方がぶっ飛んでいるようにも思えるが。
死角から攻撃して<気配察知>と<危険察知>を養うとか、それ闇朧族用の訓練じゃないの?
戦った事のない小人族にやるもんじゃないと思うんだけど……。
本人は苦笑いしかしていない。周りのみんなも「うわぁ……」という表情。
確かにSランククランの斥候として身を置かざるを得ないのだから、これ以上ない訓練とは言えるんだけど、何て言うか「これ本当に正しいの?」と言いたくなってしまう。
その答えは誰も持っておらず、唯一知っているネネに聞いても「ん」と言うだろう。だから口に出せない。
パティごめん。今度いっぱい慰めてあげるから。
「ふあっ!? な、なんか今寒気が……!」
「ん? 気のせい。私の察知には何も反応がない」
「そ、そうですか……師匠がそう言うなら……」
ともかくそろそろ侍女服も完成するとの事で、パティの初迷宮は近日中にも行うらしい。
そこでまたぐったりする事になるんだろうけど、そうしたら一緒にお風呂に入ってあげよう。よーしよしよしとしてあげよう。
「ふあっ!? や、やっぱり寒気が!?」
「んー、反応なし。パティの察知がおかしい。明日鍛え直さないと」
「うそっ!?」
みんなからの報告はそんなトコだけど、ご主人様から色々と報告と連絡があった。
これがなかなか濃いのよね。
まず、Aランクの【獣の咆哮】【風声】【震源崩壊】が勢揃いでリッチに挑戦し、見事突破。四階層に辿り着いたらしい。
みんなで「おおー」と拍手。私はリッチと戦った事はないけど、話だけは聞いてるからね。
それがどんなに困難なのかは知っているつもり。
鍵となったのは以前の探索で四階層からみんなで持ち帰った【黒曜樹】。
杖の素材にすると良いとは聞いていたけど、盾にする事で魔法防御がかなり上がるらしい。よく調べたわね。
しかしいくら硬いと言っても所詮は木材。物理防御はないに等しく、本当にリッチの闇魔法対策でのみ使用したとか。
ともかく、それで突破出来た三組は、四階層でトロールなんかを倒しつつ、【黒曜樹の森】で使った分の木材を補充して帰って来たとか。【領域主】は何も倒してないらしい。
「トロールキングも倒していないのですか」
「【魔導の宝珠】が居れば高台からの魔法ハメでトロール自体は楽に倒せるんだろうけどな。あの中だと【風声】がその役割だろうが、樹人族は四階層自体が苦手らしいし、無理は出来なかったんだろう」
先を越された殿下がどう出るかしらね。単独クランで四階層に行くかしら。
私も行ってみたいんだけどね~。例の亀も見てみたいし。
それと【赤き爪痕】とかいう獣帝国のSランククランがカオテッドに来たらしい。
しかも私たちと【黒曜樹】の情報を探っているとか。
絡んで来たら投げ飛ばしていいと言われた。よし、会ったら挑発してやろうかしら。
「なんか【不動】とか【超覚】とか【聖女】とか言われてるのが居るらしいな。異名持ちがぞろぞろと」
「【聖女】ですか。サリュやシャムとどちらが上ですかね」
エメリーがそう言うが比べるまでもないでしょ。
サリュたちこそ【聖女】って言われるべきだと思うわよ。
まぁ狼人族だから言われる事なんてないとは思うけど。
「しかもクラマスのガブリオルって赤い髪の獅人族が【小剣聖】って言われてるらしいんだが」
「【小剣聖】? 獅人族というとまさか……」
「ああ、ガーブの孫らしい」
侍女たち皆が驚くが、私やユア、パティはよく分からない。話には聞いたけど。
確か【天庸】の一人でご主人様が倒した獅人族よね? ヴラーディオ陛下も名前を出していたし有名な剣士だったんでしょ? とっても強いんだとか。
で、そいつの孫が私たちを探っていると。
「ガーブが【天庸】に居たのは魔導王国のヤツなら知っていてもおかしくはない。でも俺が倒したっていうのはメルクリオたち以外には知らないはずだ。あ、あと本部長もか。ともかくガブリオルってヤツが知っているとは思えない。おそらく俺たちを探っているというのは、ガーブの一件とは無関係じゃないかと思う」
そうご主人様は言う。まぁ知っていようが知るまいが、私たちのやる事は変わらないわよね。
向かってきたら迎撃する。これだけ。シンプルでいいわ。
「念の為、みんなは一人で出歩いたりしないように。特にユアとパティはな。出掛ける時は誰かと一緒に居るようにしてくれ」
「「は、はいっ」」
「それと今後の予定を話しておく。気になっているのは三階層のグレートモスだ。これを狩りに行きたい」
ご主人様の喪服を新調するのね。
今着ている元の世界の服の方が性能は良さそうなんだけど、一着しかないってのはさすがにね。
結構補修しているみたいだし。
しかしご主人様の考えは私たちの上を行っていたらしい。
「思ったんだけど、グレートモス素材で侍女服も作ったら、もっと良いものが出来るんじゃないか?」
「それはそうでしょうが……そうなると侍女全員分の【大樹蛾の繭】を集めるおつもりですか?」
エメリーが思わず口を挟む。
ご主人様の喪服を作るだけでも【大樹蛾の繭】が一つと少し必要らしい。コートの分も合わせて最低三つ。
その上侍女全員……十九人分!? 一体どれだけ狩ればいいのか……。
「まぁ出来ればって話だ。ただでさえ三階層は厳しいのに、そこで延々と狩り続けるってのは苦行だからな」
『うんうん』
三階層を体験している侍女たちが一斉に頷く。
私も話には聞いているけど、臭いやら汚いやらで、みんな三階層が嫌いらしい。
「それにどうせ三階層に行くなら他の【領域主】も倒してドロップ集めたいし」
『えっ』
「ただそうなると展示品置き場がなぁ。今でさえ置ききれてないし。やっぱり博物館を早めに作るべきか……」
これはもう止められませんね、エメリーがそう呟いた。
唯一止められるエメリーが諦めるようならば、私たちはもうお手上げだ。
と、言いつつ、私は結構楽しみにしている。博物館とやらに。
さらに言えば、ミーティアは住居組合のフーリンデという樹人族の女性に、それとなく予約をしているらしい。
どうせ近々買うことになるから、誰にも売らないでおいてくれ、と。
そんな予約は普通だと出来ないらしいが、そこはミーティア。フーリンデという人は「ミーティア様の頼みでしたら!」と受けてくれたようだ。さすがねー『神樹の巫女』様。
「三階層に行くにしても数人で行くか全員で行くかも決めてない。全員で行くとなればパティのレベルアップと<カスタム>は必須だし、ユアの杖も完成させてからにしたい。フロロとアネモネの杖もな。行くとすればそれからかな」
ご主人様は未来の事のように言うが、なんとなく近日中に思えるのは私だけではないだろう。
頭の中に描かれれば、それが動き出すのは早い。まだご主人様の僕となって日は浅いが、そんな想像が出来るようになってきた。
まとめるとこんな感じかしら。
・パティの訓練、レベル上げと<カスタム>は優先。
・ユアの杖製作(あわよくば魔法剣製作?)
・三階層探索、グレートモス狩り(人数未定、どのくらい狩るかも未定)
ついでに三階層の【領域主】狩り(これは決定)
・博物館を作る。
・番外:何とかって言うSランククランに絡まれたら投げる。
うーん、なかなか盛りだくさんね。
私はとりあえずパティの<カスタム>の為にCP稼ぎを頑張ろうかしら。
ようやく魔物部屋マラソンも慣れて来たところだし。
でも……なーんか忘れているものがあるような気がするんだけど……。
あれこれありすぎて何か抜けてるのかしら。
まぁあればエメリーか誰かが言うでしょうし、私は考えないでいっか。
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