288 / 421
第十一章 黒の主、博物館に立つ
278:戦争? そんな事より迷宮行こうぜ!
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「とまぁそんなわけで戦争になるかもしれん」
『えぇぇぇ……』
俺だって「えぇぇ」だよ。嘆きたいよ。
ただの組合員に戦争とかね、本当にやめて頂きたい。
俺基人族ですよ? 最弱種族の。皆さんお忘れかもしれませんが。
「勇者の聖戦でございますね!」
「それに参戦とか誇らしいでござる! 神聖国に報告でござる!」
「面白くなってきたなぁ! よっし、あたしが先陣を切るぜ!」
「獣帝国もよくやるわねぇ、ちょっと楽しみだわー戦争とか」
乗り気なのが数名。シャムシャエル、マルティエル、ツェン、ラピス。
とりあえず神聖国に報告は待ってください。
天使どもが大挙して参戦して来そうなんで困ります。
まぁいざとなったらカオテッドと俺たちのホーム及び博物館を守る為に戦わざるを得ない。そう腹は括っている。
迷宮資源と俺の財産欲しさに戦争を仕掛けるとか理不尽以外の何物でもない。
理不尽に抵抗する為の力。俺の<カスタム>はその為に使うと決めている。
とは言え、戦争なんてやらないに越したことはない。
出来るものならば、皇帝とか宰相とかをこっそり暗殺して戦争を起こす気なんてなくさせたい。
しかし問題が二つ。
一つは、皇帝と宰相を殺せばそれで本当にカオテッドに攻めてこないのか? という事。
獣帝国の貴族は少なからず差別的で欲深いのが多いらしい。リリーダルさんは極めて異常なんだとか。
となると暗殺した所で、新しい皇帝が戦争を起こさないなんて言えないのだ。
もう一つは本部長も言っていたが、こちらがただの犯罪者になってしまう。
樹界国に乗り込んだ時に大司教とか新王とかを殺したが、その時とはまるで話が違う。
あの時はミーティアと国王陛下とかを味方につけ「クーデターを起こした者たちを粛清する」という大義名分を得たわけだが、今回は襲われたという証拠がない状況での私怨、報復だ。
それで暗殺なんてすれば闇組織とやってる事は同じ。指名手配まったなし。
という事で暗殺は現状、良い策とは言えない。
じゃあ政治的に介入して戦争を回避できないものかと。
うちのメンバーを見回し、王侯貴族組を見るが……政治が出来るヤツなんてそもそも居ない。
ミーティアは『神樹の巫女』であり基本的には政治不介入。
ウェルシアは父親が研究員であり生粋の政治家貴族というわけではない。自身は政治をした事のない新米伯爵だ。
ラピスは論外。
「ちょっと! なんかいつも私に厳しくない!? これでも第一王女なんですけど!」
「これでもって自分で言うくらいにはダメだと思う」
「くっ……! お、覚えておきなさい!」
ラピスは外交も政治もダメダメだからね。仕方ないね。
本当は出来るのかもしれないけど、なんか任せたくないんだよね。
お前は戦ってりゃいいと思うよ。
そんなわけで俺の出来る政治的介入となると、樹界国、魔導王国、神聖国、海王国にお願いして獣帝国を止めてくれって言うくらいかなと。
どこも俺の事を『勇者』的に見て、なんか協力的だし。
言えば手助けしてくれるだろうという気はしている。ありがたい話だ。迷惑な話でもある。
しかしそれをやると、益々『勇者様ー!』となるだろうし、本格的な戦争に発展しそうだし、どう考えても戦場となるのは各国の中心地であるカオテッドだ。被害甚大。
おまけに各国に″借り″を作るみたいで嫌だ。特に魔導王国と神聖国。
なので本部長の手腕に期待しつつ、いざとなればこっちで対応しようかなーと。
戦争なんて嫌だが半ば諦めモードである。
「博物館で忙しいってのに戦争の事なんて考えたくないんだけどな……あ、ウェルシア、今日は何か問題あったか?」
「ようやくスムーズに流れるようになってきましたわ。今日はほとんどこちらの人員を出さないで済みましたし」
「集客人数が減って来たとか?」
「いえ、相変わらず人気に陰りは見えませんわね。単純に従業員と警備の増員。そしてお客様への対応が慣れてきたのだと思います」
そりゃ何よりだ。アネモネもいつも以上に含み笑いしている。どんくらい儲けてんだよ。
「この分だと、来月にはEランク……来年にはAランクになって、ます……ふふふふふ」
商業組合のランクって納税額で上がるんだろ?
え、もう上がるの? 一年でAランクとかありえるの?
そりゃ本部長も高笑いしてるわけだわ……金額聞くの怖いわ……。
「ただ試し切りの所だけは誰かしら侍女を置いておいた方が無難ですわ」
「相変わらず逆切れするのが居るのか?」
「誰かしら立っていれば問題ありません。イブキさんでなくても【黒屋敷】だと分かれば大人しいようですわね」
初日は誰にも立たせずズーゴさんたちが大変だったらしい。
二日目からイブキやツェンとかに立ってもらったが問題は出ていない。
対策としては良いんだが今のままというのもなぁ……。
「ふむ、そりゃ参ったな……」
「? 何か問題が?」
「戦争騒ぎになる前に四階層に行きたいんだよ。全員で行くなら今のうちかなーと思ってな」
『おおっ!!!』
ガタッと立ち上がる一部の侍女たち。みんな好きだなー迷宮。
四階層へは行きたいと常々思っていた。
目的は『火属性の魔石を持つ【領域主】の乱獲』だ。
それがあれば魔竜剣とユアの杖がパワーアップする。今付けているヘルハウンドとかじゃ俺は納得しない。
となると【炎岩竜】はナシとして、シーサペントもどきをどうにかして倒すか、新たな【領域主】を探す必要がある。
探索の過程でお宝を見つけてもいいし、良い錬金素材、鍛治素材とかも見つかるかもしれない。
つまりは本格的な四階層探索だ。
「そこに出来れば全員で向かいたい。前回の亀みたいに何があるか分からないし、長期間になるだろうから留守番組と分けると、また<インベントリ>問題が出て来るし」
『あぁ……』
全員で向かうとなると博物館を長期間、セシルさんに任せる事になる。
ホームの警備もズーゴさんにする事で博物館の警備も手薄になるだろう。
今まで以上に全員探索しづらくなった感がある。
とは言えずっと俺たちが張り付いているわけにもいかないしな。
「承知しましたわ。セシルさんとよく打ち合わせしてみます」
「博物館の方で了承を得ない限り探索には行かないから、ゆっくり細かく決めてくれ。それまで俺たちで協力できる所はするから」
「ありがとうございます」
ウェルシアに任せているこっちが「ありがとう」なんだけどな。
何と言うかすっかり″責任者″になったもんだ。さすがウェルシア。どこぞの王族とは違う。
「という事で博物館の安定を見計らって、全員で四階層に出掛けるぞ」
『はい!』
「それまでの準備……例えばユアにはポーション関係を余分に作ってもらいたいし、ヒイノには長期間探索に備えて食事の準備をしてもらわないといけない」
「ひぃぃ、は、はい」「はい」
「ユアはレベルも心配なんだが、パティとリンネもだ。探索に行くまでになるべく迷宮に行ってレベル上げだな」
「は、はい!」「はいですネ!」
四階層の本格的な探索となると、色々対策しなきゃいけない事が多いからな。
前回は初めてでぶっつけ本番みたいな所があったが、今度は事前によく話し合おう。
おそらくこれまでで一番大変な探索になるだろうしな。
まぁ俺も少し楽しみなんだが。
あまりみんなの事は言えないな。
0
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる