295 / 421
第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ
284:四階層到達、探索開始
しおりを挟む■ラピス・アクアマリン 人魚族 女
■145歳 セイヤの奴隷 アクアマロウ海王国第一王女
探索二日目。私たちは三階層の途中からスタート。
階層中央部にある『廃墟エリア』から真っすぐ北上し、『不死城』を目指す。
ここは前回の三階層探索で私も回った所だから、気持ち的にはそれほど盛り上がらないわね。
来た事がないのはリンネだけ。
いつも元気なリンネもさすがにアンデッド相手だとテンションは下がるらしく、時折「ひぃぃ」と声を出している。
ん? ユアじゃないわよね? まぁユアも言ってるけどいつもの事だし。
今さら三階層を慎重に進むわけもないという事で、後衛陣が遠距離からバンバン撃ってさっさと通過する。
『廃村エリア』にデュラハンが率いた軍みたいのが居たけど……今さらデュラハン出て来てもねぇ。
あれでしょ? リッチの部下扱いのやつ。そんな感じ。
しかし『廃墟エリア』を抜けてから『不死城』までの道のりは湿地のように足元がぬかるんでいる上に、ポイズンフロッグという毒吐き蛙が出て来る。
三階層は状態異常をしてくる魔物が多いから困るわよね。
まぁ近づく前に倒しちゃうから問題ないけど。
さて、そんなこんなで『不死城』に到着。五階までを最短ルートで駆け上がる。
時刻は昼過ぎ。やっぱり速い。
ま、速いに越した事はないわね。さっさと四階層行きたいもの。
「サリュ、シャムシャエル、マルティエル! 三連<聖なる閃光>で玉座の間を薙ぎ払えー!」
「「「はいっ!」」」
無常。そして無情。
確かに前回リッチマラソンして嫌ってほど戦いはしたけど、さすがにこれは酷いわ。
「うわぁ……」という声が方々から聞こえる。
極太の白色光線で埋め尽くされた玉座の間。
せめて神聖属性が弱点でないガーゴイルくらいは残っていてくれ……と思ったけどやっぱり無理ね。
リッチ用にサリュが追撃の<聖なる閃光>撃ったし。ああ無情。
「よーし、さっさと四階層行くぞー。着いたら昼飯なー」
『はいっ!』
ドロップ品をパパッと<インベントリ>に入れたご主人様がそう声を掛ける。
お昼なら仕方ないわね。さっさと行きましょう。
とは言え、ここから先は私にとって未知のエリア。期待に胸が膨らむ。
博物館の展示でも見ているし話もかなり聞いてはいるけどね。
同じく来た事がないのは、シャム、マル、ユア、パティ、リンネか。
表情は様々。緊張感があったり怯えていたり、私と同じく楽しそうなのはリンネとマルくらいかしらね。
長い螺旋階段を下りて、四階層への階段へ。
次第に赤い光が見え始め、纏う空気が明らかに変わった。
暑い……いや、熱いんでしょうね。侍女服が耐熱カスタムされてて助かるわ。
人魚族は樹人族以上に火耐性がないのよね。
だから私の魔竜槍はあえて火属性にしてもらったんだけど。
ここは耐熱装備なしだったら本当に死ぬわ。私が一番に。
市販品の耐熱装備とかでも無理かもしれない。ご主人様の<カスタム>は異常な性能だし。
そんな事を考えつつ階段を降りきれば、目の前に広がるのはまさに″地獄″。
黒と赤の世界。絶えず噴火する遥か前方の火山。そこから出るのは真っ黒い噴煙と煮えたぎる溶岩の噴流。
エメリーが書いた展示物のイラストでも見たけど……実際に見るのとは大違いだわ。
「何とも……すごい階層でございますね……」
「ほぇ~、すごいでござる……」
「ひぃぃぃ……ほ、ほんとにこんなトコ探索するんですかぁ?」
「ここがあたいの死に場所か……」
「うおおおお! なんという迫力! これは燃えますネ!」
反応は千差万別。私は楽しみだったのが少し減った感じかしら。
これほどの熱量は想定外だったわね。
本当に人魚族にとっての地獄だわ、ここは。
「とりあえず飯にするぞー。ここまでは魔物も来ないはずだから」
ご主人様はふつーにテーブルをセッティングし始めた。
正直こっちはご飯どころじゃなくなったんだけど。え、この状況で食べるの?
あー、いや、食べます、頂きます。食べておかないと本当に持たないかもしれないもの。
昼食だから軽めのものだけど、それを皆で摘みながら、改めて四階層の説明をされる。
「真っすぐ火山方面に行くと『トロールの集落』がある。もうトロール見えてるけどな。中央の道は歩きやすいけどトロールが結構出るんだ」
遠目にトロールを見ながら食事とか……よくみんな食べられるわよね。
結構強いって聞いてるわよ? 実は案外余裕なの?
「で、右手の暗い方向。こっちは『黒岩渓谷』な。暗くて狭い上にサイクロプスとかが出て来る。そこを抜けると広場になっててヘカトンケイルが居る。行かないけどな」
火山から流れる溶岩は左手方向に川を作っているわね。対して右手方向は真っ暗。
見てみたい気持ちもあるけど、今はそれよりもこの階層に慣れる事が重要だわ。
ちょっと雑魚と戦ってみてから判断したいわね。
「その広場の先――北側にあるのが『黒曜樹の森』だ。ここには行くつもりだから承知しておいてくれ。行くタイミングはルート次第だな」
例の黒曜樹ね。すっごい希少で高価な。フロロたちの杖のやつ。
こんな所にまで来ないと採取出来ないんじゃ私たちがいくら採っても高価なままでしょうね。
来られる人が限られてそうだし。殿下もよく来るわよね、ホント。
「で、今から向かうのは左手の『溶岩池エリア』な。少し北側に行けば『溶岩湖』があってそこに亀が居るんだが、目的地は滝つぼだから、そこまではこの南端の壁沿いに行く。池もあんまりないし通りやすいしな」
溶岩の川が造り出した池や湖。それが点在するエリアね。
天然の迷路とはよく言ったものだわ。
しかし滝つぼに向かうだけならば、南端の四階層入口がある壁沿いに進むだけで、その池迷路の方に行く必要すらないと。
そうして昼食も終わり、トロールと戦いたい気持ちを抑えつつ、壁沿いに歩き始める。
さすがに早歩きもしない。完全に徒歩だ。
斥候もしつつ警戒もしつつ、これぞ探索って感じ。
話には聞いてるけど溶岩の中にも魔物が居るみたいだしね。そこから強襲してくる事もあるんだとか。
今、エメリーがその溶岩池から魚を釣ったけど……よく釣れるもんだわ。あの娘は本当におかしい。
「あれ? エメリー、その鎖鎌、形状変えたのか? ……って言うかそれ鎌じゃなくてショーテルじゃねえか」
「ええ、ジイナに造ってもらいました。こちらの方が釣り針のようですし」
「私、釣り針のつもりで造ったんじゃないんですけどね……それ一応、魔竜曲剣なんですけど……」
「安心して下さいジイナ。剣は剣として使いますから。鎖と併用するのはこの時くらいです」
「全然安心する要素ないんですけど……ああ、だから柄尻に輪っかを付けろって指示だったんですか……鎖をジョイントする為に……」
な、なんかジイナが不憫になってきたわね……。
ご主人様も大概だけどエメリーもヤバイわね……相変わらず。
ティナとかにも言っておかないとダメね。あんな大人になっちゃダメよって。
そうこうしているうちに徐々に滝へと近づいてくる。
溶岩の川は途中で分岐し、池や湖を経て、やがて滝に集約される。
真っ赤に光る溶岩の流れ。それは恐ろしさと美しさを兼ね備えたものだ。
近くでビシャンとでも跳ねようものなら、誰だって火傷だろう。私の場合火傷で済むのか……保障などない。
「<水の遮幕>」
最近になって練習し出した能力向上魔法で火耐性を上げる。
この階層において水魔法の重要性は計り知れない。
侍女たちの中で水魔法を使えるのは私とポル、そしてウェルシアだけ。
三人で協力して火耐性を切らさないようにとご主人様からも先に話があったのだ。
それを今、私は実感している。
灼熱のエリアで冷や汗を流すという違和感を抱えながら、滝までやって来た。
皆が滝の横の崖っぷちに立ち、下を眺める。
「うーん、やっぱり居るなー」
「うわぁ……こうして見ると絶望しかないのう……」
皆がフロロの言葉に頷いている。
どれどれと私も崖下の景色を見る。
思わず息を飲んだ。そして「えぇぇぇ」と声が出る。
瀑布の如く流れる滝の真下は大きな池のようになっており、そこから先に流れる川などはない。
どこに流れ出るのか、湖の下に大穴でも開いているのか。
しかしそんな事を考える暇も与えないのは、溶岩池の主であろう、ニョロニョロと蠢く巨大な魔物。
私はかつてシーサーペントを一度見たことがある。
国の近隣に現れたという事で討伐隊が派兵されたのだ。それに勝手に付いて行った。
そこで見たのは青い鱗の巨大な蛇。船に長い身体を巻き付け、潰すように沈めていた。
結局こちらに興味がなかったのか、そいつはこちらに攻撃する事もなく遠くに消えていったのだが、そのあまりの迫力は軽くトラウマになったほどだ。
それ以来私は見ていないし、あれが果たして標準的なサイズだったのかも不明だ。
改めて眼下の蛇を見る。
真っ赤な鱗。太さも長さも、おそらく私が見たシーサーペント以上。顔付きも違うし背びれなんかなかった。
つまり――
「あれ、シーサーペントなんかじゃないわよ!? 誰よ、シーサーペントとか言ったヤツは!」
トラウマを通り越して、私は憤慨した。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる