カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ

290:未確認領域をちょっと探訪する

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■アネモネ 多眼族アフザス 女
■17歳 セイヤの奴隷


『トロールの集落』から北方向へとある程度進んだ所で一泊。
 探索の五日目はそこからさらに北側へと探索範囲を広げる。


 本当に風呂小屋を作ってもらって良かったと思う。
 四階層というのは三階層以上に探索しづらい所だし、熱いわ暗いわで気分も陰鬱になる。


 ……まぁ侍女服には耐熱カスタムしてあるし、私は<暗視>スキル持ってるし、普段から陰鬱と自覚はあるけれど……ふふふ。


 ともかく長い迷宮探索には気分転換も必要だなと改めて感じた。
 トランプも持ち込んではいるけど、娯楽よりも探索生活を充実させるべきだなと。
 つまりは美味しい食事とお風呂だなと。

 そう思えるのは私たち【黒屋敷】だけなのだろうという自覚もある。
 普通は<インベントリ>なんてないし、ご飯はマズイし、お風呂なんかあるわけもない。
 というか、そもそも貴族だってお風呂を日常的に使っていない。あれは嗜好品の類だから。

 今度、ご主人様考案、ヒイノさん生産で組合員用の保存食を作って貰うというのはどうだろうか。
 せっかく侍女内に商業部門が出来たのだし、私としても売り出してみたい気もある。
 と言うか馬鹿売れ間違いなし。博物館に続く荒稼ぎ第二弾……ふふふ。


 と、そんな益体もない事を考えながら荒野を進む事しばし。
 小高い丘陵を登りきった所で、みんなの足が止まった。
 丘陵を越えた先の景色を見て、呆然と立ち止まってしまったのだ。


「街……だよな……」


 ご主人様が呟く。
 それは確かに″街″――いや、″廃墟となった街″もしくは″滅んだ太古の街″とでも言おうか。

 三階層でもデュラハンが【領域主】であった『廃墟エリア』があった。
 しかしここは広い上、さらに廃れている。原型を留めている家はほぼないし、その多くが基礎の石のみが残るだけだ。
 規模も村ではなく街が正しい。その街を囲う城壁もまた完全に崩されている。

 そして暗がりの街を丘の上から見下ろすと、炎を纏った魔物の姿が良く見える。
 ここに来るまでに見かけたウィスプや、炎を纏った大きなとかげ――サラマンダーも居る。

 さらにトロールほどの大きさはないが炎で出来た巨人の姿が目立つ。ファイアジャイアントだろうか。数が多そうだ。


 家々が壊れているので街の先々までが見える。見下ろしているので余計に。
 つまりは街の中心部、広場となっているそこも遠目に見えるわけで、そこには一際大きな魔物が寝そべっていた。
 炎を纏っているわけではないが、あれだけの巨体であれば目立つ。


「俺じゃ遠すぎて見えないんだが、誰か見えるか?」

「え、えっと、大きなサラマンダーみたいです。うわぁ……」

「ファイアドレイクだと思います、ご主人様」


 <探索眼>を持つパティちゃんと、<鷹の目>を持つミーティアさんが教えてくれた。
 ファイアドレイクと聞いたみんなが驚く。有名な魔物だ。

 竜種の下位に属し″亜竜″と呼ばれる魔物が居る。言ってみればブレスを吐かない劣化竜種だ。
 ワイバーンや地竜ランドドラゴンがそれに当たる。シーサーペントを亜竜と呼ぶ地域もあるらしい。

 その亜竜の中でも最強として名高いのがファイアドレイク。火属性のオオトカゲ。
 一説には下手な竜種より強いとか何とか……と、娯楽室の魔物百科に載っていた。

 それが今、私たちの目の前に……これ、本当に行くんですよね? 戦うんですよね?
 ここまで来て探索しないとかありえませんよね?


「よし、行くか! こりゃ探索しがいがあるぞー。今日だけじゃ終わらんな」


 ご主人様ノリノリである。
 無理もない。明らかに【火属性魔石を持つ領域主】なのだから。目的に沿っている。
 ですよねーという心の叫びがあちこちから聞こえた気がした。

 というかドレイクを抜きに考えても、この広い廃墟の街を探索するのは骨が折れる。
 確かに今日だけでは終わらない。魔法陣だけ見つけようとザッと見て回っても無理だ。

 となると今日のキャンプはどこに張るのだろう。この街の中?
 さすがに厳しいかもしれない。一度街の外に出てキャンプを張る感じだろうか。
 安全地帯っぽい所があっても風呂小屋を置くスペースとかなさそうだし。


 ……だめだだめだ、なんか風呂小屋ありきの探索思考になってる。

 新エリアで強敵が目の前に居るんだから斥候としてちゃんとしないと。
 これでミスろうものならば私は追い出されてしまう……ふふふ……。



■ドルチェ 針毛族スティングル 女
■14歳 セイヤの奴隷


 おおー、あれがファイアドレイクですかー。
 有名な魔物の登場に少し気分が上がります。
 でも強いって噂ですし、私と同じように乗り気なのは少数派ですかね。

 一番乗り気なご主人様を先頭に『廃墟の街』に侵入。城壁も門もないのと同じです。
 近寄って見ると、建物は普通のサイズなんですね。トロールとかファイアジャイアントのサイズじゃないです。

 私たちのようなヒトが住んでいた? こんな所で?

 そもそも四階層はヒトの住める所じゃありません。火山が噴火していなければ住めるのかもしれませんが。
 四階層にはこれまで人工物の類が全くなかったので、やっぱりこの街は不自然に見えます。


 四階層の入口と火山までの距離を見ると、多分この街は半分より少し火山側だと思います。
 こんな所にポツンと街があるとか……どういう意図なんですかね?
 私には全く分かりません。


 ご主人様が『廃墟の街』の探索計画を話し始めました。


「まず魔物を倒しつつ真っすぐ広場まで行ってファイアドレイクを倒す」

「いきなりドレイクですか?」

「ああ、その後、街の南東部を探索。それからリポップしているだろうドレイクをまた倒す。んで、南西部を探索してドレイクを倒し、北東部を探索してドレイクを倒し、北西部を探索してドレイクを倒す」

『うわぁ……』


 つまりリポップ待ちの時間を利用して探索すると。ドレイクをなるべく狩りたいと、そういう事ですか。
 狙いは火属性の魔石なので気持ちは分かるんですが、ご主人様はすんなり倒せると思っているようですねー。
 これで思いの外ドレイクが強かったら探索計画も変わるんでしょうか。

 ともかくご主人様が「いくぞー」と発破をかけ、『廃墟の街』を進み始めました。
 広場へと続く大通り――と言っていいのか分かりませんが、建物がボロボロなので道幅は十分。
 見晴らしも良いので魔物も見つけやすいです。


 ……まぁ魔物からしても私たちを見つけやすいようで、次々に襲ってくるんですが。

 ウィスプもそうですが、ファイアジャイアントも物理攻撃無効のようです。
 火属性も効かないので【炎岩竜】の魔竜剣を使っている人たちも倒せませんね。
 ご主人様、ネネさん、イブキさん、ヒイノさん、ツェンさん、ユアさんがファイアジャイアントには不向きだと。

 そういう人たちはサラマンダー狙いのようです。
 私は【疾風の魔竜槍】で<風の槍ウィンドランス>を撃てるので問題ないです。
 【炎岩竜の中盾】も火耐性はバッチリなのでむしろ私向きの敵なのかもしれません。


 ……まぁ近づく前に後衛陣の魔法がバンバン放たれるので、私が接敵する機会も少ないのですが。


「ここはレベル上げにもCP稼ぎにも良いかもしれないな。CPだけ見れば『黒曜樹の森』の方が上だろうが。何にせよ美味しい」


 ご主人様がそう言います。
 それはそうかもしれませんが、私としてはトロール相手の方が楽しいです。
 物理でガツガツ戦える感じ。『黒曜樹の森』も小さい雑魚敵ばかりで戦いにくいですし。

 そうして進む事しばし、広場の全貌が見えてきました。
 中央には寝そべるファイアドレイク。やっぱりヒュドラと同じくらいの大きさでしょうか。若干大きい?
 亀や蛇を見た後ですので、それほど脅威には感じません。


 でも蜥蜴かと言われると、やはり竜に近いように見えます。翼を付けてブレスを吐いたら完全に竜だなーと。
 風竜よりは一回り小さいと思います。

 その周りにはサラマンダーがワサワサと居ます。二〇? 三〇? とにかく多い。
 サラマンダーのボスがドレイクなのでしょうか。同じ蜥蜴ですし。


「最初は俺がやらせてもらうぞ。皆は散ってサラマンダーの対処を頼む」

『はいっ!』


 ご主人様自ら様子見ですね。トロールキングの時もそうでしたし、ヘカトンケイルもそうだったらしいです。
 今回もまずはご主人様が単騎で戦うとの事。
 そんなわけで全員で広場に駆けます。

 広場に入ろうかという所でドレイクは起き上がり、こちらを見ました。
 感知範囲の問題でしょうが、蛇の時と言い、なんか四階層の【領域主】はルールがありそうな気がします。


 ドレイクが威嚇をし臨戦態勢になる前にご主人様は最高速で突っ込みました。強襲。
 いきなり首を狙ったりせず、足元から斬りつけているようです。本当に様子見ですね。


 さて、私たちはサラマンダーを排除しないといけません。
 すでに後衛陣の魔法がバンバン撃たれています。
 み、皆さん結構気合い入ってますね……乗り遅れるわけにはいきませんっ!


 私も突貫します! おりゃー!


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