カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

文字の大きさ
305 / 421
第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ

294:一難去ってまた一難な予感

しおりを挟む


■ヒイノ 兎人族ラビ 女
■30歳 セイヤの奴隷 ティナの母親


「ふぅ……」


 大きく息を吐き、思わず腰を下ろしたくなります。でも地面が氷ですからね、座れません。

 最後はご主人様が<空跳>からの<抜刀術>で首を落としました。
 それまでにとぐろの方に攻撃し、大体の硬さを確かめていたようです。

 そして二回ほど首に攻撃を加え、同じ個所へと本気の一撃を加える前に皆に宣言したようでした。


 紛れもなく強敵でした。安堵感と達成感はあります。

 しかし【炎岩竜】ほどではないというのが正直な所。
 【炎岩竜】と戦った人たちは皆さん、私と同じ気持ちじゃないでしょうか。
 逆に戦った事のないラピスさんやシャムさん、マルちゃんなんかは結構はしゃいでいます。

 あの時はろくに防御も出来ず、攻撃も通らず、ただ吹き飛ばされるだけの戦いでした。
 死ぬかと思いましたし、だからこそ終わった時の安堵感と達成感は今と比較にならないものでした。

 今回は、人数も増え、装備も替え、レベルも上がり、戦略を練り、能力向上バフ魔法を多用しての戦い。

 厳しい戦いには違いありませんでしたが、苦戦したのかと言われると……安定感の方が勝ると思います。


 竜の身体は光に消え、ドロップアイテムが現れました。
 やはり【領域主】なのですね。当然ではありますが。


「えーと……【氷晶竜の牙・爪・氷塊】だそうだ。あと青い魔石……水属性だろうな。大きさは炎岩竜と同じだ」

「やっぱり竜でしたか」

「【氷晶竜】……聞いた事はないですね」


 誰も知らない竜だそうです。本でも見た事がないと。
 四階層は新種が多いですね。カオテッドが特殊なのでしょうか。


「総評すると滝つぼの蛇の完全上位互換だな。どれをとっても強い。ただ亀に比べると弱いかな」

「亀は防御力と体力が図抜けていましたからね……」

「逆に速さやブレスの頻度などを比べれば、【氷晶竜】の方が攻撃力があるのでは?」

「亀の攻撃はその重さも加わってるから何ともな。ただこっちのが激しいのは確かだ」


 結局は竜としての相応しい強さという事でしょう。
 もう一度戦うとなれば亀よりこちらを選びますが。
 今の状態でも亀の攻撃をちゃんと防げるイメージは湧きません。


 そう皆さんで話していると、主のいなくなった大空洞を調べていたネネちゃんとパティちゃんが戻ってきました。


「ん。宝魔法陣、一つあった」

「お、でかした。やっぱり【領域主】の居る所にはあるんだな。四階層のお決まりみたいな感じだな」


 リポップ前にさっさと回収しようと、ご主人様は魔法陣へと向かいます。
 私たちもぞろぞろと。場所はとぐろを巻いていた、その裏のようですね。

 ご主人様が魔法陣に手をかざすと、現れたのは……斧、ですね?


「バトルアクス? ポールアクス? ラブリュス? ……なんかどれとも違うな」


 両手持ちの両刃の斧。柄は長め、刃はかなり大きめだと思います。
 全体的に黒く、柄も刃もどことなく禍々しい。
 ご主人様が<インベントリ>にしまうと「あっ」と声を出しました。


「……【魔剣マティウス】だそうだ」

『魔剣!?』


 驚きの声が大空洞に響きます。
 確かに魔剣は迷宮からでしか発見されないとは聞いていますが、まさか私たちが実際に手にするとは……。

 いえ、三本も持っていて今さら何をと言われればそれまでですが、イブキさんの【魔剣イフリート】はオークションで競り落としたものですし、エメリーさんの【魔剣グラシャラボラス】は【天庸】の妖魔族ミスティオの人からのもらい物・・・・ですし、ネネちゃんの【魔剣パンデモニウム】は魔導王国の国宝です。

 それくらいお目に掛かれない国宝級のお宝が、いざ宝魔法陣から出て来ると驚くものです。
 これは【氷晶竜】に挑んで正解ですね。洞窟を見つけたパティちゃんを褒めるべきでしょう。


「しかし斧か……」


 あ……そ、そうですよね。

 私たちでは誰も使えないんですか……売るのは論外として、応接室に飾るくらいしか出来ないんでしょうか。
 魔剣を? せっかくの魔剣を? それこそ勿体ない気がします。

 同じ事を考えているであろうご主人様は渋い顔。どうしたものかと。

 そこでジイナちゃんが勢いよく挙手しました。


「わ、私、槌やめて斧にしますっ!」

『えっ』


 いきなり何を言い出すのかと皆でジイナちゃんを見ます。


「だってせっかくの魔剣ですよ!? 使わないなんてもったいない! 武器がかわいそうです! それにほら、槌の振り方と斧の振り方って似てるじゃないですか! ね!」

「いや鈍器と斧だと全然違うと思うが。それに<斧術>なんか持ってないだろうに」

「頑張れば身に付きますよ! 【器用】にも<カスタム>してもらってますし! 【震源崩壊】に鉱人族ドゥワルフの斧使いの人だって居るじゃないですか! 適正だってあるはずですよ! だから私に下さい! ね!」


 確かに言われてみれば種族的にも斧に一番適正がありそうなのはジイナちゃんなのかもしれません。
 ご主人様も「そこまで言うなら」と、結局はジイナちゃんに使わせる事にしました。

 でも多分、ジイナちゃん、単純にマイ魔剣が欲しかっただけだと思うんですけどね。
 ご主人様もそれを分かっているから渋々渡したんでしょうけど。
 斧を手に持つジイナちゃんの顔が酷い事になってますもん。よだれ垂れそうですよ?


「ともかく魔剣の検証も後回しだ。いつまでもここに居るわけにはいかん。リポップ前にさっさと出るぞ」


 はっ! そうでした! さすがに【氷晶竜】との再戦は厳しいです!
 滑る足元に気を付けながらも、我先にとばかりに洞窟から撤退します。


 そうして洞窟を抜けた時の事です。

 脱出出来た喜びや安堵感を覚える前に、私たちの目に飛び込んできたものがありました。
 その光景に皆が唖然とし、言葉を失くしたまま立ち尽くしてしまったのです。


 ――それは天に昇る光の柱。


 暗い階層において目立つそれは、山岳の中腹であるこの場所からよく見えました。
 天から光が差しているのではなく、おそらく地上から立ち昇っている光は、輝くような紫色。
 紫の光と言われても何だという感じですが、そうとしか表現出来ない光なのです。

 そしてそれは『廃墟の街』の先、火山の麓から立ち昇っているように見えます。
 あの場所に何があるのか……私たちはまだ行った事がありません。


「なんだ、あれは……?」


 ご主人様のその問いに答えられる人はいません――と思っていました。


「お、お姉様、あれ、もしかして……」

「ええ……″瘴気″かもしれません……」


 シャムさんとマルちゃんが怯えた表情でそう言います。
 すかさずご主人様がシャムさんに聞きます。皆も耳を傾けました。


「……創世教の聖典に書かれた一万年前の聖戦の伝承にございます。【邪神ゾリュトゥア】は後光の如く紫の光を発していた。それは″瘴気″と呼ばれ多くのヒトを害した、と」

「は? じゃあ邪神と何か関係があるのか? ここ迷宮だぞ? 言ってみれば【アイロス】の中の異世界だ。邪神が顕現したのは地表だろうに」

「分かりません。もしかすると【邪神ゾリュトゥア】に関わるものなのかもしれませんし、別のナニカなのかもしれません。しかし伝承における″瘴気″と似ているとしか……」


 判断材料が少なすぎるようです。
 いえ、シャムさんたちがここに居る分、これでも多いくらいなのでしょう。
 他の誰もが全く分からない状態なのですから。


「パティ、あの光の根元に何があるか<探索眼>で見られるか?」

「は、はいっ! えっと……小屋? 祠? ……石造りの小さな家みたいのがあります」

「よし、とりあえずそこに行く――」


 と、ご主人様が号令を掛けようとした時、紫の光柱は細くなり、すぐに消えてしまいました。


「何なんだよ……一時的に発していたのか? それともその小屋だか祠だか自体が消えたのか?」

「すいません、もう暗くて見えません……」

「ここからじゃさすがに<聖なる閃光ホーリーレイ>も届かないな。とにかくあの場所に行ってみよう」

『はい』


 確認しないと何も分からない。それはそうです。
 山岳地帯の探索も完全に出来ていない現状ではありますが、私たちは下山する事にしました。


 はぁ……洞窟を見つけ、強敵である【氷晶竜】を倒し、魔剣を手に入れ……そこまでは良かったんですけどね。

 何だか妙な事が起きてしまった感があります。
 不安な気持ち。少し気分が重くなってしまいますね。

 夕食はドラゴンステーキでも食べて英気を養いたいところです。

 どうです? ご主人様。せっかく竜も倒した事ですし。ね?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります> 「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。  死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。  レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。  絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、 「え?、何だ⋯⋯これ?」  これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...