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第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ
293:氷結世界での戦い
しおりを挟む■パティ 小人族 女
■13歳 セイヤの奴隷
「ギュルアアオオオオオ!!!」
大空洞に乗り込んだ途端に竜は吠えた。
氷に閉ざされた空間に響き渡り、耳鳴りさえする。
同時に口から洩れる息は、もうそれだけで吹雪のブレスみたいなものだ。<耐寒>装備であっても寒く感じる。
大空洞へと入る直前、あたいたちには数々の補助魔法、能力向上魔法が掛けられた。
耐性を上げ、攻撃・防御・速度を上げ、回復をし、万全の体勢を整えて決戦に臨んだのだ。
事前にここまで念入りにするのは初めてだと言う。
亀相手でもしなかったのか……そう思ったが、その頃は能力向上魔法とかほとんど使っていなかったらしい。
よくそれで倒したもんだ、みんな。あたいは怖い。
ともかく、それでなお「寒い」と感じるのだから相当なのだろう。
しかし凍えて縮こまっているわけにもいかない。動かないと死ぬ。
竜は氷のような水晶のような長い身体で、蛇のようにとぐろを巻いている。
頭を持ち上げ、まるで屋敷の二階から見下ろされているかのようだ。全長どれほどなのかも分からない。
威嚇と同時に身体を動かし、ガリガリと氷同士がこすれるような音が響き渡る。
「遊撃、散れッ! 後衛陣頼むぞッ!」
『はいっ!』
ご主人様の号令一下、あたいも走り始める。足元が凍ってて走りづらいんだけど。
今回の戦いに関してはかなり変則的な布陣になっている。
本隊と呼べる集団は竜の正面から防御主体での魔法攻撃、及び補助魔法の継続が中心。
ここに全ての後衛陣が集合し、それを守る前衛陣はドルチェさん、ヒイノさん、ジイナさん、リンネさんだけだ。
本隊は生命線であると同時に、竜の注目を集めたい所でもある。
だから魔法攻撃も適度に行うとの事。
他の面子は全て″遊撃″。竜の四方に散って、物理攻撃を与える。
ご主人様、エメリーさん、イブキさん、ツェンさん、ティナちゃん、師匠とあたい。
シャムさんは遊撃メンバーの回復担当。飛び回るらしい。
どうして、大して強くないあたいが遊撃なんだって?
あたいの一番の仕事は、ランタン持って照らす事なんだよ。
あたいだけじゃなく師匠も、それと本隊のポルさんとアネモネさんも持っている。
ここは真っ暗な氷の世界だからな。ランタン必須なんだ。
そういうわけであたいは距離をとりつつ、回り込みつつ、ひたすら照らす係。
地味だし、あんま戦闘に貢献してないように思うが大事な役目だ。
しかしご主人様から「全員、一発は攻撃を入れる事」と厳命されている。
経験値取得がどうとかって話らしい。だからどっかで近づかないとな……。
そう思っているうちに攻防は激しくなっている。ランタン係のあたいからは戦闘の様子がよく見える。
竜はやはり長い身体を利用して、薙ぎ払ったり、突進したり、噛み付いたりと結構激しい。
下半身(?)のとぐろ状態はそのままだが、上半身(?)だけで縦横無尽に動き回る。
本隊への攻撃は盾役組が見事に防いでいるみたいだ。さすが。
後衛陣の壁魔法も多用しているらしく、今のところ安泰。
竜は物理攻撃だけでなく、やっぱり吹雪のブレスも吐いて来た。
本隊だけを狙って集中的に吐く場合もあれば、遊撃に対して薙ぎ払うように吐く場合もある。
あたいはそれから逃げるのに必死。本当に【敏捷】を上げてもらって良かった。
本隊へのブレスはやはり壁魔法で防いでいる。
遊撃のイブキさんやツェンさんに向けられる時もあり、その時はシャムさんが急いで<光の壁>をかける。
まぁイブキさんは魔剣の炎を全開にすれば大丈夫そうな感じもするけど。
あそこだけ暖かい。近寄りたいけど近寄るのも危険だ。
ツェンさんにしても水属性の竜人族って話だし、ブレスをくらっても大してダメージないんじゃないかと。
ツェンさんが大ダメージ受けるイメージがあたいにはない。
ご主人様やティナちゃん、エメリーさんは足が速いからブレスが来ても逃げている。
師匠は言わずもがな。と言うかこの人たちはあたいより【敏捷】高いから心配するだけ無駄だ。
そうして攻撃を防ぎ、避け、動きながらみんなが攻撃を与えている。
師匠はとっくに<毒撃>を入れたらしい。ご主人様はとぐろ部分を斬って、相手の防御を確かめているようだ。
ツェンさんは普通に殴ってるし、ティナちゃんも普通に斬りつけている。
中でも効いているのはイブキさんとエメリーさんだろう。
【魔剣イフリート】と【魔剣グラシャラボラス】。
炎の斬撃は見るからに弱点だし、氷みたいな身体でも″腐蝕″は効くらしく、竜が明らかに痛がっている。
それでまた竜の攻撃が苛烈になるのだが、防ぎ、避け、また迎撃という流れだ。
圧倒は出来ないが対応は出来ている。傍から見ているとそんな風に感じる。
「おりゃあああ!!!」
「ドルチェちゃん! 私も居るから大丈夫よ! 跳ね返しましょう!」
「はい! ヒイノさん、頼りになりますっ!」
本隊の盾役のお二人が本当に強い。
よくあの竜の突進を止められるもんだ。
【大炎蛇】の突進も、下がりながらだけど二人で抑えていたし。
多分、竜の攻撃力は【大炎蛇】よりも高いし速いと思う。
でも上半身(?)だけで攻撃しているせいなのか、この大空洞が狭いのか、【大炎蛇】のように反動を思いっきりつけての攻撃ではない。
だから後衛陣を守りながら耐えられているのか。
いずれにせよ、おかげで本隊は安定している。
「壁は余分に貼るくらいで丁度良い! 無駄撃ちでも貼れるようならば貼れい! ユア、ミーティア! 能力向上は切らすなよ!」
『はいっ!』
本隊の指揮はフロロさんがとっている。
ご主人様もエメリーさんもイブキさんも遊撃だから、本隊の指揮はとれないんだ。
フロロさんは指名された時に嫌そうにしていたけど、見る限りだとノリノリなんだよな。
戦闘嫌いって言ってるけど、案外こういうの好きなのかもしれない。
そうこうしているうちに、竜の身体のあちこちには傷が出来ている。
やっぱり攻撃特化の遊撃陣はかなりのダメージを与えているようだ。
師匠の毒とエメリーさんの″腐蝕″も効いているのかもしれない。目には見えないが。
逆に言えば、これだけダメージを与えているのに苛烈な攻撃をしている竜がスゴイ。
【大炎蛇】と見た目は似ていても、攻撃・防御・体力・速さ、その全てで桁違いなのだろう。
竜というのはこんなスゴイ魔物なのか。いや、まだ竜と決まったわけじゃないけど。
敵味方に感心しつつ、思わず戦いを見入ってしまう。
あたいは照らして逃げているだけなんだが……。
と、そんな時にご主人様の声が掛かった。
「そろそろ全力で攻撃するぞ! 全員攻撃入れたな!?」
そう叫ぶ。
一人様子見と検証を行っていたご主人様が本格的攻勢に出ると。
ちょ、ちょっと待って下さい! あたいまだ攻撃してない――
「はあっ!!!」
「ギュルオオオオオ!!!」
あ……あ……。
ご主人様は別格の動きから<空跳>、そして黒刀の一撃を首筋に入れた。
同じ個所に対する三撃目、深々と入った斬撃はそれだけで終わらせるには十分だったらしい。
竜は断末魔の声を上げ、力なく倒れていく。
それをあたいは「ちょっと待って」と右手を前にしたまま、固まったように眺めていた。
いつの間にかあたいの後ろに居た師匠が、肩にポンと手を乗せる。
恐る恐る振り返ると、いつもの無表情だ。
いや、師匠、これはですね、あたいも攻撃しようとはしてたんですよ? でもですね――
「ん。大丈夫、ちゃんと罰は与えるから」
「ひぃぃっ!!!」
何がどう大丈夫なんですか師匠おおおお!!!
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