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第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ
296:変な事が起きるのは大体ヤツらのせい
しおりを挟む■スペッキオ 導珠族 男
■303歳 迷宮組合カオテッド本部長
ボロウリッツ獣帝国では派兵の気配が高まっているらしい。
やはり【赤き爪痕】が帰らず【悪癖の蝙蝠】の報告が途切れ、調査の全てが失敗に終わったと気付かれたようじゃ。
帝都ディン=ボロウでは騎士団の動きが慌ただしく、また戦略物資もどんどんと集まって来ているらしいのう。
帝都だけでなく皇帝の覚えめでたい貴族たちもここぞとばかりに兵を出すと。
軍功を上げるチャンスだと勇んでおる。
そんな報告を帝都及び獣帝国内の迷宮組合支部から受けている。
彼奴ら、【赤き爪痕】の件で賄賂を貰っていたり、儂の目が届かん所でかなり好き勝手にやっておったようだからのう。
相当酷い者は見せしめを兼ねて罰し、こちらで選んだ者をその代替えに置いた。
軽く金を受け取っていただけのようなヤツは、逆に利用する。
手綱を握った今は、儂に対して尻尾を振って来よる。情けないが利用価値は十分。
そもそも獣帝国内の組合支部長を一気に総入れ替えなど出来ないし、据え置きとせざるを得ない所も多いのじゃ。
ともかくそんなわけで今は獣帝国の情報が入りやすい状況にある。
そうして得た情報を持ってこちらとしても対処しておきたい所ではあるが……これが難しい。
とりあえず獣帝国内の各組合支部には、組合員の戦争参加をさせないよう徹底させたが、それだけで戦争を回避など出来るわけがない。
騎士団主体の軍になるのじゃから、端から組合員など数に入れていないのかもしれん。
戦争を回避したくとも、こちらが何を言っても無駄じゃ。
組合は非帰属組織。ただの一組織である以上、相手が″国″では無理がある。
本格的に″国″を止める為には、それこそ″国″をぶつけるくらいでなければならん。
カオテッド中央区の統治権を得ただけでも大戦果なのじゃ。
これこそ四か国の思惑がぶつかった事で、仲裁のように儂らが入っただけじゃからのう。
獣帝国という国に対して儂がとれる『国』と言えば魔導王国となる。何かと言いやすい。
かと言って魔導王国の伝手を使おうとすれば、「スペッキオ本部長は導珠族だから魔導王国に靡いている」「迷宮組合は魔導王国に対して贔屓している」と言われるのが関の山。
そんな事を言っている場合ではないが、儂の行動で迷宮組合自体を壊すわけにはいかん。
そもそも魔導王国に頼んだとして、ヴラーディオの小僧の言葉を、獣帝国の豚皇帝が聞くとも思えん。
ならばカオテッドの他区にも頼み、樹界国と鉱王国からも戦争を止めさせるよう言わせるかとも考えたが……色々と無理がある上に、三か国から忠告された所で、それでも今さら豚皇帝が戦争を中止するとも思えんのじゃ。
カオテッドの繁栄が為され、【黒曜樹】という宝が出現した今、それを欲しさにどこまでも走るじゃろう。あの豚は。
まぁ組合が非帰属組織だから中央区を統治出来ているのに、他国を頼るという事自体、無理があるんじゃがな。
ともかくそうして頭の痛い日を送っていたある日の昼。
――それは急に起こった。
「!? なんじゃ!?」
書類仕事をしている最中、本部長室の中が突如、ぼんやりと光ったのじゃ。
その光は、淡く薄い紫色のように見える。
何かの魔法効果かと思ったが、こんなものは見たことがない。
慌てて窓の外を見ると――それはここだけではなく、カオテッド全体で起こっているようじゃった。
街全体が淡い紫の光に包まれているように見える。
何が何やら分からんが、ともかく警戒体勢を布いた方が――と考えだした所で、光は消えた。
窓の外の景色はいつもと変わらない。一体何だったのか……。
呆けていると衛兵団長のジンウが本部長室に駆け込んで来た。
「ほ、本部長! い、今のは……!」
「分からん……ともかく何か変化が起こっていないか区内を回らせよ。何かしらの魔法効果に見えたが、原因も効果も不明じゃ。聞き込みと確認からじゃな」
「はいっ!」
慌ただしく出て行く。
それを見て儂も椅子に腰を下ろした。
改めて考えるが、全く分からん現象じゃった。
正体不明の紫の淡く鈍い光。それに気付き、慌て始めた所でもう消えた。
何が原因で発生し、何が原因で消えたのか。何の効果があったのか。まるで分からん。
儂も長く生きているがあのような光は初めて見る。
色々と魔法知識を思い浮かべるがどれも違う。おそらく儂の理外の何か――
……ん? 理外? 儂の思いもよらないナニカが起きた?
そんな事を起こすのは……まさか……!
「おい! 通信担当員を呼べ! 通信宝珠を持って来い! 早く!」
♦
「原因は排除済み。詳しくは戻ってから報告時にて。体調を崩す人が居る可能性あり。その際は体力の回復を――との事です」
「ほれ見ろ! やーっぱり彼奴等ではないか! あんのたわけ共が!」
想定外の事態を引き起こすのは【黒屋敷】と相場は決まっておる!
ここ数ヶ月でどれほど″理外の事″が起きたと思っておるんじゃ!
儂の心労の半分くらいは彼奴等のせいじゃぞ!?
……まぁ博物館の収益の事もあるから強くは言えんが。
……これでスポンサーを外されようものなら金が入らんし。
ともかく、あの光の原因は【黒屋敷】だとはっきりした。
原因は排除と言っておるから慌てる必要はなさそうじゃが、やはり詳しい報告を聞かねばなるまい。
なんか前回の四階層初到達より報告内容が濃くなりそうな気がするが……いやいや、あの時は【炎岩竜】という想定外中の想定外があった。
まさかあれ以上の想定外はないと思うが……ないと思いたいが……嫌な予感しかせんのう……。
しかし『体調を崩す人が居る可能性あり』とはどういう事じゃ?
あの紫の光に当たると体調を崩すのか?
そう言うという事はセイヤたちも同じように紫の光を浴び、そして体調を崩したという事じゃろう。
あの規格外の強さの連中が? ダメージを受ける事すら想像出来んが……。
儂は何ともないし、少なくとも本部の中に体調を崩している者は居ないようじゃ。
ジンウに外を見回りさせておるから何かあれば言ってくるとは思うが……窓の外を見るに問題なさそうに思える。
ふむ……益々以ってよく分からんな。
ともかく体調を崩している者を見つけた際はポーションを配るか。
もちろん【黒屋敷】の報酬から天引きするがのう。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「ご主人様、通信宝珠にて本部長から連絡が入りました。街が一時、紫の光に包まれたと。心当たりはあるのかと」
「えっ、なんで地表まで瘴気が出てるんだ?」
迷宮内は言ってしまえば異世界・異空間だ。俺の考えでは、だが。
四階層で起きた瘴気の発生――紫の光が地表にまで現れたというのはどうも解せない。
俺はあの時、祠の入口と中に居たからよく見えなかったが、侍女の皆が言うには瘴気の奔流は祠から出て真上に立ち昇ったらしい。
まるで山岳から発見した時のような光の柱のようになっていたそうだ。規模は全然違うらしいが。
扉を開けてから出てきた光は、あの時以上にとても強烈なものだったと。
ともかく四階層から地表に出たのが確かならば、地表で倒れる人たちが居るかもしれない。それは回復させるように言わないと。
「ご主人様、もしかすると地表ではダメージを受けていないのかもしれません」
「どういう事だ、エメリー?」
「仮に我々が受けた瘴気と同様のものが地表に現れたとしたら、住民のほぼ全員が倒れているでしょう。しかしそういった事も言及せず、こうして通信して来ているのです。ダメージを受けていれば通信どころではないかと」
なるほど。だとすると侍女たちは至近距離で受けたからこそダメージを負ったという事か?
でもまぁ一応警戒しておくに越したことはない。
念の為、体調不良の人には回復させるよう伝えて貰おう。
「あと原因は一応排除したと伝えてくれ。……これを″排除″と言っていいものか分からんが。まぁ帰ったら報告会をするだろうからその時に説明するしかない」
「かしこまりました」
どうしたもんかな、これ。
【邪神の魂】とかいう物騒すぎる代物。
<インベントリ>の中に入れておくのも嫌なんだが。
かと言って、<インベントリ>から出せばまた瘴気がブワッてなりそうだから出せないんだけど。
「なんかこれ以上探索って気分じゃないな」
『うんうん』
「よし、帰るか!」
『はいっ!』
早く帰って屋敷で落ち着きたい。報告も早くしたい気持ちもある。
でも帰ったら帰ったでめんどくさそうな気もするんだよなぁ……。
報告か……どうにか誤魔化せないものだろうか……。
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