308 / 421
第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ
297:帰り道は寄り道気味に
しおりを挟む■イブキ 鬼人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
謎の祠における事件は私たちの心に暗い影を落とした。
幸いにも瘴気によるダメージは神聖魔法で回復出来たし、後遺症のようなものもない。
ご主人様が<カスタムウィンドウ>で全員のステータスを確認したが、特に悪影響は見られなかったらしい。
やはり至近距離で瘴気を浴びたが故に、その時だけダメージを受けたと見るべきなのだろう。
とは言え、色々と不可解な点が積み重なり、どうにも四階層探索を続けようという気にならない。
モチベーションは一気に下がったと言える。目の前に四階層の終着地点と目される『火山』があると言うのに、だ。
なぜ【邪神の魂】がこんな所にあるのか。
本当に二体の竜が封印の鍵となっていたのか。
あの瘴気は何だったのか。なぜカオテッドの地表にまで漏れ出たのか。
分からない事が多すぎるし、【邪神の魂】という物騒すぎるものを入手してしまったからには、落ち着いて探索など出来る状態ではないのだ。
早く戻って本部長に報告、もしくは誰かに相談したい気持ちがある。ご主人様も我々も。
その一方で、誰にどう相談すればいいのか、相談した所で解決出来る問題なのか、いや無理じゃね? むしろ本部長とかに怒られるんじゃね? という疑念・危惧がある。
というわけでご主人様は″消極的撤退″とも呼べる手を打った。
普通に帰るのならば真っすぐ四階層の入口方向、つまりは『廃墟の街』方面へと向かう所。
我々は火山を右手に見て、進路を西にとった。
つまりは『溶岩川』に沿って帰ろうと。
まだ探索していないエリアだし、帰るついでに探索して行こうというわけだ。当初の予定でもあったしな。
火山から流れ出る溶岩は、亀の住む『溶岩湖』までいくつもの川を成している。
その中の本流と呼べそうな大きな川沿いに下る。
真っすぐ早く帰った方がいいのでは? という意見もある。
せっかくここまで来たのに探索不十分でいいのか? という意見もある。
モチベーションが下がった状態でただ帰るのも辛いという意見も。
それらを考慮しての消極的撤退。『溶岩川』の探索。
これが正解かは分からないが、私としては気持ち良く探索を終えたいという気持ちが強い。
何となく邪神に探索の邪魔をさせられて嫌々撤退しなければならないような気分だったからな。
これで『溶岩川』を探索出来れば、四階層で残っているエリアは、おそらく『黒い山岳地帯』(【氷晶竜】の住処以外)と『火山』だけになるだろう。
そういう意味ではキリも良いし、四階層の七~八割が探索出来たという成果もある。
もっともどのエリアも探索不十分な感じはするが。魔法陣の見落としとかな。
エメリーのマッピングを見てもかなり埋まってきた感はある。
結局この日は『溶岩川』の近くまで進み、キャンプを張った。
落ち着いた所で改めて、夕食時でもやはり祠の一件が話に出たが、皆の意見も様々。憶測の域を出ない。
正解など誰にも分からないのだから当然なのだが。
一番事情に詳しそうなシャムとマルでさえ全く分からないのだから。
「シャムシャエル、地上に戻ったら神聖国に報告するんだろ? ラグエルさんは何か分かりそうかな?」
「何とも……ラグエル様が聖典に載っている以上の情報を持っているのか、正直分からないでございます。ラグエル様ご自身はミツオ様の聖戦に参戦していないはずですので」
一万年前の聖戦を体験していれば瘴気の事も分かったかもしれない。
邪神が倒された現場を見ていれば『魂』がどうなったのか分かるかもしれない。
その時に生きていた女教皇でさえ又聞きだとすれば、確かめる術はないのだろう。
「いずれにせよ何かと知っている可能性が一番高いのはラグエルさんなんだ。相談しないって選択肢はないだろ。なんだったらシャムシャエルとマルティエルが直接報告に行くのも手だ」
「ご主人様は神聖国を嫌悪されていると思いましたが……」
「そりゃ嫌だよ。俺は近づきたくもない」
ご主人様の女神様嫌いは筋金入りだな。
今に始まった事ではないが。
「でもさすがに事が事だからな、相談はすべきだ。というか<インベントリ>に入れっぱなしの状況が嫌だ。気持ち悪い。何とか出来るなら何とかしたい」
さすがに【邪神の魂】を常に携帯しているのは嫌らしい。それはそうだろう。
我々からすれば一番安全な保管手段ではあるが、当のご主人様からすれば堪ったものではない。
最も相談した所で何とか出来るのかは不明なのだが。
ともかくその日はそれで終わり。
そして探索九日目、私たちは『溶岩川』を適度に探索しつつ、『溶岩湖』へと目指す。
『溶岩川』は本流と呼べそうな大きな川と、そこから枝分かれしたいくつもの支流で出来ている。
支流は分かれた後に本流に合流したり、湖に繋がっていたり、池に流れ込んだりと様々だ。
私たちは支流を避けつつ、飛び越しつつ、本流沿いに進む。
昨日までと打って変わって明るすぎる景色。熱も相当あるのだろう。
魔物も溶岩に適したものばかりが飛び出して来る。
ラーヴァゴーレムから始まり、『溶岩池』でも見たロッククラブ、空からは伝書鳥ほどのサイズの燃える鳥が襲ってくる。
『溶岩池』に居た、溶岩を撃って来る魚の成体なのか、『溶岩川』の上流には大きな魚も泳いでいる。
ご主人様曰く「サメ」と言うらしい。真っ赤な背ビレを出しながら川を泳ぐ。
「溶岩弾を撃ってくるか分からないが、多分噛み付いてくるぞ。川の近くは警戒しろよ」
『はいっ』
「ご主人様、釣れました」
「お前いつの間に……ナイスフィッシング」
「恐縮です」
エメリーはそのサメを釣っていた。また鎖付きショーテルで。
その分だとまた<釣り>スキルか何か生えるんじゃ……え? ああ、すでに持ってる? そうか……。
しかしせっかくジイナに造ってもらった魔竜曲剣も釣りばかりに使われては、いくらなんでも鍛治師が泣くのでは……。
「うひょおおお! すごいッ! 魔剣すごいッ! ほら見て下さいよこれ!」
……うん、鍛治師はそれどころじゃなかったわ。
昨日はさすがに魔剣どころでは無くなってしまったが、今日は探索という事もあり、存分に試しているらしい。
ジイナが下賜された【魔剣マティウス】は斧型の魔剣。大きく鋭い両刃のついた、両手持ちの斧だ。
それは【氷の魔剣】と呼べるものだと思う。
【氷晶竜】の住処にあったから【氷の魔剣】なのかは分からないが何も関係がないとも思えなかった。
仕様自体は私の【魔剣イフリート】と非常に似ている。単純と言い換えてもいい。
魔力を籠めれば斧の刃に氷が纏わりつき、ただでさえ大きな刃が二倍ほどに大きくなる。
私の炎と違い、ビキビキと氷が張っていく感じなので、瞬時に大きくなるというわけではないが。
その刃を持って斬りつければ斬撃+氷ダメージ。
それどころか刃を当てた箇所の周辺をまとめて凍らせるらしい。
試しに地面を斬りつければ、前衛で並ぶ私の足元まで凍った。
パーティー戦闘の最中でこれをやられると非常にまずい。下手すると六人パーティー全員が身動き取れなくなる。
もちろんジイナ自身の足元も地面に張り付けられていた。
魔力を籠めるのを止めれば周囲に張られた氷は消えるらしいのでリカバリーは出来るのだが、足が止まる事には変わりない。
ご主人様からも使い方については注意を受けていたが、これは私も散々受けた事だ。
まったく【魔剣】というものは強力である反面、使い方を誤れば自分も味方も被害に遭う、非常にピーキーな性能ばかりだな。
エメリーの【魔剣グラシャラボラス】は最たるものだと思うが。
自分も味方も被害を出さずに振り回せるのはエメリーくらいではないかと思う。
少しでも刃との間合いを間違えれば自分に″腐蝕″の大ダメージだ。
ともかくそんなわけでジイナは慣れと<斧術>の習得を目論んで、【魔剣マティウス】ばかり使っている。
その結果、常にハイテンションであり、非常に五月蠅い。
四階層――特に『溶岩川』の魔物には総じて相性が良すぎるのもハイテンションの要因だ。
好調が好調を呼び、絶好調のままジイナ無双となっている。
「調子のってんと取り上げるからなー」
「す、すみませんっ!」
「<斧術>の習得が最優先だからなー。魔力籠める必要ないぞー」
「はいっ!」
適度にご主人様が諫めているが、どうせすぐまたテンション上がるんだろうなー。ジイナだし。
そう諦めながらも、実際には探索が早く進むので、帰り道と考えればこれもアリかと思う。
ネネたち斥候もそれほど広範囲の探索はせず、通り道にある魔法陣や魔物のみを注視するようにしている。
あくまで「帰り道のちょっとした探索」という程度だ。
そんな折、やはりと言うべきか『溶岩川』の中に潜む大きな魔物の気配をネネが察知した。
つまり『溶岩川』は一つのエリアであり、そこには【領域主】も居るという事だ。
しかし相手は川の中。また釣らなければならないのか……そう危惧していたら、どうも今回は自分から出て来てくれたらしい。
我々が近づいた段階で、ワサワサと足を動かしながら地面に上がって来た。
連想するのは戦ったばかりのロッククラブ。
しかしロッククラブが胸ほどの体高であったのに対し、出てきたのは一軒家ほどの大きさを持つ蟹だ。
四本脚は鋭く、両手の挟みは非常に長く鋭利。背中には岩山のような″殻″を背負っていた。
「ヤドカリかよ」
ご主人様がそう呟いた。
そういう蟹が居るんですか?
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる