カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ

297:帰り道は寄り道気味に

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■イブキ 鬼人族サイアン 女
■19歳 セイヤの奴隷


 謎の祠における事件は私たちの心に暗い影を落とした。

 幸いにも瘴気によるダメージは神聖魔法で回復出来たし、後遺症のようなものもない。
 ご主人様が<カスタムウィンドウ>で全員のステータスを確認したが、特に悪影響は見られなかったらしい。
 やはり至近距離で瘴気を浴びたが故に、その時だけダメージを受けたと見るべきなのだろう。


 とは言え、色々と不可解な点が積み重なり、どうにも四階層探索を続けようという気にならない。

 モチベーションは一気に下がったと言える。目の前に四階層の終着地点と目される『火山』があると言うのに、だ。


 なぜ【邪神の魂】がこんな所にあるのか。
 本当に二体の竜が封印の鍵となっていたのか。
 あの瘴気は何だったのか。なぜカオテッドの地表にまで漏れ出たのか。

 分からない事が多すぎるし、【邪神の魂】という物騒すぎるものを入手してしまったからには、落ち着いて探索など出来る状態ではないのだ。

 早く戻って本部長に報告、もしくは誰かに相談したい気持ちがある。ご主人様も我々も。


 その一方で、誰にどう相談すればいいのか、相談した所で解決出来る問題なのか、いや無理じゃね? むしろ本部長とかに怒られるんじゃね? という疑念・危惧がある。


 というわけでご主人様は″消極的撤退″とも呼べる手を打った。


 普通に帰るのならば真っすぐ四階層の入口方向、つまりは『廃墟の街』方面へと向かう所。
 我々は火山を右手に見て、進路を西にとった。

 つまりは『溶岩川』に沿って帰ろうと。

 まだ探索していないエリアだし、帰るついでに探索して行こうというわけだ。当初の予定でもあったしな。
 火山から流れ出る溶岩は、亀の住む『溶岩湖』までいくつもの川を成している。
 その中の本流と呼べそうな大きな川沿いに下る。

 真っすぐ早く帰った方がいいのでは? という意見もある。
 せっかくここまで来たのに探索不十分でいいのか? という意見もある。
 モチベーションが下がった状態でただ帰るのも辛いという意見も。

 それらを考慮しての消極的撤退。『溶岩川』の探索。

 これが正解かは分からないが、私としては気持ち良く探索を終えたいという気持ちが強い。
 何となく邪神に探索の邪魔をさせられて嫌々撤退しなければならないような気分だったからな。

 これで『溶岩川』を探索出来れば、四階層で残っているエリアは、おそらく『黒い山岳地帯』(【氷晶竜】の住処以外)と『火山』だけになるだろう。

 そういう意味ではキリも良いし、四階層の七~八割が探索出来たという成果もある。

 もっともどのエリアも探索不十分な感じはするが。魔法陣の見落としとかな。
 エメリーのマッピングを見てもかなり埋まってきた感はある。


 結局この日は『溶岩川』の近くまで進み、キャンプを張った。
 落ち着いた所で改めて、夕食時でもやはり祠の一件が話に出たが、皆の意見も様々。憶測の域を出ない。
 正解など誰にも分からないのだから当然なのだが。
 一番事情に詳しそうなシャムとマルでさえ全く分からないのだから。


「シャムシャエル、地上に戻ったら神聖国に報告するんだろ? ラグエルさんは何か分かりそうかな?」

「何とも……ラグエル様が聖典に載っている以上の情報を持っているのか、正直分からないでございます。ラグエル様ご自身はミツオ様の聖戦に参戦していないはずですので」


 一万年前の聖戦を体験していれば瘴気の事も分かったかもしれない。
 邪神が倒された現場を見ていれば『魂』がどうなったのか分かるかもしれない。
 その時に生きていた女教皇でさえ又聞きだとすれば、確かめる術はないのだろう。


「いずれにせよ何かと知っている可能性が一番高いのはラグエルさんなんだ。相談しないって選択肢はないだろ。なんだったらシャムシャエルとマルティエルが直接報告に行くのも手だ」

「ご主人様は神聖国を嫌悪されていると思いましたが……」

「そりゃ嫌だよ。俺は近づきたくもない」


 ご主人様の女神様嫌いは筋金入りだな。
 今に始まった事ではないが。


「でもさすがに事が事だからな、相談はすべきだ。というか<インベントリ>に入れっぱなしの状況が嫌だ。気持ち悪い。何とか出来るなら何とかしたい」


 さすがに【邪神の魂】を常に携帯しているのは嫌らしい。それはそうだろう。
 我々からすれば一番安全な保管手段ではあるが、当のご主人様からすれば堪ったものではない。
 最も相談した所で何とか出来るのかは不明なのだが。


 ともかくその日はそれで終わり。
 そして探索九日目、私たちは『溶岩川』を適度に探索しつつ、『溶岩湖』へと目指す。


 『溶岩川』は本流と呼べそうな大きな川と、そこから枝分かれしたいくつもの支流で出来ている。
 支流は分かれた後に本流に合流したり、湖に繋がっていたり、池に流れ込んだりと様々だ。
 私たちは支流を避けつつ、飛び越しつつ、本流沿いに進む。

 昨日までと打って変わって明るすぎる景色。熱も相当あるのだろう。
 魔物も溶岩に適したものばかりが飛び出して来る。

 ラーヴァゴーレムから始まり、『溶岩池』でも見たロッククラブ、空からは伝書鳥ほどのサイズの燃える鳥が襲ってくる。
 『溶岩池』に居た、溶岩を撃って来る魚の成体なのか、『溶岩川』の上流には大きな魚も泳いでいる。
 ご主人様曰く「サメ」と言うらしい。真っ赤な背ビレを出しながら川を泳ぐ。


「溶岩弾を撃ってくるか分からないが、多分噛み付いてくるぞ。川の近くは警戒しろよ」

『はいっ』

「ご主人様、釣れました」

「お前いつの間に……ナイスフィッシング」

「恐縮です」


 エメリーはそのサメを釣っていた。また鎖付きショーテルで。
 その分だとまた<釣り>スキルか何か生えるんじゃ……え? ああ、すでに持ってる? そうか……。

 しかしせっかくジイナに造ってもらった魔竜曲剣も釣りばかりに使われては、いくらなんでも鍛治師が泣くのでは……。


「うひょおおお! すごいッ! 魔剣すごいッ! ほら見て下さいよこれ!」


 ……うん、鍛治師はそれどころじゃなかったわ。

 昨日はさすがに魔剣どころでは無くなってしまったが、今日は探索という事もあり、存分に試しているらしい。

 ジイナが下賜された【魔剣マティウス】は斧型の魔剣。大きく鋭い両刃のついた、両手持ちの斧だ。
 それは【氷の魔剣】と呼べるものだと思う。
 【氷晶竜】の住処にあったから【氷の魔剣】なのかは分からないが何も関係がないとも思えなかった。

 仕様自体は私の【魔剣イフリート】と非常に似ている。単純と言い換えてもいい。
 魔力を籠めれば斧の刃に氷が纏わりつき、ただでさえ大きな刃が二倍ほどに大きくなる。
 私の炎と違い、ビキビキと氷が張っていく感じなので、瞬時に大きくなるというわけではないが。

 その刃を持って斬りつければ斬撃+氷ダメージ。
 それどころか刃を当てた箇所の周辺をまとめて凍らせるらしい。
 試しに地面を斬りつければ、前衛で並ぶ私の足元まで凍った。

 パーティー戦闘の最中でこれをやられると非常にまずい。下手すると六人パーティー全員が身動き取れなくなる。
 もちろんジイナ自身の足元も地面に張り付けられていた。

 魔力を籠めるのを止めれば周囲に張られた氷は消えるらしいのでリカバリーは出来るのだが、足が止まる事には変わりない。

 ご主人様からも使い方については注意を受けていたが、これは私も散々受けた事だ。
 まったく【魔剣】というものは強力である反面、使い方を誤れば自分も味方も被害に遭う、非常にピーキーな性能ばかりだな。

 エメリーの【魔剣グラシャラボラス】は最たるものだと思うが。
 自分も味方も被害を出さずに振り回せるのはエメリーくらいではないかと思う。
 少しでも刃との間合いを間違えれば自分に″腐蝕″の大ダメージだ。


 ともかくそんなわけでジイナは慣れと<斧術>の習得を目論んで、【魔剣マティウス】ばかり使っている。
 その結果、常にハイテンションであり、非常に五月蠅い。

 四階層――特に『溶岩川』の魔物には総じて相性が良すぎる・・・・のもハイテンションの要因だ。
 好調が好調を呼び、絶好調のままジイナ無双となっている。


「調子のってんと取り上げるからなー」

「す、すみませんっ!」

「<斧術>の習得が最優先だからなー。魔力籠める必要ないぞー」

「はいっ!」


 適度にご主人様が諫めているが、どうせすぐまたテンション上がるんだろうなー。ジイナだし。

 そう諦めながらも、実際には探索が早く進むので、帰り道と考えればこれもアリかと思う。
 ネネたち斥候もそれほど広範囲の探索はせず、通り道にある魔法陣や魔物のみを注視するようにしている。
 あくまで「帰り道のちょっとした探索」という程度だ。


 そんな折、やはりと言うべきか『溶岩川』の中に潜む大きな魔物の気配をネネが察知した。
 つまり『溶岩川』は一つのエリアであり、そこには【領域主】も居るという事だ。

 しかし相手は川の中。また釣らなければならないのか……そう危惧していたら、どうも今回は自分から出て来てくれたらしい。

 我々が近づいた段階で、ワサワサと足を動かしながら地面に上がって来た。


 連想するのは戦ったばかりのロッククラブ。
 しかしロッククラブが胸ほどの体高であったのに対し、出てきたのは一軒家ほどの大きさを持つ蟹だ。
 四本脚は鋭く、両手の挟みは非常に長く鋭利。背中には岩山のような″殻″を背負っていた。


「ヤドカリかよ」


 ご主人様がそう呟いた。
 そういう蟹が居るんですか?


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