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第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ
303:黒屋敷、いつもの夕食報告会
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
探索から帰っての翌日。皆がそれぞれに慌ただしく動き、その報告を兼ねた夕食は長引いている。
まずは方々に挨拶回りという事で、いつもの如くポルは南東区のコゥムさんの所へ庭と畑の手入れのお礼に。
ドルチェは実家の『ガッバーナ服飾店』へ。こちらは博物館用の制服と、侍女服のコスプレで相変わらず忙しいらしい。
なぜか俺の喪服まで売れているそうで意味が分からない。放っておこう。
ウェルシアは昨日のうちに博物館へと行き、特に問題がなかった事を確認している。
但し今回の探索でゲットしたドロップ品を展示したいので、それをどうするかは要相談。
合わせて昨日のうちに傭兵組合にもホームの警備終了の旨を伝えており、ズーゴさんたち【八戒】の面々は博物館の警備へと戻った。
なんかずっとウチが拘束しているようで申し訳ない。
本人たちはウチの訓練場が使えればそれでいいとは言っているが、何かしたほうがいいだろう。
博物館の話の中でサロルートが博物館の常連になっている事が判明し、何やら調子こいてアドバイザーめいた事を言っているらしい。
セシルさんにはウェルシアを通じて無視するよう言っておく。
何かあれば直接俺に言ってこいと。まぁ黙らせるつもりではいるが。
ともかく博物館の展示を優先させたいとは思っている。
説明ボードも含めてやろうと思えば完成は速いだろう。ガラスケースも<インベントリ>にあるし。
配置が悩ましいが、改装は閉館時間後にするつもりだから、案だけ決めておいてあとは実際に配置しての様子だな。
「という事でウェルシアはセシルさんにそう伝えておいてくれ。三日後くらいかな」
「承知しました……が、博物館を優先していて宜しいのですか? 戦争や【邪神の魂】に関しては……」
「あー、そうなんだけどなぁ……」
正直、そっち方面は考えたくないという気持ちが強い。
楽しい博物館展示の方に集中したい。
いや、【邪神の魂】をいつまでも<インベントリ>に入れておきたくない気持ちは強いんだが。
そこから本部長とメルクリオとの報告会及び相談会の話をした。
探索の報告としては組合員証に竜殺しの記載がされる事と、ダブって尚且つ装備にも使わなそうなドロップ品を売ったくらいだ。
例えば【甲多頭蛇の牙】とかトロールキング素材が大量に、とかな。
本題はやはり【邪神の魂】についてなんだが、今後に四階層の調査を依頼された事くらいしかない。分からない事が多すぎる。
本部長……というか組合としては何をどうする事も出来ないので現状維持としながらも調べられるものならば調べたい、くらいにしか言えないのだ。
問題は俺が持っている【邪神の魂】をどうするか、という事だがこれもまたいい案がない。
神聖国はおそらく無理。魔導王国にも封印技術はなく、研究所で作るにしても相当な年月が掛かる。
こちらも現状維持と言うか、俺の<インベントリ>が一番安全だろうという結論。
「ただメルクリオからも指摘されたが、俺が死んだ場合に<インベントリ>の中身がどうなるかという疑問がある。仮に中身をぶちまけるような事になれば目も当てられない」
「ご主人様が死ぬイメージがないのですが……」
「いや、俺、基人族だからな? 寿命七〇年くらいだから」
みんな忘れてないよな? 俺が基人族だって事。
みんなが考えているよりも速攻で老いるからな?
天使族からすれば基人族の一生なんて一瞬だから。
と言っているとイブキが疑問を口に出す。
「以前から思っていたのですが、その、ご主人様は本当に基人族なのでしょうか」
「ん? どういう事だ?」
「元いらした世界ではご主人様と同じ『人間』という種族しか居ないと聞きました。『人間』というのが『基人族』と似ているが故に、ご主人様は基人族を自称しているのかと」
「元の世界の『人間』にしても寿命は変わらないぞ? 能力も多分同じでかなり弱いはず」
「でしたら、それこそ女神様が転生なさる時に寿命も変えた可能性はありませんか?」
うーん、女神とのやりとりではそんな話はなかったけどなぁ……。
何かしら俺の身体を弄るなら、そう言いそうだし。「ついでに寿命も伸ばしておきましょう」「ぎゃあああ!!」って具合に。
「シャムシャエル、ちなみにミツオ君は寿命で亡くなったんだろ? 何歳まで生きたのか分かるか?」
「ミツオ様は享年七五歳とお聞きしております。聖戦以降は五〇年以上を神聖国で過ごされたそうですが、ラグエル様はやはり『あっという間だった』と」
「という事は俺も同じように寿命が弄られているって事はないんじゃないかな」
正直、七五歳まで生きられたら俺としてはスゴイ事だと思うけど、みんなからすれば若すぎるって感覚なんだろうな。
みんなを置いて先に逝くってのは嫌だが、こればかりはアジャストしようがないとも思う。
しかしイブキは食い下がる。
「私も皆と同じでご主人様が亡くなるイメージというのが沸かないのです。誰より高いステータスを持ち、大司教を上回る神聖魔法の使い手も身近に居る。薬に関してもユアがすでに最高級ポーションを作れますし、今後霊薬をも作れるようになるでしょう。この状況下で……たった七〇年そこそこで亡くなるとは……」
なんかイブキが泣きそうになってる。つられて悲し気な顔を見せる侍女もちらほら。
嬉しい事ではあるが、どうにかなるものでもないという気持ちもある。
しかし主人としては前向きに言うしかない。悲しませるわけにはいかない。
「言われてみればそうかもな。寿命ってのは多分、細胞の機能が正常に作動しなくなるって事だろう。であるならば鬼人族より強い俺がそうそう死ぬとも思えない。細胞の回復にしたってサリュたちが回復したり、霊薬でも飲み続ければ、基人族であっても長生き出来るかもしれないな」
「ご主人様っ!」
そもそも″老い″のメカニズムも俺はよく分かっていないんだが、ぶっちゃけ<超位回復>掛け続ければ老いないんじゃないかとも思っている。
ただそんな事すれば不老不死がうじゃうじゃ居る世界になりそうだし、ないだろうとも思うけど。
もしかしたら魔力とかも絡んでいるのかもしれないしな。そうなると元の世界の医学なんてお手上げだ。
と、そんなフォローをしたら、みんな元気になったらしい。
ただ回復役が話し合って神聖魔法を掛け続けようだとか、ユアに霊薬を作らせようとか言い出したので、とりあえず落ち着かせた。
ユアはさらなるプレッシャーが掛かり、すでに泣きそうになっている。
「ともかく寿命云々の話は置いておいて、【邪神の魂】と戦争についてだ。やっぱり各国に話は通しておいた方がいいのか、とも考えている」
戦争の話が出た時に、各国――樹界国・海王国・神聖国・魔導王国の援助を頼もうかとも考えたが、今以上に大っぴらに「勇者様!」「女神の使徒様!」と騒がれそうなんで嫌だったんだよな。
だからこっちだけで処理したかったという事もある。
しかし【邪神の魂】なんてものを手に入れた手前、それこそ俺の寿命の事を考えれば言っておかないわけにはいかない。
だからこそメルクリオに相談したわけだが、魔導王国以外の国に黙っているわけにもいかないだろう。
万が一、【邪神の魂】が<インベントリ>から出る状況になって、それが魔族の手に渡れば邪神が復活するかもしれない。
実際に【ゾリュトゥア教団】は邪神復活を謳っていたわけだし。
で、各国に話すついでに封印の手掛かりについても探ってもらう。<インベントリ>以外の封印手段を。
どっちかと言えばそれを頼む方が俺的にはメインになるが。
さらに、そこまで話しておいて戦争の事は言わないとかありえないだろう。
カオテッドという街でくっついている以上、どの国も――神聖国以外は隣国なんだから。
獣帝国が領土侵犯を目的とした侵略戦争を起こすならば、言わないわけにはいかない。
だからそれも話しておいた方が良いかな、と思っていたのだが……。
「ご主人様、申し訳ありません。勝手ながらその件はすでに樹界国に……」
「私も海王国に言ってあるわよ? 海王国だって獣帝国と繋がってるんだから」
「申し訳ございません、私もとっくに神聖国に報告済みでございます……」
なん……だと……?
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