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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
324:森に囲まれ、泥にまみれ
しおりを挟む■シャムシャエル 天使族 女
■5043歳 セイヤの奴隷 創世教司教位
「<聖なる閃光>!!!」
防衛陣を布いた神聖国軍とは別に、私とマルティエルは遊撃として飛び回り、ひたすら<聖なる閃光>を撃ち続けています。
魔族の空軍はすでに神聖国軍とぶつかり合い、飛魔族の爪が天使族の前衛へと襲い掛かっている状態。
どちらかと言えば天使族は防御・防衛が得意な種族ではありますから、私と同じように中盾を構えた最前衛が防ぎながら、後衛が神聖魔法を放つという戦法で臨んでいるようです。
しかし、狂心薬を飲んでいるであろう飛魔族の攻撃力と機動力は神聖国軍にとって未知なる強敵のはず。
実際に圧されている所もありますし、負傷した傍から回復を受けている者も居るようです。
さらには魔族後衛の妖魔族と幽魔族の魔法が意外と厄介。
元々戦闘系種族ではないものの、闇魔法で神聖魔法を軽減させたり、邪魔したりといった事に終始しています。
あくまで主力は飛魔族。それを活かす為の戦いという事なのでしょう。
私とマルティエルは前衛も後衛も同様に狙いたい所。
ですので、とりあえず数を減らそうと<聖なる閃光>で攻めているわけです。
かなり打ち落としたはずですが、それでも空の″黒″が晴れる事はありません。
そして眼下を見れば、どこも苦戦の模様。
空からはそれがよく分かります。
泥魔族に対するフロロさんたち、樹魔族に対するヒイノさんたちは言わずもがな。
空の戦いと同様、大軍相手にはとても厳しく思えます。
私たちの方は神聖国軍が居るだけマシだとは思いますが。
唯一ノーマークだったミーティアさんにも男爵級悪魔族が全て向かいました。
悪魔族の中では最下級とは言え、狂心薬を飲んだ状態の敵を十五体。
さすがのミーティアさんも辛そうです。近距離で『神樹の長弓』を使っているようですが。
サリュさんとネネさんも骨頭の悪魔族を相手に【敏捷】に飽かせた戦いをしているようですが、どうもすんなり終わってくれる雰囲気ではありません。
誰かが戦いを早く終わらせ、どこかの援軍に入るのがベスト。
最もそれに近いのは中央で戦っているエメリーさんたちでしょう。
最上級の公爵級とは言え、一対一で戦っているのですから決着も早いはず。
私にはエメリーさん、イブキさん、ツェンさんが負ける想像など出来ませんし。
しかし気になるのはご主人様です。
相手が誰であろうが、一番早くに敵を片付け、援護に入ると思われましたが……どうも苦戦しているご様子。
正直、ご主人様が苦戦するというのが信じられません。
相手が【剣聖】ガーブであれ、風竜であれ、単騎で打ち勝てるのがご主人様です。
だと言うのに、勝負が終わる気配さえ見えない。
一体何を相手に戦っているというのでしょうか……詳しく見ている暇はないのですが。
そうです。私も暇などないのです。
考えている暇があれば一発でも<聖なる閃光>を放ち、一体でも多くの魔族を落とさなければなりません。
集中しましょう。そして信じましょう。ご主人様と皆さんの事を。
■ユア 人蛇族 女
■18歳 セイヤの奴隷
ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
私はヒイノさん、ティナちゃん、ラピスさん、パティちゃん、リンネさんと共に、樹魔族の軍勢と戦っています。
とにかく<火魔法>を撃ちまくって数を減らさなければと。
ご主人様に<カスタム>して頂いた【魔力】【MP】【体力】に加え、私が作成したMPポーションもマジックバッグに詰め込み、魔力切れを気にする事なくただ魔法を放ちます。
森のような樹魔族は私とラピスさんの魔法だけでは抑えきれず、すでに私たち六人の近くまで迫っています。
ティナちゃん、パティちゃん、リンネさんは遊撃として突貫済み。
ラピスさんもそろそろ魔法から槍に切り替えようかという頃合いです。
私はヒイノさんに守られつつ、とにかく魔法。
前衛の人たちには<身体能力向上>を掛けてあります。
そもそも<火魔法>に能力向上魔法はそれくらいしかありませんし、あとは攻撃魔法で敵を倒すのみです。
狙いはどこかとか、優先順位とか考える暇もありません。
魔物部屋に入った時のように、とにかく撃つ。そうすればどれかしらに当たると。
相手は魔族ですから神聖魔法が効くのでしょうが、意外と<火魔法>でも効果があると分かりました。
やっぱり樹みたいな見た目のせいでしょうか。
とは言え後衛の淫魔族が闇の壁とか邪魔してきて困りますが。
しかし強化されているであろう樹魔族でも魔竜剣で倒せると分かって良かったです。
作成に携わった身からすれば、魔竜剣で倒せないって事になったらやっぱりショックですし。
さすがにパティちゃんやリンネさんが一撃で倒すのは難しいようですが、それでもビュンビュン動いて倒して行っています。
ティナちゃんは絶好調です。
この中だと一番倒しているんじゃないでしょうか。
正直、慣れた私であっても目で捕らえるのが困難なほど動き回っています。
「少し下がります! ティナ! あんまり突っ込みすぎないで!」
ヒイノさんからの指示。立派にリーダーして下さっています。
巨体の樹魔族がどんどんと倒されていくので戦いにくくなってくるんですよね。だから下がると。
ご主人様がいらっしゃれば<インベントリ>で回収も出来るんでしょうが、そうもいきません。放置されたままです。
「ヒイノさん右っ!」
「大丈夫よ! ありがとう、パティちゃん!」
突然足元から生えて来た根っこが鞭のように襲い掛かって来ましたが、ヒイノさんは難なく防ぎ、逆に魔竜剣で斬りました。
パティちゃんは自分が戦っていながらこちらも察知で警戒していたようです。ヒイノさんも<危険察知>で分かっていたのでしょう。
私の<温度感知>は……使ってすらいませんでしたが。
ともかく樹魔族は両手の枝みたいな手も伸ばして薙いできますし、足の根っこも伸ばして攻撃してきます。
どれも強そうな攻撃に見え、おそらく私が受ければこの侍女服であってもダメージを受けるでしょう。
しかし皆さん、それを防いだり逆に斬ったり、難なくやっているように見えます。リンネさんでさえ対応出来ているような……。
……やはり私が一番戦いに向いていないのですね。分かっていましたけど。
……ああ、大人しく工房に籠って錬金していたい。
ハッ! ダメです! そんな事考えている場合じゃない!
とにかく<火魔法>を撃ち続けないと!
「フ、<炎の破城矢>!!!」
■ドルチェ 針毛族 女
■14歳 セイヤの奴隷
「ドルチェ! 一体左から抜けて来るぞ!」
「了解です! おりゃああああ!!!」
――べちゃああ
「ひゃああああ! <洗浄>を! <洗浄>を下さいっ!」
「いちいち洗ってる暇などないわ! そんな余力があれば魔法を撃つに決まっておろう! <岩礫連弾>!」
フロロさんに怒られながらも泥魔族を抑え込み、魔法で倒して貰います。
倒すにしても魔法が当たると『びちゃああ』ってなるので至近距離は止めて欲しいんですけど。
まぁそんな事言ってられる状態じゃないんですよね。
泥魔族は襲ってくる泥の山。しかもとんでもない群れ。
最初こそウェルシアさんとポルさんの<氷魔法>で凌いでいましたが、さすがにこれだけの数を防ぐ事は出来ません。
動きは遅いんですが、質量のある泥の手を叩きつけてきたり、そのまま突進してきたりと厄介です。タフさもありそうです。
で、至近距離まで詰められて、こっちはある程度下がりつつ、距離は離さずと戦い続けています。
私はと言えば、後衛のフロロさんとアネモネさん、ウェルシアさんを守るという役割に終始するしかないわけで。
槍で突いても相手は泥ですしね。どこを攻撃すればいいのか分かりません。
魔竜槍の魔法の方がまだマシですけど使えるの<風の槍>だけなんですよね……せめて<暴風の嵐>にしてもらえば良かった……というのは後の祭りです。
というわけで攻撃はほぼ皆さんにお任せして私はひたすら守っています。
これでも【黒屋敷】のメイン盾役ですからね! やってやりますよ!
その攻撃ですが、メインアタッカーはやはりジイナさんです。
【氷の魔剣マティウス】は泥魔族に対してかなり効いている様子。相性だけ見れば他の御三方の魔剣より泥魔族に向いているのかもしれません。
ご主人様はそれを見越して配置したのでしょうか。さすがです。
ジイナさんに隠れるように実はポルさんも活躍しています。
<氷魔法>は言わずもがな。接近戦でも【不死王の鍬】で泥の敵を耕し、削り取ったかと思えば<逃げ足>で回避する。
魔法剣士のお手本のような戦い方です。武器はアレですけど。
とにかく接近されてもお二人に攻撃はお任せ。遠距離は魔法にお任せと。
魔法にしてもウェルシアさんの<魔力凝縮>が本当にえげつないですからね。威力とか範囲とか。
どうやら【瞑想の指輪】でもMP回復が追いつかないらしく、MPポージョンガブ飲みしてますけども。
じゃあ安定しているのかと言われると……押し込まれているのには違いないと思います。
やっぱり次々に巨体が迫ってくると抜けが出ますし、一体でも近くに来れば下がらざるを得ません。
盾も私一枚だけですから、二体目が来るとまずいです。
出来ればどなたかに援軍に来て欲しいんですが……。
「ドルチェ! 次は右だ!」
「は、はいっ! おりゃあああ!!! ――ぎゃああ<洗浄>! <洗浄>を!」
「泥まみれは諦めろ! 盾役の宿命だ!」
そ、そんなぁ……。
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