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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
326:泥と森、変化を見せる戦場
しおりを挟む■ポル 菌人族 女
■15歳 セイヤの奴隷
もう泥まみれで嫌になります。
凍らせても凍らせても、次から次へと襲い掛かる泥の山――泥魔族という魔族らしいです。
ウェルシアさんが遠目の敵に撃ちまくってますし、近くの敵はジイナさんが凍らせています。
私も氷魔法を撃ちつつ、近くによってくれば【不死王の鍬】で耕すと。
柔らかいからザクッといけるんですが、巨大な泥山ですからね。汚れがひどい。
どうやら身体の中心に硬い核のようなものがあり、それを砕けば死ぬようです。あくまで近接で倒そうとした場合、ですが。
ジイナさんも魔剣で凍らせている現状、そうやって倒すのは私くらいのもので、鍬を深くに突き刺す必要があるから余計に汚れます。
これ<洗浄>だけで落ちる汚れなんでしょうか。
あとでエメリーさんに怒られそうで怖いです。
ちなみにこの泥は農耕に使えるんですかね?
魔族の身体を形成する泥ですから魔力とか豊富に含んでそうですよね。
出来れば少し持ち帰ってコゥムさんに見せたい所ですが。
「おおおぉぉぉぉぉおおおお!!!」
「おっと、<逃げ足>」
私より動きは遅いので避けるのは楽なんですが、いかんせん巨大ですから攻撃範囲も広い。
大事をとって<逃げ足>ばかり使っています。おかげで被弾はないですが泥がビシャンとなるのが嫌です。
何と言うか、この魔族は弱いと思うんです。狂心薬を使っているそうですが、それでも私たちの方が圧倒的に強いかと。
じゃあなんで下がりつつの防戦気味になっているかと言えば、やっぱり質量の大きさと物量の多さ。
アネモネさんとフロロさんが吹き飛ばし、ウェルシアさんが大魔法を使っても次々に向かってきます。
結局はドルチェちゃんとジイナさんが接近戦、私はどっちにも参戦と、こんな感じになっているわけです。
ついでに言えば最後衛に居る淫魔族も闇魔法で邪魔してきます。
これはウェルシアさんが広範囲魔法を使う事でかなり数を減らしていますが、泥魔族も放っておけない為、殲滅とまでは至っていません。
数は減らしているけれどジリジリ押される感じ。
なんとか打破したいと思っていた所で、待ち望んだ援軍が来ました。
「待たせたな! 参戦するぞ!」
中央部で戦っていたツェンさんが来ました。
こちらの六人は歓迎ですが、すかさずフロロさんから指示が飛びます。
「ツェン! よお来た! 前衛を頼む! 泥魔族を近づけさせるな!」
「オッケイ、任せろ!」
「ツェンさん! 泥魔族の身体の中心に弱点があります! そこを壊せば倒れます!」
「泥の中かよ……殴って届くのか、これ?」
ツェンさんなら殴っても届くと思いますけど、確実に泥まみれですね……。
<空拳>とか魔竜拳とかで何とかならないでしょうか。
そうしてこちらの士気が上がった所で、魔族側にも動きがありました。
後方に居た指揮官級の悪魔族が空を飛んで前線へと来ます。
さすがに業を煮やしたといった所でしょうか。
渦巻きのような顔をした悪魔族。
男爵級ではないでしょうから、それより上。子爵か侯爵でしょうか。
手には大剣のような曲剣を持っています。
どう対処するか、考えるのは数瞬。フロロさんはすぐに指示を出します。
「ジイナ! 汝に任せる! ツェン! ジイナが抜けた穴に入れ!」
「わ、私ですか!?」「おうっ!」
「一番攻撃力があるのはジイナなのだ! この場を任せられたのは我らなのだぞ!? 助っ人のツェンにこれ以上出しゃばらせるつもりか!? さっさと倒して来い!」
「は、はいっ!」
慌てながらジイナさんが向かって行きました。一対一で戦わせるようです。
さすがに泥魔族の群れと同時に悪魔族は戦えないですよね。
ツェンさんもすでに公爵級を倒しているんでしょうから、出来れば私たちの誰かで倒したいと。
そうなるとウェルシアさんかジイナさんでしょうが、魔法使いに一対一をさせるのも厳しいですからね。
まぁトロールキングとは一対一で戦ってましたけど。多分トロールキングより強いでしょうし。狂心薬を飲んだ悪魔族ですからね。
やっぱりジイナさんで正解だと思います。うん。
そっちはジイナさんにお任せして、私はツェンさんと、ジイナさんの穴埋めをしましょう。
■パティ 小人族 女
■13歳 セイヤの奴隷
想像してみてくれ。
森に入ったら周りの木々が全部エルダートレント。枝やら蔦やら根っこやらの集中砲火。
伐ろうと思ってもトロール並みに硬い。そんな木だ。
つらい。
樹魔族数百体というこの群れに対し、あたいたちは六人。
それもユアさん以外はほぼ近接主体の為、群れとぶつかり合っての剣戟で倒していくしかない。
ラピスさんは中衛と言うか、魔法も槍も使えるけど、完全にぶつかり合っている今となっては槍ばかりだ。
樹魔族の攻撃はとにかく手数が多い。それと攻撃範囲も広い。枝とか伸ばすから。
両手の枝のような指を伸ばし、薙いで来れば、それは複数の鞭を同時に操っているようなもの。
とは言え動き自体は遅いし、あたいには<危険察知>も<気配察知>もあるから避ける事は出来る。
避けるついでに魔竜短剣で斬る事も出来る。まぁすぐに復活と言うか、伸びて来るんだけど。
ともかくその鞭のような攻撃を掻い潜り、胴体と言うか幹と言うか、身体に攻撃を与えなくてはいけない。
となると短剣というのが厳しいんだよな。あたいの場合。
さすがにジイナさんとユアさん合作の魔竜短剣は強力だから、斬る事も突き刺す事も出来る。でも届かない。
だから突き刺した状態で<風の槍>を撃つか、適当に滅多切りするか、誰かにとどめをお任せするかしかない。
正直突き刺した状態での<風の槍>でも、それで倒せるというわけでもないので任せる事が多いのだが。
今にして思えばもっと強力な魔法を撃てるようにしてもらうべきだった。もう遅いけど。
というわけであたいは遊撃らしく、動き回っては斬りつけ、皆のサポートに徹した方が無難だろう。
「よーっし! 次のヤツに行くネ!」
近くに居たリンネさんが吠えつつ、両手のショーテルを構える。
何気にリンネさんの方が、あたいより倒してると思う。双剣ショーテル、意外と強い。
覚えたばかりの<チャージ>というスキルも有用らしい。
これは牛角族には覚えやすいスキルらしいが、要は突進して攻撃力が上がるようなスキルだ。
リンネさんは枝を斬りつつ、<チャージ>で胴体に突進し、ショーテルを叩きつけるように斬っている。
当てられた樹魔族が飛ばされるような突進だ。相当な威力だろう。
「ティナ! そっちの三体倒したら逆側に回って! 向こうが薄いわ!」
「はーい!」
リンネさんも確かにすごい。ラピスさんも魔法に槍に活躍している。ユアさんもずっと大魔法を連発している。
でもこの中でのエースはティナちゃんだ。異論は誰も認めないだろう。
元より侍女の中では【敏捷】が師匠に次いで速かったのだから、あたい以上に危なげなく戦っている。それは分かる。
しかし<流水の心得>が原因なのか、訓練の成果なのか、動きがおかしい。
双剣となってから、それまでの直線的な動きではなく、まさしく流水の如く。
捉えどころがなく、そこから生まれる剣戟は以前よりも遥かに攻撃力が増しているように見える。
動きが原因なのか、武器が原因なのか、<カスタム>が原因なのか分からないが。
とにかくティナちゃんが縦横無尽の活躍を見せているので安定しているのは確かだ。
樹魔族は巨大だしタフだし、魔物部屋のように一撃で倒すのを繰り返すというわけではないけど、それでも着実に倒していっている。
逆に言えば、それだけ倒しても迫られている状態という事でもある。
やはり数は脅威だ。森を相手に斬り続けた所で、全ての木々が斬れるわけでもない。
結局、ヒイノさんもユアさんの安全を考えてか、徐々に下がる形となってしまっている。
どうするべきかと考えていた所で、敵味方共に動きが見えた。
まず敵後方に居た指揮官と思われる魔族――ブツブツした顔のヤツが飛びながら前へと出て来る。
これだけ樹魔族を倒されたのが気に入らないのか、直接手を下しに来た。
「どうするヒイノ!? 私が行ってもいいわよ!」
「ラピスさんはユアちゃんと共に後衛の淫魔族にも魔法を撃ってもらわないと困ります! ティナ、行ける!?」
「うんっ! 私が行くよっ!」
「頼んだわよ! さっさとやっつけちゃって!」
ヒイノさんは我が子を指揮官に当てた。過保護なヒイノさんらしくない判断だとも思うが、魔法担当がユアさんとラピスさんしか居ない現状でラピスさんが居なくなる方が厳しいと思ったんだろう。
あたいたちの魔竜剣じゃ淫魔族までは届かないしな。
相手は見るからに強敵。だからこそエースのティナちゃんに任せるしかない。
しかし今度はこちらの攻め手が少なくなる……と思っていた矢先に吉報が入る。
「遅くなった! 加勢する!」
「イブキさん! 前衛を任せます!」
「よし! 任せろ!」
中央部で戦っていたイブキさんが来てくれた。百人力だ。
すでにヒイノさんと並んで樹魔族に攻撃をし出している。
戦術理解度や連携はもちろんなんだろうけど、やっぱり【炎の魔剣イフリート】が強い。樹魔族に刺さる。
これでティナちゃんが抜けた穴は埋まった。
あとはもう時間を掛けてでも減らしていくのみだ。
あたいも少しは貢献しないと! 師匠に怒られそうだし!
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