カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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after1:五人の新人侍女

1-11:五人娘、はじめての博物館

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■キャメロ 猫人族キャティアン 女
■16歳 セイヤの奴隷


 南東区から戻り、一度お屋敷に帰って昼食となった。
 昼食は毎度軽めとの事だが、出されたサンドイッチは相変わらず美味しい。
 昨日よりも感動はないけど、これがヒイノさんの作った白パンとソース、そしてポルちゃんの畑で採れたものが使われていると思うと先輩メイドの人たちへの感謝も加わってくるものだ。


 さて、食後の休憩もそこそこに博物館に足を運ぶ。今日のメインはあくまでそこだ。
 ご主人様、エメリーさん、マルちゃん、リンネさんも引き続き一緒に回ってくれるらしい。


「博物館とはどういうものかを知る事、カオテッド大迷宮がどういう所か予習する事。案内の目的はあくまでそこな」

『はい』

「まぁ人が多いだろうしじっくり見るってわけにはいかないと思うけど、なるべく時間をとって回るようにしよう」


 ご主人様にそんな事を言われつつ庭から外に出る。
 相変わらず行列は出来ていて、こんなに並ぶ価値のあるものが中にあるのか、と期待も膨らむ。
 クランで手に入れたドロップ品を見せているって話だけど、組合員でもない一般人がこれほど見たがる意味が分からないし。

 ご主人様が先頭で隣のお屋敷――迷宮博物館に近づくと、並んでいる人たちはザーッと道を開けてくれる。すごいな。この対応。
 入口には黒い外套を羽織った警備の人も居て、ご主人様に気付くと「お疲れさまです! どうぞ!」とまるで衛兵の挨拶だ。

 まるで国王様でも来たような感じ。いや実際【黒屋敷】には王族の人とか居るけど。ご主人様はそれより偉い『女神の使徒』様なんだけど。


 ともあれ人が多くても歩く先に勝手に道が出来る状況なので、思ったほど歩きにくくはない。
 博物館に入ればエントランス。正面が受付らしくやはり混んでいるようだ。
 そこへと近づく前にご主人様は天井を指さした。


「あれ、風竜の手の剥製な」

『おお!』


 いや、お屋敷のエントランスに尻尾がドーンとあったけど、手だってすごい。見入ってしまう。
 両手がシャンデリアを掴むように天井から生えているが、この大きさの竜をご主人様一人で倒したらしいし、昨日色々と話を聞いた上で見ると余計に感慨深い。ドラゴンステーキ美味しかったなぁ……。

 受付から針毛族スティングルの女性が出て来てご主人様と挨拶をしていた。
 どうやらセシルさんと仰る、ここの館長さんらしい。同時に商業組合の職員さんなんだとか。
 ボクたちも紹介してもらい挨拶を交わした。


 お客さんは受付でお金を払い、一日入館券というのをもらうそうだ。大体一人、安宿一泊分くらいの値段。
 ボクたちはさすがに払わず、そのまま右手の第一展示室と書いてある方へと向かう。
 その入口には大きく注意書きが貼られていた。ご主人様はボクたちにも同様に注意を促す。


「書いてある事はどの店でも似通ったマナーを守れとかそういう事だな。だが展示物に近づけば警報が鳴るし、触れば麻痺になる。くれぐれもふざけて近づく事のないように」

『は、はい』

「警報はうちの屋敷にも伝わるから警備の目を掻い潜って強盗でも入るようならネネとかが駆けつける手はずもしてある。まだないけどな。キャメロやケニはそういった事も今後習うかもしれないから覚えておいてくれ」


 つまりお屋敷の警備をしつつ、博物館の警備もすると。それが【黒屋敷】の斥候の役割でもあると?
 いやまぁ警備するのはやぶさかじゃないんだけど、ボクに出来るかなぁ……【黒屋敷】の斥候の人たちはみんな優秀だって言ってたし……。


『うわぁ』


 第一展示室に入るなりボクたちの声が上がる。お客さんも同じような人が多い。
 ドロップ品を見せるというから単純に素材が並んでいるだけかと思っていた。でもこれは全然違う。
 室内は若干暗く、展示物をよく見せるようにそこに集中して明かりが灯されている。何と言うか厳かな空間だ。
 道にはロープが張られ、そこを通るようになっており、ロープの向こう側は展示物。これに近づくと警報なのだろう。


 最初はカオテッド大迷宮の説明が大きな板に書かれており、新人や一般客の人はよく見ている。文章だけでなくスケッチもあって非常に読みやすい。
 ボクらもカオテッド大迷宮に入った事はないので、ご主人様からの説明を受けつつ食い入るように読む。
 これは勉強が苦手なカイナやコーネリアも一緒だ。やはり迷宮の事となると真剣。


「俺はカオテッド以外の大迷宮には潜った事がないけど、他に比べて広くて強いって印象らしいな。ここの三階層が他の四階層相当だとか」

「ダンバーより厳しいという事、ですか……」

「バルボッサ曰くそうらしいな。ダンバーじゃ四階層に行けたのにこっちだと三階層で足止めくらうって言ってたから」


 【獣の咆哮ビーストハウル】はダンバーの先駆者的な扱いだったんだけどな。
 いやまぁカオテッドでも数少ないAランクだから相当なんだろうけど、それでも苦戦するのがカオテッドだと。

 そうした説明に続いてドロップ品の展示に移る。どうやら一階層の領域主から順々に飾られているらしい。
 人が多いもののご主人様が歩けば人波が割れる。一方で、ご主人様がボクたちにする説明を一緒に聞きたいお客さんも居るようで、さながら集団討伐依頼で職員の説明に群がる組合員のようだ。
 ご主人様はあくまでボクたちへの説明って態度を一貫してるけどね。


 そうしてドロップ品の展示に入ったわけだが、思っていたものとだいぶ違う。
 黒い台座の上に飾られ、金属製のプレートで表記され、ガラスケースで囲われている。まさしく”お宝”だ。
 その横には説明用の板が置かれ、その魔物の特徴や大きさなど細かく書かれている。
 これは……組合で買う情報よりも詳しいかもしれない。許されるものなのだろうか。


「最序盤でゴブリンキングか……」

「地形も複雑、階層は広い。魔物自体は弱くても領域主が強力すぎるな」

「一階層でこれですか……私たちだけなら一階層の大空洞まで行けるかも分かりませんよ」


 ボクたち五人だけだとゴブリンキングには勝てないから回り道する事になるだろう。
 そうすると魔物の数と地形が厄介になってくる。いくらゴブリンでも数で迫られたら辛いものだ。
 ボクたちは頭の中で、自分たちならどうするかと想像しながら足を進めた。

 展示室は一階から二階へと部屋を渡っていくように作られている。一階層が終われば二階層、そして三階層へと。
 二階層は平原と森。一階層よりも広い。というか森林地帯が非常に多いから探索は困難だろうと一目で分かる。
 領域主の数も一階層の三倍。一番弱い領域主でもクイーンワスプやエルダートレントというふざけた布陣だ。


「三階層に通り抜けるだけならグレートウルフとウェアウルフロードくらいしか戦わないけどな」


 いやそんな軽く言われても……もうこの時点でボクらには想像出来ない世界なんですが。

 三階層はアンデッド階層だそうだ。二階層以上に広く、足元も悪いし、何より臭いがキツイとの事。
 ご主人様は本当にキレイ好きらしく、三階層の汚さを力説していた。領域主どうこうよりも泥と臭いが強敵だと。

 いや領域主もほとんど御伽噺の世界のばっかなんですけど。一番弱くてグレートモスとか……。
 三階層は領域主も雑魚の魔物も状態異常にしてくる敵が多いらしい。石化やら毒やら。そう聞くだけで無理だと分かる。
 ボクたちのパーティーには回復役ヒーラーが居ないからポーションで補うしかないけど、金銭的に限界がある。


「ドラゴンゾンビとかリッチは普通に戦うとかなり厳しいらしいな。うちにはサリュと天使組が居るから問題ないけど」

「サリュちゃん一人で三階層は無双できますネ」

「私なんておまけみたいなもんでござる」


 サリュちゃん――『白い忌み子』の評価はすこぶる高い。今度ちゃんとお詫びしないとなぁ。偏見もっちゃってごめんなさいって。
 しかしリッチ相手に無双出来る回復役ヒーラーって……どういう事? 回復役ヒーラーがメインアタッカー?


 そして展示室は四階層へ。ここは溶岩地帯らしく、雰囲気を出す為なのか室内の明かりが赤くなっている。
 四階層に単独クランで行けるのはSSSランクの【黒屋敷】とSランクの【魔導の宝珠】だけ。
 【獣の咆哮ビーストハウル】は三つのクラン合同でやっと到達したらしい。

 四階層の説明文と領域主の陣容を見ると、もうこれは確実に御伽噺の世界だと感じる。
 弱くてもトロールキングで、中盤にはファイアドレイクまで出てくる。最初の雑魚敵の時点でトロールだからどうしようもない。
 おまけに耐熱装備じゃないと死ぬとか、逆に耐寒装備が必要な場所があるとか……なんだここは。

 それと新種の魔物が多い。
 カオテッドの迷宮組合が本部である以上、魔物の情報などどこよりも詳しいはずだし、そのお膝元でこうも大量に新種が見つかるというのは異常なのだろう。
 その全てを【黒屋敷】が発見したと言うからもはや呆れるしかない。

 二体の新種の竜。先輩方が竜殺しドラゴンスレイヤーの称号を得るに至ったその竜も展示されていた。
 【炎岩竜】と【氷晶竜】。素材を見ても説明文を読んでも、言葉が出ない。
 ご主人様は風竜の方が全然弱いと言っているが比較対象がおかしい。
 これだけの大きさの魔石は初めて見たが、どう見ても国宝。宝物庫で厳重に封印されるレベルだろう。


 ちなみに『炎岩竜の甲羅、試し切り』といういい加減発狂しそうになるコーナーがあったが通り過ぎるだけだった。
 新種の竜の素材に傷つけるとか正気の沙汰ではない。あの甲羅一欠片でボクたちが何日も暮らせるお金になると思う。
 そう戦々恐々としていたのはボクとクェスくらいのもので、他の三人はお客さんと同様に感嘆の声を上げていたけど。はぁ。
 カイナはちょっと試し切りに挑戦したそうにしていたが


「地下訓練場でやればいいだろ。あそこの的も同じものだよ」


 とご主人様が一蹴。えっ、あそこの的? 竜の甲羅なんですか? すごく乱雑に積み重なってましたけど?

 なんか妙な疲れを覚えつつ二階の展示室は終わり、階段で一階へと戻る。
 そこは魔導王国の王都にあるツェッペルンド迷宮という所を紹介、展示していた。どうやら訪れたついでに制覇したらしい。
 ボクたちも知らない迷宮だ。非常に興味がある。

 中規模迷宮という事でカオテッド大迷宮の説明の後だと簡単そうに見えるが、おそらくボクらだと三〇階中、十階がせいぜい。
 レイラが居ても十五階に行けるかという所だろう。
 それをたった七日で制覇したらしいので、もうボクは何も言えないんだが……。


『うわあっ!!!』


 最後の展示室は風竜の頭がドーンと置いてあった。剥製らしいが迫力がすごい。
 他のお客さんも初見の人は驚くらしく阿鼻叫喚といった所。
 昨日聞いた話ではこの風竜に公爵級悪魔族ディーモンがくっついた状態(?)だったらしい。考えるだに恐ろしい。

 それを単騎で討伐したご主人様の異常さ。さすが『女神の使徒』様と言えばいいのか、当然と言えばいいのか、もうボクには何も分からない。

 そんな感じでぐったりするような博物館案内は終わった。ボクと同じくぐったりしているのはクェスだけだ。
 他の三人は随分と楽しそうで、一般客と同様、感嘆の声を上げている。羨ましいやら呆れるやら。


 しかしカオテッド一番の観光名所と言われる理由もよく分かった。
 カオテッドが組合員の街だから当然迷宮に興味のある人は多いだろうし、迷宮を知らない一般人にも分かりやすく解説がしてある。
 【黒屋敷】がカオテッドの英雄だというのもあるだろう。英雄の功績をこうして見られる機会なんて普通はないんだから。
 吟遊詩人が歌う英雄譚、その内容が実物として見られる。それは心躍るものだろう。


「まぁこんな感じだな。警備の事もそうだが、ウェルシアの手伝いで運営を手伝う事もあるかもしれない。今の所はこういう施設なんだと理解しておいてくれ」

『はい』

「あとは自分たちが実際にカオテッド大迷宮に入る前の予習だな。何となくイメージは出来たと思うが、潜る前に知っているのと知らないのとじゃ全然違う。迷宮組合員に言うまでもないと思うけどな」


 そう。事前にも言われていたけど、迷宮に潜る前にこうして知る事が出来たのは本当に大きい。
 心構えが出来るというのは有難い事だ。
 それでも不測の事故が起こりうるのが迷宮というものだが、それでも知っておくに越した事はない。


 問題は実際の探索にボクらがついて行けるかどうかだ。

 ……全く自信がないんだけど。


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