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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-10:不穏な気配(セイヤのみ)
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
一通り、ツェンを預かっている説明と来訪の目的は伝え終えた。
しかしマツィーア連峰に上っての竜狩りというのは、竜人族の里として看過出来る事ではない。
スェルオさんは防人隊の副長として「分かりました」と即答するわけにもいかないと。
おそらく族長さんとかと話し合ってから許可が出る形になるだろうが、模擬戦か何かで俺たちの実力を図る事になるのでは、というのが結論だ。
こちらとしても無理を通すつもりもないので、許可を得られなければ大人しく里を出るつもりだ。
そして別の場所からマツィーア連峰に山登りして、竜狩りである。
え? 竜狩りをしちゃいけないって話じゃないのかって? いやいやバレなければ問題ないでしょ。
こそっと登って竜を倒して肉をゲットするだけだから。
ともかく結論を出すにしても、今日はもういい時間だ。
スェルオさんはすぐにでも族長さんに説明しに行くらしいが、俺たちとしては今日の仕事は終了。
明日以降に動き出すとして、とりあえずマジックテントを張らせてもらう場所を借りる。
まぁツェンの実家の傍なんだけどな。どうぞ好きに使ってくれと言われた。
じゃあ移動しようかな、と腰を上げた所で部屋の扉が開かれた。
「失礼しますぞ」
「「族長!」」
入って来たのは小柄な老人の竜人族。背の高い人ばかりだったので珍しく見える。
ツェンとスェルオさんが驚いていたが、どうやらこの人が族長さんらしい。
族長さんは俺たちを見回し、皺くちゃな顔を俺の方で止めると、丁寧に一礼した。
「お初にお目に掛かります、『女神の使徒』様」
『!?』
これには驚いた。部屋に居た全員がだ。
里に入ってから今まで、俺の素性の話など何もしていない。あくまでツェンの主人で、基人族の組合員と、ただそれだけだ。
入口に居た防人も、スェルオさんたちもツェンの左手にある奴隷紋は見ている。
おそらくそれが女神だとは気付いているだろうが、何も言及されていないし、その事について説明もしていない。
しかし族長さんは初対面の俺を『女神の使徒』だと断定した。不可解すぎる。
「里の族長を務めておりますズゥシーン・モゥと申します」
「……ツェンを預からせて頂いております、迷宮組合員のセイヤ・シンマと申します。突然お邪魔して申し訳ありません」
「いえ、儂にとっても喜ばしき事でしたぞ。邪魔な事などありませぬ」
「……しかし、なぜ私を『女神の使徒』と?」
ズゥシーン族長は細い目をより細めてこう言った。
「先ほど、【竜神ドラウグル】様より神託を受けました」
「なっ!?」「はあっ!?」
驚きの声を上げたのはスェルオさんとツェンだ。お母さんのハゥンさんも目を見開いている。
俺としては一層不可解になった印象。なぜ神がしゃしゃり出て来て俺の事をバラす? 意味が分からん。
「族長となって幾年月。まさか竜神様のお言葉を頂けるとは思いませなんだ。使徒様には感謝こそすれ、邪魔などと思うはずもありませぬ」
「ぞ、族長! 本当に竜神様から神託を……!?」
後でツェンに聞いた話だが、【竜神ドラウグル】が眷属である竜人族に神託を下ろすというのは極めて稀で、それだけで里の伝承になるほどのものらしい。
少なくとも二千年はないはずだと。俺からすれば太古の昔だが、竜人族の寿命は千六百年ほどらしいから、族長の親や祖父母の代にあったのかもしれない。
定期的にミーティアに神託を下ろしていた【樹神ユグド】とは大違いだな。
で、族長は里の為政者であるのと同時に、祭事を執り行う者として神官や巫女のような立場にあるらしい。
だから竜神が神託を下ろせるのは族長、という事になる。もっとも神託を受けたのは初めてらしいが。
「竜神様のお言葉はこのようなものでした――『女神ウェヌサリーゼ様の使徒たる、セイヤ・シンマという基人族が其の方の集落に来ているはずだ。彼の者に我の神像に触れるよう伝えよ』――と」
「なんと……!」
超名指しじゃねえか! どっかで見てやがるのか!? 竜神は!
いや、総合神殿を作る時にもフロロに神託が下りたらしいし、神どもは俺らを監視しているのかもしれない。
なぜ――って俺が女神に関わっているから目に掛けられてるのか。神々は女神の従属神って話だしな。シャムシャエル曰く。
と言うか竜神が俺の事を『女神の使徒』って言っちゃったら確定じゃねえか。俺は未だに否定したいんだが。嫌なんだが。女神の手下とか。
俺は頭を抱え、溜息を吐くしか出来ない。
なんか後ろは楽し気に喜んでいる雰囲気がする。特に天使組の方で。
♦
俺たちは防人の隊舎を出て、族長に続き歩いている。
族長は機嫌良く、竜神の言葉を実践する事しか考えていない。俺の素性を詳しく聞いてはこないし、異様な侍女軍団についてもスルーだ。ツェンの事なんか今はもうどうでもいいのだろう。
いやまぁそれだけ竜神の神託ってのが大事なのは分かるんだが……それでいいのか族長よ。
侍女やグレンさんたちも当然付いて来ているが、ツェンのご両親もなし崩し的に同行する形になっている。
ツェンに「本当に『女神の使徒』様なのか?」とか聞いているようだが、ツェンは苦笑いしか出来ない。
公言しないように奴隷契約してるのは俺が異世界人である事や、女神に会った事、スキルなどについてだ。
『女神の使徒』と呼ばれる事については含まれない。あだ名みたいなもんだからな。
それでも「そうだ」と返答しないのはツェンの気遣いだろう。こやつめ、いつの間に侍女らしくなった……?
そうして向かった先は族長宅だ。正確にはその隣の建屋。どうやらここが祭祀場になっているらしい。
内部を一見すればただの集会場のようだが、正面にはちゃんと祭壇と神像がある。
結婚式場と会議室の融合みたいな感じだ。
「こちらですぞ、使徒様」
族長はグイグイ来る。俺はもう嫌な予感しかしないし、かなりげんなりしている。が、そんなのは無視だ。様付けするくらいならもうちょっと丁重に扱って欲しい。
まぁそんな事も言えないし、やらざるを得ない状況だとは分かっている。
俺が渋った所で、結局は神像に触れる事になるのだろうと。遅かれ早かれ同じ事だ。
そして目の前には竜神の神像。
うちの総合神殿でも見ているが、こちらの像は一回りか二回りはデカイ。
総合神殿はスペースの関係で神像の大きさも制限されていたから仕方ないが、これが本物の神像かと思わされるほどの威圧感がある。
姿かたちは六枚翼の竜。四本脚を地につけ、翼を広げた迫力ある竜だ。非常にカッコイイ。
ふぅと息を吐き、後ろの侍女の顔を見る。
どいつもこいつもワクワクした顔だ。楽しんでんじゃねえぞ。
最後にエメリーを見て、軽く頷いた。
よし、と内心で気合いを入れて俺は右手を竜神の像に触れ――
♦
「ああっ! ご主人様っ! ご無事ですかっ!」
目を開けるとエメリーの顔が近くにある。
状況を確認すると……どうやら俺は神像の傍で倒れているな。で、エメリーに抱えられて横になっている。
周りには心配そうな顔をする侍女たちばかり。
「お、お身体は? 一応サリュに<超位回復>を掛けさせましたが……」
「ああ、大丈夫だ、問題ない。サリュもありがとうな」
「はいっ!」
尻尾をブンブン振っているサリュを微笑ましく思いつつ、俺はエメリーの支えを抜けて自力で立った。
「どれくらい眠ってた?」と聞くと五分とかそんなもんらしい。なるほど。
改めて見回すと、グレンさんもセキメイも心配そうな顔を向けている。
スェルオさんとハゥンさんは何が何だか分からない感じ。
族長は狼狽えている。そりゃそうだろう。神託の通りに事を運んだら、『女神の使徒』様がいきなり倒れたんだから。
何かとんでもない過ちを犯したのではないか。そう考えるのが普通だろう。
まぁ族長は何も悪くないから、落ち着かせる為にも説明が必要だな。
幸いここは会議場っぽい感じなので、机も椅子もある。
俺は全員に席に着くよう言った。僭越ながら俺が中央に座らせてもらう。
「族長とツェンのご両親にも何が起きたのか説明します。侍女たちも全員聞いてくれ」
「セイヤ。私とセキメイは聞いても大丈夫なのか?」
グレンさんがそう言う。セキメイはともかくグレンさんはすでに頭に思い描いているのだろう。
ここへ来て除け者にするつもりもなし。俺は一緒に聞いてくれと伝えた。
「端的に言いますと……今、竜神に会ってきました」
『はあっ!?』
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