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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-15:保護者面談~お宅の娘さん連れて帰ります~
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
あいたたたた……頭痛ぇ……。
頭を抱える俺の後方。皆の反応は分からないが、おそらくポカーンだろう。
里の人たちはもちろん、侍女だって「何言ってんだこいつ」と思っている者が多いに違いない。そうであってくれ。
一方で前方の【輝帝竜】は表情などない大迫力ワイド画面だし、子竜に至っては「ピュイ」と鳴きながら宙返りするように飛んでいる。機嫌がよろしいらしい。
さっき喋った『のじゃ語』は何だったんだ、急に竜っぽく鳴くんじゃねえ。
「いやいやちょっと待て。連れ帰った所で強くなれるか分からないんだぞ?」
『其方の力が及ばないというのであればそれは致し方ない。しかし少なからず世俗を見聞するという意味では逞しくなるはずだ』
「それに僕にって……他の侍女と同じように奴隷にするって事か? 竜を奴隷にだなんて出来るか分からないぞ」
『確かに我の知であってもそうした歴史はないな。しかしもし出来ぬとなっても共に居る事で成長出来る部分もあろう』
<カスタム>で強くするんじゃなくて特訓とか一緒に迷宮に行くって事か?
それはグレンさんやセキメイと同じだ。実際、セキメイなんかは屋敷に来て成長しているとグレンさんは言う。
やはり周囲に強者が多い環境というのは成長を促すものだと。
とは言えなぁ……。
「お前は竜の王様で、娘は次期女王って事だろ? 次期『神子』でもあるんだろうが。それなのに俺の奴隷にするってのか? 女神の奴隷紋が入った『竜神の神子』とかアリなのか?」
『【樹神ユグド】様の神子を僕にしているのにそれを聞くのか?』
「あ、はい……」
それはそうだな。ミーティアの存在を知ってるのなら王族だろうが神子だろうが持ち出すのはおかしい。これは俺の間違いだった。
「しかし竜を連れて街には行けないぞ。いくら小さくてもな。人にとって竜は畏怖の象徴でもあり、同時に宝でもある。恐れられて街に入れてもらえないか、紛れて入っても存在がバレれば邪な者に命を狙われるだろう。どう考えても竜と一緒に暮らすというのは無理だ」
これくらい小さな竜であれば屋敷で飼う事は出来る。
でもカオテッド住民は『街中に竜が居る』という状況に納得するはずがない。いくら俺たちの名声があろうともな。
竜は世界で一番恐れられる魔物。それはこの世界の共通認識のように思う。だからこそ竜殺しという称号があるのだ。
その強さは博物館の四階層の展示でも説明ボードで知らしめているし、カオテッド住民はその事をよく知っている。
第十展示室の風竜と水竜が一番の目玉になっているのも同様の理由だ。「これがあの竜か!」という反応をしない者はいない。初見の者はまず悲鳴を上げる。
だから子竜を連れて帰るというのは出来ない。と言ったのだが……。
『ようは竜の姿をしているのが問題なのであろう? 我が娘よ、やってみるがよい』
『うむ! <変異>!』
子竜がその魔法だかスキルだかを唱えると、竜の姿は人のそれとなった。
俺はその光景に息を飲む。
見た目を変える魔法は妖魔族の固有魔法<変化>というのを聞いた事がある。
ミーティア曰く、樹界国の宰相ゲルルドはその魔法を使って長年、樹人族のふりをしていたらしい。
それと同等のものなのかは分からない。
ともかく子竜の身体が光ったと思ったら、人になっていたのだ。
しかもその姿は、竜人族。
竜だから竜人族にしかなれないのか、俺の後ろのツェンを見たのかは知らん。
ただ髪型や顔付きはツェンに似ている。
髪色は白金だし、どう見ても六~七歳の幼女だが。
パティより小さいし、マルティエルより幼い。
「あら~~」
急にテンションの上がったラピスはエメリーによって取り押さえられたらしい。ナイス侍女長。
それは置いておいて、幼女ツェンとなった子竜は翼もなしにふわふわ飛んでいる。いやまぁ元が飛竜だからそうなのかもしれんが。
そしてなぜか侍女服を着ている。これもまたツェンを真似たのかもしれない。
装備を含めた姿かたちを変えられる魔法、という事だろうか。
「どうじゃ! なかなかであろう!」
『【輝帝竜】のみが使える竜魔法だ。これならば問題あるまい』
「一定時間で解けるとか勝手に解けるとかは?」
『自身で解呪しない限りは竜の姿に戻る事はない。強いて言えば高位の神聖魔法で打ち消す事も出来るが……まぁそれほどの魔法を使える者も稀であろう』
後ろに三人ほどいるけどな。知っているのか知らないで言ってるのか。
とにかく<解呪>か<聖域結界>くらいじゃないと無理って事だな。
なら少しは安心かな。少なくとも寝て起きたら竜になってた、とかはないだろう。
さて……ここまで見せられて渋るわけにもいかないか。
一応後ろの侍女たちの顔を見る。
頷く者少々。苦笑い少々。諦めの表情少々。エメリーが頷いているから問題ないか。
「分かった。では娘さんを預からせてもらう」
「やったのじゃ!」
『うむ。よろしく頼む。手間賃というわけではないがこれを其方に』
そう言って【輝帝竜】が差し出してきたのは俺の身体ほどのサイズもある鱗だ。
白金に輝く竜鱗。亀の鱗も同じくらいデカかったが、さすがに美しさはこっちが上だな。
『人の価値は分からぬがこの世に我と娘しかおらぬ【輝帝竜】の鱗だ。相応の値段にはなるであろう』
「いや売らないけどな。大事にとっておくよ。ありがとう」
迷宮に行けば会える亀と違って、マツィーア連峰の山頂にしか居ない竜だ。
亀以上にとんでもない値段がつくとは思うが……さすがに売れないし、展示も出来ない。
【輝帝竜】の存在を世に出していいものかと、そこを検討してからだろうな。
って言うか、この世に二体だけなのかよ。
だから王様で、この子竜が次期王様……いや女王か、に確定していると?
竜の世界はよく分からん。
「じゃあしばらくこの娘……えっと、名前は何て言うんだ?」
『我らに名などない。其方が呼びやすい名で呼べばよかろう』
「えぇぇぇ……」
二体しか居ないから名付ける必要性がないのかな。
しかし俺が名付けるのか……親を目の前にして……。いや、仕方あるまい。相手は竜だ。俺がとやかく言う事ではない。
さてどうするか……竜の王ならバハムートなんだけど父親ならともかく幼女には全く似合わないな。
白金だからプラチナ? プラチナバハムート?
えーと……略してプラムート? うーん……
「よし、プラムにする。竜にしちゃ可愛すぎるか?」
「おおっ! 妾はプラムか! プラムか! おおっ!」
『うむ、それでよかろう』
良かった。問題ないらしい。名付けられたプラムは嬉しそうに飛んでいる。
人前では飛んじゃダメって言っておかないとな。竜人族で通すつもりだから。
『ではプラムの事を頼む。お前もセイヤの言う事を聞き、よく励むのだぞ?』
「うむ! 分かっているのじゃ!」
「じゃあプラムはしばらく預からせてもらうよ」
『何かあればプラムを使って我に言うが良い。力になろう』
「ああ、その時はよろしくな」
そんな感じで【輝帝竜】との邂逅は終わった。
【輝帝竜】が飛び去ったのを見送ると、族長、ディアクォさん、リークァンさんは揃って地面に座り込んだ。よほど気を張っていたらしく一気に緊張から解放されたようだ。
俺はプラムと共に、群がって来た侍女たちの相手をしつつ軽く紹介する。
まぁプラムに色々と説明するのは当分後回しだけどな。今は侍女としてではなく、ただの仲間だ。
そもそも教えた所で竜の知識や理解力がどうなのかという疑問もある。
人の生活に少しずつ慣れてきた所で徐々に、という形になるだろう。
ラピスやツェンを筆頭にわちゃわちゃし出したので輪から離れて見守っているとグレンさんが隣に来た。
「いやはや、さすがにたまげた。本当にセイヤと共に居ると退屈しないな」
「こんなの予定外もいい所ですよ。フロロでさえ分からなかったでしょうし」
「【輝帝竜】が来る事も、それが人語を解す事も、人の姿になる事も、それを仲間に迎える事も……か」
そう聞くと、この短い時間でとんでもない事が起こったのだと改めて思わされる。
そもそも【輝帝竜】には会っちゃいけないと思ってたしな。それがあれよあれよとこの事態である。恐ろしい。
「セイヤもよくあの竜と相対して普通に接する事が出来たものだ。あの威圧感を前にしては私とて背筋が強張り、冷や汗を流していた。殺気を出さないようにするので精一杯だ。とても会話が出来るとは思えん」
なるほど。グレンさんほどの人でもそんな状態だったのか。
里の人たちが座り込んでるのも納得だな。相当疲れたのだろう。
「俺は何体も竜と戦ってますし、昨日竜神に会ったばかりですからね」
「竜神様もあのような感じだったのか?」
「いや、姿かたちは神像の通りですけど大きさは俺と同じくらいでした。そこへいくと【輝帝竜】の方が迫力はあるんですが、まぁ神ならではの威圧感みたいなものはあったと思います」
「ふむ、経験の差か」
さて、と皆に目をやる。
どうしたもんかな、これは。予定が大幅に狂いそうな予感がする。
少なくとも今日の模擬戦は中止だろうし、明日以降の竜狩りは……行けるのか? プラムを連れて?
……まさか竜肉が確保できないとか、ないよな?
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