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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-20:カオテッドで迎える新年
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■24歳 転生者 SSSランク【黒屋敷】クラマス
「おおー! あれがカオテッドか! 大きな街じゃのう! あそこに皆の住処があるのじゃな!」
鉱王国の街道を通り、カオテッドが見えだすと侍女たちが騒がしくなった。
心なしか馬車の速度も上がる。長旅をしてきた馬が可哀想だからやめなさい。気持ちは分かるけど。
プラムはカオテッドに近づいた段階で俺と一緒に馬車の中だ。
窓から見える第二防壁を見て楽しそうに尻尾が揺れている。
◆
初めて山脈を離れたプラムは寂しがるかと思いきや、終始かなり楽し気だった。
最初こそ馬車の馬が恐慌状態になったりと苦労したが、プラムが『竜気』を抑えたのか馬が慣れたのか、道程としては問題なかったと思う。
プラムに聞けば『竜気』というのは竜特有の気配のようなもので、竜同士での察知はそれを探っている感じらしい。
それは『強大な魔物の気配』と似たようなものらしく、竜だけでなく魔物や野生動物も敏感に反応するとの事。
竜ほどではないがそれを感じ取り、弱い生物などはほとんど逃げ出すそうだ。
どうりで竜狩りの際に魔物が異常に少なかったわけだ。野生動物なんて一匹も見てないしな。
ただ常時『竜気』を垂れ流しだと食料の調達も出来ない為、大抵の竜は『竜気』を抑えるのが常なのだそうだ。
ところがプラムはまだ幼く、狩りも父親が行っていた為、その制御には難があるらしい。
このままでは俺たちの魔物討伐や迷宮探索に支障が出るということで、プラムには『竜気』の制御を心掛けるよう言ってある。
竜狩りの時以外は抑えるようにと。結構集中力がいるらしいが、そこは頑張ってもらいたい。
さて、そんな竜特有の特訓をしつつ行きと同じルートを逆方向に馬車は進む。
街道を馬車で走る。ただそれだけでもプラムにとっては初めての経験だ。
街に近づけば竜人族として振る舞うよう言ってあるが、誰も居ない街道ではふわふわと好き勝手に飛んでいた。
そうして街に入るたびに新しい発見に驚く。
竜人族以外の人が群れているのを俺たち以外に見た事がないのだ。
人の流れ、生活の様子、建物、食事、そのどれもが新鮮に映るのだろう。
あれは何じゃ、これは何じゃと大騒ぎ。それを侍女たちが教えたり構ったりしていた。
特に屋台の食べ物にはかなり興味を惹かれていた。美味しそうな匂いが漂えば、生肉しか食ってこなかったプラムからすると衝撃的だったらしい。串焼きとか串ごと食おうとしてたから止めさせたけどな。
まぁ竜だから串ごと食っても大丈夫そうだけど。
俺とツェン以外の侍女とも積極的に触れ合う事も多くなった。
特にちびっ子軍団だな。ティナとかパティとかマルティエルとか。
触れ合うたびにラピスが割り込もうとしている。無駄な努力だが。
行き帰り含めて二月ほどの旅路を経て辿り着いたカオテッド。
俺としてもホッとするというか、ホームに帰って来たという安心感がある。
「おおっ! 黒屋敷の皆さん! おかえりなさい!」
北西区の門番さんにはVIP対応で迎えられた。組合員証の提示もなしだ。
侍女が御する馬車で門に近づく、それだけで通された。それでいいのかカオテッド。
門をくぐればそこは懐かしきカオテッドの街並み……という印象とはちょっと違う。
大通りには見るからにいつも以上の屋台が並び、人々が溢れていた。
「どうやら新年祭には間に合ったようですね」
隣に座るイブキがそう言う。
新年祭とは要は年越しのお祭りで、世界のどこでも共通して行われる祝い事らしい。
大晦日と元旦、その翌日と計三日間のお祭りだそうだ。つまり今日は大晦日か。
カレンダーとかないし日付の事なんか全く気にしてなかったんだが……みんなよく知ってるな。今日が大晦日だって。
四か国にまたがるカオテッドでは収穫祭なども地区によって異なり、街ぐるみで一つのお祭りとして盛り上がるのは、この新年祭くらいなのだとか。
そりゃ南の樹界国・獣帝国と北の魔導王国・鉱王国じゃ収穫の時期もずれるか。中央区に至っては農業すら行っていないし。
まぁ中央区の場合、組合主催のオークションがお祭りに相当するのだが、カオテッド全体を見れば新年祭の方が盛り上がるのかもしれないな。
ともかく門の傍にある借馬小屋に馬車を返した。長旅を共にした馬にも労いの言葉をかける。
そうして大通りを歩けばさすがに注目の的だ。これだけ人通りが多ければ仕方ない。
俺たちはいつもの事だから気にしないが、さすがにグレンさんやセキメイは『英雄の帰還』扱いに苦笑いだし、プラムははしゃいでいる。飛ばないようにツェンに抑えさせよう。
ずんずんと歩く最中、街の至る所で見慣れぬ光景を目にした。
空に向かって魔法が放たれているのだ。多分槍系の魔法だと思う。
「あれはなんだ?」
「『昇魔の儀』と言いまして、新年祭ではああして空に向かって魔法を放つのです。本来ですと六の鐘(午後九時頃)に合わせて放つのですが昼間からああして放つのも珍しくありません」
何でも『一年の苦労を天に帰す事で新年はより良い一年になるように』という意味があるらしい。花火みたいだな。
カオテッドは【天庸】事件があったし、北西区に至っては【ゾリュトゥア教団】絡みで大変な思いをした。
それもあって『昇魔の儀』も頻繁に行われているのだろう、という事だ。
「攻撃魔法を使えない人はどうするんだ?」
「『昇魔の儀』用の魔道具が売っています。小さな魔法が放てる使い切りのものですが、この時期ですと安価で売られているでしょう。生活魔法の<送風>などで代用する場合もあります」
「ようは魔力を天に向けて撃てればいいって事か」
ただ見栄えの問題もあって、多くは火魔法。次いで土魔法、水魔法。最下位が風魔法になるそうだ。風は見づらいからな。
六の鐘に合わせて撃つとなるとやはり火魔法がよく見えるのだろう。
なるほど。ならば俺たちもカオテッド住民として参加した方がいいんだろうな。
先頭を歩く俺は後ろを振り向いて侍女たちに声を掛ける。
「撃てるやつは盛大に撃っていいぞー。但し武器(魔竜剣)使うの禁止なー」
『はいっ!』
「ご主人様、よろしいのですか?」
「祝い事には参加するべきだろう。俺たちだって一応カオテッド所属のSSSランク組合員なんだし」
ただでさえ『カオテッドの英雄』とか言われてるんだからな。祝い事には積極的に参加した方が侮蔑や非難から避けられるだろう。
……と思ったのだがエメリーの心配はそうではなかったらしい。
「<聖なる閃光>!」「<炎の破城矢>!」「<|岩礫連弾>!」「<水竜咬進撃>!」「<氷柱連弾>!」「<闇の奔流>!」「<魔力凝縮><氷柱連弾>!」「<聖なる閃光>!」「<聖なる閃光>!」「<氷柱連弾>!」「<炎の破城矢>!」「<炎の破城矢>!」
――ドドドドドドドド!!!!
『うおおおおおおおっ!!!』
ド派手。そして大歓声。
あー、うん、そうか、盛大にとなればこうなるのか。
いやまぁいいんじゃないかな。最上位魔法でも。住民の皆さんも、もうある程度分かってるだろうし。侍女たちは楽しそうだし。
しかし馬車旅で鬱憤が溜まっていたのか、侍女たちは<カスタム>したMPに飽かせて絶えず撃ち続けながら大通りを練り歩くはめになった。
……祝い事だからね。仕方ないね。
♦
その日の夜、俺たちは全員で屋敷の屋根に上った。
自力で上った者も居るが、大抵は天使組とケニによる空輸だ。
周りは高級住宅地だからうちと同じような三階建てが多いが、さすがに屋根から見ると見晴らしが良い。
景色にはしゃぐ皆を見渡し、声を掛ける。
「じゃあ改めて。今年一年いろいろあったけど皆には感謝している。俺にとっては初めての事ばかりで皆に苦労を掛ける事も多かったと思うが、出会えた事、そして共に今ここに居る事を嬉しく思う」
笑顔の侍女、泣きそうな侍女、神妙な顔つきの侍女、色々だな。
「俺の最終目標は【平穏】なんだが、来年はまだ何かと忙しいとは思う。乗り切れるよう共に協力してもらいたい」
『はいっ!』
――カァン――カァン――カァン――
「おっ、六の鐘だな。じゃあ少し早いが俺の地元の挨拶で、一緒に『昇魔の儀』をやるぞ。みんな武器を準備しろ。魔竜剣でも何でも使っていいからな」
『はいっ!』
「じゃあ行くぞ!」
俺も黒刀を構え、<飛刃>の準備をした。
「新年明けましておめでとう! 撃てええええええ!!!」
――ドドドドドドドド!!!
それはまさしく色とりどりの花火だった。
カオテッドのどの場所よりも綺麗で、誰よりも天高く昇る光。
しばらく撃ち続けるそれに、俺は首が痛くなるほど魅入っていた。
後日、本部長やメルクリオから「やりすぎだ」と苦言を呈されたのは言うまでもない。
~Fin~
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