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after5:久しぶりのカオテッド
5-1:二人の決意
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■24歳 転生者 SSSランク【黒屋敷】クラマス
魔法使い組が適度に『昇魔の儀』を行いつつ、北西区から中央区へと入る。
新年祭の三日間は休日の扱いらしいが、ここが稼ぎ時とばかりに開いている店も結構多い。
組合は当然通常営業している。年中無休、二四時間営業だしな。
三階層を探索するようなクランやパーティーだと十日くらい当たり前に潜るのだろうし、長期探索から帰ってきたら閉まってました、とかはありえない。
とは言え組合員の多くは若者であり、祭りに乗じて騒ぎたいし酒を飲みたいと。
実際に潜る組合員は減っているんだろうな。そう思わせるほどに中央区もまた大通りの人波はすごい。
「げえっ! 【黒の主】!」
「おおっ! 【黒屋敷】が帰って来たぞ!」
「随分と久しぶりな気がするな! 今度はどこに行ってたんだ!?」
「また博物館の展示が増えるんじゃねえのか!?」
歩くだけで人波がザザッと分かれるのは有り難いが、遠巻きに次々声を掛けられると俺は苦笑いで手を上げるくらいしか出来ない。
本当は組合に寄って拠点変更手続きをしないといけないし、本部長に報告もあるんだが……明日以降に回そう。
大通りから高級住宅地方面へと入れば多少は落ち着く。
遠目に見えてくるのは懐かしの我が屋敷……の前に並ぶ行列。
え? 新年祭は休日じゃないの? 博物館やってるの?
お客さんだって他街から来るわけじゃないだろう。新年祭は自分の街から動かないだろうし。カオテッドの人たちも博物館よりお祭りを楽しむのが優先じゃないか?
だと言うのになぜ行列が出来ているのか。
後で聞いた所、普段は来られないカオテッドの人たち――お店をやってる人や行政関係の人とかがこの機に来るらしい。なるほど。
ともかくそうした人々の間を抜けて、やっと辿り着いた我が家。
侍女たちははしゃぐ。拍手喝采。おい、プラムを抑えつけておけ。飛ばすなよ。
「おお! セイヤ殿! おかえりなさい!」
「ただいま戻りましたズーゴさん、長い間ありがとうございます」
「どうだったんですか? 迷宮やマツィーア連峰は」
「迷宮はザラとトルテーモを制覇してきましたよ」
「ハハハ……事もなげに言いますね……さすがと言いますか何と言いますか……」
「あとは竜人族の里に行って、竜もそこそこ倒せました」
「うわぁ……いやもう、それをあっさり言えるのはセイヤ殿くらいのものですよ……」
ズーゴさんたちの他にも傭兵団は雇っていたけど、やっぱり多くはズーゴさんたち【八戒】が警備してくれていたらしい。
「何か問題とかありましたか?」
「来客はほぼ毎日コゥム殿がいらしたのと、訓練場目的でバルボッサやドゴールたちも来ました。それと他街の商人も幾人か」
商人? うちに何の用だ?
「博物館を見るついでに素材を売ってくれという交渉のようですね。組合を通さずに直接購入したいのでしょう」
「なるほど」
「カオテッドの商人はそんな真似しないでしょうけどね。組合本部は中央区の商業組合も絡んでいますから周囲四区の商業組合とも繋がってますし。しかし他街の大商人などはセイヤ殿から直接買いたがってもおかしくはないかと」
そういう事か。竜素材が大量にあるのなんか見れば分かるだろうしな。
鱗一枚でも買えれば一財産だろう。普通は流通してないものだしな。
まぁ売るつもりはないけど。一人に売ったら次々に来るだろうし。やたら流せない。
だったらジイナに加工させて信用できる友人に譲った方がまだマシだ。
「それと大した問題ではないのですが最近、博物館に厄介なクレーマーが来ていまして」
「クレーマーですか?」
博物館にクレーマーが来るのは日常茶飯事だったりする。さすがにこれだけ人が入っていればそういう輩も居る。
ただでさえ俺が基人族だとか、そのくせSSSランクだとかでやっかみを受ける事はある。
そういう奴はふざけ半分で展示品に触ろうとして警報が鳴るか、受付の職員に文句を言うかという所だ。
まぁ博物館の中も人混みがすごいから、ふざける余裕がない場合も多いんだけど。
で、厄介とはどういう事なのかとズーゴさんに聞きつつ、一通りの報告を受けて警備の仕事は終了としてもらった。
これまでにない長期依頼だったから本当に感謝だな。ちゃんと労おう。
♦
屋敷へと戻った俺たちは<インベントリ>に入れた荷物をあらかた出して、元通りの屋敷に戻していく。
そして、何より先に風呂だと気を利かせて沸かしてくれたので、俺は一番風呂を堪能した。
やっぱ屋敷の風呂が一番だな。
夕食はドラゴンステーキにした。道中では食べられなかったので狩ってからは初の実食だ。
ヒイノに無理を言って、土竜・風竜・牙竜の三枚のステーキを用意してもらった。
『おいしー!』
「うん、やっぱり全然違うな。風竜が一番無難、土竜は若干クセがある、牙竜はサシが多くて油が旨いな」
「どれも同じく美味しいと思いますが……」
「やっぱりご主人様の舌が異常です……」
とにかく旨いのは違いない。俺的には結構味の違いが分かって楽しい。
一応大晦日だから何か特別な食べ物があればそうしたものも食べたかったのだが、どうやら地域によってかなり違うらしい。
で、結局はドラゴンステーキになったわけだ。定番だけども。
餅とか食いたいなぁ……米自体、見た事ないけど。
さて、と美味しそうにドラゴンステーキにかぶりついている我が家のドラゴンに目を向ける。
「とりあえず明日はプラムを連れて本部長に報告に行って、それからティサリーン商館かな」
本部長にはあらかた説明しておこうと思っているが、その時にプラムの正体も明かすつもりでいる。
さすがにカオテッドの中に竜を連れ込んでいるという事実。そしてその竜を迷宮組合員にしようとしているのだから言わないわけにはいかない。バラすのは本部長だけに留めるつもりだが。
それとティサリーン商館に行ったらプラムに奴隷契約が出来るのかどうかチャレンジだな。
果たして竜に奴隷契約魔法は効くのか、奴隷紋は入るのか。
ティサリーンさんにプラムが竜であるとは言えないけど何とか誤魔化してやってもらわないと。
そんな事を思っていたらグレンさんが声を上げた。
「セイヤ、私とセキメイも一緒に頼む」
『……!』
本部長への報告にはグレンさんも同席してもらうつもりでいた。
その上で『一緒に』と言うのはつまり……。
「……大丈夫なんですか? セキメイも?」
「私は願わくば、という所だ」
「……私は父上ともよく相談しました。可能であればお世話になりたいと思います」
二人ともその表情は真剣だ。その意は酌みたいという気持ちはある。
グレンさんは俺や侍女たち全員の指南役でもあるし、こっちがお世話になりたい所だ。セキメイも侍女の皆と仲が良い。
だからこそなるべく長く一緒に居たい。
しかし食客としての扱いが定着してしまった感もある。
これで二人が俺の奴隷となった場合、その関係はどうなるのか。
俺だけで考えるべき事ではないだろう。二人とも侍女たちともよく話し合うべきだと思う。
男性のグレンさんを<カスタム>出来るのか、という不安もある。
奴隷となれば『俺の持ち物』扱いなのだから<カスタム>は出来るはず。
ただ今まで女性にしか使った事がないからなぁ。
と言うかグレンさんを俺の奴隷にするって抵抗があるんだが……いやそれは本人の前では言えないし、そうした態度は見せられない。
……今にして思えば、あの時から決めていたのかもしれないな、グレンさんは。
♦
「夕食も豪華すぎて驚いたが、この風呂はすごいな。そこいらの王族も敵うまい」
「俺が風呂好きなんで拘ったんですけど、そのせいでみんな好きになっちゃったんですよ。だから迷宮にも簡易的な風呂を持っていってるんです」
「迷宮で風呂に入るのか!? はははっ! それは筋金入りだな!」
俺たちとグレンさん、セキメイが出会った日。
模擬戦をして正式に食客となり、食後に案内がてらグレンさんと一緒に風呂に入った。
二人で湯舟に浸かりながら喋っていたら、いきなりぶっこまれたのだ。
「セイヤは皆を強くするような加護かスキルを持っているのか?」
「ぶほっ!」
当たり前の事だが、俺やエメリー、イブキと模擬戦をしたのだ。グレンさんほどの戦闘強者からすれば違和感だらけだっただろう。
本部長から俺たちの事をSSSランクだと聞いても、これまでの戦いについて俺が説明しても、実際に戦えば疑問に感じる事は多いはずだ。
しかも『加護』という言葉を出した。やはり侍女たちの奴隷紋に注目していたという事だろう。
『女神の使徒』やら『勇者』やらという話は一切していない。
それでもグレンさんが抱いた疑問の行く末は、結局そこだったというわけだ。
「やはり軽々に話せる事ではないのか?」
「いやー、あはは……」
「ふむ、ならば何かしらの手段で私を強くする事は出来るのか?」
グレンさんのベクトルは常に自分を磨く事、強くなる事に向けられている。
だから遠いカオテッドにまで来て、SSSランクとなった俺たちを訪ねたのだ。
そこへ来て『明らかに侍女たちに強化を施した俺という存在』が居ればその力を自分に、と思うのも仕方ないかもしれない。
俺はグレンさんの問いに曖昧に答えるしか出来なかった。
女神との関係性を話すわけにもいかないし、期待を持たせるわけにもいかない。その上で食客として迎えておきたいという下心もあった。どっちつかずの事しか言えなかったと思う。
その後は特にその話題に触れられる事もなく食客として模擬戦に協力してもらった。旅にも同行してもらった。
想定外だったのは【輝帝竜】と出会ってしまった事だ。
【輝帝竜】と俺が会話をしている現場にグレンさんとセキメイも居たのだ。
そこから分かる事もある。そして俺や侍女たちと接し続けてきた日々も合わせてグレンさんの中で答えが出たのだろう。
だからこそグレンさんは決めたのだ。俺の奴隷になると。
これはもう、俺も腹をくくるしかない。
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