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after5:久しぶりのカオテッド
5-12:強さを求めるために
しおりを挟む■フロロ・クゥ 星面族 女
■26歳 セイヤの奴隷 半面
まったくご主人様にも困ったものだ。
あそこまで綿密に計画を立てているということは今後も侍女が増えると決定しているようなものではないか。
ならばさっさと奴隷商に行って買えば良かろう。早めに用意しておけばよい。
それなのに「自分から増やすつもりはない」だの何だの……我には自分の気持ちに嘘をついているようにしか見えぬ。
まぁ確かに今新人が入っても教育に時間をとるというのも難しいかもしれぬがな。
グレン、セキメイ、プラムの三人は今までの新人と比べクセがあるからのう。
セキメイは非常に優秀らしいな。新人教育の成績と見ればこれまでのどの侍女よりも高いらしい。
新人教育がすんなり終わった者で言うとウェルシアやシャムが挙げられるが、それよりも早い段階でエメリーは合格点を出した。
まぁ数月も一緒に暮らしていたからのう。慣れるのも理解するのも早かったというわけだな。
グレンも同じようなものだが<カスタム>の影響を誰より受けている印象。
セキメイも戦闘訓練で苦しんでおるが、それ以上にグレンが苦しんでおる。毎夜遅くまで剣を振るっておるな。
すでに完成しきっていた戦闘技術。そこに<カスタム>で身体能力の上昇が入る。
それが及ぼす悪影響というのは我には想像もつかんもののようだ。頑張れとしか言えぬが。
プラムは人の生活に慣れることがそもそも大変そうだが、やはり戦闘訓練も大変そうだな。
竜に「人と同じように戦え」と言うのも無謀なのだが、そうしないと一緒に戦えぬからのう。
今は『ダッシュで突っ込んで一~三撃入れてすぐに戻る』という練習のみをさせているらしい。パーティーで戦った時の最低限の動きということだな。
問題はその『一~三撃』という部分らしいが攻撃方法がツェンとだいぶ違うようで悪戦苦闘しているように思う。
ツェンならば<一点突破>で一撃狙うか、右手・右足・尾撃の三連撃を叩きこむという感じなのだが、プラムのそれは<体術>ではなくどうしても竜としての戦い方になってしまう。
教える側のツェンやイブキもそれで苦戦しておったのだが……ご主人様の鶴の一声で一先ずは落ち着いたらしい。
「だったら<体術>はついでに身に着けさせるくらいで、基本は<爪撃>で戦わせよう」と。
ご主人様は早速とばかりにジイナに依頼し、プラム用の装備を作らせた。
そして出来上がったのはツェンの【魔竜拳】の甲の部分から四本の短剣が伸びるような形状のソレ。それが両手。
「とりあえずまだ魔竜剣にはしないけど【黒爪】と名付けよう」
「ほぉ~これが妾の武器か」
「いかついなぁ……こりゃもう普通に殴るとかできねえな」
「突き刺す目的で殴るってのはアリだと思うけど基本的には爪でひっかくように斬りつける感じだな。こう両手でズババッと、ウ〇ヴァリン的な感じで」
「よく分からんがプラムには合うかもしれねえな」
プラム元来の動きに合わせた武器。それを咄嗟に思いつけるご主人様には感服する。
元いらした世界は戦いと無縁だったと聞いておるがよくぞこんなものを考えるものだ。
まぁ武器を与えたところですぐに戦えるようになるわけでもない。あくまで一歩前進しただけだ。
これからも訓練は続くし、それはまた時間がかかるのだろう。
◆
夕食後の会議はまだ続いている。
五階層を探索するならば三〇人体制にするというところであったな。
どうやらそれ以外にもご主人様には案があるらしい。
「個人訓練、レベルアップ、<カスタム>については今言ったとおりだ。これまでどおりに熟していく。その他に強くなるための手段としてまずは装備について話したい」
「装備、ですか」
「ああ、ムゥチムに頼んで全員の靴、ベルト、鞘などの革製品は新しくするつもりだ。これは竜皮を使って<カスタム>も施す。まぁそれで防御力が上がるなんてことはないだろうから気休めかもしれんがな」
何とも豪勢なものよ。
今の侍女服でも相当なのだが竜皮の靴ともなれば市場に出回ることすらないだろう。下手すれば国宝だ。
それを三〇人分か……ムゥチムが倒れるんじゃないかのう。
やはりムゥチムを侍女とすべきではないか? 改めてエメリーに相談してみるかのう。
「それと装飾品だな。現状でいくつか装備しているやつもいるが出来ればもっと欲しい」
「今つけているような高性能のもの、ということですよね」
「ああ。だからカオテッドの店を回ったところで見つかるかどうか……最悪メルクリオに頼んで魔導王国から買い付けることになるかもしれん」
「だから魔導王国に行った時に装飾職人の奴隷を買えと言ったのに……(小声)」
「何か言ったか、フロロ」
「いえ、何も言っておらぬ」
王都ツェッペルンドの高級店で数点程度しかなかったのだぞ? 高性能の装飾品がそんなにごろごろしているわけなかろう。
絶対に装飾職人の奴隷を買ったほうが早い。
そいつを<カスタム>してユアと組ませればいくらでも出来るだろうに。素材はたんとあるのだからな。
幾人かの侍女も絶対同じことを考えておる。
これもまたエメリーに相談したほうがいいかもしれぬな。
とは言えそういった装飾品で強化を図るというのはかなりアリではないかのう。
付与効果にもよるが手っ取り早く強くなる方法には違いない。
全ての侍女がつけているわけではないし、ご主人様なぞ何もつけていないからのう。目を付ける方向としては正しいと思う。
「あともう一つがスキルオーブだ」
『ああ……』
「手っ取り早く強化できる最大のものだとは思うが……これは市場で買えたりするのだろうか」
「スペッキオ本部長がかき集めて十個でしたからね……」
「それこそ魔導王国の高級店とかでいくつかあれば、というところではないでしょうか。しかも戦闘に使える有意なものとなると……」
「だよなぁ……何とか手に入れられないものか……」
確かにスキルオーブによる強化というのは考えるべきだろう。確実に武器が増えるのだからな。
しかし入手手段が限られる。
装飾品のように人の手で作れるものではないし、迷宮でしか手に入れることはできない。
魔剣と同じようなものだ。まぁスキルオーブのほうが断然出やすいのではあるのだろうが。
四階層を探索していていくつか発見はしている。
しかしスキルオーブに封じられているスキルなど千差万別で、狙ったように有用なものを『引く』というのは不可能なのだ。
実際、<速読>や<料理>など戦闘の役に立たないものも手に入れている。
ご主人様がいつも使っている<空跳>や<飛刃>もスキルオーブから手に入れたものだ。
<飛刃>はイーリス迷宮で手に入れたもの。<空跳>はオークションで手に入れたもの。
その二つがあったからこそ【天庸】戦でガーブや風竜に勝てたのだろうし、そう考えるとやはりスキルオーブによる強化は一考の余地があると言える。
「オークションが約三か月後にありますから、またそこで狙うというのは」
「もちろん狙う。ただそれ以外にも欲しい。オークションで買えるのなんてせいぜい十個くらいだからな」
「であれば各国の商業組合に尋ねるか、スペッキオ本部長に頼むかというところではないでしょうか」
「本部長に頼むのは悪手ではないか? オークションに出されるのがそもそも各地の迷宮組合から集めたものだろうに」
「ああ、なるほど。私たちが買ってしまうとオークションに出品されるものが減るわけですか」
「オークションの主催は迷宮組合だからな」
そう考えると報酬として受け取った十個のスキルオーブはそれこそ『虎の子』だった可能性もあるのう。
各地の組合に掛け合うというのは無謀かもしれぬ。
「であれば各国の商業組合か……それほど出回っているとは思えないが」
「有用なスキルオーブなんて使って当たり前ですものね。何せ見つけた本人が相応の迷宮組合員なのですから」
「聞くだけ聞いてみる、という感じですか」
「よし、じゃあとりあずそんな感じで行ってみよう。ウェルシア、アネモネ、任せていいか? 四区の商業組合に掛け合って欲しい」
「かしこまりました」「はい」
「有用かどうか迷ったら相談してくれ。取り寄せに時間が掛かってもいい。定価の1.5倍までなら出すからそのつもりで」
「「はい」」
定価の1.5倍となるとオークションで競り落とすのとほとんど変わらなくなりそうだのう。
まぁご主人様の金使いの荒さは今に始まったことではない。
怪訝な顔をしているのはグレン、セキメイ、カイナ組、パティあたりか。まだまだ慣れが必要だのう。
むしろそれ以外の侍女が毒され過ぎとも言うが……我も他人のことは言えぬな。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■24歳 転生者 SSSランク【黒屋敷】クラマス
「いやはや、計画の段階ですでにとんでもない散財だな。尋常ではない金額が飛ぶぞ」
「そうか? 金の力で強くなれるならむしろ散財すべきだろう」
「それはまぁそうなのだがな。私としては『強くなる方法とは修行以外にこんなにもあるのだな』と思わされている気分だよ。ここへ来てから毎日な」
そんな話を風呂に浸かりながらしている。
今まで地道な修行を数百年とやってきたグレンからすれば嫌な気分なんだろうな、とは思う。
<カスタム>で簡単に強くなるだとか、レベルアップ云々とか、金を使って道具を買い漁るとか。
それはグレンの今までの人生を愚弄するような真似だと。
「幻滅したか? こんなのが主で」
「いや、他の誰に出来ることではない。そして強くなる為の方法としては極めて正しい」
「そっか」
「そもそも基人族の短い生の中で早急に力を付けようと思うなら、素振りばかりしてるわけにもいくまい。主は正しい方法で最短距離を駆け抜けていると思うよ」
そう言ってもらえると助かる。
実際そのとおりなんだよな。基人族がどれだけ努力したところで他の種族には敵わない。
戦闘系の強種族なんて以ての外だ。太刀打ちできないどころか足元にも及ばないだろう。
俺が普通の基人族だとして真面目な修行を五〇年間やったとしても纏炎族の子供に負けると思う。それくらいの差があるんだよな。
だから<カスタム>だろうが、金だろうが何でも使う。
そこは躊躇しちゃいけない。でなければ″理不尽な力″に対抗できないのだから。
「それに俺は金を持ちすぎなんだよ」
「どこぞの大貴族でも言わなそうな台詞だな」
「迷宮を探索すれば組合から金を集め、博物館では住民から金を集めてる。そのくせあまり使わないからカオテッド中の金が俺に集中しているんだ」
そもそも<インベントリ>で大量に戦利品を持って帰って来られるというのが反則なんだよな。だから報酬はいつも多い。
他の組合員なんかは武器や防具やポーション関係に金を使っているけどジイナとユアがいるから限りなく低コストだし、防具も<カスタム>のおかげで滅多に新調する必要もない。
こんな組合員なんて他にはいないと断言できるレベルだ。
「ある程度散財していかないとカオテッドの経済が停滞すると思うんだよな。俺のせいで物価が上がったとか嫌だし」
「志は立派だな。まるでどこぞの為政者のようだ」
「そんなつもりはないけどな。まぁ金は持っているより使ったほうがいいってそれだけだ」
稼ごうと思えばいくらでも稼げるしな。
竜の素材を売ったり、ジイナの武器を売ったり、ユアの錬金薬を売ったり、ヒイノの料理を売ったり……まぁほとんど侍女任せなんだが。
……三か月後にオークションか。俺も何か出品したほうがいいのかな?
本部長に相談してみるか。
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