死にたがりな魔王と研究職勇者

文字の大きさ
上 下
5 / 23

勇者は魔王を倒しに行くものでしょう?④

しおりを挟む
それから毎日勇者はルイードの部屋を訪れては言葉をかけるようになった。

しかも、怪我により熱があり、時折朦朧としているルイードに水を飲ませるなどの世話をやいていく。
勇者に開けられた腹の穴は応急的に傷口が縫われているようだった。

ルイードは意図が分からず、警戒が解けないが、抗うこともできないため、勇者の好きにさせていたが、会話はすることなく無言で勇者の話を聞いているだけだった。


それも数週間が過ぎると、自分に害を与える気が全くない勇者に少し毒気を抜かれてしまい、少しずつ会話に返答するようになっていった。魔族に不利になる情報は渡す気はないが。


「この森は魔獣が多いから隣の国のオクタニアからここまで来るのが面倒だったのだがこの森はどのぐらいの距離があるんだ?広域探知の魔法が阻害されているお陰で正確に測れなかったのだが。」

「・・・半径20キロは森だ」

「なるほど魔法で移動しても半日はかかるはずだ。一番強い力を目印にしたから迷いはしなかったが。」


勇者は戦いの最中は冷静に分析し、敵には容赦のない冷徹さをもつ男だと思っていたが、拷問されることなどはなく、何故か敵である自分にも穏やかに接する不思議な男であった。

いつまでも警戒するのがバカバカしくなってくる・・・


しかし、勇者以外の仲間は当然のことながらルイードに対して警戒と厳しい態度を保っている。
なぜ勇者はこんなにも自分に穏やかに接してくるのか。その前になぜ、

「お前はなぜ私を生かしている」

心の中で留めておくことが出来ず、ルイードは疑問を声に出していた。

その質問に勇者は片眉をあげ、少し間を置くと

「探究心だ。」

「は?」

思わぬ返答に困惑してしまう。

「お前を殺すことは今は容易い。だが、気になることがあってな。俺は元々研究者なんだ。」

説明されるも全く理解ができない。

そんな気持ちが表情に出ていたようで
さらに勇者が説明しようとしたところで

コンコン

部屋をノックする音が聞こえた。

「入っていいぞ」

勇者の返答を聞き、部屋に入ってきたのはルイードが起きてはじめに会った紫髮の魔術師であった。

「失礼します。シオン、そろそろ魔王城にきて1週間が経ちます。幸い物資などは空間魔法で取り出せるから良いですが、敵地に長くいるのはどうかという意見が皆から出てます。私とマリクス達も限界ですよ。必要な情報を魔王から聞き出しませんか。」

魔術師は分かりやすく嫌悪の表情を魔王に向けて見せると勇者に詰め寄った。

「・・・分かった。」

そう返答をすると壁際に立ったままの勇者はベッドに寝ているルイードの方に近づいていく。

身構えるルイードに対し

「明日、あの広間に連れて行く。いいな。」

ルイードの目をじっと見つめ、そう言い放つと

返答を待たず踵を返し、魔術師とともに部屋を出て行った。


広間、皆が凍っていた場所に行ける。あの後皆はどうなったのだろうか・・・
魔法を封じられていては知る術がなく、ルイードには明日を待つしかなかった。

しおりを挟む

処理中です...