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王の謁見とこれからの企み
しおりを挟む「よくやった、勇者シオンよ。これで我が国は魔族の脅威から解放された。そなたらには最大級の褒美をとらせよう。」
人間国の王は勇者一行に向けて笑みを浮かべながらそう宣った。
それに対して膝をつき礼はとっているが何の感情も湧かない表情で頭を垂れているのは勇者その人である。
他の勇者一行のメンバーもどこか浮かない表情で同様に頭を垂れていた。
先刻勇者一行は魔王討伐の報告をし、人間国に平和がもたらされたことを伝えたところである。
さらに気を良くした王が褒美の話をしているのが今なのだが、勇者以外のメンバーは嘘がバレた時のことを考えて戦々恐々としているところである。
「恐れながら陛下、褒美の希望をお伝えしても?」
そんな仲間のことは梅雨知らずいけしゃあしゃあと宣うのは勇者その人である。
「よい。なんでも申すが良い」
「それでは、研究設備の使用許可と管理権を所望します」
その言葉に王は一度目を見張り、気づいたように頷いた。
「そうか、そなたはもともと研究者であったな。
良い。任せよう。全権をそなたに与える。」
王様は研究施設についてはあまり目をかけておらず、管理運営、研究内容についても把握していないという状況であったため、重要視していない研究施設は褒美としては容易いものと考えており、その場で全権を勇者に委ねることにしたようだった。
「ありがたき幸せ。」
勇者はその時のみ笑みを浮かべた。
ーーーーーーーーーー
「で、これからどうするんですか・・・」
そう言って頭が痛むのか頭を抱えてソファにぐったりもたれているのは、トリスその人である。
王への謁見から1時間後、ところ変わって勇者の自宅の館に勇者一行は集まっていた。
「研究施設は管理権までもらったからな、口外しないように内部のものは信頼のおける俺の部下に置き換える予定だ。」
事もなげに言うのは相変わらず淡々としている勇者である。
「わー職権濫用だー」
そう言いつつどこか楽しそうにするのは双子の魔術師である。
「俺はそっちはからっきしだからな、まあ、なんかあったら呼んでくれや。バレたら俺もやばいしな、一蓮托生っつーことで依頼料なしで戦ってやるよ。それまでは城の警備しながら内部に変な動きがないか見ててやるよ。まあうちの奥さんも子供が生まれるしよーなるべく平和に頼むわ」
そう言って笑っているのは剣士のライナーだ。
この中で唯一の妻帯者である。
「僕とエリナも自分の魔術師団に一旦帰るけど。研究施設に必要だったら任命してくれてもいいよー。バレたらどのみち僕たちもやばいのは同じだからね。どうせなら研究に関わってた方が面白そうだしー」
そう言って双子はソファでにこにこ笑っている。
トリス以外は自分たちの立ち位置をすんなり決めてしまったようであった。
トリスは再度ため息をつくと、
「あーもう、やってられないですよ・・・分かりましたよ。こうなったら仕方がないですね。私も研究でも戦いでもなんでもやりますよ。どのみちバレたらタダでは済まないですからね。もう最後まであなたに付き合いますよ・・・」
シオンに向かって投げやりに協力を申し出た。
その言葉を聞き、シオンはふっと笑うと
これからの自身の計画を話し始めた。
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ところ変わって魔王城では
魔力を封じられた魔王が一人自室で療養を継続していた。
「一人も見張りに残さないとはよほど自信があるのか・・?ただの馬鹿なのか・・?」
自身のベッドに座り、魔力を封じられた以外は身体的な拘束は無く、部屋から出られない結界が張ってあるだけの状態で一人残された魔王は自身の境遇に、疑問符を浮かべた。
そうは言っても魔力を封じられた状態、なおかつ治療はされているものの腹部の傷は塞がり切っていないため、無理矢理自室から出ることは叶わない状態ではあるのだが。
「あの男は何を考えているんだ・・・?」
掴みどころのなかった勇者の顔を思い浮かべ、これから自身がどのような待遇を受けるのか全くわからない状況に途方に暮れた表情を浮かべた。
ベッドに再度横になり、目を閉じて願う。
皆がいた,懐かしい情景を夢に見れることを。
願わくば皆のもとにいけるよう。
ーーーーーーーーーー
1日経つと再度勇者一行が移動魔法を使用し、魔王城に戻ってきた。
一度来た場所のため、トリスの移動魔法は魔王城にも繋がるようになったらしい。
自室に来たのはトリスと剣士のライナーという男で、勇者はこの場にはいないようだった。
自室から再度拘束されて広間へと連れて行かれた。
勇者はなにやら思案顔で氷漬けの仲間の前に立っていた。
魔王が来たことに気づくと振り向いた。
「傷はどうだ?」
気遣うような言葉に魔王は少し狼狽えたが、顔には出さず、その問いには答えなかった。
「これから我らをどうしようと言うのだ。」
勇者を睨み、勇者の返答次第では再度の戦闘も辞さない構えをとる。
そうは言っても拘束もされているため、どの程度敵に囲まれた状態で戦えるのかは魔王自身にも分からないが。
「ん?昨日言わなかったか?」
そう言って勇者は魔王の方に近づいていく。
魔王の前に立つと勇者は魔王より頭一つ分背が高いため、魔王は勇者を見上げた。
その様子を見てふとシオンが笑みを浮かべる。
「お前はうちに招待することにした。」
「は?」
「シオン、そうじゃないでしょう・・・。」
呆れた顔でトリスは魔王の後ろで腕を組んでツッコミを入れた。
「魔王、あなた達魔族の身柄は拘束させていただき、王都の研究施設に移します。そこで魔族に流行る病気を解析します。あなたは王都では討伐されたことになっていますので、研究員には魔王であることはバレないようにさせてもらいますがね。あくまでも魔族の研究という名目です。まあ、研究員はそこのシオンが信頼のおけるものしかおかない予定ですがね。万が一王家にバレそうになったら即刻あなた方は処分させていただこうと思ってますがね。」
勇者に足らない説明を一呼吸で言い切ったトリスは相変わらず魔族への嫌悪感を全面に出していた。
「まあ、悪いようにはしないから、うちの研修施設にお前の部下ごと移動させてもらうぞ。」
勇者からそう言われた魔王はまだ部下が殺されることはないということがわかり、幾分肩から力が抜けたが、研究と称して何をされるかまだわからない状況にやはり気は抜けないと気持ちを新たにするのであった・・・
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