死にたがりな魔王と研究職勇者

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執事と魔王

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現在昼過ぎ、本日はシオン様のみ研究施設にお出になられているため、魔族は部屋で過ごすことになっている。
そろそろ魔族の様子を見にいこうかとコンラッドは執務室のソファから立ち上がった。
普段はメイドが食事を持って行く時に魔族の様子を確認し、コンラッドに報告をするという手段をとっている。
食事の担当のメイドからは普段はテーブルで読書をして過ごしていると聞いており、こちらが話しかけても答えることはないと聞いている。それ以外の報告はないため、初めに会った日と変わりはないものと思うが今日はシオンが留守であるため、魔族の監視の意味も含めて一度様子を見に行こうと思っていた。
昼食をのせたワゴンを押し、魔族がいる部屋の前に着いた



「お疲れ様です。コンラッド様。魔族は特に動きはありません。」



監視のために扉前に配置していた部下から報告を受け、ちょうど交代前の時間であるため、少し早いが昼食を摂りに下がってもよいことを伝え、下がらせる。
魔族に対する礼儀は持ち合わせてはいないが、ここ、レイスハルト家の執事である以上どんなものに対しても礼を欠いた振る舞いをするわけにはいかない。
その思いもあり、ノックをして少し返事を待つ。と言っても魔族は私たちとは一言も話す気がないため、返事が返ってくることはないと部下からは報告を受けているため、時間を空けて扉を開けるコンラッドであった。




「失礼します。昼食を持ってきました。」



そう言って視線をテーブルの方に向けるも、通常机にて本を読んでいると報告を受けた魔族の姿はなかった。
不思議に思い、ベッドの方に視線を向けると魔族はベッドに寝ているようだった。
常とは違う姿に警戒し、防御魔法を強化し、近づく。
普段油断した姿を一切見せないという魔族は近づいても反応を示さない。
息をしているのは目視できる。


「どうかしましたか?」



そう言ってルイードの肩に触れようとしたコンラッドであったが、



「触るな。」



伏せていた顔を少しずらし、こちらを威圧する魔族。髪に隠れている眼が少し覗き見え、血のように赤い。
拒絶の言葉が返ってきたのに合わせて触れようとした手を止めたコンラッドは再度話しかけた。



「起きてらっしゃいましたか。」




「・・・・・・」




拒絶の言葉以外は発さない魔族にコンラッドはため息をつくも、反応があったことに密かに安堵していた。
いくら敵側とは言え主人から留守を預かる以上は体調が悪く意識がないとなっては事であったからだ。
しかし、意識はあるが、明らかに体調が良いとは言えない様子であったが、迂闊に近寄ることは難しそうであった。


ちら、とコンラッドはテーブルにのっているメイドが持ってきたであろう朝食がそのまま残っている様子を見つける。
メイドからの報告は毎日聞いていたが、魔族が食事を摂っていないという報告は聞いていない。
魔族が来てからは7日目になるが、その間食事を摂っていなかったのだろうか。
早急にメイドに確認する必要があるな、とコンラッドは独り言ちる。
もし来てからずっと食事を摂っていなかったのであれば主人に示しがつかない。



「昼食、置いておきますので、食べてくださいね。」



そう言ってテーブルにのっていた朝食を回収し、昼食はベッドからでも手が届く枕元にトレーごと置き、コンラッドは部屋から出ていく。
魔族の表情は眼が見えただけで、窺うことはできなかった。
部屋から出たところでちょうど廊下の奥から交代の部下が来たため、何か物音がしたら報告するよう伝えてその場を離れる。
魔族がいる部屋は玄関フロアにある階段を2階に上がって一番奥にある部屋であり、玄関フロア横にある自身の執務室に戻るために歩きながら主人に報告に伺うべきか思案していると階下に降りる前に意外な人物の声がした。



「コンラッドはいるか!」



階下の玄関フロアにいたのは、今会いに行こうかと思案しているその人、



「シ・・・シオン様?」



この時間に館にいるはずのないシオンであった。
何やら普段見ることのない焦りを浮かべた表情で階段を足早に上がってくる。



「シオン様、どうなされたのですか?何か問題が発生したのですか?」




「魔族はどうしている?」



らしくなく矢継ぎ早に問いかけるシオンに驚きの表情を隠せないコンラッドであったが、問いが魔族のことであり、報告したい事柄と同じものであったため、先ほどの様子を報告しようと決めた。



「シオン様、申し訳ございません。魔族のことなのですが、メイドからの聴取は後でしようと思っているのですが、先ほど私が昼食を持って行った際に確認したところ、本日の朝食を食べていないようでした。それに加え、普段テーブルで読書をしていることも多いそうなのですが、先ほどはベッドに伏せており、起き上がる様子がありませんでした。私は威圧されるため、身体に触れることができいないので目視でしか様子が確認できませんでした。」




その報告を聞いたシオンは表情を厳しいものに変え、



「そうか。普段食事の担当をしているメイドに話を聞いておけ。あと、研究施設に置いてきたトリスを呼んでおいてくれ。」



そう言ってシオンは魔族の部屋へと歩き出す。
その様子を見てコンラッドは



「シオン様、お気を付けくださいませ。」




そう言い置いて主人の命を実行に移すため足早に階下に向かった。
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