死にたがりな魔王と研究職勇者

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勇者side

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ーシオンsideー



魔王は眠ってしまったようだった。


魔王が眠っているのを見るのは一度魔王を倒した時以来だ。
人前で眠ってしまうほど生命維持に必要な魔力が足りていないようだ。
でなければ警戒心の強い魔王が人前で眠ることはあり得ないだろう。
この館に移動してきてから眠っていなかった可能性もあるな、とも考える。


魔王が眠っても、枯渇している魔力を注ぐことは止めずそのまま注ぎ続ける。
先ほどの魔王の問いになぜ自分はスムーズに答えられなかったのだろうか。
サンプルとして連れ帰ってきたのは自分であるし、それ以上の理由はなかったと思うのだが。
ジュード先生に食事を摂っていないのではと言われ、なぜ自分は慌てて戻ってきたのだろうか。
それに、先ほどのジュード先生の話を思い出す。
他人に興味がないという自覚はあったが、最近の自分の状況を振り返ってみると、確かに普段の自分とは違う点がいくつかあるように思う。
普段他人に興味がないため、気遣いの言葉をかけることはもちろん、何かその人物について気になり、質問することなどなかったが、魔王に対しては傷の様子を聞いたり、部下たちの心配をする魔王に安心しろと声をかけたりするなど、今までの自分では考えられない言葉を発している気がする。
それに先日一緒に執務室で過ごしていた時に暇だろうと思って自ら本をいくつか選んで渡した記憶もある。そのような気遣いなど今まで誰にもしてきたことはなかった。
自己分析を終えてみると、研究対象に対して興味があるというだけでは説明できない行動がいくつかあることに自分でも驚いてしまう。
しかし、これらの行動が自分のどのような感情に基づくものかということに関しては自分の中に答えを探しても残念ながら材料がない。


研究者気質のシオンとしては答えが見つからなかったことに不満を覚えるが、自身の思考から一旦気を逸らすべく、再度魔王の方に意識を向ける。


先ほど一瞬触れた際に魔王は痛みを感じているようであった。一方自分はあの一瞬でかなりの魔力を持っていかれた。
今は魔王には触れずに空間を介して魔力を提供しているため、自分で提供する魔力量を調節することができているが、あのまま触り続けていたら魔力を根こそぎ持っていかれていた可能性がある。
魔王は触れただけで他人の魔力を吸い取ることができるようだが、本人も痛みがあるのであれば最善の手段ではないのだろうか。

再度魔王の顔を覗きこむ。髪の毛に阻まれているため、顔色ぐらいしか見れない。初めて魔王の顔を見たのは戦う直前であったな、とふと思い出す。あの時、鮮烈な赤い瞳に不覚にも一瞬見入ってしまったのだった。

ふと、目の前の魔王がどのような表情で眠っているのかが気になった。しかし触れてしまうとまた痛みを与えてしまうのではないかと思うため、そのまま顔を見つめる。



「表情が見たいとは・・・・どういう気持ちなんだろうな。この気持ちは。」


ーコンコン



ぽそりと少し困った表情でシオンが呟いたと同時にドアのノック音が部屋に響く。



「入ってくれ」



返事をすると、入ってきたのはトリスであった。
シオンが魔王に魔力を送っている様子を見て




「シオン、何が起こったんですか?」




険しい表情で問いかけ、シオンの横まで歩いていく。
魔王が眠っている様子を見て




「魔王はどうしたんですか?眠っているように見えますが。私が呼ばれた理由はこれですか?」




どうにも魔王のことを毛嫌いしている様子のトリスは魔王を『コレ』扱いだが、魔王が人前で眠っている様子を見て、何かが起きているということは察しているようだった。



「ああ、戻ってきた時にコンラッドにも食事のことを聞いたんだが、今日の朝も摂っていなかったようでな。部屋に来てみたら起き上がれなくなっていて、触れたら魔力が枯渇していることがわかって魔力を分けてみた。」



「魔力が枯渇・・・?魔王の部下たちにはいつも通り魔力が供給されてるようでしたが?」




「俺もそれは確認している。だから魔王は自分の生命維持とは別のルートで魔力を供給しているのではないかと考えたんだが、どのような原理なのかは分からない。ただこの部屋の魔素量がかなり低いことを考えると、魔素は取り込めているが、食事を摂らずに生命維持をするにはこの周囲の魔素量が足りなかったということだろうな。」




「なるほど・・・。魔王が眠っている理由は分かりましたが、それで私は何をすればいいのです?シオン」




そう言ってトリスはそばにあるテーブルの椅子に座った。





「ああ、魔王の目が覚めたら一応鑑定して身体の状態をチェックしてくれないか?これだけ魔力が枯渇してたらどこか身体に不具合が出る可能性もある。俺もある程度診れるが、医療分野はお前の方が詳しいからな。」



自分が呼ばれた理由にトリスは納得はしたもののシオンの方を見て思案顔である。




「それは構いませんが・・・ジュード先生の言う通りですね。」




シオンは後ろに座るトリスを振り返り、普段はしないような困った表情を浮かべた。





「お前も俺が普段とは違うと思うか?」



「え・・ええ、まあ。不具合が出たとして研究に支障が出るわけでもないと思うのに、不具合が出ないように先回りして対処しようとするところは普段とは違うんじゃないですか?いつもなら嬉々として調べようとするところなのに、全然この発見に嬉しそうじゃないですしね。」




トリスの客観的な評価に、再度自身の感情について考えてみる。




「全然、嬉しくはないな。むしろ不快な感じだ。」



そう言ったシオンにトリスは驚いた表情で




「あなたも人間だったんですね」




ジュードと同じことを言う。
しかし、自分でも普段とは違う行動をしていることを自覚してしまい、今度はそれに反論することは叶わなかった。



結局その後、魔王に魔力をある程度与えたが魔王が目を覚さなかったため、必要量に達しているかの判断ができず、トリスに身体を診てもらい、魔王が目を覚ますまでは様子見することになった。
魔王の食事の様子については明日コンラッドから報告がある予定だ。

トリスには魔王が目覚めたら再度診察してもらうために客室を用意して泊まってもらうことにした。
また明日の朝魔王の様子を見ることにして食事を摂ってから各々の部屋に入っていく。



しかし、シオンはどうにも落ち着かず、再度魔王の部屋に来てしまっていた。
魔王は変わらずベッドに寝ている。
ふと、寝具を何もかけていなかったと思い、魔王にそっとかけた。


「ほんとに、らしくないな。」


そう呟き、椅子を近くに持ってきて座り、持ってきた本を手に読み始めた。



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