死にたがりな魔王と研究職勇者

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勇者の食事

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「おはようございます。今日の朝食はルッカランとビンズのサラダ、ムー芋のスープ、サーマンのソテー、ヘイ麦のパン、デザートはルクの実のゼリーでございます。昨日は量が多かったようですので、今日は各料理の量を減らしてあります。」


そう言ってテーブルについたルイードに一つ一つの料理の説明をしていくのはコンラッドだ。


あれからコンラッドは毎日ルイードの元に料理を運んでくるようになった。
初めはルイードの食事量を見るためかいろいろな食事を用意して、ただ食事の最中はルイードを観察している様子であったが、数日経った今ではルイードの食事の好みも把握したのか、好みに合いそうな食事を食べられそうな量かつ生命維持に必要な量を提供してくるようになった。


食事の好みを把握するためだろうが、ここ数日はコンラッドとは少し話をするようになった。
話の内容は食事についてだけではあるが、コンラッドの勤勉さ、有能さがそれだけの会話でも窺えた。
敵の部下ではあるが、関心してしまう。そして同じように勤勉な自分の部下を思い起こされ、胸が痛む。


今日は出された食事は全て食べることができた。
やはりルクの実は口に合い、今日のデザートのゼリーはとてもおいしかった。
自分は肉料理よりも魚の方が好きなのか、昨日出された肉の塊の料理より今日の朝食は美味しく感じた。

食後にコンラッドと食事についての感想を話しているとドアがノックされた。



「はい」



コンラッドが扉を開けるとシオンが入ってきた。



「おはよう、朝食は食べたか?」


開口一番ルイードの食事について聞いてくるシオンであったが、もしかしたら今帰宅したのかもしれない。
昨夜も一緒に食事はとっていなかったし、今日の朝食は一人だったからだ。


シオンはコンラッドに食事の見張りを頼んだのに自分が館にいる時は必ずルイードと一緒に食事を摂る。
部下に仕事を振ったのなら任せておけば良いのにと思うが、研究対象についてはできるかぎり自分の目で見て把握しておきたいのだろうか。


「食べた。・・・毎日そこの執事から提供されているものは食べている。・・・いちいち見にこなくても報告は受けてるだろ」


そう言って勇者の方を見ると


「まあ、それはそうなんだがな・・・」


そう言って難しい顔をして黙ってしまったため、沈黙が流れる。


「おまえは」


「ん?」


「お前は食べたのか?」


沈黙に耐えかねたのか、ルイードからシオンに話しかけることは珍しい。


シオンは一瞬、胸が躍るような感覚がしたが、それを表面には出さず、


「いや、まだだ。今帰ってきた。」



帰ってきて早々ルイードの元に来たのだと話す。



その様子を少し離れたところから見ているコンラッドは少し面白そうに微笑んでいるが、二人は気づかなかった。


「シオン様、よろしければこちらに朝食をご用意致しますが。」



そう言ってにこやかにシオンにルイードの向かいの席を引き、促す。

その様子を見て


もう私の食事は終わっているのに・・・?


と首を捻るルイードであったが、
シオンは


「じゃあ頼む」


と返答し、着替えをしに自室にさっさと戻っていった。



「自分の部屋でとればいいだろ・・・」



コンラッドも食事の用意をしに行ったため、一人残されたルイードは独りごちた。




それから着替えて帰ってきたシオンを追い出す理由がなく、しかし自分は食べ終わっていたためテーブル席で本の続きをよみ、シオンは黙々とその場で食事をすると言う何とも言えない、しかし何故か落ち着く感覚を味わったルイードは



「敵なのに・・・」



とシオンが再度研究施設に戻った後、一人考え込むのであった。
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