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伯爵家
第13話 ハイル・ディン・ゼフテロス
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ゼフテロス王国の王都メソン。その中央に聳え立つのは外壁はすべて白で塗りつぶされ、周りの建物が豆粒のように小さく見えるほど巨大の城、いわゆる王城と呼ばれるものだ。月明かりに照らされ怪しくも美しく輝くその城の一室で二人の人間が密談していた。一人は金や銀のような希少金属で作られた装飾が所々に散りばめられフレームに貴重な魔獣の皮や羽を使われているであろうクッションが取り付けられたソファーに長い足を組みながら座っており、もう一人はその傍らに侍るように立っていた。男は肩のあたりまで伸びた金色の髪を靡かせ足を組み替えながら傍らの初老の男に問いかける。
「さて、クロム。万事上手くいったかい?」
「はい、ハイル様のご命令通り滞りなく処理を終えています」
「流石王国が誇る隠密部隊長、クロム・サーキッドだね」
王子はクロムに満面の笑みを向けその働きを労った。それに対しクロムは勿体ないと言わんばかりに白い手袋で覆われた手を胸に当て一礼する。
「ですがハイル様、申し訳ないのですがシンシアに殺された三人の盗賊以外が死んでいた原因が分かっていません」
「そうなんだ。君にしては珍しいね。死体からは何もわからなかったの?」
「……いえ。切断されているのに刃物で切られたわけではなく、潰されているのに殴られているわけではないということは分かりました」
「つまり、人がやったことではないってことかな?」
「………特異魔法の存在があるので断定はできませんがおそらくはそうだと思います。また、調査の結果ブラッドの特異魔法は血液を媒介として物の構造を変化させるものだと判明しましたのでこの件を彼の魔法で起こしたということもありません」
「ふーん。なるほどね。それじゃそれは保留でいいよ」
王子は含みのある笑みを浮かべながら虚空を見つめている。その返答を聞きクロムは聡明な主人が何かを思いついたのだと確信する。だが、クロムは何も聞き返さない。このハイル・ディン・ゼフテロスという男は長い歴史を持つこの国においても随一の鬼才であり、常人では影さえ踏めないほどの謀略家である。
その男が話さずに態度で表したということは今この情報は自分にとって知る必要のないことなのだ。寧ろ知らない方が得なのかもしれない。それはクロムにとって知るよしのないことであるがこの主のために尽くすことを至上の喜びとしているこの老人にとってはどうでもよいことなのだ。
「承知しました。ではこの件は保留とさせ頂きます」
「うん。そうするといいよ」
ハイルはソファーに寝っ転がりながら尊大な態度で答える。
「ところでハイル様、残されたアイヴァー領はどうなさるのでしょうか?」
「王族の直轄地にするよ。折角の報酬が活用できなくなっちゃうからね」
「やはりそうですか。ではしばらくの間の管理は私の部隊が行った方がよろしいかと」
「そうだね。万が一にも情報を漏らすわけにはいかないからね。アイヴァー領に迷宮があるなんて重大事項は特にね」
クロムは首肯し、一礼するとすぐに命じられたことを行うため踵を返し颯爽と部屋から出ていく。ハイルはその後ろ姿を見送ると軽く息を吐き天井を見上げる。
「慕ってくれるのはいいけどあいつは固すぎるんだよなー」
ハイルは若干哀愁が浮かんでいる表情でため息をつく。
「まあ、いいか。優秀だし。それに今はそんなこと気にならない気分だからね」
ハイルは益体もない独り言を呟きながら高揚した気分に浸る。なんせ今回は貴族の娘一人をその責務から解き放つだけで迷宮が手に入るのだから笑いが止まらない。アイヴァー伯爵は実にいい贈り物を残してくれたものだ。まあ、友人でなければ死んだ後で娘を助けてほしいという願いもブラッドのやつを派遣することもなかっただろうが。
「それにしてもブラッドの奴はやはりとんでもないな。血で物を操作するって話だったがおそらく生物にも通用するのだろう。何かしら制限があると思うけどそれでも危険な能力だな。ほんと味方でよかったよ。まあ、今だけかもしれないけど」
ブラッドは王国の冒険者ではあるがあの組織にも所属している。どっちの命令を優先するかと言われれば確実に組織の方を取るだろう。そのため彼らの意に反することは王族であってもできない。救いがあるとすれば彼らは余程国のバランスを崩すことをしなければ干渉してこないということだろうか。
だが、ハイル自身はこの自分より強者がいる状況を楽しんでいた。生まれた時から王族として敬われ、最高の教育を受け、最高の頭脳を持ったハイルはとても退屈していた。傍から見れば恵まれているのだろうが当人からしてみれば永遠と平坦な道を歩んでいるに過ぎない。だが、その道には自分では超えられないであろう壁が存在していたのだ。高揚した。人生で初めて目標を見つけた瞬間であった。
「俺は必ず君たちより上に立つ」
ハイルは燃えるような瞳でその理想の未来を見据えながら静かにつぶやいた。
「さて、クロム。万事上手くいったかい?」
「はい、ハイル様のご命令通り滞りなく処理を終えています」
「流石王国が誇る隠密部隊長、クロム・サーキッドだね」
王子はクロムに満面の笑みを向けその働きを労った。それに対しクロムは勿体ないと言わんばかりに白い手袋で覆われた手を胸に当て一礼する。
「ですがハイル様、申し訳ないのですがシンシアに殺された三人の盗賊以外が死んでいた原因が分かっていません」
「そうなんだ。君にしては珍しいね。死体からは何もわからなかったの?」
「……いえ。切断されているのに刃物で切られたわけではなく、潰されているのに殴られているわけではないということは分かりました」
「つまり、人がやったことではないってことかな?」
「………特異魔法の存在があるので断定はできませんがおそらくはそうだと思います。また、調査の結果ブラッドの特異魔法は血液を媒介として物の構造を変化させるものだと判明しましたのでこの件を彼の魔法で起こしたということもありません」
「ふーん。なるほどね。それじゃそれは保留でいいよ」
王子は含みのある笑みを浮かべながら虚空を見つめている。その返答を聞きクロムは聡明な主人が何かを思いついたのだと確信する。だが、クロムは何も聞き返さない。このハイル・ディン・ゼフテロスという男は長い歴史を持つこの国においても随一の鬼才であり、常人では影さえ踏めないほどの謀略家である。
その男が話さずに態度で表したということは今この情報は自分にとって知る必要のないことなのだ。寧ろ知らない方が得なのかもしれない。それはクロムにとって知るよしのないことであるがこの主のために尽くすことを至上の喜びとしているこの老人にとってはどうでもよいことなのだ。
「承知しました。ではこの件は保留とさせ頂きます」
「うん。そうするといいよ」
ハイルはソファーに寝っ転がりながら尊大な態度で答える。
「ところでハイル様、残されたアイヴァー領はどうなさるのでしょうか?」
「王族の直轄地にするよ。折角の報酬が活用できなくなっちゃうからね」
「やはりそうですか。ではしばらくの間の管理は私の部隊が行った方がよろしいかと」
「そうだね。万が一にも情報を漏らすわけにはいかないからね。アイヴァー領に迷宮があるなんて重大事項は特にね」
クロムは首肯し、一礼するとすぐに命じられたことを行うため踵を返し颯爽と部屋から出ていく。ハイルはその後ろ姿を見送ると軽く息を吐き天井を見上げる。
「慕ってくれるのはいいけどあいつは固すぎるんだよなー」
ハイルは若干哀愁が浮かんでいる表情でため息をつく。
「まあ、いいか。優秀だし。それに今はそんなこと気にならない気分だからね」
ハイルは益体もない独り言を呟きながら高揚した気分に浸る。なんせ今回は貴族の娘一人をその責務から解き放つだけで迷宮が手に入るのだから笑いが止まらない。アイヴァー伯爵は実にいい贈り物を残してくれたものだ。まあ、友人でなければ死んだ後で娘を助けてほしいという願いもブラッドのやつを派遣することもなかっただろうが。
「それにしてもブラッドの奴はやはりとんでもないな。血で物を操作するって話だったがおそらく生物にも通用するのだろう。何かしら制限があると思うけどそれでも危険な能力だな。ほんと味方でよかったよ。まあ、今だけかもしれないけど」
ブラッドは王国の冒険者ではあるがあの組織にも所属している。どっちの命令を優先するかと言われれば確実に組織の方を取るだろう。そのため彼らの意に反することは王族であってもできない。救いがあるとすれば彼らは余程国のバランスを崩すことをしなければ干渉してこないということだろうか。
だが、ハイル自身はこの自分より強者がいる状況を楽しんでいた。生まれた時から王族として敬われ、最高の教育を受け、最高の頭脳を持ったハイルはとても退屈していた。傍から見れば恵まれているのだろうが当人からしてみれば永遠と平坦な道を歩んでいるに過ぎない。だが、その道には自分では超えられないであろう壁が存在していたのだ。高揚した。人生で初めて目標を見つけた瞬間であった。
「俺は必ず君たちより上に立つ」
ハイルは燃えるような瞳でその理想の未来を見据えながら静かにつぶやいた。
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