魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

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帝国動乱

第22話 密会

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 シンシアたちが依頼で帝都を出た頃、アインは帝都のはずれにある酒場に来ていた。帝都の中心街とは違い人通りも少なく閑散としている。アインはぎしぎしと不快な音を立てる椅子にもたれかかって呆然としている。そんな中両開きのドアが軋むような音を響かせる。アインは入口の方に目線を向けると一人の男が近づいてきたのが見える。男の栗色の髪を癖がついたように跳ねており、腰には使い古されたサーベルを下げた見るからに冒険者であろうという格好をしていた。



「待たせたかな」



「いや、それほどではない。それに俺が急に呼びつけたのだから少しくらいは待つのは仕方ないことだ」



「確かに」



 男は朗らかに笑いながら答える。男は立て付けの悪い椅子に座り、ウェイターに酒を注文する。



「朝から酒か?」



 アインが呆れ混じりの声を出す。



「別にいいだろう。最近働き詰めなんだ。誰かさんのせいでね」



 男はからかうような混じりにアインを非難する視線を送ってくる。



「悪いとは思ってるよ。それなりの報酬は支払うつもりだから今は呑み込んでくれ」



 男はにやりと笑みを浮かべ、満足そうに頷く。



「それで今使っている『それ』は誰なんだ?」



「ああ、『これ』かい?犯罪者まがいの低級冒険者だよ。帝都に知り合いも特にいないようだし重宝してるよ」



 男はその裏に潜む人物を覗かせるような笑みを浮かべた。事実この男はウルが魔法で変身した姿なのだ。<鏡写し/ミラージュ>と言い、ウルは一度見ればあらゆる生物に変身でき、なおかつ声も魔力の質さえも完璧に再現する。そのため現在存在する個人の特定法では見破ることはできない。暗殺も潜入もできる割と万能型の能力だ。



「そうか。それなら別に俺が注意することはなさそうだな」



「当然さ。俺は一流だからね」



 ウルはそう言って得意げな顔をする。するとタイミングよく注文した酒が運ばれてきた。一口それをあおるとスイッチでも切り替わったように真剣な面持ちになる。



「それで何で俺は呼び出されたのかな?」



「数日中に<天壊>に会う必要ができた。会えるタイミングをユニ様を通して教えてくれ。お前ならできるだろ」



 アインはこともなさげに淡々と伝える。ウルはわずかに驚いた表情を浮かべた。



「それはできるけど、急にどうして?」



「王国からの依頼だ。第一皇子の陣営から離脱させてほしいみたいだ。おそらく俺たちと<天壊>が衝突するのはできるだけ避けたいのだろう。数か月後には世界会議も控えていることだしな」



「そっか。でも絶対無理だと思うけど」



「ああ、俺も無理だと思ってる」



 ウルは半眼でアインに厳しい視線を送ってくる。



「じゃあ、なんでそんな依頼受けたのさ」



「単に俺が<天壊>と話をしてみたかっただけだ」



「それは必要なことなんだよね?」



「ああ、必要だ。作戦の成功率も高めてくれるだろう」



 ウルはやれやれと言った様子の笑みを浮かべる。



「分かったよ。少し面倒だけど他ならぬ君の頼みだ。何とかしようじゃないか」



「助かる。だが、少し反応が大げさではないか?お前なら大した手間でもないだろう」



 アインは微妙な表情を浮かべウルに視線を送る。



「仕方ないさ。『これ』はそういう人間なんだ」



 ウルはそう自慢げに語る。ウルは化けたものに完全になりきることを信条としている。一種の美学のようなものを持ち合わせているのだ。そのため、あらゆる手段で情報を集め、精査し性格も完全に模倣する。アインはその様子にため息をつきながら乾いた拍手を送る。



「流石だな。大した信念だ」



「全然そう思ってそうじゃないけど……。まあ、いいや。もう話は終わりかい?」



「ああ、今日の話は終わりだな」



 アインがそう言うとウルは残った酒を飲み干すと立ち上がる。



「それじゃ、俺は行くよ。この後もやることがあるんでね。あと報酬は金品なんてつまらないもの以外でお願いね」



「ああ、考えておく」



 ウルはにっこりと笑うと店をあとにする。彼女はしばらく歩いて進み建物の影に隠れた小道に入った瞬間姿を変える。その姿は鳥だった。黄色い嘴に真っ白な毛で覆われたどこにでもいる<ハクセイ>という名の鳥だ。ウルは白い羽を羽ばたかせはるか上空へと飛んでいく。

 するとどこからともなく並走してくる青い問いが一匹現れた。ウルは人が目視できないほど上空まで昇ると再び姿を変化させる。今度は人に羽が生えたような姿であった。これはウルの魔法のもう一つの使い方で自分のイメージ通りに体を変化させる<想像変身/イマジナリートランス>である。



「やはり近くに居たのですかユニ様」



 作った羽を羽ばたかせ器用に浮くウルの肩に青い鳥が乗る。



「ええ、アインがあなたを呼び出した用事が気になったから」



「大したものじゃありませんでしたよ。王国が<天壊>を帝位争いから排除するためにアインに説得を頼んだというだけでした。それで<天壊>が自宅に戻るタイミングをアインに連絡しなければならないのですが」



「それは私に任せなさい。帝城の周りに待機しておくから伝えておくわ。でもそう。確かにそれは取るに足りないことね。王国が用意できる交渉材料ではあの男は動かせないしね」



「そうですね。無駄な努力ご苦労様ですね」



「本当にその通りだわ。ちゃんと私たちがこの件は処理するって伝えてあげたのに」



 肩の鳥からは悩まし気な声が響いてくる。だが、ウルは王国のことなどより気になっていた質問をぶつける。



「ユニ様、ずっと気になっていたんですが何でアインに任せたのですか?アインに話をしたときには既に私は帝国の中枢に入り込んでいましたし秘密裏に第二皇子を王にする用意はできていたのに」



 ウルは神妙な面持ちで答えを待つ。静寂を切り裂くように美しい声音が響く。



「それは簡単よ。その方が面白いから」



 ウルはその答えに呆れが若干混じった声音で聞き返す。



「本当にそれだけなんですか」



「いや、それだけということはないわ。でも最も大きい理由は?って聞かれたらその方が面白いからという答えになるわね」



 その答えにウルはほっとする。それと同時にユニの享楽に付き合わされるアインに同情した。



「そうですか。でもほどほどにしないと手痛いしっぺ返しを食らうかもしれませんよ」



「そうね。でもそれはそれで面白いわ」



「そうですか。ではもう何も言いません。私は任務に戻ります」



「ええ、頑張ってね」



 そう言うとウルは再び鳥に化けると帝城の方へと向かっていく。ユニもウルを追走するように帝城の方へと飛んでいった。

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