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五章
【侵入-4】
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ここは一階のフロア。蒼太と紅太が暗闇の中で外から誰かが社内に入って来ないか見張りをしていた。
「みんな順調にいってるかしら?」
「そうねぇ。心配だわぁ」
「でも大丈夫よ。必ず上手く行くわ」
「修一ちゃんも村野ちゃんも福井ちゃんも優秀だしねぇ」
「そうよ。だから安心して私達は見張りを続けましょ」
「わかったわぁ」
オカマ達はお互いの顔に懐中電灯のライトを当ててから、顔を見合わせながら頷いた。
「紅ちゃん。入り口のこの場所だけじゃなくって、あっちの方も見張りましょうよ」
「そうねぇ。同じ場所に居てもねぇ。万が一、私達みたいに窓からパイストス社の社員が入ってくる可能性もあるわねぇ」
「社員なら普通に入り口から入って来るからそれは無いわよ。でも万が一を考えて窓も見張りましょ」
それからオカマ達は案内板をもう一度見てから暗闇の一階のフロアを歩き出した。
「蒼ちゃん。私はこっちを見張ってるわ」
そう言って蒼太は事務室に向かった。
「私はこっちを見張るわぁ」
紅太は待合室に向かい、二人は別々に見張りをすることにした。蒼太は事務室の中に入り、室内を見渡した。
(あら、トイレがあるじゃない)
蒼太はトイレを見るなり尿意を催した。
(使わせて貰っても構わないわよね)
それから蒼太は用を済ませてトイレから出た。そのあと、手を洗い終わりハンカチで濡れた手を拭きながら顔を上げ事務室を見た。
その視線の先には事務室の奥にある窓から射す月明かりで、微かに照らされた人影があった。
蒼太は声を上げ叫んだ。
「ギィィヤャーァァァァァァ!」
その叫びは獣の雄叫びのようだった。
蒼太の叫び声を聞き、紅太はスグに駆けつけた。
「蒼ちゃんどうしたのぉ?」
「あ……あれ……」
蒼太は男の方を指差して言った。
「ギィィギャーァァァァァァ!」
その人影を見て紅太も獣の雄叫びのような叫び声を上げた。
「だ、誰よあんた」
「そうよぉ」
オカマ達はそう言ってから、同時に懐中電灯のライトをその人影に当てた。
人影の正体は池内だった。
「二人とも廃墟ビル跡の時以来じゃないか」
池内は言った。
「あんた、あの時のスーツ男ね?」
そう言って蒼太は池内をキッと睨んだ。
「その通りだ。良く覚えててくれたね」
「覚えてるわよぉ。あの時は酷いことをしてくれたわねぇ」
紅太も同じく池内を睨んだ。
「ところで君達は我が社の中でなにをしてるんだ? いや、君達みんなと言った方が正しいかな?」
池内のその言葉を聞いて二人は焦った。
自分達の置かれている現状を全て理解した。
「とりあえず、君達にはここで大人しくしていて貰おう」
そう言ってから池内は自分の後ろに隠していたロープを出し、オカマ達に近付く。
「こ、来ないでよ」
「嫌よぉ。近寄らないでよぉ」
オカマ達は怯えていた。
「私は暴力は嫌いでね。大人しくしていればなにもしない」
池内はオカマ達を事務室の壁際に追い込んで、ロープを体に近付けた。
「や、嫌よ」
「触らないでよぉ」
オカマ達はロープを払いのけた。
「大人しくしてくれ。抵抗するならば私にも考えがある」
池内は冷ややかな視線でオカマ達を見て言った。
「触られたくないのよ。縛られたくないのよ」
「今日はダメなのよぉ。都合が悪いのよぉ」
オカマ達は泣き入りそうになりながら言った。
「なぜだ? 意味がわからないのだが……」
「今日は大事な日なのよ……」
「そうなのよぉ。特別な日なのぉ……」
「一体なんの日なんだ?」
池内は気になって訊いた。
オカマ達は少し間を置いて、池内の顔を見ながら同時に言う。
「あの日なの」
それを聞いた池内は全身に寒気が走った。
池内が怯んだ時に出来たスキをオカマ達は見逃さなかった。
すかさず蒼太は池内の顎に飛び膝蹴り。紅太は池内の股間に会心の一撃をぶつけた。
「がっ……っは……」
池内はバタンと倒れて意識を失った。
「紅ちゃんやったわね!」
「本当ねぇ、上手く行ったわぁ!」
オカマ達は池内を見下ろしながら勝ち誇った。
「でも大変よ。社員の人達が社内に居るわ」
「そうねぇ。この男だけじゃないハズよぉ」
「私達どうしようかしら? みんなのところに行った方が良いかしら?」
「そうねぇ、みんなのところにも社員の誰かが居たら大変よねぇ」
それからオカマ達は考えた。しかしスグに自分達の役割を思い出した。
「私達の役目は見張りよ。本当ならこの男が居たことを修一ちゃん達に報告した方が良いけど、他の社員の人達が来た時のことを考えてここで見張りを続けましょ」
「新たに誰かが来たら修一ちゃん達に報告に行きましょうねぇ」
それからオカマ達はロープで池内を縛ってから事務室の隅に放り、見張りを再開した。
開発部の中で福井はメインコンピューターであるサーバーの手前にあるパソコンを操作していた。
メインコンピューターであるサーバーにはディスクを挿入する場所が無かったため、パソコンからウイルスを送り込むしか方法が無かったからだ。
サーバーとは業務用の比較的大型のコンピュータのこと。開発部はこの大型のサーバーをメインコンピューターとして使用していて、『パンドラ』のプログラムの全データをこのサーバー内に保存していた。そして、このメインコンピューターから『パンドラ』の購入者に対してダウンロード形式で販売する。
サーバーにはモニターが取り付けられていて開発部の人間がデータを管理するのための物。
福井はカタカタと素早くキーボードを叩き、操作しているパソコンとメインコンピューターとの回線を繋ぐ作業を始めた。
本来、メインコンピューターと開発部にある全てのパソコンの回線は繋がっているのだが、ウイルスを完璧にメインコンピューターに侵入させるためには、今、福井が操作しているパソコンとの回線を完璧に繋ぐ必要があった。その理由は、万が一ウイルスをメインコンピューターに侵入させている最中に回線に支障が起きたりして通信が遮断でもした場合、他のパソコンで作業をやり直す羽目になる。そんなことをしている時間は無いために失敗は許されない。そのために一見必要の無い、無駄とも思うかもしれない作業だが、念には念を入れ福井は徹底的に作業をしていた。
(予想はしていたがメインコンピューターがサーバーだったとは)
福井は予想していたとはいえ少しばかりガッカリしていた。
(しかもディスクを挿入する場所が無い……)
それは予想外だった。
(直接メインコンピューターにウイルスを侵入させれば完了と思っていたが、パソコンを介してウイルスを侵入させないとダメとは)
福井は自分が予想していたことと事実が違ったために少しばかり戸惑っていた。それと同時に作業が増え焦りもあった。
(ま、普通に考えたら当然か)
福井は一人納得して、作業のスピードを速めた。
それから数分後作業は完了し、福井はディスクをポケットから取り出した。
(準備は整った)
福井はパソコンにディスクを挿入した。スグにパソコンの画面はフリーズして操作不可能になった。
それを確認してから福井はメインコンピューターであるサーバーに取り付けられているモニターに目を向けた。
モニターの画面はわけのわからない羅列の文字で埋め尽くされていた。それはウイルスが侵入してメインコンピューター内のデータを破壊していることをあらわしている。それから数分後モニターの画面は消えた。
メインコンピューター内のデータは全て破壊された。
「完了だ」
福井は声に出してクールに言った。
それから操作していたパソコンからウイルスのディスクを取り出してポケットにしまった。
自分の役目が終わり安心したのか、村野のことを思い出した。
自分の作業に集中していたために開発部の外で起きていることを忘れていた。
(そういえば、さっきから静かになったな)
不安に駆られて開発部の扉の前まで行った。
福井は扉に耳を当て外の様子をうかがった。しかし、物音一つしない。
(まさか?)
福井はスグに鍵を回し扉を開いた。
懐中電灯のライトを正面、左右に当てたが村野と荒木の姿は無かった。
(何処に行ったんだ? 二人は……)
村野と荒木が何処に居るのかも気になるが、それよりも福井は村野の安否を気にした。
あの時の場面から考えればそのあと二人は争いになり取っ組み合いになっているだろうと、福井はそう考えていた。
(もしケンカになっていたら……)
福井は村野の話を思い出した。
(マズイな)
そう頭の中で呟き福井は開発部の扉を閉めた。
その頃、パイストス社の屋上で村野と荒木が殴り合っていた。開発部で福井が作業をしている内に二人は場所を変えて屋上に来ていた。
二人の拳がお互いの体に当たり、その音が夜空の下で響き渡っている。
「オラァ!」
怒鳴り声を上げながら村野は荒木の顔面にパンチを打ち込んだ。
「クソガキがぁ!」
村野の一撃でよろめくこともなく、荒木は村野の脇腹に膝蹴りをぶつけた。
「ゴホッ……ガハッ……」
荒木の重い膝蹴りを受け村野は腹を抱えてよろめいた。
現状は先程から村野の劣勢だった。
「相変わらずのザコ野郎だな。てめぇはよ」
「ち……クソが……」
「この前の時から全く成長してねぇぜ。ま、脚に対する攻撃はなんとか防いでるけどよ」
「ハア、ハア……同じ手は……」
村野は苦しそうにしながら拳を握り構えた。
「そうこなくっちゃな」
荒木はニヤリと笑い突進してきた。
村野に飛び蹴り、続いて顔面に数発パンチを浴びせ、またまた脇腹に膝蹴りをぶつけた。
「ガハッガハッ……」
村野は遂に膝を落とした。
「オイオイ。まだくたばんじゃねぇよ。お楽しみはまだまだコレからだろうが」
「チ……チクショウが……」
そう言って村野はボコボコに腫れ上がった顔で荒木を見た。
その時、いきなり村野に吐き気が襲ってきた。
「オエッ……ップ……」
村野は嗚咽を出しながら吐き出した。
何度も脇腹に荒木の膝蹴りを受けたのが原因だった。
「きったねぇクソガキだぜ」
荒木はゴミを見るような目で村野に言った。
「ハア……ハア……」
「スッキリしたかよ?」
「ハア……まぁな……」
村野は口を上着の袖で拭いながら言い返した。
「そんなら、お楽しみの再開だ」
そう言うなり荒木はまたもや村野に突進した。
「ちょっと待ってくれ」
村野が腕を前に伸ばし荒木を制した。
「なんだぁ、これ以上は勘弁して下さいか?」
「てめぇにトドメを刺される前に訊きてぇことがあんだよ」
「オイオイ、クソガキ。諦めてんじゃねぇよ。まだまだ楽しませてくれや」
「キチガイ野郎が」
「なんとでも呼べや。んで? 俺に訊きてぇことってなんだ?」
荒木は地面にうずくまっている村野を見下ろしながら言った。
「てめぇはどうしてこの場所に居るんだ? 今日俺達が侵入して来ることを知ってたのかよ?」
「ああ、知ってたぜ」
「なら、てめぇらは俺達がここに居る理由も知ってんのか?」
「知ってるぜ。いつの時間に侵入して来るか迄は知らなかったけどよ。お陰で数時間待つ羽目になったぜ」
荒木の言葉を聞いて村野はショックを受けた。全てがバレていたからだ。
「だから俺達が侵入しに来た今日、てめぇはタイミング良く社内に居たんだな? 開発部のところで待ち伏せてたんだな?」
「ああ、その通りだ。待ち伏せてたんだよ。だが、てめぇに邪魔されたせいでもう一人の野郎には開発部に入られちまったけどよ」
「だったら、てめぇは役立たずだな。そのもう一人が今頃、開発部のメインコンピューターにウイルスをぶち込んでプログラムの全データをぶっ壊してるハズだからな」
村野は荒木をバカにするように言った。
「クソガキが」
「それより、てめぇは誰の指示で待ち伏せてたんだ? てめぇが自分で考えての行動じゃねぇハズだ。あの沙羅って女の指示か?」
「ちげぇ。てめぇらが計画を阻止するために侵入してくることに気付いた人の指示だ」
「そういえばさっきも言ってたな。誰だそいつは?」
「さぁな」
「この会社の社長か?」
「ちげぇよ」
「一体誰だ?」
「それはてめぇに関係ねぇ!」
荒木は強く言い放った。
「さてと、お楽しみの再開の時間だぜ。一度でトドメを刺さねぇようにじわりじわりと楽しませて貰うぜ」
「本当にてめぇはキチガイだな」
「だからなんとでも呼べや。いいから立てクソガキ」
さっきの会話での時間で村野は少しばかり体力を回復していた。 村野は立ち上がり構える。その時に村野のケータイが鳴った。
「なんだぁ?」
「わかんだろスマホだ。確認しても良いか?」
「ダメだ。クソガキ、なにを呑気なことをほざいてんだ」
「それくらい良いじゃねぇか」
「ぶさけてんじゃねぇよ」
「別にお楽しみは逃げねぇんだから良いだろうが」
荒木はそれを聞いて考えを改めた。
「それもそうだな。冥土の土産にスマホを確認しろや。んなもん土産になりゃしねぇけどよ」
スグに村野はスマホを取り出し確認した。
そしたらメールが一通来ていた。「SMS」でのメールで、そのうえ送信者が不明だった。
(まさか、これって……)
メールには一つのアドレスが載っていた。そして図書館での修一の話を思い出した。
それから荒木を見て村野は笑みを浮かべる。
(本気でやれりゃ、このピンチをなんとか切り抜けられるかもな)
村野はスマホを素早く操作してメールの内容に従い自分のスマホのアドレスを変更した。
「みんな順調にいってるかしら?」
「そうねぇ。心配だわぁ」
「でも大丈夫よ。必ず上手く行くわ」
「修一ちゃんも村野ちゃんも福井ちゃんも優秀だしねぇ」
「そうよ。だから安心して私達は見張りを続けましょ」
「わかったわぁ」
オカマ達はお互いの顔に懐中電灯のライトを当ててから、顔を見合わせながら頷いた。
「紅ちゃん。入り口のこの場所だけじゃなくって、あっちの方も見張りましょうよ」
「そうねぇ。同じ場所に居てもねぇ。万が一、私達みたいに窓からパイストス社の社員が入ってくる可能性もあるわねぇ」
「社員なら普通に入り口から入って来るからそれは無いわよ。でも万が一を考えて窓も見張りましょ」
それからオカマ達は案内板をもう一度見てから暗闇の一階のフロアを歩き出した。
「蒼ちゃん。私はこっちを見張ってるわ」
そう言って蒼太は事務室に向かった。
「私はこっちを見張るわぁ」
紅太は待合室に向かい、二人は別々に見張りをすることにした。蒼太は事務室の中に入り、室内を見渡した。
(あら、トイレがあるじゃない)
蒼太はトイレを見るなり尿意を催した。
(使わせて貰っても構わないわよね)
それから蒼太は用を済ませてトイレから出た。そのあと、手を洗い終わりハンカチで濡れた手を拭きながら顔を上げ事務室を見た。
その視線の先には事務室の奥にある窓から射す月明かりで、微かに照らされた人影があった。
蒼太は声を上げ叫んだ。
「ギィィヤャーァァァァァァ!」
その叫びは獣の雄叫びのようだった。
蒼太の叫び声を聞き、紅太はスグに駆けつけた。
「蒼ちゃんどうしたのぉ?」
「あ……あれ……」
蒼太は男の方を指差して言った。
「ギィィギャーァァァァァァ!」
その人影を見て紅太も獣の雄叫びのような叫び声を上げた。
「だ、誰よあんた」
「そうよぉ」
オカマ達はそう言ってから、同時に懐中電灯のライトをその人影に当てた。
人影の正体は池内だった。
「二人とも廃墟ビル跡の時以来じゃないか」
池内は言った。
「あんた、あの時のスーツ男ね?」
そう言って蒼太は池内をキッと睨んだ。
「その通りだ。良く覚えててくれたね」
「覚えてるわよぉ。あの時は酷いことをしてくれたわねぇ」
紅太も同じく池内を睨んだ。
「ところで君達は我が社の中でなにをしてるんだ? いや、君達みんなと言った方が正しいかな?」
池内のその言葉を聞いて二人は焦った。
自分達の置かれている現状を全て理解した。
「とりあえず、君達にはここで大人しくしていて貰おう」
そう言ってから池内は自分の後ろに隠していたロープを出し、オカマ達に近付く。
「こ、来ないでよ」
「嫌よぉ。近寄らないでよぉ」
オカマ達は怯えていた。
「私は暴力は嫌いでね。大人しくしていればなにもしない」
池内はオカマ達を事務室の壁際に追い込んで、ロープを体に近付けた。
「や、嫌よ」
「触らないでよぉ」
オカマ達はロープを払いのけた。
「大人しくしてくれ。抵抗するならば私にも考えがある」
池内は冷ややかな視線でオカマ達を見て言った。
「触られたくないのよ。縛られたくないのよ」
「今日はダメなのよぉ。都合が悪いのよぉ」
オカマ達は泣き入りそうになりながら言った。
「なぜだ? 意味がわからないのだが……」
「今日は大事な日なのよ……」
「そうなのよぉ。特別な日なのぉ……」
「一体なんの日なんだ?」
池内は気になって訊いた。
オカマ達は少し間を置いて、池内の顔を見ながら同時に言う。
「あの日なの」
それを聞いた池内は全身に寒気が走った。
池内が怯んだ時に出来たスキをオカマ達は見逃さなかった。
すかさず蒼太は池内の顎に飛び膝蹴り。紅太は池内の股間に会心の一撃をぶつけた。
「がっ……っは……」
池内はバタンと倒れて意識を失った。
「紅ちゃんやったわね!」
「本当ねぇ、上手く行ったわぁ!」
オカマ達は池内を見下ろしながら勝ち誇った。
「でも大変よ。社員の人達が社内に居るわ」
「そうねぇ。この男だけじゃないハズよぉ」
「私達どうしようかしら? みんなのところに行った方が良いかしら?」
「そうねぇ、みんなのところにも社員の誰かが居たら大変よねぇ」
それからオカマ達は考えた。しかしスグに自分達の役割を思い出した。
「私達の役目は見張りよ。本当ならこの男が居たことを修一ちゃん達に報告した方が良いけど、他の社員の人達が来た時のことを考えてここで見張りを続けましょ」
「新たに誰かが来たら修一ちゃん達に報告に行きましょうねぇ」
それからオカマ達はロープで池内を縛ってから事務室の隅に放り、見張りを再開した。
開発部の中で福井はメインコンピューターであるサーバーの手前にあるパソコンを操作していた。
メインコンピューターであるサーバーにはディスクを挿入する場所が無かったため、パソコンからウイルスを送り込むしか方法が無かったからだ。
サーバーとは業務用の比較的大型のコンピュータのこと。開発部はこの大型のサーバーをメインコンピューターとして使用していて、『パンドラ』のプログラムの全データをこのサーバー内に保存していた。そして、このメインコンピューターから『パンドラ』の購入者に対してダウンロード形式で販売する。
サーバーにはモニターが取り付けられていて開発部の人間がデータを管理するのための物。
福井はカタカタと素早くキーボードを叩き、操作しているパソコンとメインコンピューターとの回線を繋ぐ作業を始めた。
本来、メインコンピューターと開発部にある全てのパソコンの回線は繋がっているのだが、ウイルスを完璧にメインコンピューターに侵入させるためには、今、福井が操作しているパソコンとの回線を完璧に繋ぐ必要があった。その理由は、万が一ウイルスをメインコンピューターに侵入させている最中に回線に支障が起きたりして通信が遮断でもした場合、他のパソコンで作業をやり直す羽目になる。そんなことをしている時間は無いために失敗は許されない。そのために一見必要の無い、無駄とも思うかもしれない作業だが、念には念を入れ福井は徹底的に作業をしていた。
(予想はしていたがメインコンピューターがサーバーだったとは)
福井は予想していたとはいえ少しばかりガッカリしていた。
(しかもディスクを挿入する場所が無い……)
それは予想外だった。
(直接メインコンピューターにウイルスを侵入させれば完了と思っていたが、パソコンを介してウイルスを侵入させないとダメとは)
福井は自分が予想していたことと事実が違ったために少しばかり戸惑っていた。それと同時に作業が増え焦りもあった。
(ま、普通に考えたら当然か)
福井は一人納得して、作業のスピードを速めた。
それから数分後作業は完了し、福井はディスクをポケットから取り出した。
(準備は整った)
福井はパソコンにディスクを挿入した。スグにパソコンの画面はフリーズして操作不可能になった。
それを確認してから福井はメインコンピューターであるサーバーに取り付けられているモニターに目を向けた。
モニターの画面はわけのわからない羅列の文字で埋め尽くされていた。それはウイルスが侵入してメインコンピューター内のデータを破壊していることをあらわしている。それから数分後モニターの画面は消えた。
メインコンピューター内のデータは全て破壊された。
「完了だ」
福井は声に出してクールに言った。
それから操作していたパソコンからウイルスのディスクを取り出してポケットにしまった。
自分の役目が終わり安心したのか、村野のことを思い出した。
自分の作業に集中していたために開発部の外で起きていることを忘れていた。
(そういえば、さっきから静かになったな)
不安に駆られて開発部の扉の前まで行った。
福井は扉に耳を当て外の様子をうかがった。しかし、物音一つしない。
(まさか?)
福井はスグに鍵を回し扉を開いた。
懐中電灯のライトを正面、左右に当てたが村野と荒木の姿は無かった。
(何処に行ったんだ? 二人は……)
村野と荒木が何処に居るのかも気になるが、それよりも福井は村野の安否を気にした。
あの時の場面から考えればそのあと二人は争いになり取っ組み合いになっているだろうと、福井はそう考えていた。
(もしケンカになっていたら……)
福井は村野の話を思い出した。
(マズイな)
そう頭の中で呟き福井は開発部の扉を閉めた。
その頃、パイストス社の屋上で村野と荒木が殴り合っていた。開発部で福井が作業をしている内に二人は場所を変えて屋上に来ていた。
二人の拳がお互いの体に当たり、その音が夜空の下で響き渡っている。
「オラァ!」
怒鳴り声を上げながら村野は荒木の顔面にパンチを打ち込んだ。
「クソガキがぁ!」
村野の一撃でよろめくこともなく、荒木は村野の脇腹に膝蹴りをぶつけた。
「ゴホッ……ガハッ……」
荒木の重い膝蹴りを受け村野は腹を抱えてよろめいた。
現状は先程から村野の劣勢だった。
「相変わらずのザコ野郎だな。てめぇはよ」
「ち……クソが……」
「この前の時から全く成長してねぇぜ。ま、脚に対する攻撃はなんとか防いでるけどよ」
「ハア、ハア……同じ手は……」
村野は苦しそうにしながら拳を握り構えた。
「そうこなくっちゃな」
荒木はニヤリと笑い突進してきた。
村野に飛び蹴り、続いて顔面に数発パンチを浴びせ、またまた脇腹に膝蹴りをぶつけた。
「ガハッガハッ……」
村野は遂に膝を落とした。
「オイオイ。まだくたばんじゃねぇよ。お楽しみはまだまだコレからだろうが」
「チ……チクショウが……」
そう言って村野はボコボコに腫れ上がった顔で荒木を見た。
その時、いきなり村野に吐き気が襲ってきた。
「オエッ……ップ……」
村野は嗚咽を出しながら吐き出した。
何度も脇腹に荒木の膝蹴りを受けたのが原因だった。
「きったねぇクソガキだぜ」
荒木はゴミを見るような目で村野に言った。
「ハア……ハア……」
「スッキリしたかよ?」
「ハア……まぁな……」
村野は口を上着の袖で拭いながら言い返した。
「そんなら、お楽しみの再開だ」
そう言うなり荒木はまたもや村野に突進した。
「ちょっと待ってくれ」
村野が腕を前に伸ばし荒木を制した。
「なんだぁ、これ以上は勘弁して下さいか?」
「てめぇにトドメを刺される前に訊きてぇことがあんだよ」
「オイオイ、クソガキ。諦めてんじゃねぇよ。まだまだ楽しませてくれや」
「キチガイ野郎が」
「なんとでも呼べや。んで? 俺に訊きてぇことってなんだ?」
荒木は地面にうずくまっている村野を見下ろしながら言った。
「てめぇはどうしてこの場所に居るんだ? 今日俺達が侵入して来ることを知ってたのかよ?」
「ああ、知ってたぜ」
「なら、てめぇらは俺達がここに居る理由も知ってんのか?」
「知ってるぜ。いつの時間に侵入して来るか迄は知らなかったけどよ。お陰で数時間待つ羽目になったぜ」
荒木の言葉を聞いて村野はショックを受けた。全てがバレていたからだ。
「だから俺達が侵入しに来た今日、てめぇはタイミング良く社内に居たんだな? 開発部のところで待ち伏せてたんだな?」
「ああ、その通りだ。待ち伏せてたんだよ。だが、てめぇに邪魔されたせいでもう一人の野郎には開発部に入られちまったけどよ」
「だったら、てめぇは役立たずだな。そのもう一人が今頃、開発部のメインコンピューターにウイルスをぶち込んでプログラムの全データをぶっ壊してるハズだからな」
村野は荒木をバカにするように言った。
「クソガキが」
「それより、てめぇは誰の指示で待ち伏せてたんだ? てめぇが自分で考えての行動じゃねぇハズだ。あの沙羅って女の指示か?」
「ちげぇ。てめぇらが計画を阻止するために侵入してくることに気付いた人の指示だ」
「そういえばさっきも言ってたな。誰だそいつは?」
「さぁな」
「この会社の社長か?」
「ちげぇよ」
「一体誰だ?」
「それはてめぇに関係ねぇ!」
荒木は強く言い放った。
「さてと、お楽しみの再開の時間だぜ。一度でトドメを刺さねぇようにじわりじわりと楽しませて貰うぜ」
「本当にてめぇはキチガイだな」
「だからなんとでも呼べや。いいから立てクソガキ」
さっきの会話での時間で村野は少しばかり体力を回復していた。 村野は立ち上がり構える。その時に村野のケータイが鳴った。
「なんだぁ?」
「わかんだろスマホだ。確認しても良いか?」
「ダメだ。クソガキ、なにを呑気なことをほざいてんだ」
「それくらい良いじゃねぇか」
「ぶさけてんじゃねぇよ」
「別にお楽しみは逃げねぇんだから良いだろうが」
荒木はそれを聞いて考えを改めた。
「それもそうだな。冥土の土産にスマホを確認しろや。んなもん土産になりゃしねぇけどよ」
スグに村野はスマホを取り出し確認した。
そしたらメールが一通来ていた。「SMS」でのメールで、そのうえ送信者が不明だった。
(まさか、これって……)
メールには一つのアドレスが載っていた。そして図書館での修一の話を思い出した。
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