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夢をいかがですか?
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「夢をいかがですか?」
右京之介
ボクの目の前に三つの赤い風船が横に並んで浮いていた。
これは夢じゃないかと思った。でも、ボクは夢に付き合ってあげようと思った。
ここで無理に目を覚ますこともできたけど、久しぶりに見た夢だから大切にしなくちゃ。
さあ、夢の中へ……。
まずは、一番右の風船を指で突っついてみた。
――パン!
赤い風船が割れて、あたりが真っ白になった。
とても大きな音がしたけど、ボクの部屋に、心配したお母さんが駆け込んで来ることはなかった。――やっぱり夢なんだ。
白い煙の中から一本のエンピツが現れた。
なんで昭和の文房具が出てくるの?
今はシャーペンの時代だよ。
エンピツなんて誰も学校に持って来てないし、家では九十歳のひいおばあちゃんが日記を書くのに使ってるだけだ。ああ、悪夢だ。
でも、これはボクへのプレゼントに違いない。クリスマスも誕生日もまだ先だけど。
はい、プレゼントは末等のエンピツでしたー!
本来ならここで終わる。でも、これは夢だ。もっといい物をもらってやる。ルール違反かもしれないけど、夢だから許してもらおう。
ボクは真ん中の風船も突いてみた。
――パン!
また大きな音がして、風船の中からゲーム機が出てきた。
やったー! 欲しかったやつだ。いいぞ、ボクの夢!
でも、ここで終わったら男がすたる。風船はもう一個残ってるんだ。
もっといい物が出てくるに違いない。
ボクは夢中で三個目を突っついた。
――パン!
最後の風船からはマウンテンバイクが出てきた。
すごい! これはボクがこの世で欲しかったナンバーワンの物だ。
小さな風船の中から、大きな自転車が出てくるなんてやっぱり夢なんだ。
あきらめずに三個の風船を全部割ってよかった。
夢をあきらめないでという昭和の歌があったっけ。
あーあ、楽しかった。
さて、そろそろ朝だろう。目を覚ますとするかな。
真夏の夜の夢はこれでおしまいだ。
目覚めた場所はいつものボクの部屋だった。
部屋中を見渡してみたけど、エンピツもゲーム機もマウンテンバイクもなかった。
あるわけないか。だって夢だもん。これが現実だ。
ボクは部屋を出て、キッチンに向かった。
お母さんがハムエッグを焼いていて、ひいおばあちゃんが一人でテーブルに座っていた。テーブルの上にはたくさんのエンピツが並んでいた。
「えっ、どうしたの、このエンピツ?」
ボクは驚いて尋ねた。
こんなことになってるなんて、夢にも思わなかったからだ。
「それがねえ」ひいおばあちゃんは不思議そうに言う。「朝起きたら、ここにエンピツが三十本も置いてあってねえ、おかしいねえ」
ひいおばあちゃんは日記を書くためのエンピツを一年で一本使う。
つまり……。
「ひいおばあちゃん、これはあと三十年生きてくださいというプレゼントだよ」
「へえ、そうかねえ。百二十歳まで生きるなんて、なんだか夢のようだねえ」
ボクが見たエンピツの夢が現実になったんだ。
エンピツの夢は夢占いではどういう意味なんだろう?
まあ、意味なんてどうでもいいか。
ホントはゲーム機かマウンテンバイクがよかったのだけど、三十本のエンピツも最高だ。
だって、あと三十年間もひいおばあちゃんとこうして会えるのだからね。
なんだか、夢先案内人になった気分だなあ。それとも夢追い人かなあ。
ボクはふと窓から外を見た。
二個の赤い風船が空を飛んでいた。
きっと今夜、誰かの夢の中へ現れるのだろう。
(了)
右京之介
ボクの目の前に三つの赤い風船が横に並んで浮いていた。
これは夢じゃないかと思った。でも、ボクは夢に付き合ってあげようと思った。
ここで無理に目を覚ますこともできたけど、久しぶりに見た夢だから大切にしなくちゃ。
さあ、夢の中へ……。
まずは、一番右の風船を指で突っついてみた。
――パン!
赤い風船が割れて、あたりが真っ白になった。
とても大きな音がしたけど、ボクの部屋に、心配したお母さんが駆け込んで来ることはなかった。――やっぱり夢なんだ。
白い煙の中から一本のエンピツが現れた。
なんで昭和の文房具が出てくるの?
今はシャーペンの時代だよ。
エンピツなんて誰も学校に持って来てないし、家では九十歳のひいおばあちゃんが日記を書くのに使ってるだけだ。ああ、悪夢だ。
でも、これはボクへのプレゼントに違いない。クリスマスも誕生日もまだ先だけど。
はい、プレゼントは末等のエンピツでしたー!
本来ならここで終わる。でも、これは夢だ。もっといい物をもらってやる。ルール違反かもしれないけど、夢だから許してもらおう。
ボクは真ん中の風船も突いてみた。
――パン!
また大きな音がして、風船の中からゲーム機が出てきた。
やったー! 欲しかったやつだ。いいぞ、ボクの夢!
でも、ここで終わったら男がすたる。風船はもう一個残ってるんだ。
もっといい物が出てくるに違いない。
ボクは夢中で三個目を突っついた。
――パン!
最後の風船からはマウンテンバイクが出てきた。
すごい! これはボクがこの世で欲しかったナンバーワンの物だ。
小さな風船の中から、大きな自転車が出てくるなんてやっぱり夢なんだ。
あきらめずに三個の風船を全部割ってよかった。
夢をあきらめないでという昭和の歌があったっけ。
あーあ、楽しかった。
さて、そろそろ朝だろう。目を覚ますとするかな。
真夏の夜の夢はこれでおしまいだ。
目覚めた場所はいつものボクの部屋だった。
部屋中を見渡してみたけど、エンピツもゲーム機もマウンテンバイクもなかった。
あるわけないか。だって夢だもん。これが現実だ。
ボクは部屋を出て、キッチンに向かった。
お母さんがハムエッグを焼いていて、ひいおばあちゃんが一人でテーブルに座っていた。テーブルの上にはたくさんのエンピツが並んでいた。
「えっ、どうしたの、このエンピツ?」
ボクは驚いて尋ねた。
こんなことになってるなんて、夢にも思わなかったからだ。
「それがねえ」ひいおばあちゃんは不思議そうに言う。「朝起きたら、ここにエンピツが三十本も置いてあってねえ、おかしいねえ」
ひいおばあちゃんは日記を書くためのエンピツを一年で一本使う。
つまり……。
「ひいおばあちゃん、これはあと三十年生きてくださいというプレゼントだよ」
「へえ、そうかねえ。百二十歳まで生きるなんて、なんだか夢のようだねえ」
ボクが見たエンピツの夢が現実になったんだ。
エンピツの夢は夢占いではどういう意味なんだろう?
まあ、意味なんてどうでもいいか。
ホントはゲーム機かマウンテンバイクがよかったのだけど、三十本のエンピツも最高だ。
だって、あと三十年間もひいおばあちゃんとこうして会えるのだからね。
なんだか、夢先案内人になった気分だなあ。それとも夢追い人かなあ。
ボクはふと窓から外を見た。
二個の赤い風船が空を飛んでいた。
きっと今夜、誰かの夢の中へ現れるのだろう。
(了)
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