【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

u

文字の大きさ
76 / 110

激昂する第一王子

しおりを挟む


    リジーさんから1週間以内に別れないなら暴露してやると脅されてから3日後。俺とアルウィンはライナス王子に俺たちの関係を明かすタイミングを窺っていた。
    女神レティシアの声を語る人物の捜索に聖魔法の結界が破壊されたこと、昼間なのに夜のような空と異常気象、結界が直ったと同時に青空が広がり晴れたこととの関係性。それらをライナス王子は王宮内の魔導師を率いて調査をする日々に追われている。
    闇魔法と黒魔法の関係性についてまでは手が回らないため、俺とアルウィンが必死に書記や文書を漁って調べを進めているが収穫は特にないままだ。

    国王の聖魔法による結界が弱まり始めたことは、俺とアルウィンの中では実の娘を犯したことによる弊害ではないのかと憶測を立てている。
    だがこれは表に出せる話でもないし、もし近親相姦が原因なのだとしたら解決策など見当たるはずもない。つまり俺が聖魔法を使えるようにならなければ、俺たちの未来は明るくないということだ。

    第三者から俺たちの関係を暴露されるより正直に俺たちの口から早く説明をするべきだと2人の意見は一致し、何とかライナス王子に時間を作ってもらえないかと電報を送った。
    するとすぐに返事が届き、今日の夜、王子の宮殿で夕食を共にしようとお誘いを受けた。俺だけかと思ったがアルウィンの同席も認めると書かれていたことに安堵し、俺とアルウィンは夕食の時間に王子の宮殿へと足を運んだ。

    使用人に案内された部屋は前回夕食を共にした場所とは別の部屋だった。豪華な飾りとシャンデリアがぶら下がる煌びやかな部屋に入ると目が眩む。これではあまり食事に集中出来なさそうだなと思いながら、案内された席に座った。
    しばらくするとライナス王子が駆け足で入室し、アルウィンが敬礼の姿勢を取る。俺は会釈をしていつもより覇気がなさそうなライナス王子が目の前の席に座るのを待った。

「待たせたな」
「ううん、全然。こちらこそ忙しいのに会う時間を作ってくれてありがとう。顔色があまり良くなさそうだけど…無理してない?」
「ふん、お前に心配されるほどのことではない。で、急に会いたいとは何か大事な話があるのだろう?何か新たな情報でも掴んだか?」
「いや、違うんだけど…とりあえずご飯食べながら話さない?王子、忙しすぎて食事をとる暇もそんなになさそうだから」
「僕は要領がいいのだぞ。自己管理くらい出来ている!」

    口ではいつも通り強がるライナス王子だが、その顔は明らかに疲れが滲み出ている。俺のせいもあるだろうが、国のために奔走する王子は次の王様に相応しいなと思いながら、ふと疑問がわく。使用人がテーブルの上に料理が乗ったお皿を置くのを眺めながら、口を開いた。

「ちょっとした疑問なんだけど、ライナス王子って王太子ではないの?」
「…違うな。王太子はまだ決まっていない」
「そうなの?ライナス王子しか相応しい人いない気がするけど…いつ、どうやって決まるものなの?」
「双子の幼い王子が生まれる前は僕が王太子で間違いないと言われていた。だが双子の母親、側妃が物申してな。厄介事を避けるために双子が成人するまで王太子は指名しないと父上が決めたんだ」
「そうなんだ。確かに国王はまだまだ長生きするだろうし王太子を決めるのは先でもいいだろうけど…ライナス王子が一番国王に向いていると思う」
「僕は王太子の立場には興味がないからどうでもいい。今は国の危機が迫っているからな。早く国民の混乱を落ち着けるためにも解明しなければならないことが山ほどある。だが…国民からは早く僕とお前を結婚させて聖魔法持ちの子供が誕生しなければ気が休まらないという声も日に日に大きくなっている」

    王子の言葉にぎくりとする。これから俺たちの関係を話そうと思っている時に国民の真逆な声は耳に痛い。思わず背後に立っているアルウィンを振り返り、すぐに前を向き直した。

「…国民が?結界が一度壊されたことは国民にも周知されているの?」
「混乱させるだけだからと周知はしていないが、結界が破壊された瞬間を目撃した民がいたようでな。人の口に戸は立てられん、そこから噂が広がったようだ」
「人々は噂話が好きだしね…結界が壊された瞬間を目撃したなら、直った瞬間も見ていたってこと?」
「どうやらそのようだ。その人物を聴取したところ、壊されたときはジリジリとこじ開けるような感覚で結界の一部に穴が開いたらしい。黒い煙のようなものがその穴に侵入しようとした瞬間、結界が直ったそうだ」
「黒い煙のようなもの…?」
「あぁ。目撃した人物は雷愛好家のようで、望遠鏡を使ってあの日の雷雨を鑑賞して楽しんでいた。だから普通はあの天気の中、見えるはずのないものを見ることが出来たようだな」

    黒い煙、というものがどうも引っ掛かる。黒い生物がいないはずの底辺界で、なぜか俺にだけ見えた蝙蝠。だが黒い煙は一般市民も目にすることが出来たなら蝙蝠とは関係ないのだろうかと首を捻った。

「そういえば、忙しさの中ですっかり忘れていたが転移魔法を使えるようになったと聞いた。嘘ではあるまいな?」
「あ、そうそう!そのことも直接話したかったんだ。まだ一部屋分くらいしか試してないけど一応転移魔法を使えるようになったよ。そのことで分かったことなんだけど…」

    俺にしか見えない蝙蝠と魔力が増えたことに関係性があるかもしれないことを話すと、ライナス王子はこめかみに指を置いて揉むような仕草をした。

「ふぅ、これ以上悩みの種は増やしたくないんだがな。その蝙蝠とやらについても調べなければならんではないか」
「あー…でもほら、俺にしか見えていないみたいだし何かしてくるわけでもなく魔力を芽生えさせてくれる蝙蝠なら良いことだから、優先順位は低くていいんじゃない?」
「そんなわけにいくか!気になったものは調べなければ気が済まない性分でな」
「失礼ながら口を挟みますが殿下、これ以上忙しくしては殿下の身体が持ちません。日夜睡眠時間を削って調べておられると耳にしました。私たちの方でも調べを進めるので、まずは国の優先事項にあたる件を進められた方が良いかと」
「そんなこと言われずとも分かっている!聖魔法の結界が一度壊されたということはまたいつ壊されてもおかしくないのだ。その時こそ他国の侵略があったら…国の存続をかけた一大事に発展するやもしれん。そんなことは絶対にさせない」

    爛々と決意漲る瞳が光るのを、フォークで牛肉を切りながら見つめる。国を背負った王族として、使命感に燃えているのが分かった。
    そんな王子を尊敬すると共に、これから俺たちが打ち明けようとしていることは、さらに彼を追い詰めるのではないかと危惧して口が重くなった。

「で、大事な話とは何なんだ。僕はこれを食べたらすぐに調査に戻る。話は早くすませてくれ」

    どんなに気が重くなっても、言うと決めたならば言わなければ。俺はフォークを置き、口許をナプキンで拭って一口水を飲んだ。背後にいたアルウィンが隣に立ち、思わず顔を見上げる。アルウィンは覚悟を決めたように頷いて、口を開いた。

「ライナス殿下、ご報告致します。私とミトは…思いを告げあい、身も心も通じ合いました。今はお互いを愛する恋人という関係にあります」

    カチャン、カランカラン……食器の上にフォークが無造作に落ち、ぶつかった衝撃で床に転がる。冷たく硬質な音が室内に響き渡ったあと、しばらく無音が流れた。
    ライナス王子はアクアマリンの瞳を目一杯に広げて俺たちを凝視している。フォークを持っていた形のまま手は固まり、フォークが床に落ちたことにすら気付いていないようだった。

「…ライナス王子、聞こえる?」
「……今、何と言った?空耳か?」
「殿下、申し訳ありません。空耳でも幻聴でもございません。私とミトはお互いを深く愛し合っております。ですから…聖魔法持ちの子をミトと殿下の間でなすことは出来ません。どうかお許しを」
「何を馬鹿なことを…貴様は今、自分が何を言っているのか分かっているのか!?貴様は…貴様は!!」

    バンッとテーブルに拳を叩きつけ、ガチャンッと音を立ててイスから立ち上がったライナス王子の顔に既視感を覚える。それはつい3日前、リジーさんの表情に浮かんでいたものとそっくりだった。

「王子!お願い、落ち着いて話をしたい。俺たちの話を聞いてほしい」
「これ以上何を聞くことがあるのだ!お前たちが恋仲だと…?お前は僕の妃になるのだぞ!それなのに…それなのに裏切ったのか!」
「う、裏切るもなにも俺たちは最初からお互い結婚したくないと言い合ってたでしょ?子供を作らなくてすむように、俺は魔力訓練をして聖魔法を使えるように頑張ってきたんだよ?俺はライナス王子とは結婚しないってはっきり伝えていたよね?」
「うるさいうるさいうるさい!お前のために女神レティシアの声を語る人物を特定しようとしている僕に向かって、よくもそんなことが言えるな!僕はお前のために、お前がいる国のために頑張っておるのだぞ!それなのに他の男と、身も心も通じ合っただと…?」

    ライナス王子の声がどろどろとしたものに変わっていく。嫉妬と憎悪にまみれた、暗く重い声。

「そんなの許すはずがないだろう!こいつは僕の妃になるのだ!名誉騎士だからと言って調子にのりやがった姑息な奴め…!」
「殿下、どうか落ち着きを取り戻されて下さい。ミトは確かに殿下と子をなすため異世界召喚されましたが、正式に殿下の婚約者と決まったこともなければ議論されたことすらありません」
「その議論がつい昨日から始まったのだ!結界が壊されたという事実がある今、一刻も早く聖魔法持ちの子を誕生させるため、僕と異世界人の婚約を後押しする声が王宮内でも高位貴族の間でも強くなっておるのだ!」
「そんな…」

    つい昨日から、そんな議論が始まっていたとは露知らず、愕然とする。アルウィンも口を半開きにしたまま声を失ったかのように言葉が途切れた。

「いいか!僕とお前は何が何でも結婚して子をなすのだ!もう僕たちの婚約は決まったも同然!お前たちが思い合っているかどうかなど関係ない!僕のものに手を出すな!」
「……どんなに国のためだと言われてもミトを手放す気はありません。たとえ殿下と手を合わせることになったとしても、私はミトを絶対に渡しません」
「ほう!この僕と本気でやり合うというのか!国の存続がかかるほどの一大事がいつ迫るかも分からないこんなときに!こいつの命を狙う黒幕の正体も突き止められていないこんなときに!」
「もちろん本望ではありません。ですが私とミトを引き離すおつもりでしたら、どんな手を使ってでも抵抗致します」
「おのれ…!自分の力を誇示するつもりか!貴様が抵抗すればするほど苦しむのはこいつだぞ!お前たちが共になる未来など来ない!さっさと諦めるのが賢い選択だと分からぬのか!」
「賢い選択ではなく、後悔しない選択をするまでです」

    今にも決闘が始まりそうな雰囲気の2人を前に、俺は何も言えず目を逸らしたくなった。
    つい3日前、リジーさんに俺たちは幸せになれないと憎悪のこもった瞳を向けられながら言われた。そして今は、ずっと共に魔力訓練をしてきたライナス王子に俺とアルウィンが一緒になる未来はないと言われている。
    誰かに祝福されたくてアルウィンと一緒にいたいわけじゃない。けれど俺とアルウィンが一緒になることは、多くの人を不幸にしなければ成り立たないのかもしれないと。

    うっすら、感じ始めていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

よく効くお薬

高菜あやめ
BL
昼はフリーのプログラマー、夜は商社ビルの清掃員として働く千野。ある日、ひどい偏頭痛で倒れかけたところを、偶然その商社に勤める津和に助けられる。以来エリート社員の津和は、なぜか何かと世話を焼いてきて……偏頭痛男子が、エリート商社マンの不意打ちの優しさに癒される、頭痛よりもずっと厄介であたたかい癒し系恋物語。【マイペース美形商社マン × 偏頭痛持ちの清掃員】 ◾️スピンオフ①:社交的イケメン営業 × 胃弱で塩対応なSE(千野の先輩・太田) ◾️スピンオフ②:元モデル実業家 × 低血圧な営業マン(営業担当・片瀬とその幼馴染)

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話

さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り

攻め→→→→←←受け

眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。

高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。

有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

処理中です...