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絶望するウォーレン
しおりを挟むウォーレンは、爆発しそうな焦燥感に駆られていた。高所での綱渡りで、足を踏み外したかのような寒気があった。胃の腑の焼けるような焦躁と絶望に陥り、頭が混乱していた。
「ロナ、ロナ、ロナ…!!!」
信じて待ってくれているはずの恋人の姿が部屋のどこにもない。部屋中の物をひっくり返す勢いでめちゃくちゃにしながら、シルバーブロンドを振り乱して愛おしい恋人を探し回るその姿を第三者が見ていたら、獰猛な獣のようだと思うだろう。
「ロナ…!どこだ!どこにいるんだ!」
身体にあるものを力の限り嘔吐しているような叫び声をあげながら、狭い部屋の中、もういないと分かっているはずの恋人の姿を追い求め探し続ける彼は、まさに滑稽だった。
「どうして!待っていると言ったのに…!!」
「ウォーレン、落ち着け」
部屋中を荒らし回る大きな物音と金切り声をあげる尋常じゃない騒ぎに寮の隣室者が騎士団長に報告をし、それを聞き付けた彼は二人の部屋に足を踏み入れる。
自分とロナだけが入れる愛の巣とも言える場所に他人が入ったことに気付いたウォーレンは、毒蛇のような殺気だった目で上司を睨み付けた。
「この部屋に入るな!ロナをどこに隠した!」
俺はお前の上司だというのに何という言い草か、と騎士団長は内心頭を抱えながら、騎士団内に潜んでいた爆弾、目の前の問題児に言い聞かせるよう口を開いた。
「ロナはここにはいない。カーティス第三王子に保護されている」
「……どういうことだ」
「ロナを今日の式に近付けないよう万全を期したつもりだったが…母君のバイアット様によってロナは式場に一瞬来ていた。よりにもよって、誓いの言葉とキスの時にな」
騎士団長の言葉に、ウォーレンは目を大きく見開き、荒れていた心が急激に萎んだようにその場にへたり込んだ。
「ま、さか……あれを、ロナに…見られていた…?」
「あぁ、あの一連の流れを全て見ていたんだ。それにショックを受けて式場から飛び出し、走って逃げ出した。道端で泣いてうずくまるロナをカーティス第三王子が見つけられて無事に保護したというわけだ。ロナの身は安全な場所にあるからそこは安心しなさい」
たとえ仕事の一環だとしても、恋人ではない女性と愛を誓い合いキスをした場面を見られていたと知り、ウォーレンは地底に吸いこまれて行くような絶望感に苛まれていた。
身体中の水分という水分がじりじりと干上がっていく感覚。焦りと絶望感が肌の下を凄い勢いで広がっていく。
絶対にロナを寮から出すなとあれほど念入りに門番役に伝えておいたのに、と他人に酷い八つ当たりをしたくなる。頭を外からも内からもぐしゃぐしゃにかき混ぜたくなる。
不安と自信の無さから数々の愚かな試し行動をロナにしてきたウォーレンは、このままでは本当にロナに愛想をつかれてしまうかもしれないと思い、反省して心を入れかえ、真摯に愛だけを伝えてきた。
これからもずっと一緒にいたい。ロナの隣に自分以外が立つ未来など絶対に見たくない。ウォーレンといるよりも幸せになれる他の選択肢があることに気付かせたくない。気付かれたとしても自分の手をずっと選ばせたい。選んでいてほしい。そのためにはどんな努力も惜しまない。
だけど、絶対にロナに見られたくないあの場面を、見られてしまった。たとえ何の心もこもっていない、仕事だと割りきっていた触れるだけのキスだったとしても、ロナに他の女にキスする場面を見られてしまった。
そのことに、ウォーレンは大きな焦りと、こんな任務はやはり放棄すれば良かったと深い後悔に苛まれる。任務を放棄してから、ロナに相談して任務を受けざるをえなかった理由を解決すれば良かったのだと、次から次へと後悔が押し寄せてくる。
後悔の波に呑み込まれそうになりながらも、第三王子と恋人を一緒にいさせたくないという気持ちが沸き上がる。第三王子はどこからどう見ても自分よりずっといい男で、すぐにでもロナをウォーレンの手が届かない場所へと拐ってしまいそうな恐怖がある。
目が覚めたようにその場に立ち上がると、騎士団長を押し退けて部屋から出ようとする。そんなウォーレンを騎士団長は眉間にシワを寄せて止めた。
「どこへ行くつもりだ」
「…決まっているでしょう、ロナを迎えに行きます」
「残念だが、行かせられない」
「なぜですか」
「許しが出るまで、ロナにお前を近付けるなという王子からのご命令だ」
―――ガンッ!!
激情にまかせて、ウォーレンは拳で壁を殴った。はらり、壁の砕けた破片がちらほらと床に落ちる音だけで、室内は重々しい静寂に包まれた。
「王族だからと言って、なぜ恋人同士の俺とロナを引き離すんだ…?」
憎悪を凝縮して、すごみさえ感じる低音が重い空気を揺らす。腹の底から絞り出したような怒りに染まった声に、幾度となく悪人と対峙してきた騎士団長ですら、命の危険を感じるほどだった。
「…ウォーレン、気持ちは分かるが一旦頭を冷やすためにもロナのところには行くな。たとえ第三王子のところへ行ったとしてもロナと会うことは出来ない。無駄足になるだけだ」
「恋人が…他の男の元にいるのを、黙って許すはずが、ないでしょう」
「しかしこれは命令なんだ。背けば罰に処される。お前のためを思って言ってるんだ」
「そこをどかないなら…あなたを倒してでも行きます」
そう言って白い婚礼衣装をさっさと脱いでいつもの騎士団の制服に帯剣していた剣の柄に手をかけたウォーレンを見て、騎士団長は説得は無理だと悟り強硬手段を取った。
「悪く思うなよ、ウォーレン」
胸から素早く取り出した瓶の蓋を開け、ウォーレンを壁に押し付けるようにして口を抑え、彼の鼻に瓶を近付ける。息を吸おうとしたウォーレンは瓶から漂う匂いを吸い込み、そのまま気絶した。
廊下に待機させていた顔色の悪い騎士団員を数名中に呼んで、ウォーレンを運ばせる。
仲間であり部下であるはずのこんな姿を騎士団長として見たくなかったと思いながら、彼は自分の任務を全うした。
ロナとウォーレンが過ごした部屋は、扉が閉じる音と共に、封鎖された。最後に、騎士団長は閉ざされた扉に向かって、一人呟いた。
「お前たちには何の恨みもないが……すまない、これは王子の命であり、王子の命のためなのだ」
※最後の台詞は作者から皆様への挑戦状
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